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第二話



「うわぁぁっ! た、助けてくれーっ!」


 朝市の露店や店の準備に賑わっていた大通りに、助けを求める悲鳴が響き渡る。

 露店を覘いたり大通りを歩いていた人々が、何事かと悲鳴のした方向へ振り向くと、南城門前広場から怪我を負った人々が、必死の形相で走ってくるのが見える。何事かと人々が訝しんでいると、その後ろから現れた粗末な武具で武装したスケルトンの集団が、逃げ惑う人々を追い立てながら、大通りにいる人々へ手当たり次第に襲い掛かるのが見えた。


「なっ、なんで街中に魔物が!」

「に、逃げろ! 魔物に殺されるぞっ!」


 その場の誰かがそう叫ぶと、大通りにいた人々が、雪崩を打ったように悲鳴を上げて逃げ始める。

 だが、朝市の露店やその客によって大通りが混み合っていたところへ、南城門前広場から逃げてきた負傷者とそれを追ってきたスケルトンの集団が殺到して来た為、大通り一帯は混乱の坩堝へと叩き込まれた。

 ある商人は露店の商品を持ち出そうとして、逃げ遅れたところをスケルトンに斬られ、ある男は果敢にも手近にあった棒でスケルトン達に挑み、数体のスケルトンを倒したが、脇腹を槍で突かれて動きを止めたところを滅多刺しにされ、朝市に来ていたある親子は誰かに背中から押し倒され、あるいは突き飛ばされて逃げ惑う群衆の足元へと消えて行った。

 そんな阿鼻叫喚の様相を呈する大通りを、水色の司祭服を着た水色髪の少女が、つるんとした顔に怯えた表情を浮かべながら必死に走っていた。


「た、助けてくれ! い、嫌だ、死にたくねぇ!」

「ヒッ! く、来るな、来るなあぁー!」


 大通りを駆け抜ける少女の耳には助けを求める声が聞こえ、スケルトンに殺されていく人々が視界に入るが、見習い神官に過ぎない自分にはどうする事も出来ないと、少女は必死に走り続ける。

 それに――


(ま、まだ追ってくる)


 大通りを駆け抜ける少女の背後を、三匹のスケルトンがカタカタと顎を鳴らして、血の付いたシミターを振り上げながら追いかけてくる。更にその後ろから、逃げる少女に気が付いた数体のスケルトンが、続々と合流して追いかけてくるのが見えた。


(あ、あれに追いつかれたら――殺される!)


 走りながらチラリと後ろを見た少女は、背後から迫りくる死神の遣いから逃れようと、恐怖に震える足に力を入れようとした次の瞬間、何かに足を取られてその場で転んでしまう。

 勢いよく石畳にぶつけかけた鼻を手で押さえながら、何に引っかかったのかと足元に視線を向けて――少女は声にならない悲鳴を上げた。

 視線の先には、うつ伏せで倒れている男。背中にはシミターが突き刺さっており、既に事切れているのか、その顔は苦悶の表情を浮かべたまま動かない。


「あ……」


 男の死に顔を見た少女は腰が抜けたのか、その場に座り込んだまま固まってしまう。

 そこへ、男の背中を踏みつけるように骨の足が乗り、深々と突き刺さっていたシミターが引き抜かれていく。それを少女はぼんやりと視線で追うと、黒い襤褸マントを纏ったスケルトンが死体から引き抜いたシミターを握りしめたまま、空っぽの眼窩を向けて少女を見下ろしていた。

 少女は何もない空っぽの眼窩に言い知れぬ恐怖を感じたが、腰が抜けて立ち上がることもままならない。

 そうこうしている内に、少女を追いかけてきたスケルトン達に取り囲まれると、両手両肩を捕まれて取り押さえられる。そして、まるで首を差し出せと言わんばかりに、黒マントの前に力ずくで跪かされた。


