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4:さて、どこにいようか

「では、配置を決めよう」


 一人の魔術師、クラウスがそう言った。まだ顔を合わせていくらも立たないのに、リーダーの様な空気を醸し出している。背の低いテーブルを囲んでソファに座った他の六人は、一様に頷いた。同じソファーに座るルナリアとニコラスは、緊張した面持ちだ。


「ルナリア様がいるのは彼女の寝室だ。外部からの侵入可能経路は二つ、通りに面した出窓と、廊下側の扉だ。天井や床を破っての侵入は考えにくい。それでいいね?」

「ああ」


 地響きの様な太い声が答える。山の様な威圧感のある体つきのボリスだった。さっきから一言も発していない無口な男、レオも、小さく頷く。


「出窓にベランダはついていないから、出窓の警備は、必然、寝室内にいることになる。廊下は左右どちらに出ても階段に繋がっている。扉の外と、扉の内側両方に配置しよう」


 テキパキとクラウスが指示をする。このまま事が進むのか、とアキラは思っていたが、やっぱり、口を挟みたがる者がいた。

 どこか陰湿そうな雰囲気を纏っている男だった。カールという男である。


「いや、ルナリアさんのすぐ横にも一人くらい置いておいた方がいいだろう。いざとなったら別の部屋に誘導したり、抱えて移動したっていい」

「確かにその通りだ」

「お前が怪盗ソキウスだったりして。なんてな」

 クラウスが賛意を表したのに、カールに食ってかかる男がいた。少し貧弱で、狡猾そうな男である。ダニエルだった。

「違う! そういうお前こそそうなんじゃないのか?」

「そこまでだ」


 クラウスはそう言って、二人の言い合いに割って入った。

「だから、こうしよう。窓側に二人、扉の内側に二人、扉の外側に二人、ルナリア様の隣に一人。これでどうだ。お互いが近距離で監視し合う中では、さすがに悪事も働けないだろう」

「だからお、俺はソキウスじゃねえ!」

「まあまあ」

 のんびりした声が、カールの苛立った声を押しとどめた。目が細く、少し太っている、ホルガーだった。彼の、聞いていると眠気さえ覚える様な声に、苛立ったカールも、もう一度挑発してやろうと嬉々としていたダニエルも、黙り込んでしまう。

 クラウスは周りを見渡す。ニコラスの表情をちらと確認して、一つ咳払いをし、また朗々とした声で話し始めた。

「みんな、これで異論はないな。では、まずはルナリア様の隣にいる者を決めて、それから、他の場所も順番に決めていこう。

 ルナリア様、誰をお選びになりますか?」


 急に聞くとは思わなかった。ルナリアも虚をつかれた様な表情をし、七人の男も、急に落ち着きを失った。

「俺なんかどうっすか?」

 ダニエルはすぐさまそう言った。目立ちたがり屋な男だし、どうせ、一晩過ごすなら美少女の隣の方が得だ、とでも思ったのだろう。アキラは自分のその予想が、あまり外れていない気がした。

「俺なら、こんなごっつい男たちより、寝ている間は幾分気が休まるでしょう?」

「そうですね。でも、その『ごっつい男』の方たちの方が、強いのではありませんか?」

 そこはさすが、傾いたとはいえ良家の娘、首をかしげながら、でも、言うべきことはちゃんと言う様だ。クラウスもそれに同調する。


「それもそうだ。では……」

「私に、考えがありますの」


 ルナリアはクラウスから、あっさりその場の主導権を奪って見せた。

「おそらく、この怪盗ソキウスさんは、一人では皆さんに敵いませんわ。ちらりと目撃した人も、あまり屈強な人ではないとおっしゃいますし、そもそも、敵うなら、夜中にこっそり盗みを働く、なんてことは出来ないはずですもの。ですから、あなた」

 ルナリアの目が、アキラを捉える。


「私のそばに、いて下さいませんか」


 ……なんのことだ? なんの冗談なんだ?

 アキラはしばらく何も言えなかった。それどころか、その場の誰もが、言葉を一つ残らず忘れたみたいに、黙り込んだ。

 しばらくの沈黙ののち、大慌てに慌てて、ニコラスは口を開いた。


「おい、お前! そんな、そんなことが、あってなるもの……」

「考えがあります、と申し上げたでしょう?」

「でも……」


 よほどの愛娘と見える。ニコラスはルナリアのまっすぐな視線を受け止めると、店先に置きっぱなしの菜っ葉のように、小さく萎れた。


「みなさん頑強そうな体をしていらっしゃいますけど、彼だけまだ少年の面影が残っています。もしみなさんが一対一で怪盗ソキウスと向かい合えば、さっき申し上げた理由からでも、危なげなく勝つ事ができるでしょう。しかし、彼は少し、頼りないです」

「確かにな」

 皮肉屋のダニエルではなく、ボリスがそれをいうものだから、アキラはすっかり落ち込んだ。


「でも、いざという時、私を運ぶ事くらいは出来るかもしれません。ですから、彼を私のそばに置き、私の部屋の周りを、他の屈強な方々に守っていただきたいのです」

「だそうだ」

 クラウスはアキラの肩を分厚い手で叩いた。力が強い。骨がミシミシときしむ気がした。

「ルナリア様直々のご要望だ。お前がそばでお守りしろ。良いな」

「……はい」


 アキラはちらりと横目でルナリアを盗み見ようとした。が、しかし、彼女もまた、どこか面白がるような目でアキラを見ていた。アキラの視線は、ばつの悪い事に、彼女の視線とぶつかった。

 先に逸らしたのは、当然、アキラである。

「では、残りの配置は二人ずつ、窓、扉の内側、外側で三箇所だ。希望の場所があるものは居るか?」

 クラウスが、止まりかけた空気を再びかき混ぜる。アキラと、ルナリアと、ニコラスと、六人の男たちは、またぴりりとした空気を取り戻していった。


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