第二話 求刑
※誤字・脱字・表現が足りない箇所が多々あるかもしれませんが、ご了承ください。
ここは、囚人島
動物以外いない無人島。
その島の中央に、身を潜めるように建っている建物がある。
建物の名前は“囚人棟”
なんの捻りも無い名前のこの建物、名前の由来は“囚人が生活している建物”という単純な理由。
囚人棟では、軽犯罪から重罪までいろんな奴が居る。
万引きから殺人まで、本当にいろんな奴が居る。
すべての囚人には、ここに送られた時点で自分の名前を消され、囚人番号を振られてそれで呼ばれる。
囚人番号8番
それが今の俺の名前だ。
名前通り、俺はかなり昔からここにいる。
・・・といっても、番号は変わって、気が付くと違う番号がつけられている。
確か俺は・・・すでに3回は変わっている。
最初は・・・そう、35番
次は・・・22番・13番と来て
8番になっている。
収監当時は、なぜ番号が変わるのかが気になって、サカに理由を聞いてみたことがあった
だが、サカ自身も詳しくは知らないらしい。
そうしないと“バイル”にかかる負荷が大きいからそうしているそうだ。
確か今27だから・・・10年前か?
『――――何をぼさっとしている!!歩け!!!』
突然、思考をさえぎるように、至近距離でサカに怒鳴られ、俺は思わず首をすくめた。
くっそ~、耳元ででかい声を・・・
俺は、耳を押さえながら悪態をついたが、サカは嫌味っぽく鼻を鳴らすと、また乱暴に腕を引きながら歩き始めた。
静かな建物内に、カツンッ、カツンッ、と一定の間隔で足音が鳴り響く。
俺は今、サカに腕を引かれながら、何処かに向かっている。
なぜ、ワザワザ腕を引かれているかというと、実は今目隠しをされてて何も見えないのだ。
おまけに、口も塞がれている。
正直、かなり苦しい。
目隠しはよくされてたが、口までふさがれるのは生まれて初めてだ。
なんで、俺がこんな状態なのかというと、実は、おれ自身もよく分からないのだ。
俺は、いつもの様に朝会をするのかと部屋を出た、すると突然目の前が真っ暗になり、何かが口に纏わり付いてきたのだ。
最初は、そりゃ暴れた。
だが、目に付いた布っぽいのも、口に食い込んでいる布っぽいのも、びくともしなかったのだ。
俺はひとしきり暴れると、耳元でサカの声が聞こえ、『――――悪いようにはしない、黙って付いて来い』とか言われたのだ。
そして、強引に腕を引かれ、今に至っているのだが・・・
何だこれ、納得できるか!!!
なんで俺目と口ふさがれてんだよ!!!
悪いようにしないって言ってなかったか?!
すでに随分な扱いを受けているぞッ!!
お~い、サカさーん!!!
俺はすでに随分な扱いを受けてるぞ~
サカに苦情を言ってみるが、口に当てられている布が邪魔でろくにしゃべることが出来なかった。
そんな様子を見てか、サカが鼻を鳴らしてグイッと手を引き、いっそう足音を響かせて歩き続けた。
・・・随分歩いてるけど、だんだんに不安になってきた。
一体、何処に向かってるんだ?
俺は、そう思いながら考えつく限りの目的地を考えてみた。
色々な候補が出てきたが、とりあえず二択だな。
一つ目は、サカの自室
理由は簡単、サカに気に入られてるからだ。
昔だが、一度だけサカの相手をするために、部屋を訪れたことがあった。
当時まだガキだった俺は、どうせエロいことさせられるんだろうなとか考えながら部屋を訪れたんだが。
しかし、実際には一方的に話を聞かされたり、サカのお酌をするだけだった。
その際に、サカが上機嫌で俺を褒めていたから、似たようなことを今回もさせられるのかもしれないな。
・・・まあ、前回より明らかに扱いが違うから、これはないな。
二つ目が、処刑場だ。
俺の死刑にされるのはまだ先のはずだが、なにぶんカレンダーが無いし日付感覚がよく分からない。
もしかすると、今日がその死刑執行の日なのかもしれないな。
どっかで聞いた話だと、処刑される奴はあらゆる感覚を一度封印され、処刑するときに元に戻すとか。
主に、恐怖心や不安、そして絶望感をより強くするためにそうするのだとか・・・。
・・・やっぱり、そういうことなのか?