「い、嫌っ! は、放して、放してぇ!」


 跪いた少女が叫び声を上げて逃げようともがくが、首筋に走った冷たい感触にぴたりと動きを止めると、震えながらゆっくりと顔を上げる。

 いつの間に移動したのか、視界には少女の首にシミターをあてがう黒マントが見えた。


「あ、ああ……。い、嫌……嫌ぁぁぁっ!」


 少女の絶望混じりの叫びとともに、黒マントは振り上げたシミターを少女の首めがけて振り下ろそうとして、咄嗟にその場に伏せる様にしゃがみ込んだ。

 次の瞬間、前方から飛んできた光弾によって、少女を取り押さえていたスケルトン達の上半身が消し飛び、そのまま大通りにいた数体のスケルトンを消し飛ばした。

 大通りで殺戮の限りを尽くしていたスケルトン達の動きが止まり、光弾が飛んできた方向へ視線が集まる。視線の先には、武装した数人の集団が手に持った得物を構えて、大通りにいるスケルトン達を見据えていた。


「やれやれ、迷宮から戻ってみれば、街の中でアンデットの出迎えとはな。しかし……ちと数が多くて面倒じゃな」


 その武装集団の先頭にて、にこやかな笑顔を浮かべ腕を組んで仁王立ちする褐色肌に禿げ頭の中年男が、大通りの光景を眺めながらぼやくように言った。


「頭領」

「ん、話は聞けたか?」


 頭領、と呼ばれた禿げ頭の中年男が声のした方へ振り向くと、白色を基調としたフード付きのコートを羽織った男が立っている。その背後では、白コートの男と同じ格好をした男達が、商人風の男を締め上げていた。


「ええ、どうやら南の城門前広場に“迷宮”が現れたようで、そこからスケルトンが溢れ出てきたと」

「ふむ、南の城門前広場か……」

「それでどうしますか? 頭領」

「そうだ――」

「行くぞ! 邪悪なアンデットから僕達の街を守るんだ!」


 頭領の声を途中で遮るように、集団の中から革鎧を身に纏った茶髪の青年が、雄叫びを上げてスケルトン達に突っ込んでいく。それに釣られるように雑多な装備の冒険者達が、集団から抜け出してスケルトン達と戦い始めた。


「あの坊主め、勝手に……!」


 先走ってスケルトン達と戦い始めた茶髪の青年に、白コートの男が怒りの感情を向けるが、頭領は気にするなと言わんばかりに笑顔を浮かべたまま言った。


「構わん。元々、街中で何が起きたか聞きだそうとして同道しただけだ。それより儂らも行くぞ、前途ある若者を死なせる訳にもいかぬしな」

「承知っ!」


 頭領がそう言うと、背後に控えていた白コートの男達が、手にフレイルや棍棒、バグナウやナックルなどの得物を握り締めてスケルトンへと踊りかかった。

 そして胴体、もしくは頭蓋骨を砕かれるか、至近距離で光弾を撃ち込まれて、瞬く間にスケルトンが倒され砂になって消滅していく。

 その光景を眺めながら頭領は組んでいた腕を外すと、腰巻に差していたトンファーを掴んで両手で握りしめる。


「さて……、不浄なる亡者どもよ。哀れな亡者どもよ。すぐに、すぐに冥府へと送り返してやるから、安心して消滅せよ」


 そう言って頭領はトンファーの手応えを確かめると、戦いで混沌とする大通りへと足を踏み入れて行った。




 ※




 それは一つの管理機関であった。

 ただし、それはいわゆる国の制定した法に則って造られた組織ではない。そもそも国の定めた法や柵に縛られるのを嫌った者、平穏に馴染めない荒くれ者、祖国で立志が叶わなかった者、過去を消し去って人生をやり直そうという者達などを監視、管理するためにそれは在った。

 ただ国を管理する統治者達にとって、誰かが管理しなければ治安という観点から頭を抱える存在である。

 ただ必要な素材を採りたくても力のない者達にとって、金さえ払えば代わりに動いてくれる存在である。

 ただ戦争を始めようとする者達にとって、金さえ積めばすぐに集められる有力な戦力になりうる存在である。

 そこは一般社会の常識からは切り捨ててきたものを堂々と磨き上げてきた者達と、それに続く者達が生きるための場所だ。名声。欲望。金。今も強力な魔物の討伐に成功して英雄になった者もいれば、魔物に殺され誰にも知られずに朽ちていく者もいる。

