第九話 健康診断、その後・・・
誤字・脱字等、多々あるかもしれませんが、ご了承ください
『よ~し、おまえら並べ~・・・どんどん来いよ~・・・』
『・・・・・よし、次・・・・前へ』
「終わったやつは戻っていいぞ・・・・早くしやがれッ!!!」
長蛇の列をなす囚人たちに、俺、サカ、ドレスの三人で調べていく。
今やっているのは、“定期健康診断” というやつだ。
これだけ大勢の人間の中で生活していれば、どうしても体調を崩したり、病気になったりするやつが出てしまう。
すると、集団で病気に感染してしまったり、この施設内すべてに脅威が広まってしまうことだってあり得る。
そいつの仕事効率も落ちてしまうし、ほかの囚人への負担も増え、疲労で倒れるものも出る。
結果、悪循環を招いてしまうのだ。
いくら囚人といえど、何も対策しなければそういった状況に陥りやすくなってしまう。
だから、このように定期的に囚人の体を調べているのだ。
もちろん、それを口実に逃げようとするやつも出てくるわけだが、その辺は問題ない。
なぜなら――――――――――――
「グワァハッハッハッハッハッ!!!!
どけどけッ!!!!絶好のタイミングを逃してなるものかぁっ!!!」
ちょうど中間あたり、何人かの人間が列からはじき出されるように外され、徐々にその現象がこちらへと向かってきていた。
それは、列の中を颯爽とかけ、囚人たちを次々と退けて進んできた一人の大男だった。
「ワシは知っておるぞ!!
おまえたちが今、バケモノどもの力が使えず、大幅に弱体化してると!!!!
弱っているなら、この “人間重戦車” の異名を持つワシの力を持ってすれば、突破もたやすいっ!!!
さらに、おまえたちはそこにいる女囚人をかばいながらワシを止めることになる!!!
グワァアハッハッハッハッ!!!!たやすいたやすいっ!!!!」
ひとしきりしゃべり終えた大男は、そのまま勢いを増しながら、ドレスの目の前まで迫り、そのままその巨体で、ドレスへ体当たりをかまそうと頭を深めに下げ、両腕を大きく広げた。
そのまま、その腕をドレスの首へ、もう片方を近くにいた俺の体へめがけてかざした。
「吹っ飛ぶがよい!!!!」
『は~い、列はしっかり守ってくれ~』
大男の腕がすぐ目の前まで迫ったところで、突然大男の体が大きく傾いた。
何かと思えば、サカが、大男の腰を捕まえ、勢いなどついていなかったかのようにピタリと止めており、そのまま荷物でも運ぶように大男を列の後方へと運んでいった。
大男は、何が起こったのか理解できないのか、突進をした体勢を維持したまま、目をぱちくりさせていた。
何か抗議でもするかとも思ったが、サカに運ばれ、元々いた位置まで連れて行かれると、急に借りてきた猫のようにおとなしくなった。
・・・・・とまあ、こんな感じで
だいたいのやつは、サカの手によって簡単に対処され、そのまま何事もなかったかのように診察が進んでしまうのだ。
騒動がある間、ドレスも全く気にした様子もなく検査を続けるので、進行自体にも全く支障がない。
囚人側も、力の差をはっきりと目で見せられ、抵抗する気も起きなくなり、おとなしくなる。
結果、何の問題もなく、スムーズに仕事が進められていくのだ。
『はぁ~、本当に馬鹿だよなぁ・・・・・毎度毎度俺たちに勝てるって謎の自信もって・・・・
いくらやっても勝てるわけねぇのになぁ・・・・』
『・・・・しかた、ない・・・・・普段の方が・・・印象、強い・・・・今、弱く、見える・・・』
『つってもさぁ・・・・・古参もいるんだから、少しくらい情報共有とかしててもおかしくないだろ?
