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涙のサインと社会の仕組み

「坂本さん、いくらインスタントコーヒーだからってそんなに砂糖を入れたら体に悪いですよ。別に変な薬品入れていませんので普通に飲んでください。」

 根室は困り顔で坂本に言ったが、本人は気にせずスプーンで茶色の物体と化したコーヒーをジャリジャリと味わっていた。

 「やだなぁ根室さん。これが、最高に美味しいコーヒーの飲み方ですよ。欲を言えばミルクが欲しい位です。試してみますか?」

 「遠慮します。見ているだけで胸焼けがしてきそうだ。」

 現に、コーヒーを楽しむ気分ではなく飲みかけのままテーブルの端に置いていた。根室の人生の中で、これほどの甘党を見るのは初めての経験であり、気分を悪くしたのか顔を顰めていた。

 「さあ、早く本題に入ってしまいましょう!コーヒーは全部終わった後で入れなおしますから。」

 「そうですね、勿体無いですが話の方がこっちにとっても大切です。」

 「・・・・ふう」

 根室は、小さくため息をつくと話題を切り出してきた。


 「まずは、坂本さんの才能についてからですね。我々芸能事務所では、とある機械を用いて全国の男性のスカウトを行っています。私がコンビニで持っていたあの機械、保有魔力測定器で男性の魔力の量を測り、その大きさで四種類に区分します。」

 そう言うと、根室は鞄から重そうに測定器を引っ張り出してモニター部分を坂本に向けてきた。

 「ここのモニターで、男性の保有魔力量が表示され次のように区分されます。」

 「最初に魔法少女として不適合として判断される、1から99までの劣級。これは、一般の男女関係無く保有している値であり、女性の魔力はこの範囲までしか確認されておりません。次に100から499までの下級となります。社会全体の男性の人口から見ると八十万人に一人程で、魔法少女全体の五割ほどを占めていますが、テレビや怪獣等の大災害で活躍できるのは稀です。しかし、政府から一人当たり二十万円程の報奨金が事務所に支給されるので、大手事務所のローラー作戦で無理矢理勧誘される事が大半です。三番目に500から999までの中級となり、活躍できるラインとされています。四割ほどがここになりますが、成功を収められるかは別問題です。最後に測定外の上級とされますが、上級に関しては魔力量自体で正常な判断が損なわれたり、優劣による過度なカースト制度の蔓延を防ぐためにも敢て正確な表示がされません。そして、坂本さんは上級に区分されています。」

 つまり、坂本はかなり希少なのだということであり、根室の態度も丁寧である訳であると思っていたが、同時にある疑問が坂本の頭の中に浮かんできた。

 「それで、上級だったら成功は約束されたも同然というわけではないんですか?」

 「そうです、魔力量自体はあくまで可能性の目安であって全てではありません。なぜなら、男性を魔法少女にする過程こそが将来の分かれ目と言っても過言ではないのです。ちょっと、失礼します。」

 根室は、テーブルの下から絵の描かれたフリップボードをテーブルに載せてきた。どうやら、根室が描いたらしく少し雑である。

 「これは、魔法少女へと変える処置を簡単に表したものです。まず、被験者は薬剤による処置により体を文字通り真っ白に変化させます。具体的に説明すると、脳の重要な部分以外全て昆虫のさなぎのようにグチャグチャにして再構成させます。」

 「それって、大丈夫なんですか?」

 さすがの坂本でも、体をグチャグチャにされると言われたら聞かずには言われなかった。

 「今は、死亡事故の報告は無いと聞いています。まあ、痛みとかに関しては当事者ではないので言えませんし、知っていても不安にされるだけですので嘘を付く破目になりますが。」

 「変な所で、正直に話されても困りますよ!拒否権は無いんでしょうけど。」

 「私としても、頑張って下さいとしか・・・。さて、話を戻しますが再構築されるとこの絵のように真っ白なマネキンみたいな格好になります。これを準備期間と呼び、この期間が外見や魔法の特色と言った、どのような魔法少女になるかの要素を決定的にしますので、無意味に過ごさないで大事にしてください。準備期間は一週間ほどで終わり、最終調整と呼ばれる工程のあと魔法少女として誕生します。」