 故に関係者は様々な想いを込めてその管理機関をこう呼ぶ。

 自由気ままな渡り鳥たちの楽園――冒険者ギルド、と。




 ※




 冒険者。

 それは凶悪な魔獣が跋扈し、危険な罠が仕掛けられた迷宮へと足を踏み入れ財宝を持ち帰る者達の総称であり、また金さえ払えばどんな事もやってのける何でも屋でもある。

 ただし、犯罪に抵触する事はご法度で、一度でも法を犯した者は管理組織である冒険者ギルドから差し向けられた掃除人や、あるいはその首に掛けられた賞金目当ての冒険者によって、永遠の眠りへと誘われる事になる。

 そんな酒場兼宿屋の機能を有するレトナークの冒険者ギルドのホールには、報酬の良い依頼を請けようと欲の皮が突っ張った冒険者達が早朝から入り浸っていた。

 そのホールに面する受付の一つにて、一人の女性が机に肘を付いたままうっつらうっつらと船を漕いでいる。

 本来ならば依頼を請け負いに来た冒険者に叩き起こされるところだが、掲示板に張り付けられた依頼書を持ってくる者はいない。何故ならばホールに屯している冒険者達にとって、掲示板に張られている依頼書は初心者が請け負うような内容か、報酬が安すぎて依頼の内容と危険度が見合わないかで残ったものだからだ。

 では、ホールに屯している冒険者達が待っているものは何であろうか? むろん依頼書である。

 ただし、毎日朝になれば掲示板に張られるであろう報酬が高く危険度の少ない依頼書ではあったが。

 故に机に付いていた肘が外れて顔を机にぶつけるまで、彼女を起こす者がいなかったのも仕方がないのかもしれない。


「うぐぁっ!?」


 雑談や情報交換などで賑わうホールに、何かを殴ったような鈍い音と奇妙な声が響き渡り、冒険者達の視線が集まる。しかし、視線が集まる原因を作った女性はそんな事にも気づかずに、額を押さえたまま机の上で悶絶していた。

 そこへ何処からともなく声がかけられる。


「よう、何朝っぱらから涎垂らして寝てんだ、セナシア」


 その声に机に突っ伏して悶えていた女性が慌てて顔を上げると、鉄板を鋲で打ち付けて補強した革鎧を着こみ顎髭を生やした壮年の男が、女性の顔を覗き込むように肘を付いて受付の前に立っていた。


「か、カークスさん! な、何か御用でしょうか? あと涎なんか垂らしてませんから!」


 動揺しながらも顔に笑顔を浮かべてセナシアが言う。


「ほーう……そんじゃ、お前さんの口元に涎の跡が見えるのは俺の見間違いかな?」

「なっ!?」


 そう指摘されたセナシアは咄嗟に制服の袖で口元を拭う。

 そして、その姿を見て苦笑いを浮かべるカークスを恨めしそうな目で見ながら、セナシアが言った。


「それで、カークスさんは一体何の御用でここへ来たんですか?」

「なに、宿にも戻らずに酒場で管を巻いているウワバミどもを引き取りに来ただけさ」

「ウワバミ……? ああ、ヒャミさん達ですか」


 合点がいったと言わんばかりにセナシアは頷く。


「そういう訳だ。それじゃあ俺はこれで、暇だからって転寝すんじゃねえぞ」

「し、しませ――」

「た、大変じゃーっ!」


 そう言って片腕を上げて立ち去ろうとするカークスに反論しようと、眦を上げたセナシアが声を上げようとした瞬間、セナシアの声を遮るかのように切羽詰まった叫び声がホールに響く。

