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ストップ!会長!  作者: ふみわ
始動、或いは女王の誕生
2/8

標的、或いは哀れな羊

ようやく書けました。

「うーん・・・・・・やっぱり、一年から潰してこうかしらねぇ」


 森明高校の放課後の生徒会室で、一人の少女が背凭れのある椅子にゆったりと身を預け、手元の資料に目を通し、物騒な言葉を呟いた。

 少女は艶やかな黒髪のサイドを後ろへやり、シンプルなデザインのバレッタで留めていて、丸い瞳は子供のように無垢に見える。

 一見、容姿に恵まれた普通の少女に見えるが、先程の発言で分かるように、ただの少女ではない。この少女は、性格に大いに問題のある森明高校新生徒会長の二階堂夜子だ。

 今彼女が読んでいるのは、塁一に秘密裏に調べさせた生徒会や学校そのものに不満を持っている生徒の名を記した名簿だ。


「おい、一年を締め上げる気か?」


 顔を上げると、会長席の前にくっついて置かれた四つの机の一つに座っていたこの名簿の作成者──雀野塁一が訊ねてきた。


「必要があればね」


 夜子はあっさりと答える。それは、下級生を締め上げるという行いを肯定するものだった。

 なんの躊躇いもなく不穏なことを言う夜子に頭痛がし、塁一はブレザーの内ポケットに常備している頭痛薬に手を伸ばす。


「やめとけよ。バレたら退学だぞ」

「あら、バレなきゃいいのよ。問題ないでしょ?」


 塁一は頭痛薬の瓶の蓋を開け、中から錠剤を二粒掌に転がし、「いや、よくねぇよ」と呟く。

 しかし、元より人の言うことに左右されない性格の夜子は、意気揚々とペンポーチからピンクの蛍光ペンを取り出して不穏分子名簿に線を引き出した。


「よし、とりあえず早急に対処しなくてはならないのはこの面々ね。はい、塁一」

「は?」


 夜子は席から立ち上がり、薬を飲み込んだ塁一の前に来ると名簿をその鼻先に突き出した。

 塁一は一瞬、意味が分からなそうな声を上げたが、次には夜子が自分に何をさせたいのかに思い至り、嘆息した。


「……そのマーカーの引かれてる奴らの弱味を握って来いって言いたいのか?」

「よく分かってるじゃない。さすが、私の幼なじみね」

(いや、嬉しくねぇよ)


 心の仲で呆れた声を上げる塁一のことなど露知らず、夜子は自分の机の上に乗っているもう一つの名簿を手にした。

 それは、不穏分子ではなく、新しい生徒会の新メンバー候補の名簿だった。

 本来なら、選挙の時に生徒会長と一緒に副会長、書記、会計、庶務を決めるのだが、夜子が「生徒会のメンバーは、要するに生徒会長の臣下でしょ? だったら、会長が決めるべきよ」などと、明らかにずれてることを言い出し、それを理事長に(もちろん、オブラートに包んで)進言したので、今年は生徒会長自ら──つまり夜子が生徒会メンバーを選べることになったのだ。

 そして、例によって例のごとく、各役職に相応しく、尚且夜子の要望に見合う生徒を塁一が全校からピックアップしたのだ。

 メンバー候補の名前を上から順に読んでいると、夜子の視線が一点で止まった。

 しばらくじーっと、同じところを見ている。

 塁一は何かと思い、夜子の後ろに回り込み、夜子の目線を追う。


本庄享(ほんじょうきょう)

