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幕間 遅筆なもので とりあえずお茶濁し  もしかしたら続くかもしれん

幕間  すまんがてきとー

 目を覚ますとそこは自分の部屋ではまかった。

 天井が白い・・・なんて白さだ。まるでおとぎ話の中にあるベルギウスの太陽王宮殿のような白さだ。

 どうやったらこんな均一な白を作れるんだ。それに線がまるでレンガを組んだように引いてある。・・・まさかこんな大きなレンガをこんな水平に組んだわけではあるまいな・・・。一体どんな魔法だ。王級魔法とはこのようなものをいうのだろうか。

 「空渡さん、お加減はどうですか」

 む、誰だこの、まるで子供をあやす乳母のような声で私の調子を聞いてくる奴は。目が全く笑ってないぞ。


  &&&


 ふむ、病院というやつは奇妙にいたたまれない。苦しくなってようやく、ああ、私にはこの場にいる意義がある、と思える

 私は、手帳を開いてつらつらと書き連ねた。

 「この世界の人の作り出す機関は、人の所在を疑うという行為を誘いやすいものが多い。病院・病人は苦しくなってはじめてその場にいる意義を見出す。学校・学生は成績を通じてはじめて息をゆっくり吸うことを許される。会社・社員は成果を求められるが、その成果の効果を実感できない。」

 ふむ、この手帳はこの体の元の持ち主のものだ。ピンク色のナイロン張りで、その上に小さな動物の疑似画を形どった布を何かで接着している、非常に可愛らしい手帳だ。

 そうそうナイロンというつるつるした丈夫な布がこの世界にはある。あと、擬似画という言い方が正しいのかは知らないが、特徴を捉えて見たものにわかりやすくあえて見たままではないように描いた絵のことだ。その技法をデフォルメとかいうらしい。

 この愛くるしい手帳に、なぜこんな皮肉のうちにも厭らしい部類の文句を書き連ねたかというと、この体の元の持ち主(以下 前 空渡遥ということにする)の書いていたものが、それ以上にこの世の厭世的解釈に満ちていたからだ。きっと、そういう手記をこの世界の乙女が書くことというのは常識なのだろう。

 では、遠慮なく私も常識を履行しようではないか。いや、無理してよく知らない語彙を使った。


 例えば、こんなことが書かれている。きっと単なる思いつきだったのだろう。三行しかない。


    外道戦記

     「魔王よ、私のものとなれ!」

     「了解した」


 ・・・、これを見た時私は不審がられるだろうことも忘れて小さく笑ってしまった。

 元の世界でこのような探検者がいたら、おそらく親友になっただけでは飽きたらず、共に世界を巡っていたことだろう。

 このようなものもある。


 「 宇宙花


 漂うために必要のものは、永遠の忍耐だ。永遠の忍耐とは、そもそも耐えないことだ。

 薄い紫色の髪をわずかに踊らせて、如月 蘭は地球の方角を見た。彼女は肌着一枚で宇宙空間に漂っている。体の周りは薄いピンクの膜で覆われており、それは常に揺らめいているようである。

 250日もあれば火星から地球に行ける。だが、それは旅行というより、漂流に近いものだ。無駄をへらすため、宇宙船の中では外を眺めることなどできず、また、眺めたとしても変わらぬ風景、終わらぬ栄養分の再利用、新陳代謝を減らし、しかし不測に備え意識を維持し、決められた睡眠と覚醒、屈伸運動、狭さ、そして何よりも退屈、それら全てが永遠の忍耐を要求する。

 しかし、如月蘭はその忍耐に甘んじることはなかった。彼女は、船から飛び出し、念動力で空気をまとい、宇宙線を遮断し、宇宙塵を止め、熱を調整し、一人で何百日と漂っているのだ。

 彼女には一人の通信相手がいた。シーナと名乗るその地球人と出会ったのは、火星を出る3日前だった。出会ったと言っても精神感応で会っただけで、もちろん相手は遠くはなれている。その日は意気投合して語り明かし、ちょうど数十年に一度の地球行きの船が動くということで旅だったのである。