俺はそこまで考えると、心臓が一つ、大きな音を立てて脈打った。
そして、息苦しさに拍車がかかり、鼻だけで息するのがつらくなってきた。
ふと、目の前にある闇の中にぼんやりとした映像が見え始めた。
それは、どれも自分が小さい頃の思い出の一ページだった。
笑ってたり、怒ってたり、泣いてたり
色々な表情の俺が居た。
そんな俺の傍らには、必ず誰かが居た。
あるシーンは、男の子と
あるシーンは、ゲラゲラと笑っている男と
そしてあるシーンは、誰かの死体と
・・・そう言えば、そんなこともあったっけな~
・・・そうそう、よくあいつと暴れ回ったな~
・・・そういや、あいつから金返して貰ってね~ぞっ!!
くそ~!!!、捕まる前に取り返しとけばよかった!!!
・・・金と言えば、行きつけの店のツケも払ってねえぞ?!
どうしよう、あそこのババア、俺が死んでも「ツケ払え」って言ってきそうだ・・・
色々な思い出とともに、様々な感情がわき上がってきた。
子供らしくない思い出の数々に、思わず笑いが込み上げてきたりもした。
親父に捕まり、怒られて萎縮している自分
徒党を組んで、寒さをしのいでいる自分
食い逃げして、怒られている自分
どの思い出も、とても懐かしい。
だが、そんな思い出の中でも、ある共通した感情が一つだけあった。
それは、“後悔”
今思えば、自分の人生は後悔だらけだった。
あのとき、こうしていれば
どうしてあの時こうしなかった。
なぜ、俺はアイツを庇ったのか。
そんなことが、頭の中でグルグル周り、徐々に笑みが消え、気分が沈んでいった。
(・・・可笑しいよな。今更後悔したって、遅いのにな)
俺は、心の中でそう呟く。
無意識に、ため息をしていた。
すると、サカが乱暴に俺の手を引っ張ってきた。
俺は、バランスを崩しそうになり、バタバタと手を振って何とか体制を保つ。
その時だった、俺の足が突然鉛のように重くなった。
俺は驚いて、見えもしないのに自分の足に視線を落とした。
当然、何も見えないから確認も出来ないが、確かに俺の足はずっしりと重くなっていた。
足を一歩、また一歩と踏み出す度に、俺の体力はごっそり失われていく
息が上がって、大きく肩で息を吸う
何も見えないのと呼吸がし辛いのが相まって、それを助長していた。
・・・辛い
・・・苦しい
『――――もうすぐで到着する、キビキビ歩け!!』
サカはそう怒鳴ると、先ほどよりも乱暴に腕を引っ張り、無理矢理早く歩かせようとしてくる。
俺は、そのせいで足がもつれ、両膝と両手をぺたんと地面についてしまった。
すると、サカがウンザリしたように声を上げ、俺の襟首をがっしり掴むと、そのまま引きずるように歩き始めてしまった。
襟首を引っ張られているせいで、首に服の襟がめり込んでさらに呼吸が苦しくなった。
俺は、自分の首に食い込んでいる服に手をかけ、何とか息を吸おうと足掻いてみたが、サカに引きずられているせいであまり意味を成さなかった。
すると、サカの足音の感覚が徐々に短くなり、やがて、足音がピタリと止んだ。
どうしたのかと思っていると、突然服から手が離れた。
俺は、盛大に頭を地面に叩きつけられ、頭を抑えながら蹲った。
すると、ガシャンガシャンとデカイ音が、立て続けに鳴り響いた。
『――――我だ、入るぞ』
サカはそういうと、ガガガガギィーーー!!!と寂びた金属特有の耳障りな音が響き渡った。
音が収まったかと思うと、乱暴に手を引っぱられた。
俺はまるで荷物のようにひょいと持ち上げられ、そのままストンッと直立した状態で地面の上へおろされた。
『――――こっちだ、入れ』
サカの凛とした声が、俺のほうへと向けられた。
俺は、無言で前進すると僅かに段差になっていたのか、転びそうになった。
すると、背後に何かが移動する気配がして、がっしりと両肩を掴まれ、何とか体制を立て直すことが出来た。
俺は、ホッと息を吐き出してその場で立ち止まった。
後頭部辺りで何かをやっている気配がした。
すると、口に食い込んでいた布が緩み、やがてはらりと口から零れ落ちた。
その瞬間、俺は大きく息を吸い込み、サカに罵声を飛ばした。
「クソッッ!!!、サイガスこの野郎!!!」
開口一番でそう叫んだ俺は、目に当てられている布を引きはがそうと、乱暴に手を掛けた。
『――――待て、今それを取るんじゃない。まあ、外れないがな。』
含みのあるサカの声に、俺はピタリと動きを止めた。
・・・外れない?