 一年B組。出席番号16番。

 文系の成績は中の中だが、理数系には強く、特に数学は入試でトップの成績。

 会計候補。』


 そこに書かれていたのは、塁一が死ぬ気で手に入れた男子生徒の個人情報だった。どうやって入試の成績を調べたかは訊かないで欲しい。

 塁一が遠い目をしていると、夜子がいきなり立ち上がった。


「塁一、行くわよ!」

「は? どこに?」


 訊ねると、夜子はその整った顔に、にっこりと愛らしい笑みを乗せて答えた。


「もちろん、スカウトよ」 




 長い髪と制服のスカートの裾を翻した夜子は、西校舎の裏にくると、メンバー候補名簿を開いて、『特記事項』と書かれた欄に指を滑らせる。


「貴方の情報によると、本庄享は毎日ここでこっそり猫の世話をしてるのよね?」

「そーだけど・・・・・・」


 塁一の答えに夜子はニヤリと悪魔のような悪どい笑みを浮かべる。その笑みを塁一はよく知っていた。あれだ、善からぬことを企んでる時の顔だ、これは。

 夜子は塁一の心中を知ってか知らずか、「猫ねぇ」と呟いて含み笑いをしだし、遂には大声で笑い始めた。


「あはっ、あはははは! 最っ高ね、校内で無断で動物を飼育することは校則に触れるわ。そこをつけば、本庄享は私の有能な会計兼下僕となることでしょう。でかしたわ! 塁一!」


 まるで魔王の如く高笑いしながら、人でなし発言をする夜子に、塁一は薬で治まったはずの頭痛が振り返す感覚を味わった。

 夜子はどんどん進んでいく。

 校舎裏の凹になっている場所に到着した。そこは確かに横からの死角となり、隠し事をするには適した作りだった。

 しばらくじっとしていると、どこからか「にゃ~ん」という鳴き声が聞こえてきた。


「あ、猫だ」


 塁一が呟くと、夜子は眼光鋭く振り返り、そのまま猫に飛び掛かるとその首根っこをむんずと掴み持ち上げる。


「あら、オスね。三毛猫のオスなんて珍しい。売り飛ばせば数百万はするわよ」

「どこを見てんだよ・・・・・・」


 猫を抱えあげて真っ先にそれを確認する辺り、夜子のお金に対する興味は深いらしい。

 猫は体を持ち上げられてビックリし暴れたが、夜子が黒いオーラを感じる笑みを見せた途端、怯え始めて大人しくなった。


(こいつ、ホントに動物に恐れられるよな)


 小学一年生だった時、遠足で動物に行ったことを思い出す。あの時は凄かった。夜子は何故か檻の中のライオンやオラウータンやカバなどに吠えられ、威嚇されまくった。夜子が凄かったのは、逆に動物に凄み、怯ませたことだった。おかげでしばらく夜子はクラスで『百獣の王』のあだ名で呼ばれ、大変気をよくしていた。


「ニー、ご飯持って来たぞ──って、うわぁ! せ、生徒会長!!」


 驚愕した声が上がった方を振り替えると、そこにはキャットフードの袋とペットボトルのミネラルウォーター、それらを入れると思われる重ねられた器を抱えた少年がポカンと口を開けて立っていた。

 ネクタイの色から新入生と分かるが、ニーと猫の名前らしきものを呼んでた以上、この少年は十中八九、本庄享だろう。

 塁一は隣の夜子の瞳がギラリと光ったのを見逃さなかった。そうして心の中でひっそりと合掌した。悪魔に目をつけられた哀れな羊に。


「こんにちは。知ってるようだけど、自己紹介させてもらうわね。私は二年で生徒会長の二階堂夜子。こっちは幼なじみの雀野塁一よ。あなたは本庄享君かしら?」

「あ、はい。そうですけど、あの、俺に何か用ですか?」


 少しおどおどしながら話す享に、夜子は持ち前の外面で説明した。


「ほら、今年は私が生徒会役員を決めることになったでしょ? それで、人づてに貴方が計算上手と聞いてぜひ会計をやってほしいと思ってきたの。引き受けてくれるかしら?」


 こてん、と可愛らしく首を傾げた夜子に顔を赤くする哀れな羊──享を見て、塁一は、


(騙されるな! それは人の皮を被った悪魔だぞ!)


 と心の中で叫んでいた。


途中で力尽きてしまい、無念です。

春の間にもう一話書きたいと思います。

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