なんで毎回毎回こうなるかなぁ・・・・・』
「おまえがそんなだから、なめられてるんだろ?」
『まあ、そりゃハッちゃんから見ても、俺からにじみ出てる “優しい男オーラ” で、女性の心をつかんで離さず、男には安心と癒やしを与えてしまってるのは認めるけどさぁ~?』
「おーい、ドレス。健康診断が必要みたいだぞ・・・・・・頭の」
『無理』
『いや、ひどくない!?、ドレスは即答かよッ!!!』
また暴れそうになった囚人の頭を掴みながら、サカはこちらへ抗議するが、俺もドレスも気にせず、ただ淡々と診察を続けていった。
ちなみに、俺の仕事は、診察し終わった奴の誘導、あとは、万が一サカが暴走したときに押さえつける “ストッパー役” だそうだ。
俺なんかが居たところで、暴れ出したサカを止めることなんて無理だと思うが、まあ、ドレス曰く効果は間違いなくあるそうなので、それを信じるしかないだろう。
そんなことを考えながら誘導していると、突然囚人がザワザワとしていることに気がついた。
何事かと囚人達の列に視線を向けてみたが、特に問題があるようには見えない
サカも、列を見張るようにキョロキョロとはしているが、問題があるようには見えない。
じゃあ、なんでこんなにザワザワして――――――――る?
原因が分からず、チラリとドレスの方を見て、俺は思わず首をかしげてしまった。
――――――ドレスが、どこかを見つめ、震えているのだ。
今のドレスは、かなり落ち着いて口数が少ない。
さらに、感情があまり表に出さない印象を受けていた。
だが、今は両目をめいっぱい開き、歯をガチガチとならしながらガタガタ震えているのだ。
今にもどこかへ逃げ出してしまいそうなその姿に、一体何があったのかとドレスの視線を必死に追ってみた。
すると、それは意外にも近くにあった―――――――――
「はぁ~、本当に面倒ですわねぇ~」
「そうです、なんで毎回男に身体を見られないといけないのです?」
「女性職員がいないからやろ?まあ、ウチはイケメンやったら別に誰でも――――」
「はぁ、これだからビッチは・・・・・」
「汗臭い~、疲れた~、早くしてよ~!!!」
そこには、様々なタイプの “女囚人” がけだるそうに並び立っていた。
・・・・あ~、そういえば
“女囚人” の診断も今日になってたっけ・・・
列の先頭、確かにいるその面々を見て、ドレスがあそこまで恐怖を感じて居るのがやっと分かった
あいつは――――――――女が苦手だ。
「あら、結構タイプだわ~?
どうかしら、わたくしの体・・・・・・隅々まで調べてくださる?」
『あ、ああ、あばばばばばばば・・・・・・・』
「お、おい!!!ドレスッ!!」
突然喋ったかと思えば、今まで以上に震えだし、そのまま泡を吹いて気絶してしまった。
慌てて駆け寄って様子を見たが、完全に失神していた。
おいおい、マジかよ
ドレスが倒れたらやべーだろ?
「あらあら、可愛らしい方・・・・・それに、これってもしかしなくても―――――――――」
「――――逃走するチャーンスッ!!!!みんな、今のうちに逃げるぞーッ!!!!!」
「「「「「「「「「はーいッ!!!!」」」」」」」」」
二番目に居た囚人の号令に合わせ、並んでいたすべての女囚人達は一斉に散らばって逃げ始めてしまった。
慌てて捕まえようにも、ここには拘束具や取り押さえておけるような人材は居ない。
一体どうしたら・・・・
『うっひゃ~~~、何となくこうなるんじゃないかと思ったけど・・・・やっぱこうなったかぁ~』
「サカ!!!何暢気につったってんだ!!!」
『いや~、女相手だと手荒なマネ出来ないからさぁ~
ほら、俺って完璧紳士だし?それに、不用意に違う女に触ったら、ハッちゃんが嫉妬で狂っちゃ―――』
「はぁッ??」
『よーしっ、頼むから大人しくしてくれお嬢さんがたっ!?