 「つまり、最終的ににどう転ぶか判らないから魔力量だけで判断は出来ないと。」

 「例え上級でも、体が異形すぎたり貧弱だと使い物になりません。また、自分の体を蛙に変えるなどの使いどころの無い魔法も同様です。そういった人達は、主に一生自衛隊で危険な任務をこなし続けるか、社会のために骨の髄まで利用されます。とにかく、日の目を見ることは無いでしょうね。」

 想像するだけで恐ろしい話であり、坂本の顔は真っ青となった。それを見ていても根室は構わず話を続けた。

 「そんなに心配しなくても大丈夫です。坂本さんなら必ず良い結果になると信じていますよ。さて、今度は仕事や金銭に関することです。基本的に魔法少女は人間とは違い、寿命はありません。もはや、別の生物ですからね。しかし、肉体的損傷が酷すぎたり精神的回復が見込めなくなることは頻繁にある業界なので常に人手不足となっています。なので、仕事に在りつけないということはありません。安心しください。」

 「出来ませんって。それで、金銭的にどの位なんですか?かなりの額もらえなきゃやってられませんよ。」

 「仕事は政府から指示されますが、小規模の災害で一回の出撃あたり三十万。大規模で二百万円程ですが、世間で有名な方や戦力的に有用な方が優先的に任されます。最初のうちは苦しいですしょう。さらに、組合費や保険料等の諸費用を考えると坂本さんは月収十五万前後からスタートとなります。」

 「つまり死ねと。」

 犠牲を払ってこれではあんまりな仕打ちである。

 「いえいえ、ですから芸能活動もやらなければならないといった話なんですよ。スポンサーが付けば大逆転ですよ。そこの部分は、坂本さんの頑張り次第なんでお願いしますよ。」

 「魔法少女になっても夢の中に生きられるんじゃないんですね。」

 「国民の三大義務のうち勤労と納税だけはどこまでも着いてくるってことですよ。千葉県のテーマパークでもそうでしょう。それより、坂本さんには書いてもらうものがあります。」

 そう言って、根室は坂本に契約書と書かれた一枚の紙を手渡してきた。

 「そこに書かれているのは、今後魔法少女として生きていくことの宣誓と今までの人生の痕跡ををクリーニングする作業への同意書です。サインと母音をお願いいたします。」

 有無を言わさない態度である。サインをする覚悟は坂本には有るが、すぐに行う気は無かった。母親について確かめたかったからだ。

 「根室さん、この書類にサインしたら郷里の母親はどうなるんですか?私は出来の悪い息子ですが、肉親への愛情だけは捨ててはいませんよ。これを確かめずにはサインは出来ません。」

 そう言うと根室は坂本を真っ直ぐな目で、しっかりとした面持ちで答えた。

 「坂本さんのお母様の記憶からあなたに関する全てを消しますが、その後のことは国がしっかりと保障します。決して無下に扱うことなどありえませんし、させません。信じてください。」

 そして、頭を深く深く下げた。坂本はそれを無言で見ていた。一時間二時間と経ち日が落ちても見ていた。そして、涙を流しながら何も言わずにサインをした。

 



 「坂本さん、すみませんがこれを受け取ってください。」

 坂本がサインをして、立ち上がろうとすると根室が名刺と書類を手渡してきた。

 「それは、他の魔法少女として勧誘を受けた人達が集団説明を受けるための場所が記載されています。その際にこの名刺を受付で見せてください、向こうに連絡を入れておきますので。」

 その書類に目を通すと、明らかに不自然な点が見受けられた。

 「これ、集合場所が新宿駅の駅員用入り口から17番線へ入ることしか書いてませんしそんな路線ありません。第一、明日の午前三時に電車なんてありえませんよ。」

 そう問うと、真面目な表情で根室は答えた。

 「機密情報として、一般には公開されていませんが確かに17番線は存在します。勧誘を受けた人達は結構な人数ですし、大半はそのまま処理段階へと移行しますから大規模な移送手段が必要なのです。我々の間では映画にあやかって16と3/4番線なんて呼ぶ人もいますが、多くの方は皮肉をこめてこう言っています。

           

            家畜輸送列車専用線路と

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