どういう事だ・・・?
俺はサカの声が聞こえてきたであろう方向をみて、首を傾げてみた。
すると、逆方向から甲高い声が聞こえてきた。
『――――あっはっはっは!!!、あ~いかわらず威勢のいい女だなぁ、そいつ?』
突然、女のような甲高い声が聞こえてきた。
その声は、何度か聞いたことがある声だった。
「今の声・・・“ドルマク・ガレティムス”か?」
俺がそういうと、ドルマクらしき人物は再び甲高い声を上げた。
『――――あ~らら?、俺の器の名前覚えてたんだねぇ?、囚人にしては大した記憶力だ』
ドルマク
通称:ドレス
個人的に、あだ名が気に入っている監守だ。
ドレスは、女の様な甲高い声をしているが、歴とした男だ。
最初は、線の細い女かと思っていたが、本人曰く、意図して出している裏声らしい。
頭の中で、ドレスの情報を整理している間も、二人は言葉を交わしていた。
『――――準備は?』
『――――もう少しだと思うよ~。・・・やっと説得できたみたい』
『――――そうか、なら待っていよう』
サカはそういうと、いつもの足音を響かせながら移動し始め、丁度俺の右隣の方へ移動した。
すると、ドレスが鼻を鳴らした。
『――――相っ変わらず足音うるさいね?、もう少し静かに歩けないの?』
ドレスの軽口を聞いて、サカは唸り声をあげた。
すると、ドレスはわざとらしく首をすくめた。
『――――なんだよ?女の前だからって格好つけてんの?』
『――――キサマ、我を愚弄するか?』
『――――・・・だったらどうするの?』
ドレスがそういうと、近くで バコンッ と岩が砕ける音が聞こえた。
音は、右のほうから聞こえてきた。
どうやら、サカがやったようだ。
『――――・・・こうなる』
サカはそう言って、うなり声を上げながら移動を始めた。
すると、ドレスの楽しそうな笑い声が響いた。
『――――あっはっはっはっは!!!、お前みたいなワンコに捕まえられるかな~?』
その声と同時に、サカが大きく吠え、ドレスが甲高い叫び声のようなものを上げた。
その時、そいつの声は唐突に聞こえてきた。
『止めないか二人とも・・・』
その声は、俺のすぐ後ろから発せられ、俺は思わず振り返った。
見えはしないが、何となく人が居る気配がする。
『――――あれ~?、来るのはやくない?』
『まあな。それよりサイガス、羽交い締めにするのは止めてやれ。』
それを聞いたサカは、不満そうに鼻を鳴らすとバサバサと鳥の羽ばたきが聞こえた。
いったい何の音かと一瞬思ったが、ドレスが鳥の化け物を飼っているのを思い出し、すぐに解決した。
すると、突然背後に嫌な気配を感じた。
「ひゃっ!!」
あまりに突然のことで、俺は思わず変な声が出てしまった。
突然尻にモゾモゾとした気色の悪い感触がしたのだ。
そのモゾモゾは、ゆっくりと尻の形に沿って動いているようだ。
俺は、全身に悪寒が走り、思わず身震いした。
すると、背後で満足そうに息を吐き出す音が聞こえた。
『ん~、いい触り心地だ』
その声は、サカの声でもドレスの声でもなかった。
すると、モゾモゾは徐々に動きが激しくなり、スルスルと太ももへ移動してきた。
先ほどよりも強烈な不快感が体中を駆け抜けた。
反射的に、声が漏れてしまう。
「あっ!!・・・ちょ、んんっ!!・・・やめ・・うわっ!!」
とうとうモゾモゾは、俺の太もも辺りを動き回り、そのまま太ももの内側を伝って前へ・・・って!!。
「やめろ変態ッ!!!」
俺は、背後に居るであろう人物に、思いっきり蹴りをお見舞いした。
体を捻り、回転を加えた上での後ろ回し蹴り。
・・・たぶん顔面に向かって、だ。
すると、メキッと音を立てて何かが当たる感覚がした。
