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街の掟

  魔物を定期的に狩るということは、そう簡単なことではなかった。

 初めのひと月は良かった。冒険者ギルドという互助会が一週間も立たないうちに出来上がり、集団で魔物を狩るようになると戦闘の苦手なものでも生きていくだけの魔物狩りは楽にこなせた。だが、乱獲によって魔物の量が減り始めると、急に雲行きが怪しくなってくる。

 最初に参加者を殺すと大量の魔領域が得られると知った奴はどう思ったことだろう・・・。これは一石二鳥だと思ったのではないだろうか。餌の取り合いに疲れ果てた人々は、その事実に、確実な解答を読み取った。「奪え、それが現実だ」

 そして、唯一、ゲームマスターから魔物狩りを免責されているようにみえるエルフ達について、殺すと、人の数十倍の魔領域が得られること、それどころか「生存日数」すら得られることが分かると、エルフは魔物の一種ということが認定されてしまった。

 魔物なら、そう、狩らねばならない。それがルールの延長。好むと好まざるとにかかわらず、参加してしまったものの求めた法。

 参加者たちは盲目的にエルフを求めた。狩ればなんとスキルまで得られる奴らをのがしておく手はなかった。エルフも弱かった。戦わなくても生きていける体、おまけに近くの生物の痛みを感応してしまう。体一つ動かすことですら意識的な魔力操作を要し、神経をすり減らす。その痛みに耐え、その苦労を超えてまで自衛能力を鍛えようとするものはそう多くなかった。

 そう、参加者たちは盲目だった。ルールは、魔物を狩らなくては生きていくことのできない、であって、魔物を狩らなくてはいけない、ではない。ゆっくりと、抜け駆けせずに魔物を狩れば永遠に続く均衡が存在した。実際、一部はそのように動いたし、一時、ある場所においては確実に存在していた。存在したが、いま、彼らの中においては存在していない。


 3街の掟2


 「エルフってのは何なんだろうな。」

 部屋の奥から静かに声が流れる。わかっている、これは夢だ。記憶の断片が意味のないつながり方をしているだけだ。こんな暗い部屋の奥は現実に存在しない。

 「デザインッド・チィルドレンの成れの果て、現世人、獣人、魔族、精霊人、霊族、天族、竜種、天使、悪魔。彼らの中でもエルフは異質だ。殺しても幽界から復活することができる。では天使悪魔のたぐいかというと肉体があり幽体を消滅させてもすぐに肉体から補完再生してしまう。もちろん両方を殺しきれば死ぬ。が、死んでも世界樹に吸収され、記録の一つとして保存される。そして有事の際には呼び出され、ことが終われば世界樹の中に嬉々として消えてゆく。常に世界樹と繋がっていようとし、思考の一欠片ですら世界樹と共有する。全てのエルフがその見の中に種を持って生まれ、世界樹が足りなくなると、種を発芽させ、自らを苗床にする。

 まるで世界樹の手足だ! 世界樹との関係において、個人的非共有空間が全くない。彼らはえるふなのか? それとも世界樹か?」

 ゴクリと水をのむ音がした。さすがにこの長さ以上をよどみなく言い切るのは話が耳を上滑りしてしまうと考えたのだろう。

 「それだけじゃない。幽界に本体をおくエルフは遺伝子すらいじくることができる。現世に補完体をもつエルフは幽体をいじくることができる。理論上、彼らは何にだって成れる。だが、何にでもなれるのに、何にもなろうとしない。ただ、世界樹に求められた時にのみその究極とも思える適応能力を使う。そう、常に世界樹から自由になれる力を持ちながら。なおかつ、これが私にはわからないことなのだが、自由の意味を知っていながら、世界樹の手足であり続けるのだ。そう、自由を知っていながら!」

 わからない。私は応えた。そもそも生きるということが何を指し、自由が発生するためのもっとも重要な要素、意志というものがどこから来ているものか。夢だから、全てが散らばっている。繋がらない。この後何を聞いても何の意味を残さないだろう。起きて、忘れてしまうことはまず間違いない。

 その思考を読み取ったのかその声は黙った。私は私がぼんやりと目を閉じたように感じた。夢の中で寝るのだ、もうすぐ現実で起きるだろう・・・夢も現実の一部だという言葉遊びは置いておいて。

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