 一体何事かとホールや事務所内にいた冒険者やギルド職員が視線を向けると、肩で息をした中年の商人を先頭に数人の人影が、玄関に座り込んでいた。


「あの、どうかなさいましたか?」


 中年の商人のただならぬ様子を不審に思ったセナシアが言った。


「……た、大変じゃ、すぐに来てくれ、街の中で魔物が暴れておるんじゃっ!」

「――え?」

「じゃから! 街の中で魔物が暴れておると言っておるんじゃっ!」


 中年の商人が息を切らしながら外を指して必死の表情で叫ぶ。


「え? …………え?」

「待ってくれ爺さん。どうして、街の中で魔物が暴れているんだ?」


 中年の商人の言った事が理解できなかったのか、固まったセナシアを差し置いてカークスが言う。


「そ、それが朝市を開いておった南の城門前広場に、突然地面から円形の建物が盛り上がってきて、その建物の門から出て来たヒョロそうな小僧が自警団を皆殺しにした後、儂らに向かって魔物をけしかけて来たんじゃ!」


 必死な表情を浮かべる中年の商人の言葉に、ギルド内にいた冒険者達が騒ぎ始め、仲間内で相談を始めたり一部の者は慌てた様子で外へ出て行こうとする。


「じゃかぁ~しぃっ! 人が寝てんだから静かにしやがれ、ジャリどもっ!」


 そんな喧騒に包まれつつあるギルド内に、耳をつんざく咆哮のような怒声が轟き、ホールの入口の柱に手斧が突き刺さるとともにギルド内に静寂が訪れる。

 そして、ギルド内の全ての視線が柱に突き刺さった手斧に集まり、次に手斧を投擲した人物へと向かう。

 視線の先には、白髪に立派な白い顎鬚を蓄えたドワーフの男が、これまた鍛え抜かれた両腕を組んだまま受付の上に立っている。彼こそ、レトナーク司教国冒険者ギルド長を務めるヴェルダナ・ボレギアヌスその人であった。


「たくっ、どいつもこいつも慌てやがって……。おい、これから重要な情報を聞くからちゃ~んと答えろ。南の城門前広場に建物が現れて、そこから魔物が溢れてんだな?」

「は、はいっ!」

「そうか、そんじゃ次の質問だ。街中で暴れてる魔物の種類を教えてくれねえか? どんなことでもいい、特徴があるのなら教えてくれ」

「が、骸骨だよっ!」


 そう叫び声を上げて中年の商人の後ろにいた女が言った。


「骸骨? 骸骨っていうと人のか?」

「そ、そうだよ、人の骨が剣とか槍で襲ってきたんだよっ!」

「なるほど、スケルトンか……間違いねえな?」


 そう言ってヴェルダナは巌のようなしかめっ面で、中年の商人と女をジロリと睨みつける。

 睨みつけられた中年の商人と女は、顔を真っ青にして一心不乱に首を縦に振っているのを視認すると、ヴェルダナは巌のようなしかめっ面のまま目を閉じて考えに耽っていたが、考えが纏まったのかカッと目を見開くと後ろへ振り返った。


「ボローミアァァァァンッ!」

「はい、はい。そんな大声を張り上げなくても聞こえてますよ」


 そう言って事務所の奥から眠たそうに欠伸をしながら、人間族の大男が出てくる。

 それを視認するとヴェルダナはホールへと振り向き、ギルド内にいる冒険者達に聞こえるように大声を張り上げた。


「ボローミアン、大至急緊急クエストを発令しろ! 現時刻を持ってギルド内、並びに町にいる全冒険者は儂の指揮下に組み入れるッ!」

「いいんですかい? 司教国からは要請が来てませんよ?」


 ボローミアンの言葉にヴェルダナは振り返ると、咆哮のような怒声で建物を震わせながら告げた。


「構うこたぁねえっ! 権力争いしか能のねえ莫迦の要請なんか待ってられるか、ここのギルド長である俺が緊急事態と判断したんだ、ガタガタぬかす奴は頭かち割って墓穴に放り込むぞっ!」

