第八話 監守達の休日
特殊懲役 30日目
エルのやつがここを訪れるようになってから約3週間が経過した。
エルは、俺が初めて会ったときからきっかり一週間ごとに顔を見せに来ていた。
そのたびにエルは、小さな紙をバイルに渡して 夕 食 を仕掛けて帰って行った。
三回目以降は、エル本人が「さぁ、せんそうを始めよう」とか悪ノリして言い出して、顔が引きつるのが抑えられなかった。
しかも、毎回帰り際に「頑張れよ」と哀れな捨て犬でも見るような目で肩をたたいてくるし・・・
はっきり言ってやる、あいつはクソ野郎だ。
なんなんだ毎回毎回ッ!!!!
訳わかんねぇ同情ばっかしやがって!!!
むしゃくしゃするじゃねーかあんにゃろう!!
あ~、風呂入りてぇなちくしょう!!!
『――――あの~、はっちゃん?・・・床が、床が』
「あ”あ”ッ?」
『――――あっ、いやっ、はいっ・・・何でもないです』
「なんでもない訳ねぇだろ!!
床がビシャビシャだろうがぁ!!」
『――――自覚してるなら止めてよッ!!』
ドレスの悲鳴に近い声に、やっと冷静になってきた。
頭に血が上りすぎていた様だ・・・
俺は、とりあえずバイルに頭を下げ、ビショ濡れにしてしまった床を綺麗に掃除した。
そうだ、今は仕事中だ
仕事はしっかりこなさないとな
そう思い直し、気を引き締めて掃除を再会した。
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「ふぅ、これで終わりか?」
『――――うん、ここで今日の分はもう終わりだよ・・・お疲れ様』
ドレスは、いつものようにニヤリッと笑みを浮かべて、フヨフヨと中空を漂っていた。
俺は、うっとうしい鳥野郎を軽く指で小突いてやると、そのまままるで重力を感じさせない動きで回転しながら飛んでいった。
その姿は、水の中で漂う人形のようで、なんだか可笑しかった。
『――――あっ!、そういえば言うの忘れてた!!
ハッちゃん、バイルが掃除が終わり次第顔を出しに来いっていってたよ?』
「ああ?、バイルがか?・・・何かヘマしたかな?」
ドレスに問いかけてみるが、逆さまのまま肩をすくめるだけで、答えをくれるわけではなかった。
しかたない、直接いって聞くしかないか・・・
俺は、ボリボリと頭を掻きながらバイルの居る監守室へと向かった。
『――――ハッちゃん、すごく自然な流れで監守室行こうとしてるけど・・・監守室の場所知らないよね?』
「・・・は、早く連れてけよバカ野郎っ///」
『――――あはは、可愛いなぁ』
「うるせぇ!!、可愛い言うなッ!///」
その場で地団駄を踏んで叫んだが、ドレスは意に介す様子はなく、そのままフヨフヨと飛び始めた。
恥ずかしさで顔から火が出そうになりつつ、俺はその後に続き、監守室へと向かうのだった。
その間、ドレスはニヤニヤしながら俺の顔をチラチラ見てきた。
・・・後で絶対ぶん殴る
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『――――バイルー!!、ハッちゃん連れてきたよ~』
「来てやったぞー」
間延びした声で部屋のなかに入るドレス
続いて部屋に入った俺も間延びした声でそういった
部屋に入ってみると、バイルは頬杖をつきながら大きなあくびをしていた。
『ああ、やっときたか・・・待ちくたびれたぞ、ふぁ~』
気だるそうに片手を挙げたバイルは、再び大きなあくびをした。
だれてるなぁ~
苦笑いを浮かべながらバイルを眺めていると、背後で バンッ と少々乱暴に扉を開く音がした。
そちらに視線を向けてみると、嬉しそうな笑みを浮かべたサカが立っていた。
『――――バイルッ!!さあ、今日は例の日だ!!さっさとしろ』
『あ~、はいはい分かってる分かってる・・・興奮するなサイガス』
元気にしっぽを振りながら机に身を乗り出したサカに、バイルは両手で耳をふさぎながら顔をしかめた。
するとサカは、素直に机から身体を離し、俺たちの立っている所まで下がってきて姿勢を正した。
ドレスも、サカの隣で姿勢を正したので、俺も二人をまねて気をつけをした。
