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頭の痛い発想

まさしくアクション映画のワンシーンのような登場であった。しかし、タイミングを見計らって颯爽と駆けつけたわけではなく、まったくの偶然であった。

 (ま、間に合って良かった・・・。)

 全身血まみれでガレキの破片があちらこちらに刺さり、まず生きていないだろうなとその姿を見て思っていたが、必死な返事が返ってきて意図せず妙に気が抜けてしまった。格好をつけてみたが、内心後一歩で小野寺がこの世から消え失せていたのだと考えると冷や汗が出そうになる。巨大ワームは触手を数本切断されてもまだまだ顕然であり、弱っている小野寺を無視して甲高い金切り声を上げながらこちらへ突進してくる。八十メートルほどの巨躯が触手を伸ばしながら迫ってくる様は圧巻であるが、すぐに必殺技を出すことなく冷静に攻撃を見極めながら両手の拳銃で触手と本体を攻撃する。牽制して隙を作るためではない、カメラ写りのするシーンを作るためだ。なお、本人は小野寺のこともありあまり乗り気ではない。

 『よし!良いぞ良いぞ、その調子だ。あと二分ぐらい銃撃しながらワームをズタボロにして、そこから必殺技を放つんだ!』

 インカムからは後藤の無駄に熱の入った指導が嫌ほど鳴り響いて、高揚した気分が駄々下がりしそうになる。そんな彼女の眼前に大きな風切り音と共に迫り来る触手を難なく避け、地面に突き刺さったソレを足場代わりに駆け上がる。散々自分を攻撃してきた得体の知れない物が駆けずり回るのが我慢できないのか、彼女を強引に振り払おうとする勢いを利用して一気にワーム本体へとカナメは肉迫する。その表皮はまるで苔むした岩肌そのものであり、ほのかに伝わってくる体温が生理的嫌悪感を逆撫でする。

 「汚くなるからやりたくはないんだがな。」

 そう言いながらも至近距離から本体へと絶え間なく弾丸を叩き込む。何十発もの弾丸を無数に浴びて無事では済むはずはなく、苦痛によって発せられるもがき声と深く傷ついた傷口から緑の体液が飛び散ちせながら、ついにその巨体が地響きを立てながら地面へと沈む。必死になって起き上がろうとするワームを尻目に見栄え重視でバク転をしながら距離をとると、今度こそ必殺技を放って決着を着けるため対物狙撃銃を現出させる。

 「怪我人がいるのでな、一気に片をつけさせてもらう!!」

 そんな威勢の良いセリフを言いながら魔力を銃に纏わせ、青色に瞬く銃は見るからに『強烈な必殺技を今から放ちますよ!』とアピールする。本当は十秒程で放てるのだが、後藤からそんなあっさり攻撃されると困るから一分ほど時間を掛けてからやってくれと言われている。

 (戦闘よりも演技でストレスが溜まるってどうなんだ・・・。スカートが捲れる度に精神が削れる方が疲れるんだぞ。)

 言葉に出せない愚痴を色々と浮かばせながら腰あたりに銃を構えながらて衝撃に備えていると、ついに後藤から指示が出た。

 『さあ、坂本!一思いに決着を着けてやれ、詠唱も忘れずにな!』

(銃に詠唱も糞もないだろうに)

後藤なりの拘りのある部分らしく、前振りのセリフと言わないで詠唱で固定らしい。カナメにとってはどうでも良いことである。彼女にとって大事なのは如何に中学生が考えたようなセリフを真面目に言い切るかが問題なのだ。


『いいか、世の中には何百人もの魔法少女と比例して数多くの決め台詞やら必殺技の名前が存在するんだ。それぞれに被らないように、必殺技と詠唱を考えなくてはなけないってことだ。トラブルの原因になるからな。』

『じゃあ、安直にビームとかバスターはつけちゃダメなのか?』

『駄目だな、光線系にありがち過ぎてインパクトがない。蹴り技にXXキックとかつけるもの論外だ。有名どころのワザに少しでも被るとネットでバッシングを受ける破目になるぞ。』

『ありがちが駄目なら神話とかから取るのも駄目なのか、対物狙撃銃にグングニルとか意外と格好良いしアリだと思うんだけどな・・・。』

『あと知識もないのにドイツ語とかフランス語とかで決めるなよ。海外に行った事もないのにそんなことすると色々突っ込まれて恥ずかしい思いをするのは坂本なんだぞ。・・・まあ、魔法名の『魔弾』はドイツの民間伝説から決めたんだが、魔力の弾で魔弾だと言い張れば問題なしだろう。』

『技の一つぐらいで決まりごとが多すぎだろう。あれも駄目これも駄目、これじゃあ出動までに決められないぞ。』

『じゃあ、シンプルに漢字一文字で表現するか?こう詠唱の後に技を発動させてから烈!とか天!とか。』

『漢字一文字・・・、『滅ッ!!』アリだな。』

『ん?気に入ったか。時間がないんだ、さっさと詠唱のセリフを決めちまおう。二十パターンぐらい作るから覚悟しておけよ。』

『にじゅう!?おいおい勘弁してくれ・・・。』

『寝落ちするにはまだ早いぞ!さっさと漢字辞典から画数の多い漢字やなんか響きが良さそうな漢字をピックアップするんだ、ハリー!ハリー!!』


・・・

・・・・・・・

・・・・・・・・・・


思い出すだけでおぞましいセリフは考えた、シチュエーションは完璧。アホみたいなセリフを世間に流す恥ずかしさへの覚悟も完了、後は流れに身を任せ言い切るのみ!!


「我等の理から外れた異形よ!蒼の魔力を其の身に焼付けろ!!」


『滅ッ!!』

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