第三話 刑の執行
※誤字・脱字など多々あるかもしれませんがご了承ください
部屋に帰って来て大体1時間
俺は、本日二度目となるシャワータイムを楽しんでいた。
本来なら、とっくに朝礼を終わらせて今日の作業に取りかかっている時間なのだが、サカに連れられて部屋に戻ってみると、『――――今日は何もしなくて良い』と言われ、無理矢理部屋へ押し込まれたのだ。
俺は、やることもなく途方に暮れているときにポケットの中に石けんが入っているのに気がつき、ニオイを嗅いでいたらシャワーを浴びたくなって、今に至るというわけだ。
二度目と言っても、今日の朝に浴びてから大した時間は経って無い
ほんの数時間前くらいだ。
ちなみに、浴びているのはお湯ではなくて、冷たいただの水だ。
さすがに何度も熱い水を浴びているとのぼせてしまう。
いや~冷たい!!、頭がスッキリするな
俺は、冷たいシャワーを浴びながら両手で顔をゴシゴシと擦った。
そして、そのまま顔にかかった鬱陶しい髪を勢いよく後ろへ払いのけた。
その時だった
『うわっ!!、冷たっ!!』
「ッ!?」
突然、背後で誰かの声が聞こえてきた。
俺は、眉根にしわを寄せながら振り返った。
すると、そこには顔がビシャビシャに濡れたサカが立っていた。
『クソ~、バレたか。でもまさか水を掛けてくるなんてな・・・予想外DAZE☆』
サカはそういうと、両手で顔を掻きながらドヤ顔でそういった。
そして、サカはある一点をじーっと見ながら尻尾を振っていた。
俺はゆっくりサカの視線を辿ってみると・・・
・・・あ~
これは・・・あれだよな
・・・こういうときは
俺はそこまで考えると思考を停止させ、サカに背を向けた。
ワザとらしくサカに背を向け、大きく息を吸い込んだ。
そして
「覗きしてんじゃねぇよこの変態が!!!!」
そう叫んで、俺は手直にあった物をサカの顔面めがけて投げつけた。
それは、回転しながら飛んで行き、見事にサカの眉間に直撃した。
すると、あたったそれからはドロリとした液体が飛び散り、サカの顔面に満遍なく降りかかった。
どうやら、俺が投げつけたのは洗剤のボトルだったようだ。
『いってぇ!!!、うっわなんだこれっ!!!、クサッ!!!!石鹸クサッ!!!』
そういって、サカは鼻を押さえながら顔をゴシゴシと擦った。
すると、サカの顔面にかかった洗剤が泡立ち、サカの顔が一瞬で泡だらけになった。
『あ、クソ、しまった!!。口に入った!!!、ぺっ、ぺっ、苦っ!!!!!、鼻があ゛あ゛あ゛あ゛~~~~~!!!!』
サカは、苦しそうに地面に蹲ると、そのままごろごろとその場でのた打ち回り、しばらくするとまったく動かなくなった。
・・・
・・・・・
・・・・・・え?
死んだ?、嘘だろ?
俺は、恐る恐る地面に倒れているサカに近づいた。
そして、サカの足の近くにしゃがみこんで、つんつんと脛を突いてみた。
サカの足は、人間にしては毛深いゴワゴワの赤黒い毛で覆われており、つつくために伸ばした人差し指がすっぽりと埋まった。
うっわ、毛深っ!!
てか、モサモサっ!!