『そんなに畏まらなくていいだろ・・・はぁ、気が進まない』
バイルは重たい溜息を吐き出し、両手で机を押して椅子から立ち上がる。
そして、サカ、ドレス、俺の順番に視線を向けると、面倒そうな表情が キリッ とした真面目な顔に変化した。
『監守、そしてハッちゃん。私の呼び出しに応じてくれたことに、まずは心から感謝を・・・そして、今月が終わる今日。
その身体に住む“魔”に、力と癒やしを与えることを許そう―――――――――』
『『―――― 有り難き幸せ』』
バイルの偉そうな宣言をきき、突然隣の二人が声をそろえてそういった。
俺は、思わずビクリと身体を震わせてしまったが、横目で二人を睨むとそのままバイルの言葉に意識を戻した。
『――――――――――そして、“魔”が宿る我らの労に貢献し、ともに月を越える者にも、心身の休息を取ることをここに定め、認めよう・・・』
「・・・」
俺の方を見たまま固まったバイルに、眉をひそめていると、隣から小声で「返事、返事」と促された。
俺は、よく分からないままとりあえず頭を下げた。
すると、俺の方を見たまま黙っていたバイルが再び動き出した。
『私の身体に眠りし“魔”よ――――――――――数刻の時の中、この身体に宿り、その力の片鱗をみせ給え』
バイルはそう言って自分の髪の毛を数本抜くと、そのままパラパラと目の前に散らせた。
何を始めるのかと思っていると、突然散らせた髪の毛が ボウッ と音を立てて消え去った。
すると―――――
『――――ああ、ああああ、ううああ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!』
『――――あっは、ははは、はっははははああああははっはあはあああああああああ!!!!』
突然、サカとドレスが叫びだしたのだ。
サカは、その場で小さくうずくまり、両手両膝を地面について苦しそうに唸り出した。
ドレスは、両手の平と顔を天井に向け、身体を後ろに思いっきり反らせ、高音の笑い声を上げていた。
しばらくすると、二人ともピタリと声を出すのを止めた。
そして、数秒後に信じられない事が起こった。
『いやっほーーーーう!!!!!!!!、ひっっっっっさしぶりの自由時間だぁぁぁぁあああ!!!!!』
『・・・・・・・・』
突然サカとドレスの様子がおかしくなった
サカは、たまにこんなテンションになるが、ドレスの変化が著しい。
いつもの飄々とした喋りと妙に明るい雰囲気は一切せず、視線と顔を落とし、自分の腕を抱いている。
どういうことかバイルに聞こうとしたら、バイルにも変化が表れていた。
いつの間にか、バイルの机の上に小さな置物が二つ現れていたのだ。
一つは、立派な毛並みの凛々しい顔をした狼
もう一つは、翼を半ば開き、自信満々といった顔で斜め後ろを見下ろしている鳥
その二体がバイルの正面に並んでおり、バイルはその置物を大事そうに見つめていた。
しばらくすると、バイルは置物を骨の手で優しくつかむと、それを自らの袖の中へしまった。
そして、俺のほうを向くとにっこりと笑顔を浮かべて席を立った。
『・・・・それでは、後は頼んだぞ?』
「いやいやいやいや・・・・待てこの野郎。
こいつらの説明もなしで帰ろうとしてんじゃねぇっ!!!」
そのまま背を向けて立ち去ろうとしたバイルを捕まえ、いまだに様子がおかしい二人を指さしながらそう訴えた。
ただでさえ訳の分からないやつらなのに、今のこれらはさらに訳が分からない・・・・
なんでいきなりこんなことになった?
バイルは、数度私と可笑しくなったサカ達を交互に見て、ニッコリと笑顔を浮かべた。
『説明が面倒だから・・・本人達から聞いてくれ』
「おいコラふざけんな、クソ骨やろr―――――――――」
『へいへーーーーーい!!!
ハッちゃんハッちゃん!!!
今から俺とデートしようぜ、デートッ!!!
ここから出られないのはちょっと物寂しいけど、ハッちゃんが知らないところ見て回ったりとっておきの景色見られるところとか俺知って―――――』
「あーーー!!このサカうるせぇ!!