「了解。責任は店長が取ってくださいよ、まったく」


 そう言ってボローミアンは苦笑いを浮かべて職員を呼び集めると、次々に指示を与えていく。

 その光景を見ながら満足そうに頷くと、ヴェルダナは再度振り向いてホールに突っ立っている冒険者達に雷を落とした。


「何をボサボサしてやがるッ! さっさと装備を整えて魔物退治に行きやがれ、ガタガタぬかす奴は頭かち割って墓穴に放り込むぞっ!」


 咆哮のような怒声が轟くと同時に、ギルド内にいた冒険者達は慌ただしくも一斉に動き出していた。


「たく……さてと、ボローミアン」


 ヴェルダナは動き出した冒険者達を一瞥すると、受付から降りてボローミアンを呼んだ。


「なんです、店長?」

「おめえ、今回の一件をどう見る?」

「……新たな“迷宮”の発生ではないかと」


 ボローミアンは顎に手を当てて少し黙考してから言った。


「“迷宮”か。そうかもしれねえが、俺は別の可能性を心配してる」

「別の可能性?」


 ヴェルダナは頷くと、辺りを気にしながら耳を貸せと指を動かす。


「俺は……死霊術士が絡んでんじゃねえかと思うんだ」

「っ! ……冗談でしょ?」

「俺だってそうは考えたくはねえが、生まれたばかりの迷宮からスケルトンが溢れ出るってのもなぁ」

「……分かりました。万が一に備えろってわけですね」


 真剣な表情を浮かべながらボローミアンが言う。

 もしも、今回の一件に死霊術士が絡んでいた場合、最悪都市の一つや二つが滅ぶかもしれない大事になるからだ。

 そもそも歴史書の紐を解けば死霊術士を使った戦役や、邪な野心に突き動かされた死霊術士が起こした動乱など数多くあり、大半は差し向けられた討伐隊に討たれてしまうが、その過程で都市の一つや二つどころか、国そのものが滅びた記録すらある。

 ――にもかかわらず、今日まで死霊術が禁忌に指定されなかったのは、単に軍事に使えるからだ。それだけではない、大規模な土木工事や人手の足りない鉱山など、猫の手も借りたいという場所では平然と使用されている。

 もっとも、重量のある物を動かす必要のある場所では、もっぱら土人形や岩人形と言ったゴーレム達が活躍しているのだが。


「理解が早くて助かるぜ。あと有力なパーティを二、三個ほどキープしといてくれや」

「了解。ルーキどもはどうします?」

「……奴らだって冒険者の端くれだ、自分の身くらいは守って貰わんとな。とはいえ、トチ狂って勝手な行動で他の連中を巻き込まれてもかなわねえ。中級の奴らに指揮を執らせろ、あいつ等にもいい経験になるだろう」


 ホールで慌ただしく動いている冒険者達を見ながら、ヴェルダナは言った。


「了解。そのようにします」


 そう言ってボローミアンが他の職員に指示を伝えに行くのを見届けると、ヴェルダナは白髭を弄りながら言った。


「さて、そういう訳だからおめえさんにも働いてもらうぜ、カークス」

「……勘弁してほしいねえ。二日酔いのウワバミどもだけでも大変なのに、この上ルーキの面倒なんざ見れねえぞ」


 ポリポリと頭を掻きながらぼやくカークスに対し、ヴェルダナは悪戯が成功した子供のような表情を浮かべる。


「何を言ってやがる? おめえさんはそのルーキの面倒を見てる連中の指揮を執るんだよ」

「――おいおい、俺にレイドの指揮を執れってか?」


 頭を掻いていた手を止めたカークスは驚いた表情を浮かべて言った。


「仕方ねえだろ。何処の馬の骨か分からん奴に率いさせるよりは、おめえさんの方がよっぽど信用できるからな」

「……“エスリル”と“溶鉱炉の宴”と“修行兵団”はどうした?」

「“エスリル”は護衛依頼でシュレンツに行ってるし、“修行兵団”は団長が数人連れて迷宮に潜ってて今は頼りにできねえ、“溶鉱炉の宴”は予備兵力として温存だな」

「やれやれ本当に面倒な事を押しつけやがる。――依頼料に色をつけろよ?」


 カークスは溜息をつきながらその場から離れていく。


「任せておけ、この件が片付いたら酒場の酒と料理を三日間、タダで飲み食いさせてやるからよ」


 ヴェルダナの言葉に答えるかのように、カークスは片腕を上げながら仲間のいる酒場へと消えて行った。




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