俺はあまりの不快感に手を引っ込めた。
すると、僅かだがサカの足がピクリと動いた。
どうやら死んではいないらしい・・・。
俺は少しだけホッとしつつ、どうやって起こそうか考え始めた。
とりあえず、顔の泡を何とかしないと・・・
そう思って辺りをキョロキョロしていると、未だにジャージャーと水を出し続けているシャワーが目に入った。
「・・・これで顔の泡を落とせば」
俺は、シャワーのヘッドを手に取り、それをサカの顔に向けて構えた。
すると、サカの顔に付いた泡がみるみる落ちていき、その顔があらわになった。
サカの顔は、狼のように尖った鼻と口をしており、赤黒い毛が濡れてなんとも情け無い顔をしていた。
「おーい、サカ。大丈夫か~?」
念のため声を掛けながら、俺はサカの顔をぺちぺちと叩いた。
すると、閉じられていたサカの目が突然見開かれ、サカはすばやく身を起こした。
そして、両手を地面について首をせわしなく動かして周りを確認した。
俺は、急変したサカに少し怯えつつ、サカが落ち着くまで様子を見た。
不意に、サカがこちらに気が付き、動きを止めた。
サカは、俺の方を見ながら顔を下から上へ動かした。
『――――・・・はあ、またか』
先ほどとは違い、サカは高い声と低い声を無理矢理混ぜたような声でそういうと、首をガクリと落とし、ため息を吐いた。
そして、サカはゆっくり体を起こし、頭を下げた。
『――――サイガスの奴が、また失礼をしたようだな。すまない』
サイガスの奴・・・
自分の名前をそういうということは、どうやら今は化け物の方らしい
俺は、少しだけ気を引き締めた。
「気にすんな・・・とは言えないな。本人に反省するよう言ってもらえるとありがたい。」
『――――承知した』
短い返事を返したサカに、俺は頷くとサカはあからさまに顔を顰めて顔を背けた。
『――――話があるんだが・・・まずは格好を何とかしろ、話はそれからだ』
サカにそういわれ、俺は自分の姿を確認した。
・・・
・・・・・
・・・・・・あっ
そういえば俺、タオル一枚だった。
俺は口をあんぐりあけていると、サカは呆れたようにため息を吐いた。
『――――これは、サイガスばかりを攻められんな』
「・・・なんか、すまん」
『――――いい、早く着替えろ。そして早く本題に入らせろ。俺は忙しいんだ』
サカはそれだけ言うと、俺に背を向けシャワー室を出て行きった。
残された俺は、とりあえず今だに持っていたシャワーをものと位置に戻し、いそいそと体を拭いて着替えをすませたのだった。
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『――――遅い!!!!、何をモタモタしてたんだ!!!!』
着替えをすませて姿を見せると、真っ先にサカの怒鳴り声が出迎えてくれた。
俺は、あまりにデカイ声に驚き、両手で耳を塞いだ。
「うるせえなぁ~、ワンワン吠えるなよ」
『――――誰が犬だ、誰がッ!!!!』
サカは先ほどよりもすごい剣幕で声を上げ、今にも殴りかかってきそうな勢いだった。
俺はそこまで言ってないだろ。
気にしてんのかよ・・・
俺はそう思いつつも、平謝りするとサカは渋々といった様子で大人しくなった。
「それで、話って何だよ?」
【――――む?・・・ああ、そうだったな。では、本題に入らせて貰う】
サカは思い出したようにそういうと、一つ咳払いをして真剣な顔になった。
忘れてたのかよ・・・
そのために来たのに
俺は若干呆れが混じった息を吐き出し、サカの言葉に耳を傾けた。
『――――先ほど、バイルから伝言があった。後日伝えると言っていた詳細だが・・・暇になったから今すぐ聞きに来い。だそうだ』
「・・・はあ?」
俺は思わず声を出していた。
すると、サカは苦虫を噛み潰した様な顔をして俺を見た。
『――――・・・不本意だが、我もお前と同じだ。まったく、気分が悪い』
そういうと、サカは俺に背を向け、そのまま部屋の扉を乱暴に引き開けた。
「お、おい!。何処行くんだよ!!!」
俺はサカの背中に声を投げかけると、サカは面倒そうな顔でこちらを見た。
そして、ドスドスと足を踏みならしながら俺の眼前まで来ると乱暴に腕を引っ掴んできた。
『――――バイルの所に決まっているだろう!!!。お前もさっさと来い!!!』
そういって、サカは俺を引きずりながら足早に例の部屋へと連れて行かれた。
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数分後、俺たちはバイルがいる部屋の前までたどり着いた。
目隠しのときはここに来るまでそこまで歩いたような気がしなかったのが、随分長く感じた。