今それどころじゃないんだよこの犬っころ!!!」
いきなり、サカが背後から覆い被さるようにのしかかってきて、俺は思わずサカを引きはがすためにバイルから手を離してしまった。
そのすきに、バイルは笑顔を浮かべたままスタスタと部屋を出て行ってしまった。
後を追おうとしたが、サカが引っ付いたままなにやら喋っていたせいで、身動きがとれなかった。
くそ~、あのクソやろうが・・・・
後で覚えとけよ
・・・・まあ、とりあえず今は―――――
『へ、へへ~、久しぶりにハッちゃんとしゃべれるし触れるっ!!もう俺は今日一日ハッちゃんから離れないからなぁ~』
「鬱陶しいから離れろこのクソ犬ッ!!!」
『キャインッ!!!』
いっこうに離れる気配もなく、むしろ頬ずりや俺の臭いまで嗅いできた不届きな犬に、鉄拳制裁を加えてやった。
具体的には、サカのサッカーボールをかかとで蹴り上げてからのアッパー、とどめの腹蹴りである。
きれいに決まり、俺はフゥと一息ついてから倒れてけいれんを繰り返しているサカを見下ろした。
そして、サカの顔の横にしゃがみ込むと、サカはこちらに顔を向けた。
『へ、へへ~・・・な、なかなか・・・・強烈な、照れ隠し・・・だね。
ま、まあ・・・・丈夫さだけが、俺の・・・取り柄、だか、ら・・・・・・平気だ、よぉ?』
「勘違いすんな、こっからさらに尋問開始だ。
今のお前達について、しっかり説明して貰うからな?」
『な、なんだ・・・・ハッちゃんも俺の事もっと知りたいんだ。
ということは、ハッちゃんが俺に惚れ――――――』
「よし、ドレスから聞き出すか。お前は今すぐ・・・・死ね」
俺はそれだけ言うと、サカが喋らなくなるまで二つのサッカーボールに黄金の右足をたたき込み続けた。
だが、途中からサカが変なテンションになって気持ち悪かったので、顔面にかかと落としを数度たたき込んで眠らせてやった。
その様子を見ていたドレスが、部屋の隅に縮こまって震えていたが、そんなのは気にしない。
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「休暇だとぉ?」
俺がそう言うと、ドレスは大げさなくらいビクリッと身体を跳ねさせ、まるで化け物でも見るような目で俺を見てきた。
おいおい、失礼だぞさすがに
お前にはまだ何もしてないだろう・・・・
まあいい
え~っと、ドレスの話を大体まとめると?
こいつら監守達の飼っている化け物ども
あいつらが半年に一度、本来の力と能力を損なわないために、一時的に宿主から離れ、休む日があると?
その際、普段眠っている宿主が出てきて、自由に身体を動かせると。
・・・・・バイルはどうしてんだ?
見たところ、こいつらの姿形は完全に人間に戻ってるが・・・
あいつ、見たところ手が骨のままだったよな?
・・・てことは、バイルの飼ってる化け物は休んでねぇのか?
『バイルはちょっと特殊でね?、あの両腕も、俺たちみたいに宿して変化してる物じゃないんだよ』
「へ~、そうなのか・・・・・・なんで俺の考えてる事に答えよこしてんだよっ!!!」
『ふっふ~ん、ハッちゃんの事なら世界の誰よりも俺が一番詳しいんだよ!!!
考えてる事に答えるなんて朝飯前ッ!!!
隠密スキルもばっちりだから、今朝ハッちゃんが部屋で一人やってたr――――――――――――』
「くたばれこの変態のぞき野郎がぁぁあああ!!!」
『ワフンッ!!』
いつの間にか復活していた変態を、もう一度地面に沈め、ドレスに続きを話すように促した。
ドレスは、終始俺を見てびくびくしたり怖がったりしていたが、話はしっかりしてくれた。
『・・・・これ以上・・・・・知らない。
でも、これだけ・・・・言える。
今、とても弱い・・・・・・弱点、増えてる。』
「弱点??、なんだそりゃ?」
『俺のはもちろん、ハッちゃんのすべてが俺の弱点であり最大のブースターになって―――――』
「まだ生きてたのか」
『あっ、待ってハッちゃん待って。
目が笑ってないってそれ、顔が完璧に殺し屋のそれ・・・・・・ぎぃやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!』
「それで?弱点って何だドレス?」
『待って待って待って離して緩めて許してぇええええぇえぇぇぇええええええああああああああああああああああああああああああああああああああああああ』
『弱点・・・・木彫り、壊す・・・あと、自分自身の・・・元々苦手だった、もの・・・・
俺の場合・・・・人間・・・・特に、女・・・・・とても、怖い』
『ドルマクも淡々と説明再開しないで助けてぇぇぇぇええ!!!