その瞬間、『げふっ』と変な悲鳴が聞こえ、バタバタと騒がしい音が響いた。
どうやら、俺のけりは見事にあたったようだ。
『いっっって~~~~~~~~!!!!!!!』
『――――あっはっはっは!!!!蹴られてやんの蹴られてやんの!!!!』
『――――まあ、自業自得だろうな』
苦しそうに呻く声に、ドレスは馬鹿笑い、サカはため息を返す。
すると、さっきの男が声を荒げながら喚き始めた。
『お前ら!!、何だその反応は!!、少しは心配しろよ!!』
男がそういうと、急にサカの足音がし始めた。
サカの足音は、なぜかこちらに近づいて来て、俺の目の前で止まった。
そして、俺の手を掴んだサカは、心配そうな声をで俺に声を掛けてきた。
『――――大丈夫か?、何なら我がもう一発ほど殴ってやるぞ?』
『いやいや、おかしいだろ!!!、誰の心配してるんだ“サイガス”!!!』
すかさず、下の方から男の声が飛んできて、騒ぎはじめた。
すると、サカはあからさまにため息をした。
『――――お前が悪いのではないか』
サカにそう言われると、男は一気に勢いをなくし、『それは・・・ほら』ととても小さな声で反論していた。
そんな様子を見て、サカがまたため息を吐くと、俺から離れ、声のほうへ歩き始めた。
『――――ほら立て、さっさと終わらせるぞ』
『――――そうそう、忙しいんだから急がないと、でしょ?』
『ああ、分かっているさ。・・・』
男はそういうと、俺の横を通り過ぎていき、ある程度歩いたところで足音が止まった。
そして、ドサリという音と共にそいつは長く息を吐き出した。
『はあ~、やっぱり座ってるときが一番最高。・・・さて、始めるか。』
その声と共に、俺の両サイドで ザッ、ザッ と音がすると、突然両腕を捕まれた。
そして、無理矢理数歩前へ歩かされ、止まった。
すると、すぐ目の前から声が聞こえてきた。
『では、これより囚人番号8番の死刑執行についての議論を始める』
目の前のそいつがそう宣言すると、腕を掴んでいるサカとドレスがデカイ声でそれを復唱した。
『『これより、囚人番号8番の死刑執行についての議論を始める!!!』』
俺は、宣言の中にある死刑執行という言葉を聞いて、「ああ、やっぱりか」と呟いた。
此処に連れてこられる途中で、何となく察していたとはいえ、やはりわずかに希望がバカらしい。
俺は死刑囚、死刑以外に道は無い。
「そうか・・・、俺は死ぬのか・・・」
俺は無意識にそう呟いていた。
すると、サカはそれを聞き取ったらしく、嬉しそうに返事を返してきた。
『――――ほう、察しが良いな。そうだ、お前は今日死ぬ』
はっきりとしたサカの言葉に、俺は足下が崩れ去っていくような感覚に陥った。
・・・死ぬ
今まで、考えていなかったわけでは無い
だが、やはり怖い。
気付くと、俺の肩は小刻みに震えていた。
よく見ると、肩だけではなく、手や足、体全体が死を恐れて悲鳴を上げている。
俺は、震えを何とか止めようと、自分で自分の肩をぎゅっと抱きしめる。
しかし、震えは収まるどころかなおもひどくなった。
すると、かなり近い距離からあの男の声が聞こえてきた。
『おいおい“サイガス”、それを話し合うのがこの議論だ。変に怖がらせるんじゃない』
男はそういうと、突然肩に手をおかれ、俺は体がびくりと飛び跳ねた。
すると、手はすぐに離れ、代わりにサカの冷たい声が聞こえた。
『――――・・・結果は同じだ。さっさと進めろ。』
サカの声を聞き、男は少し間をおいてから話し始めた。
『さて、話す前にまずは自己紹介からかな?。始めまして、俺の名は“バイル・マリカス” 監守のリーダーをしている者だ。』
それを聞いて、俺の中でやっと声の主が誰なのか知った。
そうか、こいつがバイル・・・
