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拳銃式圧迫面接

 坂本が根室の事務所へ向かったのは三日後のことだった。坂本にはやるべきことが多々あり、根室へも電話で事前に連絡を入れて了承を得ている。長年働いていたコンビニに辞表を提出に行ったり、学生時代の借金をあの札束で返還するなどして身の回りを整理する時間が坂本には欲しかったのだ。ただ、警察や郷里の母親に連絡を入れることだけは決して行わなかった。周囲にどのようなことが及ぶか判らないのもあるが、郷里の母親に迷惑をこれ以上は掛けたくはないと考えているからだ。彼には小さく皺くちゃになっても働き続けている母親がいる。就職に失敗した時点で、一人暮らしで家を離れる際の彼に向けた哀憫に満ちた表情をこれ以上曇らせないという決意すれ守れなかった落ち目がある。また、今更顔を合わせることもこうなってしまっては出来ず、余った札束を現金書留で送ることぐらいしか出来なかった。只只自身への失望感と不甲斐なさだけが、坂本の頭の中でグルグルと渦巻き続けていたが、やるべきことは決めていた。


 根室の事務所は坂本が普段使う駅から二駅先にある。そこから北側に伸びる大通りを五分ほど進み、右に曲がった路地に目的地の雑居ビルが存在していた。一階は喫茶店のようでいい香りが表に居る坂本にも届いてきている。肝心の事務所は二階程の高さに根室魔法芸能事務所と書かれた看板がビルの外側に掛けてあり、根室はそこで坂本を待っているのだろう。坂本は雑居ビルの階段を登り、事務所の扉の前で前で立ち止まった。そして、深呼吸をして気持ちを落ち着かせ冷静になると、チャイムを力強く押し込んだ。

 「すいません、坂本です根室さんいらっしゃいますか?」

 そう呼びかけるとすぐに事務所の扉が開いた。

 「お待たせしました坂本さん。どうぞお入りください。」

 根室はコンビニのときとは違い、茶色のシャツに紐ネクタイといった以前の間違ったサラリーマン風の格好とは違った普通の服装である。あの「坂本さま」も「坂本さん」となっている事から、あのワザとらしい仕草も演技だったのかと坂本はすぐに確信した。だが、それならなぜあの重そうな機械まで持ち出したのだろう。それだけが疑問だったが、すぐに判ることだろう。そう考えながら、坂本は事務所の中へと入って行った。

 

 事務所内は殺風景であった。応接用のソファーやテーブル、窓際に根室の職務用の仕事机が見えるのだが、未開封のダンボールが幾つも隅に置かれたり、書類を入れているらしい棚が半分以上空いていたりと、肝心の他の職員の姿や痕跡が感じられないのだ。もしかしたら、元々居ないのかもしれない。

 「まだ、この事務所を設立してから一ヶ月程なのであちらこちらが散らかっているんですよ。」

そう言いながら根室は事務所の扉の鍵を閉めて、坂本にソファーに座るように促してきた。どうやら逃げることは許さないと警告をしているのだ。どちらにしろ、逆らうことなど考えていなかったので坂本はソファーに腰掛けた。

 「いや、すみませんね坂本さん。」

坂本がソファーに腰掛けた事を確認してから、根室はゆっくりとした動作で正面に腰掛けた。坂本が表情を窺うとただ微笑んでいるだけであるが、逆に何を切り出してくるか予測できない怖さがそこから読み取れる。

 「で、根室さん。いったい何を私にやらせたいんですか?実はヤクザで対抗組織の鉄砲玉として雇いたいってわけじゃないですよね。」

 「ははは、それはないですよ。ですが、これはある意味で国家規模の頼みごとなのです。最初に言っておきますが、断るといった選択肢はありません。絶対に受けてもらいます。」

 「それでもと言ったら?」

 「こうですよ」

 すると、根室は目の前にあるテーブルの下から拳銃を取り出して坂本に突きつけてきた。

 「ちなみに弾は別物ですが、あなたの行動力を奪うぐらいなら出来ますよ。やってみますか?」

 「遠慮しますよ。しかし、行動だけ見ますとやはりヤクザですね、Vシネのコテコテやつ思い出しましたよ。」

 そう返すと根室は苦笑しながら拳銃を下ろし、坂本を見据えるように言った。

 「やっぱり似合ってないですか、一応支給はされたので脅しで使ってみたんです。銃なんて発砲したことすらないですよ。ただし、あなたの選択しだいですぐにでも引き金は引けますが。」

 「私だって、本当は怖かったですよ。しかし、ここまできて逃げ出すことなんてことやりたくないんですよ。」

 そう、坂本は強がってはいるが拳銃をいきなり突きつけられて臆しないわけがない。ただのやけくそであるが、意地でもある。

 「なるほど、立派な人だ。あなた、いえ坂本さんなら今後も良い人間関係を築けそうな感じがいたしますよ。」

 「では改めてお尋ねしますが、根室さんは何を私にやらせたいんですか?」

 「魔法少女ですよ」

 「は?」

 「ですから魔法少女ですよ、聞いたことありませんか?魔法少女に対して尋ねてはいけないことと。これが理由ですよ、国家ぐるみで男性を詐欺やら拉致やらで勧誘して魔法少女にしていますなんて口が裂けても言える訳ないんですよ。驚きましたか?しかし、事実です坂本さんには魔法少女になってもらいます。」

 「いや、男性の私が魔法関係の仕事に誘われる時点で何となく予想はしてますが、こう直接言われるとギョッとしますね。」

 「やっぱり予想はついちゃいますよね、あそこまで露骨に馬鹿騒ぎを起こしたら。しかし、坂本さんが類まれな才能を持っているからこその演技ですよ。あそこで、イエスを貰わなければどこかが強制的に拉致してましたよ。一定以上の魔力量の持ち主は、発見しだい役所に報告しなければなりませんからね。」

 「幸運なんですかね、一応」

 「幸運ですよ。少なくとも大手の事務所なら本職以上のヤバさですよ、酷いらしいですから色々と。ちなみに、私はあんな勧誘の仕方でも専門のマニュアル通りなんですよ。」

 「そんなのまであるんですか?何というか、魔法少女云々よりそっちのほうが衝撃的ですよ。アレでマニュアル通りだなんて想像出来ませんって。」

 「でも、実際に来てくれたのですからマニュアルだって馬鹿に出来ませんよ。それよりどうです?そろそろ昼食時ですし一階で食事でもしませんか。」

 腕時計を確認するとちょうど十二時を過ぎたところだった。しかし、坂本には根室がなぜ坂本にあたかも逃げ出しやすそうな提案をするのか理解が追いつかない。

 「私が逃げるとは思わないんですか?」

 「大丈夫ですよ、逃げたとして私が損をするだけですぐに回収されますから。ほら、外に居ますよ。」

 坂本は確認のため窓から外を覗き込んでると、確かに獲物を狩るハンターのように事務所を見ている人物が数人確認できる。本当のようだ。その様子を見ていた根室が面白そうにしていて少しイラっとした。

 

「ちなみに、ハヤシライスがオススメなんですよ。まあ、食事の時ぐらいリラックスしましょう。」

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