迷路のように入り組んだ道、無数の格子戸、明かりの少ない通路。
これらの要因で、実際よりも長く感じたのかもしれない。
そんなことを考えていると、不意にガンガンと扉を叩く音が目の前で聞こえた。
『――――バイル、連れて来たぞ』
サカはそういうと、扉を乱暴に引き開けた。
すると、ちょうつがいから耳を覆いたくなるような深いな音が響き、俺は顔をしかめた。
サカは、気にした様子はなく大股で扉をくぐった。
俺も、そのまま引っ張られるように部屋へ入った。
『お~、遅かったな。なにかあったのか?』
部屋に入って最初に聞こえてきたのは、バイルの気の抜けた声だった。
よく見ると、バイルはニコニコしながらこちらを見つつ、骨の手は淡々と手元の書類に署名を続けていた。
『もしかして、サイガスが何かやらかしたのか?。だからサイガスはびしょ濡れなんじゃないか?』
バイルはからかうようにそう言うと、体を大きくのけぞらせ、大口を開けて盛大に笑った。
その間も、バイルの手はスラスラと紙の上を動き、やがて書いていた紙を小さい方の山に置くと、反対の山から一枚紙をとり、またスラスラと動き始めた。
その間、バイルは一切書類を見て折らず、相変わらず馬鹿笑いを続けていた。
とても奇妙な光景だ
『久しぶりに笑ったな。・・・さて、いい加減待たせるのも悪いな。話を始めようか』
バイルはそういうと、手に持っていた筆ペンを机に置き、こちらを真っ直ぐ見据えた。
すると、サカが突然ビシッと姿勢を正し、俺の背中をどんと押した。
「おわっ!!」
俺は前のめりになりつつも、何とか倒れずにすんだ。
そして、自分の位置を確認してみると、そこは丁度バイルとサカの中間くらいの位置だった。
『さて・・・、今から“特殊懲役係の刑”の詳細を話そう。一度しか説明しないから、よく聞いてくれ』
すると、バイルは両肘を机について両手の指を絡めて口元に持ってきた。
『お前に下した刑少々特殊でな。“死刑”の中でもかなりキツイ部類の刑罰だ。下手をすると、即死だな』
バイルの淡々とした声が俺の耳に届いた瞬間、ドクンッと心臓が撥ねた。
し、死刑だったのか俺・・・
なんだ、結局俺、死ぬのかよ。
ってことは、詳細ってのは執行日や刑の内容を説明?
・・・いや、わざわざそんなこと伝えないか
俺は色々考えながらも、バイルの言葉を聞き続けた。
『だが、死刑を免れ、ここから出て行くチャンスを得られる刑でもある。』
「・・・?」
バイルの言っていることが理解できず、俺は小首を傾げた。
すると、バイルは少し
『“特殊懲役係の刑”というのは、あることを長期間してもらう単純明快な刑罰だ。』
「あること?」
俺がそう聞き返すと、バイルの代わりにサカが返事をした。
『――――特殊懲役の刑は、お前にとってはただの懲役と大して変わらん。ただ、ちょっと特殊な事をするだけだ。』
そこまで言うと、サカはニヤリと口元をゆがめた。
すると、開かれた口からぬらリと光るギザギザの牙が見えた。
笑っているようだが、その似つかわしくない顔で、とてつもなく不気味だった。
若干引き気味で、サカを見ているとバイルが一つ咳払いをして再び注目を集めた。
『サカの気持ち悪い笑顔についてはひとまず置いといて本題にもd『――――気持ち悪いだと!?』お前にしてもらうある事というn『――――我のどこが気持ち悪いというのだ!!どこだ!言ってみろ!!!』・・・もう一度言うぞ、お前にしてもらうある事t『――――おい!!無視するんじゃない!!我の話を聞け!!』サイガス!!分かったから少し黙っていろッッ!!!!』
バイルは突然でかい声でそういうと、サカはピタリと口を閉じた。
それを確認したバイルは、再び咳払いをして話し始めた。
『すまない、取り乱した。で、お前にしてもらうある事なんだが、“動物の世話”だ』
「動物の世話?」
俺は眉を寄せながらバイルの言葉を繰り返すと、バイルは口元で組んでいた手を解き、右手の人差し指を立てた。
そして、その指はゆらゆらと揺れたかと思うとゆっくりサカの方を指した。
「・・・サイガスがどうかしたのか?」
『・・・サイガスは狼だ。狼は、動物だな?』
『――――待てバイル。確かに狼なのは否定はしないが、動物でくくるのはやめろ』
『それにドルマクもだ、アイツはワシの姿になれるんだが、動物だといえるな?』
『――――おい、聴け、無視をするな』
『ここまで言えば、もう分かったんじゃないか?』
『――――・・・』
サカが何度か口をはさむが、バイルは無視して話を続け、とうとうサカはシュンと尻尾をたらして黙り込んでしまった。
少しかわいそうに思いつつ、俺はバイルの言いたいことが何なのか考えてみた。
サカやドレスがヒントってことは、タカや狼みたいな猛獣の世話か?