俺は、布越しに目の前に居る人物を睨みつけた。
正しい方向を見れているか分からないが、とにかく睨みつけた。
すると、バイルと名乗ったそいつはさらに続けた。
『早速本題に入るが、今から君の処分について話させてもらう。』
「・・・わかった。」
俺がそう返事すると、バイルは一つ返事をして話し始めた。
『うむ、聞き分けがよろしい。では、処分の決め方を説明しよう。』
「処分の・・・決め方?」
俺は首をかしげながらそう繰り返すと、バイルは続けた。
『別に難しいことじゃない。これから、我々監守3人が一人一つずつ質問をしていく、君は、それに正直に答えてくれればいい。』
それを聞いて、俺はとりあえず首を縦に振る。
すると、両サイドに立っていたはずのサカとドレスが、足音をゆっくり響かせながら移動した。
そして、少しの間のあと、サカが一つ咳払いをした。
・・・来るか
俺の死にかたを分ける質問が。
俺は、少しどきどきする心臓を落ち着かせるように胸に手を当て、耳を澄ませた。
すると、しばらくの沈黙の後、サカが一つ目の質問を口にした。
『――――一つ目の質問だ、お前は動物は好きか?』
「・・・ほへぇ?」
俺は、あまりに気の抜けた質問に、変な声が出てしまった。
な、なんだその質問は?
アレルギー検査か?
それとも、動物系の刑にするか否かを決めるのか?
俺は、質問の真意を探りながらも、正直に答えておいた。
「好きっていうか・・・動物に好かれはするぞ?」
俺がそういうと、しばらくの間のあと、サカが再び声を出した。
『――――なるほど、動物たらしか・・・』
「おい」
俺は思わず突っ込みを入れるが、すぐに左のほうから吹きだす音が聞こえてきた。
それは、たぶんドレスだろう。
『――――サイガスwwww、それはちょっとwwww』
『――――なんだ?、我はおかしなことを言ったのか?』
爆笑しているドレスに、きょとんとしたサカの声を聞き、不思議と笑みが浮かんだ。
すると、バイルの咳払いが響き、部屋に静寂が戻ってきた。
『囚人番号8番、今の回答は、“動物が好き”と捕らえてもいいかな?』
バイルの質問に、俺は黙って頷くと、今度はドレスが質問をしてきた。
『――――じゃ、僕の番だね。二つ目の質問、君は人並み炊事や家事が出来る?』
「・・・はあ?」
俺は、声を上げた。
なんっだその質問!!!!
俺をからかってるのか?
いや、イラつかせたいのか?
・・・本当にこんなのが俺の刑を決めるのか?
俺は、疑心暗鬼になりながらも質問に答えた。
「あらかた・・・出来るかな。」
『――――へ~、それじゃあ、掃除や片付けは問題ない?』
ドレスがアゴに手を当てながらそう聞いてきた。
俺は、とりあえず首を縦に振っておいた。
実のところ、その手のことは苦手だ。
やってたのは自分の部屋だけだし、見栄えの良いとは言えないものだったからだ。
まあ、毎回適当にやって何とかなってたから、気にすることもないだろう。
俺がそこで考えるのをやめると、ドレスが笑い声を上げ始めた。
『――――あっはっはっは!!!!。なるほどなるほどぉ~、確かにこれは・・・あまり期待できないかな?』
『・・・そんなにひどいのか?』
『――――う~ん、「片づいてる」とか「綺麗」とはお世辞でも言えないね。まあ、一応出来てるかな?』
ドレスはそこまでいうと、誰かがため息を吐き出した。
すると、他の二人も釣られるようにため息を吐き、しばらく沈黙が続いた。
な、なんだよ!!
べ、別にいいだろ、出来なくても!!!!
俺は、口をとがらせながら前にいるはずの三人を睨みつけた。
・・・まあ、見えて無いからあれだが。
あ~、本当に邪魔だこれ!!
まだ取ったら不味いのか?