俺の命の危機、及び、君たちの命の危機だッ!!!!!!!!』
俺の威圧で、サカは慌ただしくかけだした。
何をするのかと思っていると、サカはわざとらしく囚人の目の前で両手を広げ、通せんぼするように立ちはだかった。
「はあ?、その程度で止められると思ってるのかいっ!!!」
女囚人がそいうや否や、速度を落とすことなく、むしろ加速して、立ちはだかっているサカの懐に潜り込むように身をかがめると、そのまま片足を勢いよく蹴り上げた。
まあ、いわゆる “金的” である。
まずいと思い、俺はサカの方へ駆け寄ろうとしたが、二人の様子を見て、妙なことに気がついた。
足を蹴り上げた囚人がピクリとも動かず、姿勢を維持したままで静止しているのだ。
一体何が起きているのかと思っていたら、囚人は突然姿勢を維持したままバタリと後方へ倒れてしまった。
近づいて顔をのぞき込んでみると、囚人は口を半開きにさせて、白目をむいていた。
「・・・・・なんだ?」
『はいはい、次いくよ~』
俺が倒れた囚人を見ていると、頭の上から面倒そうなサカの声が聞こえてきた。
顔を上げてみると、そこにはめんどうそうに頭を掻きながら次の囚人の前に立ちはだかっているサカが居た。
「あれ?、随分野性的なやつだな・・・・ゾクゾクしちゃうぜっ!!!」
『またかよ』
呆れた様子のサカに、次の女囚人が同じような攻撃をサカに加え、これまた同じような体勢のまま固まってしまい、そのまま地面に倒れ伏した。
サカは、それに動じる事無く、また同じように立ちはだかり、女囚人もまた同じような行動をとり、これまた同じように倒れていった。
な、何が起こってるか全く理解できないが、サカが驚異的なスピードで囚人達を無力化して大人しくしてるのは分かった。
「・・・・って、こんな事してる場合じゃねぇ!!!
おい、おいドレス!!!!早く眼を覚ませ!!!
サカが走り回ってるうちに、何とか起きろ!!!!」
失神してるドレスを必死に揺すって起こそうとするが、いっこうに起きる気配がない。
腹を殴っても、顔を張り倒しても、後頭部を床に何度もたたきつけても全く―――――――
『ハッちゃんハッちゃんハッちゃんッッ!?
さっきから何やってるの!? トドメさそうとしてない!?、ドレスになんか恨みでもあんの!?』
「うるせぇ!!!、起きねぇこいつが悪いだろ!!!
って、お前はさっきからどうやって囚人気絶させてんだ!?、正直、気持ち悪ぃんだが!?」
『キモッ!?、い、いくら何でもひどくない!?
別に変なことしてないって!!!ただ――――――――』
「―――――しにさらせぇい!!!クソ監守がぁああ!!!」
いつの間にか、サカの背後に巨大な女囚人が立っており、後頭部めがけて拳を振り下ろそうとしていた。
俺がサカに危険を知らせるよりも早く、サカは後ろを見ることもなくサッと手を上へかざした。
そのまま、振り下ろされた拳に添えるように手を当て、身体を相手の懐に潜り込ませるように移動した。
そして、眼にも止まらぬ早さでもう片方の手を構え、素早く相手のあごに拳底を繰り出していた。
綺麗に決まったのか、囚人は喰らった瞬間にグリンッと白目をむいて身体の体勢もそのままに倒れ伏した。
この一連の流れの中で、囚人は一切の体勢の変化はなく、サカは何事もなかったかのように再び俺の方へ向き直っていた。
『こうやって、かなりゆっくり見せても良いんだけど、これだと “避けられ” たり “ずれ” たりしたら面倒だからさ~。
これなら、必要最小限の力で手っ取り早く気絶させられるんだよね~。
・・・・でも、気持ち悪がられるのは嫌だから、違う方法で行こうかな?
