原因、或いは幼なじみの独白
最初はメインキャラによる独白です。
あくまで主人公は夜子です。
思い返せば、俺、雀野塁一の人生において、『波乱』や『事件』と呼ぶしかない出来事に巻き込まれた原因は、九割九分、幼なじみの二階堂夜子によるものだったと断言できる。
傲慢で自己中で、他人も世界も自分を中心に回っていると信じて疑わない。この夜子というのが、俺の知る人間の中で、最悪の部類に入るのは言わずもがなだ。
だが、如何せん性格と容姿という二重の意味で外面のいい夜子は、周囲から圧倒的な人気と信頼を得ていて、俺が声高に夜子の本性を叫ぼうが聞く耳を持つ者はいなかった。
そんな夜子と俺が何故、幼なじみなんぞになったのか・・・・・・それはもう、偶然か意地の悪い神様の悪戯としか言えなかった。
幼稚園の頃、昆虫採集にハマっていた俺は、近所の雑木林で一人で虫取りをしていた。ある日、大きなカブトムシを発見し、なんとしてでも捕まえようと虫取り網を振り回していたところに夜子がやってきて、なんと飛んでいたカブトムシを素手で捕まえやがった。
そして、夜子はそのカブトムシを俺に突き出して、
「アンタ、これが欲しかったらあたしのげぼくになりなさい!」
と言いやがった。
下僕の意味も分かっていなかった俺は、意気揚々と頷きカブトムシを手に入れた。カブトムシ一匹に払った代償は大きかった。
その日以来、俺は夜子の命令を聞くはめとなったのだ。
ある時は大雪の中、コンビニにアイスクリームを買いに行かされ、またある時は内申点アップのために夜子が引き受けた資料室の掃除を押し付けられたり、嫌がらせをしてきた先輩への報復の為に、弱味を見つけてこいと言われたり──もう上げればキリがない。
そして去年、高校に上がってから、夜子の傲慢さはますますグレードアップした。理由は生徒会長になるため。
俺達が通う森明高校は、生徒会が大きな権力を持っている。力に貪欲な夜子は当然、その権力の頂点を目指し、並みいるライバルたちを情け容赦なく蹴落とした。しかも、自分がやったとバレないように。
あの時は共倒れさせる為に立候補者の対人関係や、人には知られたくないであろう性癖まで調査させられた。俺は本気で学校のことを考えている人たち相手に何をしてるんだ、と罪悪感から胃が痛くなり、一度急性胃炎で病院に運ばれたこともある。
しかし夜子は、反省、後悔、良心などという言葉はあたしの辞書にはないのよと言わんばかりにガンガンと生徒会長への道を突き進んで行った。
そして今日、夜子はめでたく生徒会長に当選し、全校生徒たちに「より良い学校にするため邁進いたします」と、微塵も思ってないことを笑顔で宣言した。
俺もこれで、ようやくお役御免かと思ったが、そんな筈もなく、帰り際に夜子に生徒会室へと拉致られ、そして──
「塁一、全校生徒を完全に私の配下とするべく、まずは不穏分子を脅して一掃することにしたわ! 協力しなさい!」
とんでもない発言をしやがった。
これを本気で言ってるのが夜子の夜子である所以だ。
俺は当然、反論したが、そんな言葉も夜子は馬耳東風。
結局、最後には逆らう気力も失せて、力なく頷いてしまった。それを見て、夜子は満足そうな笑みを浮かべた。
そうして、ここから夜子による絶対君主制が始まった。これから夜子によって引き起こされるであろう事件を思い、俺は人知れず頭を抱えたのだった。
次回からは地の文は第三者視点になります。