開幕
「ヤバイ、どうしよう。」
こういう展開はラノベで何度も読んできた。
そのたびに主人公はやたらと冷静だったり
嬉しくて騒いでたりするものだが
実際は俺の場合公園のベンチで
頭かかえるのがオチなのである。
ましてやラノベではなく現実、
そもそも異世界転移がラノベ臭いので
可能性ゼロというわけではないが
近くで都合よく裕福な女の子が襲われている
訳でもない。
そして何よりも
「異世界入界特典のチートはないわけ?
さっきステータスっていってみたけど
何にもでなかったよ?」
これはもう明らかに絶望だ。
最低賃金でもなんでもいいからアルバイト
でもするべきだろうか。
「また王宮の騎士様がおなくなりに
なったそうですよ?」
「まぁ!また?
きっとドラゴンにやられたんでしょうね」
「えぇ、なんでもドラゴンを倒すために
一般人から選抜で何人か騎士に引き入れる
試験が今日の夜行われるらしいわよ」
たまたま公園を通りかかった
二人の女性が不安な気持ちを抱えながら
そんな話をしていた。
でもこれは結仁からしたら
チャンスかもしれない。
王宮騎士といわれれば絶対に
給料が高い。そして腕っぷしにも
少しながら自信がある。
うまくいけば王宮の騎士という
待遇の良さそうな場所で
生きていけるかもしれない。
「あの、奥様方。
その話、詳しく聞かせてくれませんか?」
「ここがか...」
会場は先程の公園からそう
離れてはおらず、十五分程度でついた。
会場内には既に出場者であろう男女が
あちこちに散らばっており、
それぞれ武器の見せあいや自慢をしていた。
結仁もさっそくエントリーするために
受付へと向かう。受付までの行き道は
矢印に沿っていけばついた。
「ようこそ、選抜試験会場へ。」
受け付けに座っていたのは
ガチガチに鎧を着固めた中年男性だった。
「エントリーに来ました。」
「えん?なんですって?」
おっと、このせかいはなぜか
日本語で通じるが英語は通じないようだ。
「すみません、参加しに来ました。」
「かしこまりました、武器はどちらに?」
「え?武器?ありません」
そういえば、武器の存在を
忘れてしまっていた。
「でしたら貸し出しのものがありますので。
ただし、現在あまりにも人数が多くて
貸出しできる武器がモーニングスターしか
無いんですよ。」
なんか強そうなネーミングの剣だなと
思いながらそれでいいと頷く。
「では、こちらの名札に
名前を書いていただいて第17戦召集まで
お待ちください。」
「あ、はい」
言われた通りに名札に名前を書いたら
暫くは待ち時間だ。
「これはゲーム。
死角から襲ってくる敵の攻撃をかわしながら
確実にダメージを与えていく
エイム力大事のゲームだ。」
先程初めて気づいた。そう、この試験。
いわば人と人との切りあいだったのだ。
そしてそろそろ出番が近づいている。
よくよく考えてみれば武器の見せあいを
しているやつらの持っている武器が
金属製であるところから読み取れたこと
だがそこは武器というファンタジー感に
うちひしがれていたところを
持っていかれたのだろう。
「そう、これは作業。
ただひたすらに来る攻撃をかわして
ダメージをいれる作業だ!そうだ。
そうじゃないか!敵の力が未知数な時
とりあえずダメージをいれまくるMMOと
同じ簡単作業!いける。いける。」
こうなったら結仁の勝ちだ。
さぎょうに取りかかった結仁は
お腹の悲鳴も聞こえぬほど夢中になる。
つまり極度に集中力を研ぎ澄ましている
状態だ。
「第17戦に出場するかた!
控え室までお越しくださーい!」
「きた、始まるぞ!」
控え室にいくとそこには
貸し出しの申し込みをした武器が
置かれていた。しかしそれは
結仁の想像とはかけ離れた武器であった。
「鎖に...棘のついた鉄球?
これが、モーニングスター?」
そっと持ち手を持ち上げるとジャラっと
重厚感のある音がなり、鉄球を持ち上げると
非常に重く、持って殴りかかることは
難しいだろう。
「まさか、振り回す系の武器?」
結仁は某人気ライトノベルで
この形状の武器を振り回して戦う
ヒロインを思い出した。
そして真実を悟る。
「モーニングスターって、
剣じゃねぇのぉぉぉ!!?」
みんなはモーニングスター。
鎖がある方とない方。どっちが好き?