具体的には、みぞおち一発とか?』
「い、いや・・・・そのまま続けてくれ、仕組みが分かってたら気持ち悪いもクソもねぇから」
『おっ!?、じゃあ、ドレスも心配だし、チャッチャと終わらせますか?』
そこからのサカは、先ほどよりもさらに素早く、正確に囚人たちを無力化していった。
そして、積み上げられていく囚人たちの山、山、山・・・・・・んん?
・・・・・気のせいか?
さっきから、積み上げられてる囚人たちの様子がおかし―――――――
「あうぅ・・・・だめぇ~・・・」
「もう、もうやらぁ~・・・・」
「も、もう・・・お嫁にいけん」
「は、破廉恥です・・・・あれは破廉恥なのですぅ~・・・・」
「・・・・まさか」
俺は、囚人たちの反応を見て、ジッとサカの行動を見張ってみた。
そして、目にもとまらない早さにもかかわらず、俺にも見えてしまった。
『さーて、ほいっ』(もにゅっ)
「ッ!?、あッッッぅぅ~~~??」(ドサッ)
『おっと』(サワサワッ)
「えっ!?ああぁぁぁぁ~~~ん???」(ドサッ)
『こっちは、ほい』(クチュッ)
「あ、あ、ああぁぁあぁあぁぁあ~~~~!!!」(ドサッ)
『・・・・・ふぅ、まだまだいけるかな?』
・・・・・・・ああ~、なるほどな
サカは、後で去勢しとかねぇとだめだなありゃ
てか、どうやってダウンさせてんだよマジで・・・・・
どう考えても、ワンタッチであれはねぇーだろ?
サカの先ほどの神業の後から、今のスケベな妙技を見せられてしまうと、どうしてあのときそのまま続けろと言ってしまったのかと後悔しかない。
(・・・・後で囚人たちに謝ろう)
俺はそう考えつつ、ドレスが意識を取り戻すまで、体を揺すり続けたのだった。
結果として、囚人たちの脱走は無事に(?)鎮圧され、中断されていた健康診断もなんとか終わりを迎えることができた。
まあ、何度かドレスが逃げそうになったが、最初の時のように気絶したりはしなかった。
おそらく、俺がサカに去勢させようとした姿を見て、目の前の囚人より補佐として動いている俺の方が全力で警戒すべき相手だと理解したのだと思う。
現に、診断を再開してから俺の方をまるでバケモノでも見るような目でチラチラと見てきて、目が合うたびに小さく悲鳴を上げ、慌ててそっぽを向いて、診断を続けるという反応を繰り返していた。
それを見るたびに、なぜかサカが『あらかわいい』とか気色の悪い仕草と声で言ってきて、正直俺にとっては拷問のような時間だった。
そして、なんやかんやとやっているうちに、最後の囚人の診察が終わり、無事に牢へと戻し終えたのだった。
「これで、最後だな・・・・・あってるよな?」
『・・・・・間違い、ない』
『うんうん、最後の子だったと思うわ~』
ドレスとサカの確認も取れ、俺は大きく伸びをした。
・・・・やっと、この面倒な奴らから解放される。
はぁ、確か今日の俺の業務もこれで終わりだったはずだ。
これで、心置きなく自分の牢の中でゴロゴロでき―――――
『それじゃ、ハッちゃん・・・・・準備してくれるかしら?』
「おう、お疲れさ―――――――ん?準備ぃ??」
妙な言い回しをしたサカに、俺は思わず渋い顔をして聞き返してしまった。
すると、サカはわざとらしくため息をはいた。
『最初に説明したわよね?