俺は、目に当てられているものに手を伸ばし、何となく握ってみた。
手の感触的に、ただの布のようだ。
すると、突然バイルが声を上げた。
『まだ見るなっ!!!!、俺の質問に答えてからだっ!!!』
バイルは、切羽詰まったようにそう言うと、突然、両手首をがっしり捕まれた。
そして、手首にからみついたそれの感触が、妙な事に気がついた。
・・・ん?
なんか細くて、冷たい?
俺は、手首にからみついているものがなんなのか分からず首を傾げた。
すると、冷たいそれは素早く俺の手から離れていった。
瞬間、じんじんとした痛みが手首に走った。
思わず身を強張らせ、手首を押さえた。
『・・・すまない、後でサカに治療させる。』
バイルの申し訳なさそうな声がしたことで、これがバイルの仕業であることを理解した。
『――――バイル。そんな事はいいから早くしろ。』
サカの不機嫌そうな声が聞こえてきた。
バイルは、もう一度謝罪の言葉を言うと、俺に最後の質問をしてきた。
『すまない・・・。改めて、最後の質問だ。・・・俺の姿を、まとも見られるか?』
「・・・ちょっと聞いて良いか?」
バイルの質問に、俺は異を唱えた。
すると、サカが不機嫌そうに喉をならし、口を開いた。
『――――良いから答えろ』
「そうはいくかよ。さっきからどうでも言い質問ばかりじゃないか!!、一体これに何の意味があるってだよ!!!」
俺がそういうと、しばらくの沈黙の後にドレスが口を開いた。
『――――情報収集だよ。君の今後に関わる・・・ね』
ドレスはそういって小さく笑うと、突然サカが短く吠えた。
そして、ガタガタと何かを揺らす音が聞こえてくると、不意に獣の様にうめき声が聞こえてきた。
すると、突然目の前でバンッと大きな音が聞こえ、俺は思わず身を震わせた。
『止めろ、ケンカなら後にしろ。』
バイルの静かな声が聞こえ、うなり声は収まり、代わりに不機嫌そうに鼻を鳴らす音が聞こえてきた。
おそらく、唸っていたのはサカだったのだろう。
『重ね重ねすまない・・・。もう一度質問を言うが、出来れば何も気にせず正直に答えてくれ・・・俺を見ることが出来るか?』
バイルは、先ほどより砕けた雰囲気でそう聞いてきた。
俺は、目の前にいるはずのバイルを見て(向いて)、しばらく考えた。
確かに、見ること自体はそこまで難しくない。
むしろ、さっきからバイルを見てみたいという好奇心が沸いてきている。
此処までもったいぶっているのだ、さぞ面白い外見をしているのだろう。
だが、それだけならここまで厳重な注意をしてこないだろう。
もしかすると、姿を見ただけで命を奪われてしまうような特殊な何かがあるのかもしれない。
もしくは、それに準ずる効果が俺の体に掛かるのかもしれない。
だが、それならそれで、始めから姿を見せていればそれで十分だったのではないだろうか?
所詮は死刑囚
早かれ遅かれ死刑になる人間だ、俺は。
わざわざこんなものでメカクシする必要はない。
・・・そうだ
そうだよ、俺は何をためらっているんだ
どうせ死ぬんだ、怖がる必要は無いじゃないか!!!
そう思って、俺は自らの目に掛かっている布に手を掛けた。
すると、バイルの慌てたような声が発せられた。
『ま、待て!!!。布を外そうとしていると言うことは、“大丈夫”ということで良いか?』
「ああ、構わない。さっさとその顔拝ませてみろ!!!」
俺は威勢よくそう返事を返すと、乱暴に布を引っ掴み、そのままバッと布を無理矢理引きはがした。
すると、布は驚くほど簡単に外れ、真っ暗だった視界に光りがさした。
俺は思わず目を閉じ、何度かパチパチと瞬きをして光りに慣れようとした。
視界が徐々に慣れ、ぼやけていた世界のピントが合ってくる。
「ッッ!!!」
そして、目の前にいるそれを見て、絶句した。
俺の目に映ったのは、全身真っ黒なボロボロのローブを身に纏った若い男が座っていたのだ。
男は、フードを被っていたがかろうじて顔が見え、その顔の前に両手の指を組んでこちらを見ていた。
それだけならよかった。
しかし、俺が絶句したのは別の理由からだ。
それは、その男が組んでいる手だ。
「・・・手が・・骨・・・?」
俺は、声を震わせながらそう呟くと、バイルは怪訝そうな顔で俺を見てきた。
そして、顔を横に反らしながら頭をボリボリと掻いた。
当然、骨の手でだ。
う、動いた?!