・・・いや、死刑を免れる可能性があるってことだから、そんなヌルイものじゃないか。
そもそも、ここに動物がいるのか?
動物といったら、サカやドレス達くらいしか・・・
そこまで考えて、俺は一つの予想が立った。
「まさかとは思うが、俺が世話するのって・・・」
ここまで言うと、俺は言葉がのどにつっかえ続きをいうことが出来なかった。
すると、俺の言葉を聴いたバイルは静かに頷いた。
『おそらく、それで間違いない、お前が想像したとおりだ。お前がこれから世話をするのは“俺たち監守三人”だ』
「・・・なん・・だと・?」
俺は、わなわなと震える口で思わずそう漏らしていた。
すると、サカが突然大きく裂けた口を開き、馬鹿でかい声で笑い始めた。
『サイガス・・・うるさいから少し黙っててくれ』
『――――え、ああ・・・すまない』
サカは今度は耳までたらしてシュンとして黙り込んだ。
うわっ
・・・何か見てて哀れだ
『さて、説明に戻ろう。この刑は、わたし達三人の雑用や世話、奉仕などをしてもらうものだ』
「・・・」
『期間は日数にして1100日、年に直すと約3年だ』
「・・・」
『もちろん、他の囚人とは待遇は同じ、扱いも同じだ。お前はそれにわたし達の世話が入る形になる』
「・・・」
『さて、俺からの説明は以上だが・・・聞いているか?』
「・・・ん?」
突然声を掛けてきたバイルに、若干反応が遅れてしまった。
すると、バイルは自分のこめかみをつまむと、それをグリグリと動かした。
な、なんだ?
何かまずかったのか?
『・・・サイガス、しゃべっていいぞ』
『――――・・・いいのか?』
『ああ、もういいぞ。お前のことが気になっているらしいからな』
バイルはそういって、俺の方を顎でしゃくってきた。
すると、サカは耳をピンッと立て、嬉しそうに尻尾を振った。
おっ、元気になった。
そうそう、サカはそうでないとな
嬉しそうなサカの様子を見て、俺は不思議と顔を綻ばせていた。
すると、突然バイルが大口を開けて笑い出した。
『はっはっはっ!!!!そうか、お前らそういう関係か!!!』
「『――――何の話だ?』」
『ハモるほどかよ!!』
そういうとバイルは突然机を叩きながら笑い出した
俺もサカも訳が分からず、訝しげにバイルを見た。
バイルは、ひとしきり笑うと、ヒーヒーいいながら涙をぬぐった。
『はー、はは・・・まあ、それはそれとして、囚人番号8番。刑はどうする、受けるのか?、受けないのか?』
「ああ、まだその話だったのか?受けるぞ、当然」
バイルの質問に、俺は即答した。
すると、バイルは少し眉を寄せると口を開いた。
『・・・いいのか?さっき説明を聞いていなかったなら、もう一度説明す――――』
「そんなん後でいいって、長期間何かすればいいんだろ?どうせ暇だしな」
俺はぶっきらぼうにそういうと、大きな欠伸をした。
その話は俺の中ではもう終わっている
あ~、ねみぃ~
何か今日疲れたな
まだ朝だよな?これから働けっかな~
『――――分かってるのか?、お前の生死が掛かっているのだぞ?』
今度はサカが確認するようにそういって来た。
何だこいつら
俺が良いって言ってんだから気にしないでいいだろ?
それに
「断ったら即効で死刑だろ?だったら少しでも足掻いて、みっともなく生にしがみ付いてやる」
そうだ
結局、そういうことなのだ
死ぬのが早いか遅いか、ただそれだけだ。
だったら、少しでも長く生きた方が楽しいだろ?
「それに、こんな大博打受けないわけにはいかないだろ!!!」
俺は声高らかにそういった。
どうせ勝っても負けても、行き着く先は地獄だ。
だったら、この腐った人生、花火みたいに激しく燃えて、派手にやろうじゃねぇかっ!!!