今日は、すべての囚人の健康診断をするわよって?』
「いや、そんなキモイ言い方されてないが・・・・・確かにそうだな
だが、さっきも確認したが、こいつで最後だったんだろ?」
『・・・・・・確かに、最後・・・・・でも、まだ次、残ってる・・・・・・特殊懲役者・・・見に行く』
「・・・・・特殊懲役者って・・・・まさか?」
俺がそういうと、サカが口元を指で隠しながら小さく肩を振るわせながら笑った。
『フフフッ、そうよ?
特殊懲役者は、別にあなただけじゃないのよ?
まあ、あなたを含めてたった 三人 しかいないけどね?』
サカの言葉に、俺は今日一番の衝撃を受けた。
・・・・俺以外に、特殊な囚人がいる?
ってことは、俺以外にも、こいつらの世話してるやつがいるってことか?
だが、すでに何日かこいつらと関わってるが、一切そんなやつらと会ってもなければ存在すら知らなかったぞ?
「・・・・・今までそんな奴らがいるなんて、聞いてねーけど?」
『あ~ら、当然じゃない?
監守である私たちが、囚人であるあなたに個人情報・・・・まして、囚人の情報なんて話すわけないじゃない?
それに、そうそう話になんて上がるような人物じゃないのよ、彼ら。』
人差し指をたて、腰に手を当てたサカが、俺の方を指さしながら柳腰でそう言ってきた。
・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・ああ、くそッ!!!
もう、そろそろ限界だッ!!!!!!
「おいサカ!!!!!
いい加減、その気色悪いオカマ口調と動きをやめやがれッッ!!!!!
さっきから気になって、話の内容が頭に入って来ねぇんだよッ!!!!!!!!!」
『んまっ!?、誰のせいでこうなったのかしら??
私に悪気なんてなければ、今ならこの方がしっくりくると思うのなけれど?
どうなのかしら?、なんせ今の私は タマ無――――――――』
「言わせねぇし、俺が知るかぁぁぁぁぁああああああああッ!!!!!!!!」
その後、ドレスが止めるまで、俺はサカの背後から腰に向かって何度も何度も回し蹴りと不良キックを繰り出し続けたのだった。
途中、サカが元の状態に戻ったのを確認したが、それでも俺の怒りは収まらなかったので、ドレスに止められるまで蹴り続けたのだった。
==============
『・・・・ついた。』
しばらく目隠しされながら進んでいると、不意にそんな声が前方から聞こえてきた。
すると、目隠しされていた手がどかされ、うっとうしいサカの顔が目の前に映り込んだ。
『さあさあ、ここがハッちゃんと同じ囚人――――――特殊懲役者の牢屋さ』
そういって大仰な動きをしながら身を翻した。
やっと開けた視界に写ったのは、少々妙なものだった。
そこは、少し広めな通路の袋小路
何の変哲もない、ただの燭台が二つ両方の壁に備え付けられており、行き止まりの壁を怪しく照らしているだけの、ただの通路だ。
だが、一つだけ・・・・
ただ一つだけ妙な点を上げるとしたら―――――――
「・・・・・なんだあれ?」
首をかしげながらそれを指さした俺に、サカが「だよね~」と肩をすくめた。
俺が指さしたのは、丁度通路の中央、何もないはずの通路の中空に、蜃気楼のように壁の模様が揺らいでいる部分があった。
最初は、目の錯覚かとも思ったが、しばらく目を皿のようにしながらにらみつけてみたが、やはり、気のせいではないようだ。
何か・・・・あるのか?