作り物じゃない・・・のか?
・・・義手なのか?
俺は、ジッとバイルの手を見つめながら、そんなことを考えていると、突然バイルが両手の平をこちらに向けた。
『俺の手を見て驚いたか?。これは義手でも何でもない。正真正銘、俺の手だ。』
バイルはそういうと、その手を開いたり閉じたりして見せた。
それを見つめながら、手の動きに違和感が無いか確認してみた。
・・・糸、じゃこんな複雑な動きは出来ないし
機械・・・か?
にしては妙になめらかな動きだし・・・
『・・・近いぞ』
「え?」
俺は、バイルの手から視線を離し、顔を上げてみると目の前にバイルの顔があった。
うおぉっ!!!!
近っ!!!
どうやら、無意識に顔を手に近づけていたらしい。
俺は、慌ててバイルの手を離し、数歩後ずさった。
「す、すまん・・・。珍しかったから」
俺は頭を下げ、ワビを入れた。
すると、バイルは少し残念そうな顔で自分の手と俺を交互に見て、ため息を吐き出した。
え?、何そのため息?
『まあ何にせよ、俺の手を見て可笑しくならなかった。・・・これで決まりだな。』
バイルはニヤリと笑いながら、隣にいるサカへと視線を向けた。
すると、サカは目を細めて俺の方を見てきた。
そして、しばらくして大きく鼻を鳴らし、バイルの方へ向き直った。
『――――気に入らんが・・・仕方ないだろう。』
サカがそういうと、反対側に居るドレスがイタズラっぽい笑顔を浮かべ、サカを見つめていた。
ちなみに、ドレスはかなり背が高いが体の線が細い、一般人から見たら立派なのだが、狼になっているサカと比べると、どうしても非力に見えてしまう。
背的には、ドレスが勝っているが他の点ではサカの方が勝っていそうだ。
しばらくして、サカがドレスの視線に気付き、歯をむき出してドレスを睨んでいた。
『では、お前これからの処遇を発表しようか。』
バイルのその言葉をきき、サカとドレスは再び顔を正面に戻し、背筋を伸ばした。
・・・来たか。
とうとう俺も、年貢の納め時って奴だな・・・
すぐ処刑って訳ではなさそうだが、俺の処刑は決定事項
覆ることのない絶対の運命だ。
俺は、謹んでそれを受け止めよう。
心の中で決意を固めた俺は、バイルの言葉を待った。
俺の処刑方法を口に出す、その瞬間を
そして、ついにバイルの口から言葉がつむがれた。
『囚人番号8番。お前を“特殊懲役係の刑”に処す』
・・・・・・は?
特殊懲役係?
聞いたこと無い刑だな・・・。
・・・てか、懲役?
死刑じゃないのか?
一体どんな刑だ?
俺がそんなことを考えて呆けていると、バイルが一つ咳払いをしてさらに続けた。
『詳しい説明は後日に行う。今日のところは帰っていい。サカ、送ってやれ。』
『――――・・・わかった。』
バイルの言葉に、サカはため息混じりに返事をし、俺の腕を乱暴に掴み、そのままノシノシと扉のほうへ引きずられた。
「お、おい!!、ちょっと待てって!!!、何なんだよその何とか刑ってのは!!!」
俺は、足を踏ん張ってその場にとどまろうとしたが、サカの引っ張る力のほうが強く、ズリズリと引きずられていく。
サカの手を振り払おうともがいてみたが、サカはびくともしなかった。
それどころか、抵抗すればするほどサカの手には力が入っていった。
「痛い、イタイッ!!!!。わ、わかった!!分かったから力抜いてくれよっ!!!!」
俺は、サカの手をバシバシ叩きながらそう訴えたが、結局部屋に戻るまでサカの力が弱まることは無く、そのまま部屋を後にした。






