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セイギノヒーロー

 機甲少女隊リーダー、小野寺ミキは五年前に魔法少女になった実力的には青色の上位ほどの人物である。前は極平凡な高校生であった。中流階級の家庭で育ち、苦労も幸福も適度に味わう言わば日本人の想像する一般的な人生そのもの、高校を卒業したら中ほどの大学に進学し中堅どころのサラリーマンになっていたはずである。そんな人生設計を送るだろうと考えていた矢先、彼は強制的に光に満ちた道を外される。人権を無視した強引な勧誘から、本人に意図的にでもYESと言わせる人権尊重型への転換前に勧誘されたこともあり、心構えもなく家族からも世間からも切り離されまるで坂道を転がり落ちるかのように彼の人生は最底辺へと向かっていく。無理矢理魔法少女にされてからも苦難の連続であった。外見も野暮ったい田舎の女子中学生で人気も出ない、覚醒した魔法が『身に付けた装備を丈夫にする』役にも立たず見栄えのしない地味な能力であったことも彼女の不幸に拍車を掛けた。事務所はそんな彼女にまともな装備を買い与える資金もなくやる気もない、軍送りだけは免れた小野寺は業界でドブ攫いと揶揄される地方への営業やニュースで取り扱われることもない小規模な事件解決の小間使いとしての役割しか果たせず、失意のまま沈み行く定めになるんだと小野寺は悲壮に暮れていた。そんな彼女の転機はミリタリーブームの影響により、自衛隊に武器を供給している四星重工との新たな魔法少女の形を創造する企画に参加したことから始まる。魔法少女の強靭な肉体と能力により戦車を強力な形で擬人化させるをコンセプトに設立された機甲少女隊のリーダーに抜擢されたのだ。小野寺は死ぬ物狂いで頑張った、人様に愛されるように男を感じさせる仕草は全て廃したし、いつか男に戻れるかもしれないという心の引っかかりも捨て去った。彼女にはこの企画が失敗すれば後がないことは嫌というほど理解していたし、狂った人生を立て直すという執念がある。そしてその努力は実り、機甲少女隊は一定の地位と人気を集めるまでへと成長したのだ。

 (だから私はこんな所で死ぬわけにはいかないんだ!!!)

 身体をボロボロ疲労困憊で汗が止まらず目が霞む。主砲は拉げ機関銃の弾もなく全身を覆っていた装甲も剥がれ落ちた、残っているのはコスチュームであるセーラー服とローラースケート風の魔力で動かすキャタピラだけだ。進退窮まった絶望的な状況下、彼女は只管に攻撃を避け続けることしか出来ない。赤色や黒色といった上位者は国によって上位治癒魔法を使える魔法少女を宛がうので死亡のリスクは低い、だが下位クラスは死亡と同時に復活することなく見捨てられる捨て駒である。小野寺自身本能に従って逃げ出したいと何度も考える、しかし逃げた瞬間社会的には死んだも同然一生浮かび挙がることなくゴミ溜めの犬畜生と成り下がる。それだけは彼女のプライドが許さなかった。

 (くううううう、身体が大きい分いくらキャタピラの速度を限界まで加速しても避けきれない!)

 歯を食いしばり魔力をキャラピラに送り続けるが、攻撃できない時点で敵の圧倒的有利を崩すことなど出来ない。県の対策本部から東京から応援がこちらへ向かっていると連絡が来たが、その前にこちらが持つかどうかは分からない。大型トラック程の太さの触手も厄介だが、巨体による歩幅の増大が避ける余裕を無くす。武装が壊れ果てた今、キャタピラだけが頼りだった。

 (頼むから持ちこたえて、お願い!)

 しかし人生という物は決して良い方向へとは限らない、彼女の今までの人生のように悪い方向へと運命の女神は舵を切った


 ガチィィィィィィィィィ!!!!!!


 右足のキャタピラから発せられる異音、煙を噴きながら動きを止めるキャタピラ。思わず全身の血の気がなくなるような感覚に支配され、バランスを崩した肉体は反時計回りに錐揉みしながら地面に叩きつけられる。

 「く゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

 勢いをつけて地面に接触し、小野寺の全身は擦れて血まみれで石やコンクリートの破片が刺さり激痛で頭が真っ白になる。人間外の化け物であるワームは生き物としての本能に忠実にであり、動かなくなった小野寺を捕食しようと触手を伸ばす。まるで、糸の切れたマリオネットのように痛みと諦めから精神が折れて抗う気力も小野寺には残されてはいなかった。彼女の走馬灯に浮かぶのは高校生の時の幸せそうな自分と家族の楽しそうな姿。自分が延々と望んできた光景である。

(死ぬ前に幸せな家族の姿を見れて良かった・・・。)

 視界が白くなり、いよいよ最後の瞬間かと思われたそのとき!突如爆音が鳴り響いた!!


キ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛! ! ! !


 巨躯を震わせて鳴り響くワームの絶叫。そして無数に弾ける巨大ワームの触手、次々と青く光り輝く光弾にあんなに砲撃を加えても爆砕できなかった触手が切断されていく。そんな光景を漠然とした面持ちで見ていると、大声でこちらに呼びかけて近づいてくる人影が見えた。

「大丈夫か、機甲少女隊の小野寺ミキだな!?魔法省から応援として送られてきた魔弾のカナメ、只今推参した!!」

 その魔法少女は黒い軍服に身を包んだ耳の長い女性であった。両手の拳銃を魔力光で光らせながら嵐のように弾丸を浴びせ続けるその勇ましい姿に、小野寺は涙が止まらなかった。希望はやってきた!やってきたのだと!!

「私は動けそうにありません!お願いします、あの化け物をやっつけてください!」

 残る力を振り絞って大声を張り訴える。目の前の魔法少女は一瞬キョトンとした表情を作るが、すぐに不敵な笑みを浮かべながら自信満々そうに小野寺に短く言い返した。


「了解!!」

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