だが、見えない・・・・
『・・・・困った、隠れてる』
『珍しいなぁ・・・・・いつもなら、向こうから招いてくれるんだけどなぁ~』
「はあ?、隠れる??、招く???」
意味がわからず、二人を見ながらそう言っていると、不意に妙な怖気が背後を駆け上った。
思わず小さな悲鳴を上げてしまったが、すぐに背後を振り返る。
だが、背後には何もいな――――――――――・・・・い訳では、なかった
「はぁ、はぁ、お、おなごじゃ・・・・おなごがおるぞい・・・ぐ、ぐへ、ぐえへへへへ・・・・」
「あ、あの、えっと、その・・・・その辺で、もうやめておいた方が」
そこには、鼻息を荒くしながら、俺の尻に顔を埋めるんじゃないかってくらい近づけている妙な爺
それと、おどおどしながら、じじいの肩を掴んでいるひ弱そうな男が立っていた。
どこから現れたのか
なぜ、背後に居るのか
まあ、色々言いたいことや聞きたいことはある
だが、まずは・・・・・
「何のつもりだこの変態エロじじいがぁぁぁああ!!!!」
「ヒョッ??、ブフッ!?」
「ひぃっ!!!」
俺はそう叫びながら、振り返りざまに素早くじじいの後頭部をひっつかみ、顔面めがけて膝を思いっきり叩き込んでやった。
綺麗に決まった俺の膝蹴りは、爺の顔面をたやすく粉砕する勢いで放ったため、“メキョバキッ” と日常生活では聞く機会がないような音を立てていた。
反射的に細い方は身を躱し、じじいが自分にぶつかってこない位置にずれて縮こまっていた。
見た目通りというか、想像通りというか、男は小刻みに震えながらこちらをまるでバケモノでも見るような目で見ており、倒れているじじいと俺をチラチラとせわしなく見ていた。
「あ、あわわ、わわわわわ!!!
ろ、ろろ、老師様っ!!!だだ、だだだい、だいじょ、大丈夫、で、でで、ですか??」
「・・・・・・・」
つんつんと足先でじじいを突き、安否を確認しているようだが、じじいから反応は返ってこない。
それを理解し、男は一瞬で元々悪かった顔色を真っ青にさせ、今度はガバッと爺に覆い被さる勢いで駆け寄った。
「ろろろ、老師様っ!?!?
何をなさってるんです!?、貴方この程度で倒れたりやられるようだったら、ここに居ないでしょう!?」
「・・・・・・・ぅう」
「ろ、老師様!!!なん、なんで、なんですか!?」
男の声に、かすかに声を返したじじいは、なにやら伝えたいのか手をさまよわせて何かを探すような手つきをし始めた。
それを察して、男はその手を取ると、必死に耳をじじいの口元に近づけた。
しばらくして、爺が何かもごもごと伝えると、男は先ほどと同じように顔色を真っ青にさせた。
そして、じじいから顔を話すと、今度は地面に両手と両膝をつき、ガックリと首を落とした。
「・・・・・もうダメだこの人、誰かひと思いに殺してあげてください」
「・・・な、なんじゃと!?お、おぬし!!!
仮にもお前の師であるワシに、なんてことを!!!」
「元気じゃないですか、何が「死ぬ前に、あの子のスリーサイズと下着の色を知りたい、調べてこい」ですか。
人として最低ですし、なにより調べる過程で私が殺されてしまいます。」
「それも修行じゃて!!!、隠密行動しつつ欲しい情報も手に入れられなければ、全く意味がないのじゃぞ!!!!」
絶望したように爺をおとしめる男と、それに反論しながらフガフガ騒ぎ出したじじい
俺たちそっちのけで、言い争いを始めた二人に、俺はサカとドレスを交互に見た。
すると、どちらも肩をすくめながらため息を吐いていた。
どうやら、俺たちに出来ることは何もないようだ。
二人が落ち着くまで、俺たちは黙って見守ることしか出来ない訳だが、思っていたよりもすぐに二人の言い争いは収束した。
それは、爺の方が本当にわざとらしく咳払いを何度もして、こちらを見たのだ。
男もそれを見て、首だけをもたげ、サカとドレスの方を見た。
「それで、ワシらに何のようじゃ?