あああああああああああ、やばいってやばいってこれマジでおかしくなるってぎぃぃぃいやややああああああああああああああああああああああ!!!!!』
「木彫りに女だぁあ?なんでだよ?」
『俺も今とっても女が怖いよ恐ろしいよ畏怖の対象だよ!!!
あっ、待ってこれ完全にやばい感覚麻痺ってきてるってうぎゃうがあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ』
「いい加減だまらないと今すぐ切り落とすぞ?」
『あっ、はいすいません黙ってます。』
俺が笑顔でそういうと、サカは打って変わっておとなしくなり、俺の呪縛から一瞬で逃れ、きれいな姿勢の正座を披露して見せた。
・・・・・けっ!!
なんだよ、最初から演技かよクソ野郎
『・・・・・・大丈夫?・・・サイガス』
『平気平気、頑丈なのが俺の取り柄。
それがたとえ人間の急所だったとしても、鋼鉄より堅くゴムよりもしなやかになってるんだよ』
「へ~、じゃあ俺が今すぐお前の急所全部叩きつぶしても――――」
『本当にごめんなさい調子に乗りました勘弁してくださいハッちゃん様』
すごい勢いで土下座をしたサカに、俺は呆れすぎて何も言う気が起きなかった。
ドレスもドレスで、俺とサカを交互に見てどうすべきか迷っている様子だが、俺はゆっくりドレスに近づくと、ドレスはビクリと身を震わせ、サカと同じように頭を下げてきた。
『さ、サイガス・・・許す・・・・これでも、仲間・・・・・許して・・・ほしい!!!』
たどたどしい喋りだが、確かな強い意志を感じ、私は少し悩んだ。
このクソ野郎を野放しにしてたら、後々絶対後悔する
おもに、俺の今日一日のストレス的に・・・・
だが、さっきから生まれたての小鹿のごとく震えているドレスを見て、さすがにかわいそうな気がしてきた。
・・・・・まあ、俺が今日一日耐えてればいい話だよな?
許してやっても・・・いいか?
『ドルマク、お願いもう一押し。もう少しで俺助かりそう』
『さ、サイガス・・・・そういうの、言わない・・・・・ハッちゃん、気が変わる。』
『大丈夫だって、ハッちゃん意外と抜けてるところあるし、何より好き同士だから本当に命にかかわるようなことは絶対な――――――――』
「ドレス、今すぐそのクズから離れろ。
今すぐそいつを・・・・・去勢する」
『まーたまた、そんなことい―――――――待って待って待って本当にごめんなさいもう何もしません逆らったりしません許してくださいぃぃいだだだだだだだだだああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ』
「うるせぇ犬ッころだ。
・・・・・やっぱり切っとくか?」
『ヤダヤダヤダヤダヤダあああああああああああああああああああああああああッ!!!』
『お、落ち着く!!!・・・・・・本当に、なくなる!!!!』
「っるせぇ!!!!!いっちょ前に声はってんじゃねぇ!!!!」
サカのサッカーボールをしっかりとらえつつ、おどおどと鬱陶しく止めようとするドレスをどなり、もはやだれも事態を収拾しきれる状況じゃなかった。
『・・・・・・・お前ら本当に仲がいいなぁ』
―――――――救世主がいた
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『お前たち、せっかくの休暇だっていうのに・・・・・なんでこんなことになってるんだ』
『・・・ごめん』
『あはは、これには深い訳が・・・・・本当にごめんなさい調子に乗りすぎました。
だから、その足をどけてください本当になくなってしまいます。』
「おい、バイル。
ドレスから大体事情は聴いたが、とりあえずこの犬ッころもう悪さしねぇように去勢していいだろ?」
バイルの前に正座したサカとドレスは、それぞれ頭を下げていたのだが、サカがまたふざけたことを言いそうだったので、そっとまたぐらに右足を添えてやるとおとなしくなった。
その様子を見たバイルがこめかみを摘まんでグリグリともみながら『なるほどな』と呟き、ため息を吐いた。
『サイガス・・・・・・毎度のことながら、今回は少々ひどすぎるぞ?
