5:寝室に夜が訪れる
七人の魔術師と、セレーネ家の二人と召使は、簡単な夕食を済ませ、ルナリアの寝室へと移動した。
一人が寝るには大きすぎるだろうベッドと、机、棚、ソファ、テーブルなどが入っても、まだまだがらんとして感じられさえする部屋に、アキラは少し怖気付いていた。窓の大きさも、普通の家とは比べものにならないだろう。綺麗なガラスの向こう側に、眠りにつこうという家々の灯が見える。召使はその灯を吹き消すように、窓にカーテンを引いた。
ウルフの家の寝室は、ベッドが入っただけでもうぎゅうぎゅうである。
出窓の向こうには、月が登ろうとしており、西からの太陽の最後の悪あがきが、ゆっくりと夜に消えようとしている頃だった。
「では、ニコラス様。我々は配置につきますゆえ、ニコラス様もご自分の寝室に移られてください」
ニコラスは心配そうな顔で娘を見やり、娘が静かに頷くのを見てから、ソファから腰を上げ、部屋から出て行った。扉の外に控えていた彼の召使が、一緒に着いていくのが見えた。
「では、配置につこう。一瞬たりとも気を抜くなよ」
「分かってるって」
ダニエルの軽口にも、クラウスは何も言わなかった。アキラはルナリアを追って、ベッドの横までついていく。ダニエルとクラウスが扉の外、レオとホルガーが扉の内側、カールとボリスが窓側に立ち、ベッドを挟んでアキラと反対側には、召使が座っていた。
全員が配置につき終わると、当たり前だが、もう誰も動く必要が無くなった。妙な沈黙が訪れて、息を吸う音にさえ、注意を払ってしまうような時間がやって来た。
アキラはぼうっと床を眺め、板の木目を目線でなぞり始めた。もちろん、暇だからである。