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素敵なカメラマン

「うぃーす、お呼びっすか室長。」

 小早川が連れて来た人物は一言で表すならガテン系の女性である。黒色のツナギに後ろ向きに被った野球帽、街中で会えば職業は自動車修理工ですか?と誰しもが思うだろう。女性はツギのポケットから手を出さずに、面倒くさそうにしている。

 「こりゃ、ダメじゃなでしゅかだらしなくしちゃ。」

 「わりぃわりぃ、ちょっと徹夜で新人さんの情報に目を通して戦闘シーンの撮影イメージを練ったんだ。別にサボってた訳じゃあないんだぜ、ホントだぞ!」

 女性は慌てて身振り手振りで弁明している。しかし、カナメの耳には気になった単語があった。

 (撮影イメージだと?)

 ニュースで流れる魔法少女の戦闘シーンをカナメは何度も見たことがある。中々に危険な場所や状況でも良く撮れているなとは感じていたが、魔法少女の専門のスタッフが居たとすると納得のいく話である。

 「はあ~、しょうがない人でしゅね。サカモトしゃん、この人が生物災害対策室撮影編集部主任の後藤雅紀ごとうまさきでしゅ。」

 「おう!お前が脅威の新人か。後藤だ、今後ともよろしくな!」

 「あ、ああ、坂本カナメだ。よろしくお願いする。」

 笑いながらカナメの椅子をバンバン叩く後藤に対して、細かいことは気にしない親分タイプの人間だと思った。

 「さてさて、坂本。お前のことは訓練センターから送られてきたビデオで、どの位戦闘出来るか理解したつもりだ。その上で、イキナリ黒色に認定されて戸惑っているお前を実戦に投入したとしよう。・・・どうなると思う?」

 難しい質問である。カナメにとっては命がけの戦闘とは鬼島との一ヶ月間の殺し合いのみだ。一般的な魔法少女の戦闘を間近で見たことがないので、自分を計る物差しが無い。カナメは無難な返答をした。

 「少なくとも負けることは思う。」

 「そうだ、私もお前は余程の事がない限り負けないと断言できる。今回の事案だって、俺は楽勝に解決できるだろうと予測している。」

 腰に手を当て、自信満々で後藤は言い切る。

 「買いかぶりすぎだ、私は実戦すらまともに経験していないんだぞ。」

 「いーや、それは間違いだぞ。ぶっちゃけると、大半の黒認定された連中と同じようにしか見えん。ヤツら殆どの化け物どもを一発も攻撃を受けないで一撃でぶち殺すんだぞ?お前も充分資格はあるし、逆にそれがデメリットになっている。」

 魔法少女に人外認定されるのもアレだが、戦闘に置いてデメリットになるのかとカナメは疑問に思う。

 「デメリットだと?少なくとも被害を出さずに解決できるのだから、むしろメリットなんじゃないのか?」

 「それは道義的な立場での考え方だ。商業的、社会的に考えると別の意味になる事だってあるんだぞ。・・・お前怪獣映画で主人公が開始三分で事件解決したらどう思う?」

 「どう思うって、それは映画として成立してないだろう。」

 「そう成立しない、正直ガッカリする。そして思うだろう、怪獣よりも主人公の方が化け物じみているのだとな。俺達は国民の安全を守るために活動しているが、その守るべき国民はほぼ全ての事件において幾ら死んでも蘇生手段が山ほどあって死亡者数ゼロだし、建物だって三週間もすりゃあ元に元通り補助金も出る。で、あるならばだ。俺の仕事はそんな主人公を化け物にしないで誰もが羨むムービースターにするってことだ。」

 後藤はそこまで言い切ると何も無い両手に。テレビ局で使われている業務用のビデオカメラを生み出した。

 「これが俺の魔法、このビデオカメラの撮影圏内5キロにある撮影対象を様々なアングルで実際にその場所で撮影したかのように編集も出来る、題して『素敵なカメラマン』だ。どうだ!カッコイイネーミングセンスだろう!」

 「(悪いだろう)最高じゃないか、まさに魔法を的確に体現した素晴らしい名前だ。」

 後藤の役割は理解した。魔法も理解した。だが、ネーミングセンスだけは理解できなかった。

 「後藤しゃんは、撮影したムービーを放送局や新聞社に提供する重要な役割を担っているのでしゅ。サカモトしゃんも今回の事件が比較的楽であると判断されても、その場合には戦闘の動作について後藤しゃんの注意があるので気を抜かないでくだしゃいね。」

 「どちらの場合でも進退が掛かっているんだ、気を抜くなんて有り得ないな。」

 カナメは三人にはにかんで見せるが、内心ついに公共の放送でデビューするのかと少しばかり緊張していた。戦闘に対する不安は実は微塵も感じていない無い。


 話し合いも終わり席を立ってどこかで銃の補充場所でも聞こうかなと考えた矢先、後藤が話しかけてきた。

 「坂本、お前一つ聞くが魔法にこう、何て言うか中二臭い命名をしたり格好良いポージングを鏡の前でとったりしたことはあるか?」

 「イキナリ何を言い出すんだ、有る訳無いだろう。」

 戦闘準備してようやく一息つこうかと予定を組んでいた時に、面倒くさそうな話を持ちかけられてカナメイラっとしてぶっきらぼうに答える。

 「そいつはダメだ!例え相手が雑魚でも疾走感と苦難に打ち勝つ魔法少女像を視聴者は求めているんだ。そのような心構えでは人気は出ない、さあ俺と一緒に打ち合わせを始めるぞ!」

 「おい、訓練センターからぶっ通しで来ているんだ。銃器の補充をしてさっさと寝たいんだ、休ませてくれ。」

 「いかんなそれでは、この調子でほっといたら機械みたいに淡々と処理するキリングマシーンだ。この俺が徹底的に指導してやる、さあ来るんだ!」

 強引に右手を掴んで連行しようとする後藤に、さすがのカナメも本気で抵抗しようと考える。

 「いい加減に「オラッ!!」うぐぅ・・・。」

 不意に鳩尾に強烈な全力攻撃を受けてカナメは蹲る。それを尻目に、後藤は悠々と省内でカナメを引きずり回して不眠不休の講習会に参加されるのであった。

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