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ストップ!会長!  作者: ふみわ
始動、或いは女王の誕生
7/8

自己紹介、或いは事情聴取

本当にのろくてすみません。

 夜子の天井破壊に続き、突如屋根裏から降ってきた青年。

 連続する異常事態に逆に冷静になった塁一は、とりあえず状況整理をする事にした。

 元々こちらも不法侵入。

 なんとか夜子を説得して、とりあえず自己紹介と相成った。

 それぞれが和装少女が用意してくれた座布団に座る。それに加え、不法侵入者三人にお茶まで出すあたり、この名も知らぬ和装少女の肝はかなり据わっていると見える。

 家主を差し置いて上座に座る夜子もある意味胆が据わっているが・・・・・・。

 仕切りは当然というように夜子が行い、こほんっと咳払いを一つして最初に自己紹介を始めた。


「初めまして。私は二階堂夜子と申します。森明高校の二年生です」


 思いの外、正直に名乗った。

 てっきり偽名を使って煙に撒くと思っていた塁一は驚いたが、夜子がそう判断したのなら大丈夫だろうと自分も正直に名乗った。


「同じく、雀野塁一です。」


 二人に続いて、今度は本来であれば一番堂々としているべき和装少女がおずおずと手を挙げる。


「あの・・・・・・三宮(さんのみや)静香(しずか)です。えっと、この家の者で・・・・・・林明高校に通ってます。あ、一年生です」

「で? 貴方はだぁれ?」


 最後の番になったこの場で最も怪しいジャージ姿の青年に全員の視線が向けられる。


「お、俺は・・・・・・」

「黙ってないで、ちゃんと言いなさい。貴方、木明(もくめい)高校の人でしょう? 学年は三年ね。それだけ情報があれば調べるのなんて簡単なんだから」

「え!? 夜子、何で分かるんだ? 木明高校って」

「だって、着ているの木明の指定ジャージじゃない。去年デザインが変わったから、学年は三年以外にないでしょう」


 事も無げに言ってのける夜子。

 その鋭い観察眼にジャージ姿の青年が怯む。


「だとしても、貰い物とかかも知れないだろ?」

「ジャージを態々貰ったりする? それも学校指定の」

「まぁ、そうか」


 青年が図星そうなのもあって、塁一は納得した。

 というか、学校指定のジャージで不法侵入するとは無謀な・・・・・・。

 本人も今更失態に気づいたのか、あたふたしている。

 やがて観念したのか青年はニット帽とマスクとサングラスを外し、素顔を三人に見せた。

 黒い短髪に切れ長の目。その目の下には隈になっていて解りにくいが、小さな泣き黒子がある。

 その顔は夜子と塁一のある記憶を思い出させた。

 一年の頃に当時の生徒会長に見せてもらった森明学園附属高校生徒会の懇親会の写真に彼が写っていた。

 確か名は──


「あんたは──木明の生徒会役員の──」

一橋(ひとつばし)真人(まこと)?」


 夜子が言った名前に、何故か静香が身を強張らせた。


「いや、今は風紀委員なんだ。君は確か四堂先輩の後輩、だったっけ?」

「・・・・・・はい、そうです」


 四堂というのは森明高校前生徒会長の姓だ。

 夜子の声のトーンが僅かに下がった。

 夜子は四堂の名を訊くだけで腸が煮えくり返る。

 笑顔でこめかみをピクピクと震わせる夜子の代わりに、塁一が真人に訊ねた。


「あの・・・・・・どうして不法侵入なんて。これじゃあまるで──」

「空き巣ね。まぁ、目的はお金じゃないでしょうけど」


 気を落ち着かせる為に啜っていたお茶の湯飲みを茶托に戻した夜子が言った。


「え? 違うのか?」


 空き巣=金目当てという極普通の考えをしていた塁一は目をぱちくりさせた。


「私も、そう思います」


 静香がおずおず手を挙げる。


「えっと・・・・・・あの・・・・・・もしかして、一橋さんはあの(・・)一橋さんですか?」

「へ?」

「っ! そうだ」

「えっと・・・・・・」

「確かご長男でしたね・・・・・・ああ、そういうこと。御愁傷様」

「おーい」

「よかったら、事情を話してくれませんか?」

「しかし・・・・・・」

「話した方がいいですよ。この子は被害者なんですから」

「ちょっ、待った待った! 何の話!?」


 三人の会話に全く着いていけない塁一が話を止める。

 すると、夜子が残念なものを見るような目を向けてきた。


「何って・・・・・・お家問題よ」

「お家?」


 聞き慣れない単語に首を傾げると、夜子の視線が憐憫を帯びたものになる。


「まさか・・・・・・気づいてなかったの?」

「何が?」

「はぁ・・・・・・こう言ったら分かる? この二人は大橋向こうの一橋と屋敷持ちの三宮」

「へ? あ? あ、ああー!! そういう事か!」


 合点がいって手を打つ塁一。


 この二人は五家の人間なのだ。

 夜子達が住む神木町はかつて、とある財団を軸に一橋、二階堂、三宮、四堂、五条の五家が取り仕切っていた。

 しかし、その財団が解体されて以降、要を失った五家は散々となりそれぞれが家の為にと小競り合いを起こすようになった。

 ちなみに五家の二階堂は夜子の生家だ。

 だからこそ、真人と静香の微妙な雰囲気に気づいたのだ。

 一橋家と三宮家は五家の中でも小競り合いが激しい。

 その理由は両家の家業が似たり寄ったりだからだろう。

 一橋も三宮も政治家の家系で、大分前から土地問題でかなり揉めている。

 緑化計画を推す一橋家と土地開発をしたい三宮家。

 しかも一橋は四堂家が、三宮は五条家が支援をしているため、力も住人の支持も均衡している。

 二階堂はといえば──


「ま、うちは元は善良(・・)な只の金貸しだし、土地云々には関係ないからそれ系の問題は詳しくは知らないけど。でもなんでこの屋敷に忍び込んだんですか? 本邸は無理だとしてもこの家に入っても無意味だと思いますけど」

「「善良・・・・・・」」


 二人がひきつるのも無理はないと塁一は思う。

 二階堂は確かに、住民にとっては善良な金融屋だ。違法な高利貸しなどではない。

 しかし、神木の資産家や名家にはそれはとてつもない額の融資をしている。

 融資額が多ければ、利子も高くなる。

 そうやって二階堂家は合法的に資産を増やしてきた。

 詰まるところ、二階堂家にとって他の五家は絶好のカモなのだ。


「あ、お二人共、お父上方にどうぞよろしくと伝えて頂けますか? 元金は結構なので、今月の利息分お願いしますって♪」


 今日一番のスマイルで夜子は言った。顔面に「搾り取ってやる」と書かれている字が見えそうだ。

 凄い輝いている。

 夜子のお金に対する関心の深さは家業の影響を濃く受けていると、改めて認識した。


「夜子、脱線してるぞ」

「分かってる! で、理由は?」


 塁一にぴしゃりと言って、真人に優しく訊く。

 どうにもこの幼馴染みは塁一に厳しい。

 真人は暫く拳を握り、無言だったが意を決したように前を向くと、静香に深々と頭を下げた。

 その姿勢は土下座に近いほど。


「すまない、三宮さん。俺は三宮家を脅迫する為に来たんだ」


 その言葉に静香と塁一が息を飲み、夜子は目をすがめた。


 超能力者に不法侵入。

 これだけでも十分濃い一日だったというのにそこへ脅迫。

 陽はもう暮れたというのに、夜子達の今日はまだまだ終わりそうにない。

自分で言うのもなんですが、ややこしい…。

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