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日常への帰還と非日常への発端

人は睡眠状態から目覚める際に、どのような事を考えるか。ほとんどの一般人は体を動かそうと考える、状況を把握するための人体の本能だ。では、その状態で全力の力で動くことは出来るかといえば否である。寝起きの脳が充分に活動をすることが出来ないためだが、世の中には例外的に覚醒した瞬間から全力を出せる人種が居る。例えば、軍人は日常的に危機感を抱いているので、脳の仕組みが変化し叩き起こされても即座に行動に移せるのだ。それは先ほどまで倒れていたカナメも同じようなモノで、幾ら気を失ったとしても目覚めた瞬間体中の神経を戦闘用に切り替えることは十分可能である。また、彼女の場合繰り返されてきた殺し合いの中で自然と培った技能である、ということは・・・。


『目が覚めた』

 この事を微かに感じる光で理解したカナメは、瞬時に戦闘態勢となり両手に拳銃を現出させ敵の位置と状況を確認する。目覚めた場所は、訓練用の大ホールではなくトレーナールームのソファーの上であった。千切れた右腕も元に戻っており、気を失ってからこちらに移されたらしい。周囲には鬼島となかじまくんは居ない、どうやら席を外しているようだ。

(なら、警戒する必要はないな)

 そう考えると途端に大きなため息を吐いき、自然と口元がにやけてしまう。カナメは自分自身の人生経験の中で取り立てて熱心に何かを打ち込んだという記憶がない、スポーツや勉学を必死になっても努力するだけ無駄と捉える人間であったからだ。暴力に満ちたピリピリとした日常から開放され肩の荷が下りたのもあるが、カナメにとってある種の今までに経験したことのない幸福感と達成感が身を包んでいるのからだ。

 (、とこんなことをしている場合じゃないな、少しで歩いて二人を探してみるか?)

 ソファーから飛び降り、部屋を出ようとすると丁度鬼島となかじまくんの二人組みが入室してきた。

 「おお、目覚めおったか。気分はどうじゃ?」

 「ン゛ン゛~!ンンンンンン。」

 なかじまくんの方はいつも通りの変態ルックスの通常運転であり、鬼島の方は初対面の時と同じ赤い和服の格好だ。ただ、鬼島のほうが大きな封筒を脇に抱えているのがカナメには気になった。

 「ええ、お蔭様で鬼島きょ、いや師匠。」

 「アレだけの仕打ちを受けて師匠と呼ぶとは、中々太いヤツじゃな。」

 「ンムムムムム。」

 「なかじまくんもそう思うか、いや愉快愉快。あんまりこの訓練に耐え切れるヤツが居なくての、正気を保っているだけでも上出来なのだぞ。」

 「・・・まあ、そういうものでしょうね。」

 数百回も殺された上で、なおかつ地獄の責め苦を味合わされるのだ。正気を保っていられるのも、実は狂気的な人間性の持ち主の証明なのかもしれないとカナメを思った。

 「この訓練はアレじゃ、戦場で如何にして従来の人間的な感覚と精神性を捨てるかを重点的に置いている。じゃから、おぬしの様な成功例は他の魔法少女と一線を超えた存在として重宝されるのだ。良かったの!」

 「実際にやらされる本人としては堪ったものではないですがね。」

 「そう捻くれるな、これから任命式を行うというのに。」

 「何のだ?」

 「魔法少女のじゃ、まあ簡略式になるがの。ほれ、シャキッと背筋を伸ばして服装を整えろ。」

 言われて軍帽やネクタイの位置を整え、気をつけの姿勢になる。

(しかし、何とも嫌なメンツとシチュエーションの任命式だな。)

 自分でも下らない事を考えているなと思いながら、鬼島が封書から封書を取り出すのを待った。

 「おっほん、それではこれから任命式を執り行う。坂本カナメ殿、この度我が魔法省は貴殿を魔法管理法第二十九条に基づき正式に魔法少女として承認し、その能力から貴殿を・・・ちょっと待て。」

 突如鬼島が驚愕した面持ちで、書面を睨みつける。そして、隣に居たなかじまくんと共に部屋の外へと出ていった。時間にして一分足らずで戻っては来たが、カナメにとってしてみれば嫌な事態がまたもや発生したのかと憂鬱な気分に陥る。

 「なにがあっ「気にするな、事例の少ないことだったのでな。なかじまくんと相談していたのだ。」・・・そうか。」

 質問は受け付けない意思が込められた言葉で、カナメは深く探索はしないことにした。したとしても返答は無いだろう。

 「どたばたしたが、続きを始めるぞ。その能力から貴殿を魔法少女として最上位の証である黒色の証明カードと共に任命する。 平成2X年2月X日 魔法省大臣 細川願慈」

 言い切ると鬼島は任命書と、小さな封書、そしてスマートフォンらしき機械の書かれた箱を強引に手渡してきた。

 「その封書にはおぬしの魔法少女としての証明書であるカードが入っている、絶対に無くすな。あと、そのスマートフォンもだ。魔法省からの出動命令は全てその端末で指示されるからの。」

 カナメはそれらを受け取ったが、中身をすぐには確認しようとはしなかった。それよりも鬼島に聞かねばならないことがあったからだ。

 「鬼島師匠一つだけ答えてくれ、私は今後どう扱われるのだ。」

 鬼島は答えなかった。只管に思いつめたような表情でこちらを見つめるだけだ。カナメはこの一ヶ月の経験から悟った、つまり言いたくても言えないのだと。

 「・・・判りました。それでは一ヶ月間お世話になりました。」

 軍帽を取り、頭を下げる。言いたいこと聞きたいことは山ほどある。この一ヶ月間ろくな物でもなかった。だが、一人前に成長させてくれた以上、感謝の意を示したかったからだ。鬼島は唯一言、そうかと言い残しなかじまくんと共に部屋を出て行った。それを見送ると、カナメも自分の部屋へと戻り、荷物を纏め始める。血と暴力に塗れた地獄の日々は幕を閉じる。訓練センターでの日々は終わりを向かい、カナメは根室が待つ事務所へと帰還するのだった。

暗躍する姿の見えない人々の思惑と一緒に。

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