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お役所仕事

 北海道を除く東日本全域における魔法少女に対する怪獣処理の指令は、魔法省三階に存在する生物災害対策室から下される。また、日々空間の揺らぎを観測しその災害規模予測から人員配置を決定する権限を有するもの生物災害対策室だ。兎も角、生物災害対策室に黒色レベルの魔法少女が直接呼ばれるということはそれだけ危機的状況であったはずだ。そう、だったはずだった。


 「つまりだな、まだ予測であって怪獣は出現していないんだな?」

 机に頬杖をつきながらカナメは不機嫌そうにしていた。カナメの中では到着してすぐ実戦へと送られるかと考えていた。オペレーターの言い方を考えれば妥当な判断である。だが、いざ対策室に着いたら緊迫感と懸け離れたその辺の市役所の業務風景のような雰囲気で面食らったのだ。違和感を感じながらも会議室へ通されたカナメを待ち受けていたのは、まさかの連絡ミスという最悪のお役所仕事であった。あまりの馬鹿馬鹿しさに、腹に堪っていた怒りはどこへやらである。

 「出現はしていないだけです。それとも何です、そっちの方が良かったと?」

 カナメと対面しているのは、副室長を名乗る小早川というイカにもなキャリアウーマン風の女である。この会議室で室長とやらを待たされているカナメは、暇つぶしとストレスの発散のため小早川をからかっていた。

 「凄い言い草だな、そのいかにも出来る女のアピールは外面だけか。だとしたらお国の役人様も落ちぶれたものだな。」

 「口を慎みなさい、末端のオペレーターの言動まで監視出来る訳ないでしょう。少し、考えれば理解出来ることを言わなくちゃいけないの?いい年した大人に。」

 「そうかそうか。で、室長はまだなのか。まさか迷子という訳あるまいな、いい年した大人がだ。」

 「なんですって!室長は確かにお子様体型ですが、迷子な訳ないでしょう!」

 「言われても本人が居ないんじゃ、確認のしようがないな。残念だ、残念だ。」

 いよいよ小早川がヒートアップしてきた丁度その時、会議室の扉が開いた。ちらりと、目線を向けると思わず目を疑った。本当にお子様が来たと。

 「はわわ、お、おそくなっちゃいました~。小早川しゃんごめんなしゃい。」

 「し、室長!もちろんです、何も問題ありません。丁度会議室に来たところなんです!」

 ぺこぺこと頭を下げる先にいるのは幼稚園児である。そう幼稚園児である。水色の園児服に黄色の帽子のフルセット、今まで非常識な世界に慣れてきたと思っていたカナメでも思わず目眩がする。

 「あー、なぜ幼稚園児が?」

 「失礼な!どこからどう見ても我が魔法省生物災害対策室室長である、古田愛ふるたあいその人ではないですか。」

 (見えないから聞いているんだろうが!)

 ため息を吐き、頬に当てていた左手を額に当て直す。振り返れば秋葉原でも訓練センターでもロリに苦渋を飲まされたが、まさか幼稚園児という高度なプレイを見せ付けられるとは夢にも思わないだろう。

 「え~と、坂本カナメしゃんですね。はじめまして古田愛ともうしましゅ。ぶかがごめいわくをおかけしましゅた。」

 「あ、ああ。こちらこそよろしくお願いする。」

 椅子に足を宙ぶらりんにして座っている古田は、舌足らずな喋り方と外見を除けばすごくまともな人物であった。束縛変態プレイヤーのなかじまくんと肩を並べる上級者過ぎる格好を除けばだが。

 「では、室長に代わって詳しい説明は私、小早川鈴音こばやかわすずねが行います。まずは、このレジメをご覧ください。」

 元の堅物キャラに戻った小早川から手渡されたのは、山梨県小月市における災害予測と書かれた三枚ほどの薄い冊子である。

 「最初に言いますが、質問は最後のほうで受け付けますから話しだけはしっかりと聞いてください。まず、レジメの二ページにある当案件の概要をご覧ください。山梨県小月市では三ヶ月ほど前から小規模的に次元の揺れが観測されていましたが、この二週間ほどで揺らぎの規模は急速に増大。魔法省は直ちに山梨県と契約している事務所に連絡を入れました。しかし、小月市市長が自らが地域振興目的で契約した事務所のグループである、ランクDの六人組、グレープガールズのみで解決できるとして受け入れを拒否。以後、山梨県が契約しているランクBの三人組、機甲少女隊を予備人員として配置していましたが、魔法省は不足の事態による被害の拡大に対処できないと判断。黒色クラスの魔法少女の動員を決定いたしました。次に三ページを開いてください。」

 三ページ目を開くと、今度は動員の理由についてと書かれている。

 「さて、ここからが重要です。今回坂本様が動員された目的ですが、当初別の魔法少女が事態解決に当たる予定でした。しかし、二日ほど前の長野県での災害に巻き込まれ入院中となり、急遽黒色クラスの魔法少女が必要となりましたが人員は全て職務についています。なので、魔法省上層部は代案として訓練を終えたばかりの坂本様を招集いたしました。」

 説明を聞かされても、信用なんて出来るわけがない。それならば、赤色を複数人廻せばいい話である。

 「最後になりますが、作戦目標と当日の指示についてです。坂本様には災害発生時まで、この魔法省で待機して頂きます。発生後は先発隊の様子を分析し、ブリーフィングを行います。また、生物災害対策室から現場へのの指示は、基本的にあとで配布されるインカムによって魔法少女に下されます。なので、当日のブリーフィング後に不測の事態が現場で発生した場合は勝手なことをしないでください。また、作戦行動の終了は全目標の全滅をもって完了と致します。以上で終わりですが何かご質問があれば?」

 「なぜ実戦経験の無い私が選ばれたんだ、言っては何だが赤色クラスを複数向かわせれば良いのではないか?」

 「それは出来ませんし、我々では判断を決められないんです。本来、黒色とは一国の軍隊に匹敵するほどの戦力であると認められた証。赤色とは比べ物と成らず、その人事決定権は上の意図が強く反映されます。いくら我々が現場の指揮権を握っているからといって、別格である黒色を動かすというのは決められないんです。」

 「つまり、私が黒色認定された理由も知らないと。」

 「残念ながら。」

 聞けば聞くほど、魔法省のやらせたい事が見えてこない。確かに、拳銃一発でもビルを倒壊させようと思えば出来るほどの実力はカナメに有る。だからと言って、ここまで本人に不信感を抱かせるほどの大胆な行動をなぜ取るか?考えるだけで答えの出ない不愉快さにカナメは気が滅入る。

 「ここまで仕出かして、私が実力行使で訴えないとは思わなかったのか?誰だって怒るだろう、こんな陰謀めいたことされては。」

 今度は顔をしかめて怒気を表す。小早川はカナメから急激に発せられる威圧感にたじろぎながらも答えようとする。

 「そ、それにつ「わたしが説明いたしましゅ!」室長・・・。」

 小早川に代わって答えたのは、静観していた古田である。小さい体でありながらも震え一つなく視線を真っ直ぐに向けるその姿は、紛れもなく組織を纏めるに相応しい人物であった。

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