おぬしらに言われたとおり、大人しくしてたつもりじゃて
今更、ワシらに頼み事もあるまい?」
「そ、そうですね・・・・・どういった御用向きなんです?」
胡散臭そうな笑みを浮かべながら様子をうかがう爺と、不思議そうな顔で見つめてくる男
あまりにも対照的なその二人に、何だが気持ちが悪いと思ってしまった
すると、ドレスが本来の目的の健康診断の話をすると、じじいの方がカラカラと笑い出した。
「ホッホッホッホッ!!!
なんともこりゃ都合がいいのう・・・・・実は、少々厄介な事になってるんじゃよ」
「ま、まさか・・・・・老師様?」
意味深な事を言うじじいの言葉に、男は何か思うところがあるのか顔色をさらに悪くさせ、じじいを見た。
じじいは、サカの方へ歩み寄ると、クイクイッと人差し指で顔を近づけるように動かした。
少し警戒しながら、サカはじじいの方へ顔を近づけると、じじいは何事かをコソコソと伝え始めた。
途中、何度かこちらを指さしたり、チラチラとみてきたが、サカの顔が次第に真剣みを帯びていく様子に、よほどまずい話なのかと思って様子を見守った。
すると、サカがコクリと頷いて、それを見届けたじじいは、今度はドレスの方へ同じように話を伝えた。
ドレスの方は、頷くことなく、黙ってじじいを見つめるだけに終わり、そのまま離れてしまった。
「ろ、老師様・・・・・・??
念のためお聞きしますが、何をお伝えになったんです?」
「む??
なーに、たいした事では・・・・・ただ、ちょっと知っておいた方が良い情報をの?」
そういって、意味深な笑みを浮かべたじじいは、俺の方をチラリと見て、何事か考えて居るのかしばしこちらに背を向けて頭をガシガシ掻いていた。
しばらくして、こちらを振り返ったじじいは、なにやら深刻そうな面持ちになっており、こちらをまっすぐ見ていた。
そして、何かを察したのか、俺のすぐ近くに居た男がガタガタと震えだし、わずかに俺から距離をとった
何か、危機感と違う嫌な予感に、顔をしかめながら爺を見ていると、ついに重たそうな空気をまとってじじいが口を開いた。
「―――――――さて、そこのおなご・・・・・少々聞きたいことがあるんじゃが??」
「・・・・・・・なんだよ」
嫌な予感はさらに増し、心なしか、じじいがこちらににじり寄ってきているような錯覚を覚えながら、なんとか聞き返すと、爺は両手をゆらりと持ち上げ、そして――――――――――
「―――――おぬしの身につけてる、ブラとパンツの色を今すぐワシに教えてくれんかのぉぉぉーーーーーーーーー!!!!!!」
「誰が教えるかエロ爺がッ!!!!」
「ワップギュッッッッ!?!?!?」
そうさけんで、掲げた手をワキワキさせ、こちらに突進してきたじじいに、俺は半歩だけ身をずらして突進を躱し、渾身の力を込めて足を振り上げ、無防備なじじいの後頭部に向けて思いっきり踵落としを喰らわせてやった。
もちろん、そのまま頭を足で押さえ、ギリギリと踏みつけながら反撃させないようにした。
「ぐわあああああああ!!!!!
な、何じゃ!?!?!?、ワシが、ワシが一体何をしたっていうんじゃあああああああああ!!!」
「おいじじい、このまま頭つぶされても文句言えないよな?」
「ぬおおおおおおおお!?!?!?な、なんでじゃ!?
なんでいまワシは痛みとともに、強烈な“高揚感”を感じているんじゃぁあああああああああ!!!!」
「・・・・・・老師、お願いですからこれ以上生命活動を続けないでください
もう、生物として最低すぎて、なんと申せば良いのか・・・・」
「い、いいから助けんか愚弟があああああああああああ!!!!!
い、いいや、出来ればこのおなごにもう一声罵声を上げさせるように仕向けてくれぇええええ!!」
「・・・・・・・・・・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・本当につぶしてしまおうか?このクソじじい。