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夜空の鍋  作者: 幸月(勇魚)
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1-2

 首を傾げる彼。白々しい。


「……そうですか」


 ただ、ここで問いただしたところで意味があるとも思わない。だから、私は「通り道を塞いですみません」とだけ言って、その場を退こうとした。


 女の子たちの視線も私に向いている。


 だがそれは、彼に向けるような好意的なものではない。敵意むき出しのそれだ。


 幸せが口から逃げていく。吐いた息たちが舌を出しているような気がした。


「よーし。今日のお姫様役は君に決ーめたっ!」


 彼のピンと伸ばされた指と弾んだ声が、私の額に突きつけられた。


 敵意は目で見られるものらしい。これは現実逃避をしたくなるのも無理はない。


「……キレーナ指デスネ」


 棒読みだったからか、言葉のキャッチボールになっていないからか。私の言葉が不満だったらしく、彼の頬が膨れる。


「むぅ……。嫌?」

「嫌ではないですけど。ただ、自分にはもったいないと思います」


 言いながら、手をヒラヒラと降る。今度こそ立ち去れると思ったが、それも無駄に終わった。


「ちょっと!」


 怒気を含んだ声が、私の耳を掠める。


 気がつけば、私は胸ぐらを掴まれていた。鼻と鼻がつきそうな距離に、見知らぬ女子生徒の顔が現れる。


「せっかく……せっかく、ゆーくんが誘ってくれたのに、その態度は何よ!」

「ゆーくん……? あー……彼のことっすか?」


 目だけでゆーくんとやらを指す。


 彼女の目が鋭くなったのを感じた。


「何よ、その態度は」

「態度?」

「その、どうでもいいみたいな雰囲気よ!」


 どうでもいいというより、ただただ面倒くさい。そこのイケメンも目を丸くさせてないで助けろ。


 心の声が聞こえたのか、襟がさらに引っ張られた。足が少しだけ浮く。


「ちょっ、落ち着いて!」


 自分の存在を主張するように、ゆーくんとやらが間に入ってきた。引き剥がされた私は少しよろめく。


 目を前に戻すと、女の意識から私が外れているのが分かった。


「ゆーくん……」

「いきなり指名した俺も悪いからさ。ごめんね?」


 男は背を向けているから顔が見えないが、よほどかっこよく見える表情をしているのだろう。女が顔を赤らめている。


 もし、今の発言だけでドキドキしているのなら、頭の病院をオススメする。


 これがチャンスと考えた私は、気付かれないようにその場を離れる。


 そうして、少し歩いたところで彼の声が私の耳を掠めた。


「今日の放課後、校門で待ってるから!」

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