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7:お前が怪盗ソキウスだ

 誰か、男の呻く声がした。アキラはぼんやりした夢から目を覚ました。


「なんだ……、うっ‼︎‼︎」

 もう一つうめき声が聞こえて、アキラの意識は完全に冴えた。慌てて辺りを見回す。

 窓を守っていたカールとボリスが、二人とも床の絨毯の上に突っ伏していた。急いでアキラは脈をとった。大丈夫だ。生きている。殴られて気絶させられただけのようだ。

 誰に…………? 考えるまでもない。怪盗ソキウスだろう。

 部屋の窓は開け放たれ、外の風がカーテンを揺らす。やつはこの窓を通って、この部屋に侵入し、カールとボリスを殴って片付けた。


 やつは来たのだ。やつは宣言通り、この屋敷に現れた。…………ルナリアは?!


 アキラは窓辺から急いで室内を振り返った。大きなベッドの上を、舐めるように視線を動かす。

 いない。

 ベッドの脇には、椅子からずり落ちた形で、幼い召使が突っ伏している。しかし、ベッドの上には、誰もいなかった。

 明白だった。


 ルナリアは、怪盗ソキウスに連れ去られたのだ。


 どうして。あの二人が窓を護っていたのに。あの二人を片付けるほどの怪盗ソキウスが、ルナリアを連れ去ったというのか。

 アキラは、じわりと背中に嫌な汗が滲むのを感じた。夏の夜風が肌を撫でて、気持ち悪いくらい涼しい。


 いない。ルナリアがいない。

 怪盗ソキウスに、連れ去られてしまった。


 どうやらこれは、変えようもない事実のようだった。アキラは何をするでもなく部屋の中をぐるぐると歩き回った。そうでもしないと、この焦りと不安と後悔のないまぜになった心を持て余してしまう。

 と、アキラは、部屋が不自然に静かなことに気がついた。風が吹き込み、カーテンが揺れる。その音が、まったく弱まる事なしに自分の耳に届く。ありえない。

 この大事に、扉の前を護っていた二人、レオとホルガーの姿が見当たらない。扉の前には誰も立っておらず、ひどく心許なく見える。


 アキラは部屋の扉を開けた。重い扉が金具を軋ませながら開く。

 外に顔を出すと、四人の男が固まって、廊下と階段の出会う場所にいるのが見えた。アキラは呼びかけた。


「すみません! レオさん、ホルガーさん。いますか?」

「いるよ。どうかしたの?」

 ホルガーが巨体を揺らして振り返る。アキラの呼び声につられて、他の三人も一斉に視線をアキラに向けた。

 アキラは四人の視線に、どこかに逃げたい気持ちになりながらも、なんとか力を振り絞った。

「ルナリアが消えました! カールさんとボリスさんがいません!」


 瞬間、クラウスは床を蹴った。人間とは思えないスピードでアキラへの距離を詰め、アキラの胸ぐらをつかむ。そのまま、アキラはバランスをくずし、ルナリアの寝室へとよろめいた。

 クラウスは力を緩めない。アキラの背中は壁に押し付けられ、首元には恐ろしいほどの力がかかっている。息が苦しい。背中が痛い。なのに振りほどけない。


「なに……、する…………、んだ…………………」

 アキラは必死でクラウスの腕の中から逃げようとした。しかし、逃げようとすればするほど、クラウスの腕には力がこもり、アキラの軽い体をさらに強く押さえつけた。

「俺が…………、なにを……………………、したって…………いうんだ………………」

「なにを、だって?」


 あの冷静沈着なクラウスの声は、低くなると、こんなにも怪物じみた声なのだ。アキラの動きはピタリと止まった。


「とぼけるな、怪盗ソキウスめ」


 クラウスは腰から短剣を抜き、アキラの喉に静かに当てた。

 冷たい感触が、喉の皮膚に触れる。少しでも動けば、鋭い刃は皮膚を切り裂くだろう。

 アキラは白銀の冷たい輝きを睨んだ。目を離してはいけない。

 目を離したら、やられる。


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