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血色の塔の真下で

電車が出発してから到着するまでの間、車内は生き地獄の有り様を呈していた。誰もこれも無言で時折舌打ちやすすり泣く声が精神を鑢のようにゴリゴリと容赦なく削る。坂本にできるのは下を向いて寝たふりをすることだけだが、それは隣の滝川も含めた座席に座っている全員が同じような行為を行っていて、状況さえ考えなければ皮肉にも地上の通勤電車と何ら代わらなかった。いわば、社畜が本当に家畜へと転じているのだ。そして、電車は目的地へと到着する。

 「説明会会場に到着いたしました。状尺の皆様はホームの階段から道なりにお進みください。なお、車内から退出なされない方はそのまま強制的に進行いたします。ご注意くださいませ。」

 乗客達は無言で電車の中から降車し、多くの靴音のみがこの場ひ響き渡る。あの滝川も終始無言で坂本よりかなり後ろのほうで歩いていた。薄暗い道のりを黙々と進む。窓の一つも無く、ここがまだ東京都なのか、または県外なのかも判らない。坂本は、六分ほどで強い照明に照らされた大きなホールへと到着した。

 「ただいま説明会の受付を行っております。到着なされた方から、順次列へとお並びください。」

 ホールでは、係員らしき男が拡声器を構えて喋っているのがすぐに目に入った。列は横に二十ほどの規模で縦に関しては、もはや数え切れないほどとなっていて坂本が乗っていた車両以外から集められたかのかもしれない。時間が掛かっているようで、列の途中で気を失ったり進むことを拒否した連中が係員に運ばれていってはこの場から立ち去っていく。だが、坂本には特別な回避方法がある。

 「係員さーん、名刺を出すように言われていたのですがどこに並べば良いですか?」

 そう、根室からもらった名刺である。態々、長い時間をかけて受付で名刺を渡さなくても別に関係者に渡せば並ぶ必要はないと坂本は判断したのだ。偶々、近くで列の整理をしていた小太りの係員に声を掛けると、名刺を見るなり腰に掛けているトランシーバーで連絡を入れ始める。

 「こちらホール担当の23番です、根室魔法芸能事務所の坂本雄二さまがいらっしゃいました。本部、指示願います。」

 どうやら本部へ連絡を入れているようだが、イヤホンを係員は耳にを挿しているので本部からの返答は坂本の耳には届かなかった。

 「はい、本部了解しました。では、坂本さま責任者がお待ちですので着いてきてください。」

 「あ、はい。」

 なんと、責任者の御出座しである。さすがの坂本も、責任者との面会となると手が微かに震えてきた。震えを収めるように握りこぶしを作ると、小太りの係員と共にホールを後にした。

 

 ホールから少し離れたところにあるエレベーターに案内されて入ると、係員は階のボタンを複数回押して目的階へと移動させた。エレベーターにしては長い時間上っているなと坂本が考えたとき、丁度到着したようで外に出るように言われそのまま出て行くと、予想だにしなかった光景が目の前に表れた。

 「ここ、東京タワーじゃないですか!」

 以前、上京したときに記念で入った東京タワーの下の建物そのものであった。

 「ええ、そうですよ。今回は豊作でして地下施設だけでは色々と窮屈でして、幸い改装工事中の店舗が複数あるのでそこを責任者の待機所と本部にしたのです。さあ、行きましょう。」

 さも、これが普通でしょう?といった感じで案内されると、これは夢なんじゃないかと坂本は思いたくなってきた。やがて、閉館した蝋人形館だった場所で係員は足を止めた。ここが、目的地なのだろう。係員に入るように言われて、坂本は意を決して進んで行った。


 数多くの蝋人形や展示物はすでに撤去されているらしく、剥き出しのコンクリートの灰色が広がる寂しい感じの部屋だった。代わりに折りたたみ式のテーブルが並べられ、書類やら電子器具が所せわしと置かれている。そこで、坂本はなんとも場違いな男と対面した。

 「君が坂本君か!根室の奴から聞いているぞ、何でも上級魔力保持者じゃないか。あいつも運が良いな!ああ、奴とは大学時代の同級生でな、学生時代は二人でふざけあったモノだ。アイツが、財務省を辞めて天下りの企業に入らずに何をとち狂ったかと思ったが、君が居るならもしかしたらがあるかもしれないな!あっはははは!」

 暑苦しい男であると、坂本は大声で喋り続ける目の前の男を見ながらそう考えた。身長はかなり高い185センチほどで、イカにもな体育会系のスポーツマン体型であり顎が目立つ。某引退したプロレスラーにそっくりだ。こういうタイプは、喋り続けるまで止まらない人種だ。

 「んん?もしかして、誰かに似ていると思っているのか?ああ、驚かなくても大丈夫だ私も街中を歩いていると間違われることが多々あってね、名前まで似ているんで参ってしまうんだよ。ちなみに、柏木翔かしわぎかけると言うんだ。そうそう、本題を言わなくてわね。ここに来るまでに、色々と疑問に感じたことがあると思うがそれについてだ。実は、君には上級と判断されてから他の参加者とは違う扱いをワザと受けさせているんだ。君も説明を聞いたと思うが、魔法少女になる準備期間次第で、せっかくの上級魔力保持者が何十回もゴミになるのは上の方でも頭を抱える問題だ。」

 そこまで言い切ると、柏木は坂本に向かっていきなり人差し指を向けながらまたもや喋りだした。

 「そこで考え出されたのが優れた素質を持つ資格者に対して、情報や時間の便宜を図り精神を安定させる方法なのだ!魔法少女に成る過程では精神面の不安定さが悪影響と成るかも知れないと言うのが最近の定説でね、偶々根室が見つけた君がテストケースになったのだよ。だが、だからと言って全てにおいて優遇されるわけではない。これから君には他の一般参加者と一緒になって陳腐な内容の説明会に参加してもらうが、余計なことは一切言ってはいけない。」 

 「なぜなn「言わなくても結構!君の経歴は全てプロファイリングされていて、何を言わなくてもすぐに判る。これはテストなのだよ。ちゃんと秩序ある行動が取れるかどうかのね。精神の自由さが良い結果を与えるのは誰でも知っていることだが、反社会的な結果を招くことにも繋がるのでね?君がそうならないかの確認が欲しいのだよ。それでは、この書類が入った黄色いファイルを持ちたまえ。中身は三日後に行われる予定の手術の集合場所が書かれている以外、無意味な物しか記載されてはいないがね。それと、これを飲んでいきなさい。」

 柏木は白い錠剤を二つほど坂本に手渡してきた。

 「これは、説明会で参加者が従順に説明を聞いてくれるためにあることをするのだが、君にまで余計な被害を与えたくは無いのでね。」

 威圧による強制である。拒否権は無い。そして、坂本が錠剤を飲み終わるとさきほどの係員が入室してきた。

 「彼に案内を頼んでいるから着いて行きなさい。なに、心配することは無い。ただ、大人の言うことに従いましょう。これだけだ、簡単だろう?」

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