・・・・俺呼びだしまで、過去最速じゃないのか?』
『・・・・今までで、一番・・・・はやい』
『はい、本当に申し訳ありませんでしぃたい痛い痛い痛い痛い踏んでる踏んでる踏んでるッ!』
俺は添えてた右足をサカのほうへグイグイ押し付け、確かにサッカーボールを足裏でホールドした。
・・・・・少し重心をずらせば、確実に潰せるな
『は、ハッちゃんよ。
さすがにサカが行動不能になるのはまずい・・・・・気持ちはわかるが抑えてくれ』
『サカ・・・・こう見えて、かなり・・・・優秀。
働けない・・・・かなり、大変、ダメ・・・・・・負担、増えすぎる』
「・・・・・チッ、仕方ねぇな」
二人の割と本気の説得に、俺は渋々サカの股座から右足を引き抜くと、サカはダラダラと脂汗を掻き、ゼェゼェと荒い呼吸を繰り返しながらその場に蹲った。
そして、顔だけを上げるとバイルとドレスを交互に見た。
『た、助かったけど・・・・俺の身の心配は?』
『『一切してない』(ないな)』
『・・・・・・・・グスッ』
二人の反応に再び首をカクンッと落としたサカは、鼻をすすりながら泣いていた。
・・・・・哀れすぎてかける言葉すらねぇ
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あれから、バイルから正式な説明を聞くことが出来た。
まあ、大体ドレスから聞いたことを細かく説明されただけなのだが、少しだけ興味深い話もあった。
それが、“摩耗について”だ。
何でも、サカとドレスがこの様に本来の人格を表に出し、化け物の人格が鳴りを潜めてるのも、バイルの力によって一時的に分離させているだけのようなのだ。
そうしないと、1つの体に複数の人格を住まわせることが出来ないそうだ。
具体的には、本来の人格と化け物の人格がお互いにお互いを傷つけてしまうそうなのだ
解決策として、身体に本来備わっていた人格だけを馴染ませ、異物である人格を取り除くことであるそうだ。
そうすることで、お互いの人格が時間と共に本来の状態に自然治癒するらしい
バイルいわく、24時間も人格を分離させていれば十分回復するのだそうだ
だが、人格の分離なんてことは、もちろん本人達が自力で出来るものではない
そこで、バイルも能力の出番というわけだ
詳細は言えないそうだが、バイルならその分離を行うことが出きるそうだ
だが、バイルが能力を使っている間、バイルは他の能力が使えず、あまり身動きもとれないそうなのだ。
辛うじて、監守室の中を歩き回る程度が関の山だそうだ
では、サカとドレスはと言えば、特に制限は無いそうで、自由に行動することが出きるらしい
だが、人格が複数の時より能力は大幅に制限され、使いこなすことも難しいのだとか
さて、ここで問題が発生するわけだ
ここは、囚人を閉じ込めている監獄
1日とは言え、監守全員がほぼ無能状態
もし、この日に囚人達が暴れればどうなるか?
・・・考えるまでもねぇよな?
「ヒャッハーーーーーー!!!!!」
「遂にこの日がやって来たぜぇー!!!」
「野郎共!、チンタラしてないでさっさといくぜ!!!」
「出せっ!出しやがれぇ!!」
「ヒーハーーーーー!!」
・・・うわぁ
やっぱりそうだよな
俺は、予想していた通りの光景に、思わずゲンナリした
あれから、特にやることもないから帰ってよしと言われたので、ドレスとサカの案内で俺の独房に帰ってきたのだが、その途中と言うか囚人達の檻の前
囚人仲間達が、まるで獣のように叫びながら暴れており、中には俺を見て煽ってくる奴までいた
「今だ、やっちまえ!」だの
「素手でタイマンしかけりゃ、勝てる」だの
「殴り殺しちまえ!ゴリラ女」だの・・・
まあ、それはもう色々
ちなみに、最後のやつはぶん殴って顔面潰した
そして、やっと戻ってきて一息ついた俺は、ゴロンと身体を投げ出して寝転がり、頭の後ろで両手を組んだ
「まったく、めんどくせぇ日だな今日は・・・」
『ねー、ほんと参っちゃうよねー。
バカな古株や新人が毎回毎回騒いでさぁ
今のままでも遅れをとるような事無いのにさぁ
今だって、ハッちゃんと一緒にいられる時間を作れるくらいには余裕―――――』
「・・・念のため聞いてやる
添い寝してるのは、聞くのもバカらしいもう諦めた。
もうひとつ聞く・・・お前、ドレスどうした?」
『あっはっはっはっ!
ハッちゃんに会うために、仕事早めに切り上げてきたんだよ?。
だから、俺とこのままアツアツな時間を――――』
「さっさと仕事しにいきやがれこの駄犬がぁー!!!!!」
仕事丸投げしてきたクソ犬を叱咤し、俺はぼろ雑巾と化した物を引きずって、ドレスの元へと向かった。