 蘭はあまり考えない質であった。

 宇宙船には保護膜がはられており、精神感応を阻害する。それを知らず、蘭は乗ったものだから暇で仕方なく、船外作業に乗じて宇宙へと飛び出した。2人しか乗っていない船であり、相方はよく知っている仲だったから黙ってロストの報告を母艦に発し、彼女は何の気兼ねなく宇宙に漂う自由人となったのである。

 漂う間、シーナからいろいろな話を聞いた。お伽話、地球の情勢、生態系、科学から神秘まで、あらゆる話が尽きる所を知らないようにこんこんと湧き出て、流れた。そしてそのどれもが、彼女にとって極彩色で満ちていた。眼の奥に焼きつくような情熱の連続だった。これだ!。 ・・・彼女は思った。火星には躍動がない!

 ところが、百日もたった頃、通信が途絶えた。

 当然、彼女は地球に向かっている。暇を持て余す数十日の後、地球にたどり着くことになるのだが、そこは、彼女の考えたものとは違った躍動で満ちていた。

 ・・・そこは戦場だった。」


 ・・・、なかなかに興味深い人物だ。彼女は他にも未完の小説を幾つか手帳に書き連ねていた、一冊目に「人間の神様」「死ぬまで手帳にでも書いてりゃいいさ」「吹き溜まった熱の行方」「きっとなんでもない風景」。二冊目には「そう遠くない退屈の香り」だけだ。・・・この小説の一言目が「気をつけろ、勝利などそこら中に転がっているぞ」なのだが、まあ言いたいことはわからなくもない。が、だんだんと鬱屈していったのだろうことが分かる。それらは全くつながりのないように思える中身だが、彼女の中ではそれらを一つの星の中で起こった出来事の一部として描く構想でいた。そして、さすがに幻想的空想だけで生きていたわけではなかったのだろう、鬱屈に捉えられ(鬱屈も空想の一つではあることを強調しておく)どれも未完のまま終わっている。

 この、所在なさの王国よりも退屈な日常の檻の中に彼女はいたらしい(彼女の書くところによると)。その中で様々と空想を連ね、精神の調整をし、この世の楽しい見方を発明しようと躍起になっていたようだ。この世の楽しい見方、・・・運命の皮肉に耐え難い渇望を感じる人々に、一片の癒やしを与えようという試みだ。ふふ、この言い方では、何を指すのかはっきりとしないな。まあ、このことは後にしよう。

 原因不明の定期的な熱に悩まされてからは、それもままならなかった。そのうち、腎臓がだめになり、最後は入院を余儀なくされ、数週間の後、昏倒、今に至る、と。 


 驚いたことにこの世界の人には魔法という技術がないらしい。我々の世界よりも高い生活水準にあるが。とにかく、伝承や空想に残る以外の魔法は一切感じられない。人に、魔法について尋ねると、子供の空想のことと間違われた。まあ、私が、この世界で使える以上、魔法について知るものが一人としていないということは考えにくいが。

 彼女の病気も、魔力の暴走に過ぎず、元の世界では魔法使いの素質があることとして喜ばれるものなのだ。しかし、全く見当違いの処方でこの体はゆっくりと衰弱していた。あのままでは死ぬ以外の結末がなかったであろう。まあ、私にかかれば、こんなもの、息をするまもなく治すことができるが。

 いわば、私は彼女の命の恩人である、であるから彼女の体を好きにしても良いのだ。いや、この言い方は聞こえが悪いな。

 そうだ、寝る前にこの記録に名前をつけることにしよう。ついでに署名もしておこうではないか。忘れると読み返すときに厄介だからな。


&&&



 少女がコトンと机の上に魔宝珠を置いた。その内部には「異世界見聞録、隠者ととある少女の憂鬱記」<前 アルブラ・ギュウス 空渡 遥>と記されていた。

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