後藤の疑問
「坂本、西の方角に新たに二十匹だ。直ちにこの世からご退場させてやれ、やつらも飛びっきりの美人相手に本望だろう。それと、Cクラス両方の雑魚が犬死したぞ。裁く量が一気にひれるだろうが、公民館以外の市民は全滅したんだ。気にせず全力出して良いぞ。」
『西だな、了解ィ!』
地上で殲滅戦が展開されているのと同時刻、小月市上空のヘリコプターでは後藤がカメラを構えながら地上に指示を出していた。後藤の魔法は撮影圏内であれば例え地下であろうが関係なく撮影することが出来る偵察にも使える便利な能力である。その正確な情報収集能力により、カナメは縦横無尽に戦場を駆け巡ることが可能なのだ。ちなみに音声はカメラとインカム両方から記録している。
「カメラマンの旦那、地上の様子はどうなんだ。俺にも教えてくれ、気になってしょうがねえ。」
結界が再度封鎖された現状、小月市の周囲を唯回っているのに痺れを切らしたのかパイロットが後藤に話しかけてくる。
「スゲーぞ、まるで青色の花火を地上で炸裂させたみたいだとしか言いようがない。怪物共も一分に四体処理してやがる。やっぱ、ルーキーの範疇じゃねえ。お偉いさんが過程をすっ飛ばして黒認定されただけある。今の時点で動きが基地外染みているのもあるが、あいつ全然余裕だ。魅せプレイ重視で服に体液一つ付いちゃいねえ。」
巨躯の化け物からの触手攻撃を物ともせず、格好良さのため無駄なポーズや攻撃を薄皮一枚で避けてみせたりとハリウッドのスタントマン顔負けの演技を披露している。本人も愚痴を言う割にはこの手の遣り取りは大好きらしく、口元が笑っているのがカメラ越しに確認できる。
「それって凄いのか?自衛隊からこっちに来て二年目だが、俗に人外認定される黒色連中やAクラスのやつらの戦闘風景を直接見たことないんだよ。テレビとかだと編集されちまってよ。」
「そうだな、今回だと公民館で防衛している機甲少女隊。戦車のパーツをセーラー服の少女に装備したら?っていうコンセプトのBクラスの三人組連中で、戦力的に一人当たり90式戦車一台と仮定したとしよう。ワーム十体倒すのにどのくらい掛かると思う?」
後藤の問いにパイロットは自分の経験から答える。
「90式戦車一台が三人とすると・・・、Bクラスという点を差し引いてもさっきのエルフと同じくらいじゃないのか。」
「なかなか現実的な数値だな。ま、実際その通りだが坂本のヤツ本気じゃなく思いっきり手加減してその数値なんだぞ?ぶっちゃけ、ヘリからの一方的な射撃で済ますことも出来ちゃうからヤツらは化け物だよ。いや、ヤツら『も』か。」
実際にその光景を見た者だけに判る世界だ。実力のない魔法少女は一流と証される連中の戦闘を直接見るだけで心が折れると言われるほど明確で深い歴然とした差が広がっている。後藤はそれを仕事だけではなく、肉親を通じても充分理解していた。
「おっかないおっかない。・・・しかし、この小月市。以前はワイドショーなんかで取り上げられてましたけど、化け物に住む場所を奪われちゃあ政府の提案を丸呑みするしかなさそうですね。」
パイロットは話題を急に変えてきた。しかし、パイロットの言葉通り地上は荒れ果てもはや人の住む地では無くなっている。後藤も今回の事件の背景には政府の暗躍が確かに存在すると思ってはいる。が、それは自分には関係のないことだとも理解している。ヤブを突くことは死を意味する世界だ、後藤は十二分に立場を弁えていた。
「まあ最低限、保証金も出るだろう。市民の安全を守れなかったのも市長の無能が招いた責任だしな。公民館なんかに避難させなきゃ死人も出なかったろうに・・・。」
そこまで言いかけてふと、頭の中に疑問が浮かぶ。
(小月市は政府との過激な闘争で有名なった、ってことは市民もこの状況下でも無力な存在なのか?)
後藤の脳裏に司令室での猟銃を持った老人が思い浮かんでくる。つまり、公民館の市民も武装しているのではと。
(考えすぎだ、自分達の安全を守ってくれる存在に対して発砲するヤツなんているわけがないだろう。)
余計なことを考えてしまったと思い、カメラに意識をより集中させ後藤は自分の世界へと没入していく。その考え自体を無かったことにする為に。そしてこうも思う、何か起きたとしても自分は歯車に徹しようと。