俺は心の中でガッツポーズをすると、ニヤリと口元をゆがめた。
すると、バイルは一つ頷き、サカは鼻を鳴らした。
『そうか、では、お前の刑を執行しよう。ドルクマ、もう出て来て良いぞ』
『――――はいは~い。』
バイルがでかい声を出したかと思うと、気の抜けるような声が上の方から聞こえてきた。
すると、突然足元に真っ黒い塊が降ってきた。
「うわっ、何か降ってきた!!」
『――――お待たせ!!俺だよ~?』
落ちてきた塊は、モゾモゾと動きだし、やがてバサッと羽ばたくような音を立ててドレスが姿を現した。
よく見ると、ドレスの背中から大きな翼が生えていた。
折りたたんでいる翼は、俺が両手を広げてもまったく足りないほど馬鹿でかく、真っ黒な羽がビッシリ生えていた。
すると、ドレスは俺の方に近づいてくると、折りたたんでいた羽を大きく広げた。
「うわ」
俺はその大きさに気おされ、思わず声を出していた。
『――――それじゃ、一瞬ですませるよ?』
ドレスはそういうと、両手をバッと広げ、すばやくその手を俺の方へ向けた。
すると、ドレスの翼が大きく後ろに動き、バサリと大きな音を立てた。
翼が動いたことで、真っ黒な羽が幾つも中空に舞い、ヒラヒラと地面に落ちた。
・・・はずだった
「は?」
俺は、思わず首を傾げた。
地面に落ちだ羽根は、再び浮き上がり、フヨフヨとドレスの周りを回り始めた。
ドレスは、まるで指揮者のように両手を振るい、楽しそうに鼻歌を歌っている。
そして、ある程度羽根を散らせると、ドレスは手を振るのを止めた。
『――――こんなもんかな?、それっ!!』
すると、ドレスは右手をクイッと俺の方に振った。
途端に、ドレスを取り巻いていた羽根が一斉に俺の方へ飛来し、今度は俺の周りにまとわりついてきた。
「え、ちょっ!!」
俺は、羽根を手で払いのけようとしたが、僅かに軌道がずれるだけであまり意味はなかった。
しばらくすると、羽根は俺の周りから徐々に離れていき、再びドレスの元へと戻っていった。
ドレスは、戻ってきた羽根達を一枚一枚丁寧に集め始めた。
そして、最後の一枚を手にとると、その一枚をまじまじと見つめた。
『――――ふ~ん、人間の女ってこんなデータが取れるんだ・・・』
ドレスは不思議そうにそういうと、持っていた一枚の羽根にフゥと息を吹きかけた。
そして、そのまま羽根から手を離すと、持っていた他の羽根も同じように息を吹きかけた。
すると、ドレスが最初に息を掛けた羽根が急に回転を始めた。
それに群がるように他の羽根達が周りを覆い尽くし、バスケットボールくらいの大きさの球体になった。
すると、ドレスはその球体を慎重に取り、そのままその球体をバイルの目の前においた。
『――――はい、囚人番号8番の一丁上がり』
ドレスがそう言うと、バイルは同じように球体を持ち、静かに頷いた。
『確かに、俺が責任を持ってこれを管理しよう』
バイルは持っている黒い球体を俺に見せつけると、そっと球体を机の上に置いた。
な、なんなんだ?
あの球体がどうしたんだ?
俺は、バイル達がやっている事が理解できず、首を傾げているとドレスが笑いながら口を開いた。
『――――あはは、理解できてないね?。今君は、俺たちに命を握られたんだよ?』
「・・・え?」
俺は、ドレスの方を見ながらさらに険しい表情をした。
するとドレスは、机においてある球体を指差した。
『――――説明するより見た方が早いよね、例えばこの球体を~・・・』
そういって、ドレスは球体をツンと突いた。
「うひゃっ!!」
すると、突然額を何かに突かれた感触がした。
慌てて額に手を当ててみたが、特に何かがあるわけではない
な、ななななんだ!?
