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無茶な命令、無茶な要求

「つまり、民間人の保護はある程度の安全を確保すれば大丈夫なんだな。」

『ええ、その認識で構いません。我々としてみても既に機甲少女隊以外の戦力が壊滅しつつある現状、一々市民を避難場所に連れて行かせる命令を出すわけにはいきません。なので周囲にワームを発見できなければそのまま次の指示を待ってください。』

 寒空の中、漆黒の暗闇の空を箒ではなく輸送用ヘリコプターに乗った魔法少女が西へと飛んでいく。魔法を冠していながら非幻想的な現代的移動方法であった。ヘリコプターのキャビンに設置されているトループシートに腰掛けながら通信端末越しに会話をしているのはカナメと小早川である。通信相手が小早川だったことに訝しげな顔になるが、小早川が言うには古田は別件で出払っているらしい。深く追求する話題でもなく、カナメは自らの仕事内容の疑問を尋ね続ける。多少のイラつきを込めて。

 「言っては何だが魔法省は本気で事態の収拾に努めているのか?事件発生の開始早々にDランクとはいえ一グループ壊滅して、現在進行形でCランクのグループもボロボロで風前の灯。こんな様じゃ、無能を疑われてもしょうがないぞ。」

 『色々不満や抱えているようですが、こちらにはこちらの事情があります。外部の人間である貴方には検索する必要の無いことです。ご理解いたしましたか、坂本様?』

 「ん?無能といわれて逆上したか。こっちは義務や命令やらで強制的に戦場に連れて行かされるんだぞ、不備を晒しているほうが悪いだろうに。理解したかな?」

 『なんですって!?取り消しなさいこのクサれエルフ!一々ズブのシロウトが口を出すな!!』

「おお、怖い怖い。だが、こんな駆け出しのひよっこエルフに頼み込んだのは魔法省だぞ?文句を言われる筋合いはないな。」

 『私だって上の「おいお前ら、ヒートアップするのも大概にしろ!」すみません・・・。』

 過熱する口論にさすがの後藤も怒鳴った。

 「あー、すまない後藤さん。少し悪化し続ける現地の現状に遣り切れなくてな。口に出てしまったんだ。」

 「その気持ちを馬鹿にするわけじゃあないが、必要な情報のみをお互い交わしやがれ。まあ、俺も今回の件については故意的な部分を感じるがな。それよりも目的地が見えてきたぞ、伊達メガネを外してインカムを着けろ。」

 窓の外から覗きみる小月市はオレンジ色に発光するドーム状の結界に覆われていた。殺し合いに赴く状況さえ違えばこの幻想的で摩訶不思議な光景を楽しめただろう。

 『現在小月市は複数人の魔法少女による結界に覆われていますが、無限に張れるというわけでは有りません。精々あと二時間ほどでしょう。坂本様にはドーム上層部の結界のみを解除いたしますので、そこから進入してもらいます。着地した後は約百二十体ワームの全駆除に専念してください。南西部にある公民館はまだ防衛出来ていますので、支持があるまで向かわなくても構いません。』

 「上層部からか・・・。所でパラシュートが見当たらないようだがヘリで着陸すんだろう、ヘリの着地ポイントはどこなんだ?」

 『着陸?いえ、坂本様には後部ハッチから飛び降りて貰います。』

 「・・・冗談ではないよな。」

 魔法少女の身体が幾ら丈夫だとしても、高高度から飛び降りたら確実に挽肉になるだろうことは容易に想像できる。最も、鬼島等の肉体強化のスペシャリストなら別だが。

 『大丈夫です、こちらの予測では多少の傷を負うだけで着地自体には成功できるとされています。』

 「なんだその予測は!無茶で道理が引っ込むと本気で考えているのか!?」

 『銃撃で勢いを殺すとかワームを利用するとかあるじゃないですか。手段はあるでしょ?あ、それと今情報が入りましたがCランクの両グループの壊滅が確認されました。でも安心してください、有益な情報が入りました。何でも、ワームは強力な魔法の行使に反応するようです。』

「さっきのあてつけにしては洒落が効きすぎだぞ!後藤さんも何か言ってくれ!」

 そう言って後藤の方を振り向くが、満面の笑みを浮かべながらカメラをスタンバイしてカナメの方へ向けている。・・・まさか。

「おいおい、最高のシチュエーションじゃあないかよ!坂本、ヘリのパイロットとの会話シーンから撮影に入るからよろしくな。ちゃんと打ち合わせ通りに頼むぞ。あ、それと後部ハッチから飛び降りる際は水泳の飛込みみたいにクルクル回ってくれ。」

 「・・・聞いた私が馬鹿だったよ。」

 無茶な命令、無茶な状況、無茶な環境。正気の沙汰ではない狂気を受け入れなければならない。その気苦労をため息にして吐き出す。彼らにとってしてみれば自分をどんなことでも出来るスーパーマンだとでも考えているのだろうか?やれと言われたらやるしかない、ここで反抗なぞ出来ることは万が一にも有り得ない。なぜなら、連中にとってしてみればいくらでもこちらが想定していないであろうカードを幾らでも切ることが可能なのだから。今自分に出来るのは、全力で無茶を成功させてやることだけだ。そう心の中で決意し、カナメは気合を入れる。但し、生死の賭け事だけではなくムービースターの仕事も熟なさなければと考えるとその気合も薄まりそうな気がした。


 「おい坂本、表は強風だが軍帽外さなくていいのか?」

 「ああ、特殊な作りで意図的に魔力を流していると飛ばないから大丈夫だ。・・・そもそも注意する部分が違うだろ、何かアドバイスないのか。」

 「ない!映画の通りにやれば全てが上手くいくはずだ!」

 「自信満々でよく言えるな。ヘリコプターに乗らされるって判っているならなんでリーサルウェポン全シリーズを上映したんだ。意味無いだろうに。」

 「俺の趣味だ、気にすることは無い。」

 「ハッチから叩き落としてやろうか!?」

 後藤の滅茶苦茶な教え方のせいで無駄な時間を消費させられて窮地に立たされるのだ。カナメの怒りは正当な物だが、余計意味の無い時間をさらに加速させてあっという間に目的地の目の前に到着してしまう。

 「あと五分ほどで目標地点へ到達します。お二人さんスタンバイOKですか?」

パイロットが忠告し、ピタリと二人は言い争いをやめた。両者自分の仕事に対して分別のつくタイプのだ、すぐに平常心になれる。

 「じゃあ、当初の打ち合わせ通りにシートに座って集中している所にパイロットが話しかけるシーンから撮影するぞ。お前は初出動だというのに既に戦士の風格が出来ているっという設定でな。ハッチが開いたら通り名を言ってくれよ。」

 「で、ハッチから降りたら適当に回ってからワームが視認出来次第、遠くから狙いをつけて拳銃を連射して勢いを殺してスタイリッシュに着地すると。正直飛び降りる時点で頭が可笑しいんだが、やるしかないならやってやるよ。死んだら恨むがな。」

恨み口は口からぐだぐだと出てくるが、死ぬこと事態については日常風景じみた環境に置かれた経験からあまり抵抗感は無い。ただ、あまりに理不尽で馬鹿馬鹿しいシチュエーションで何も出来ずに死ぬのがかなり嫌なだけだ。

 「ここまできて減らず口がでるなら上出来だ。さて、撮影開始だ。準備は言いか?パイロットもだぞ!カウント行くぞ!5、4,3,2,1アクション!」

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