俺が驚いているのを見て、ドレスはさらに球体をツンツンと突いた。
すると、やはり額の辺りを突かれた感触がした。
今度は二回
「ど、どうなってんだ!?」
俺が動揺しているのを見て、ドレスは嬉しそうに笑い声を上げた。
『――――あっはっはっはっは!!!、これ面白いでしょ?、この球体は僕の力で作り出した感覚共同体で、対象のデータを入れることで間接的にデータ対象と感覚をリンクさせられるんだ。もちろん、これを壊したりしたら君までその痛みを味わう事になるように出来てるんだ。でも大丈夫だよ?、猛烈に痛いだけで死んだりはしないから。あと、僕以外の人が無理に形を変えようとしたりしたらその時も自己防衛機能が働いて自爆する仕組みになってるから、悪用される心配もないんだ。まあ、その場合も感覚は繋がったままだらか当然痛みを感じまくるけどね~。でもでも、すんごい技術なんだよこれ僕も作るのに苦労したんだ~、出来たときは本当にうれしかったよ、実験も一発で成功したし、もう言うことないよねッ!!!』
ドレスは一息でそこまで言いきると、やり遂げたような顔で俺を見てきた。
・・・
・・・・
・・・・・いや、ぜんぜん理解出来てないんだけど
俺が顔をしかめていると、バイルが口を開いた。
『まあ、簡単に言うとだな、途中で逃げ出したりあんまり反抗的だったらこれを使って懲らしめるって具合のやつだな。呪いの藁人形だとでも思っているといい』
「の、呪い!?」
それを聞いた俺は思わず叫び声をあげていた。
すると、ドレスが不満そうにバイルのほうを見た
『――――呪いとは失礼だな、立派な技術だよ』
『――――似たようなものではないか』
『――――まあね、作用的に見たらそうなっちゃうね~』
サカとドレスは軽口を叩きあいながら笑い声を上げた。
そんな二人を見ていた俺は、机に置かれている黒い球体に顔を近づけた。
黒い球体は、一見いびつな形をしていて、所々ぼこぼこになっている。
俺は、恐る恐る球体に手を伸ばし、軽く掴んでみた。
すると、突然頭に誰かが触っている感触がして、慌てて振り返ってみた。
しかし、俺の近くには誰もおらず、頭も誰かに捕まれているわけではない。
俺は球体から手を離すと、スッと頭にあった感触が消えた。
「ほ、本当だ。頭に感触が・・・」
俺は自分の頭に手を乗せ、ペタペタと触ってみた。
先ほどの感触は今自分で触れているものと全く同じものだった。
だが、俺の頭にも目の前にある球体にも変わったところはない。
本当に不思議だ・・・
・・・・ってか、さっきの説明から行くと、俺ってかなりやばくないか?
ドレス以外がこれいじったら、俺爆発するんじゃ・・・
そう思って、俺は自分が爆発するシーンを想像してみた。
そして、すぐに自分がそうしたことを後悔した。
『まあ、そういうことだ。お前の刑は今をもって執行された、明日から1100日間存分に働いて貰おう』
バイルはそう言うと、ドレスを呼び、机の上にある球体を片付けさせた。
そして、視線を手元に落とすと、またスラスラと書類の処理を始めた。
『――――というわけだ、もう用は済んだ。お前の部屋まで送り届けよう』
気がつくと俺の隣にはサカが立っており、両腕を組んで不機嫌そうな顔で俺を見ていた。
その顔は、今までの表情とはどことなく違う雰囲気を持っており、僅かに敵意が向けられていた。
「な、なんだよ」
俺は、少し気後れしつつもサカに反抗的な態度を向けてみた。
すると、サカはフンッと鼻を鳴らた。
『――――なんでもない。早くこい』
サカはそういうと、俺の肩をガッシリとした手で掴むと、そのまま突き飛ばすように扉の方へ押した。
あまりの勢いに、体が前屈みになって転びそうになったが、何とか持ちこたえた。
俺は振り返ってサカを睨みつけようとしたが、サカはまるで追い立てるように手を振って俺の背中を叩いてきた。
「いてっ!、何だよ!!、痛いって!!」
俺は腕で背中を守ろうとしたが、サカがあまりに乱暴に叩くのであまり意味はなかった。
耐えきれなくなった俺は、サカから逃げるように部屋を後にした。
それに続くようにサカも部屋を出ると、俺の肩を後ろに引っ張り、無理矢理俺の前に出た。
そして、来たときと同じように腕を掴むと、一言も発することなく部屋へと連れて行かれたのだった。