表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/39

最終試練

 訓練センターでの三十日目とは、魔法省が提示した訓練期間の最終日である。だが、そんな日でも彼女は普段通りの行動を取った。ルーチンワークとなった拳銃の整備を行い、そして灰色の闘技場へと歩を進める、これがこの施設での彼女の日常。日々研ぎ澄まされ圧し折られ、そしてそのたびに立ち上がってきた彼女は一端の武人であった。両手に銃を現出させ扉を蹴り開ける、無手で闘争の場へ入ることはしない。なぜなら、灰色に支配された大部屋には敵がいる、彼女を屠り続けていた悪鬼が居る。鬼島は無言である、唯々前に構えをとり即座に首を狩ろうとする。直ぐには火蓋は切られない、呼吸一つ瞬き一つでお互いキルレンジに潜り込めるのだ。無駄な攻撃、無駄な判断。コンマ単位での隙が有利振りを作り出す。五分十分と立っても両者は構えたまま動かない。その膠着は互いに手の内を知りえているからに他ならない。

 カナメは銃を構える際、決して腕を伸ばしたりはしない。腕を伸ばすということは骨格で射撃線を相手が判断出来る、つまり伸ばした分だけ懐が空く。そもそも、人外と化した肉体はどんな無茶な体勢でも衝撃で手首を傷めることはない。つまり、接近されても殺傷は可能。鬼島もそれを十二分に理解している、ではどうするか? 鬼島は最低限の被弾で接近戦を仕掛け、射撃をさせずに殺す。これしか道はない。手首を曲げるだけで、高威力の銃撃が嵐のように撃ち付けてしているのだ。取れる手段も限られる。考え自体は単純。だが、カナメはそれを肉体能力の差で突破できずにいた。


 最初に動いたのは鬼島。一気に間合いを詰め、カナメに近づく。それを迎撃しようとする銃弾に節々を削られながらも、左右に体を揺らして狙いを絞らせないように進んでくる。対してカナメは時計回りに動きなら、鬼島を牽制。馬鹿正直に正面から打ち合いなどしない、鬼島の進路を妨害するように地面に対しても攻撃を行う。カナメにとって一番厄介なのが一直線に向かって来られることだ、例え骨が拉げようとも執念深く接近する化け物、対抗するなら場を作るほかない。しかし、それでも距離は詰められあと五メートルで相手の攻撃圏内、鬼島の体はあちらこちらが抉れているが確実にこちらを殺せるだろう。進退窮まるなかでカナメが取った行動は意外な手段であった。カナメは右手の拳銃が一発だけ残っているのを確認し、魔力をシリンダーに過剰に込め暴発させる。そして、新たな銃を現出させないでそのまま手から落とす。鬼島はその隙を見逃すほどのまぬけではなく、両足に力を込め一気に接近してくる。カナメはこの時を待っていた、鬼島との距離が一定以上離れており、なおかつ傷ついているこの状況を。右手に現出されたのは対物狙撃銃XM109ペイロード、表皮貫通目的の徹甲弾使用である。無論魔法少女と言えど、対物狙撃銃を魔力で強化した状態、しかも片腕で撃つなんて真似は自殺行為である。しかし、カナメは腕を犠牲にしなければ鬼島には対抗出来ない。今この瞬間の為だけにこの銃を使用しなかったのだ、これでも死ななければ鬼島を倒す手段はやって来ない。カナメは血まみれの指で引き金を引いた。


 対物狙撃銃から鬼島めがけて弾丸を発射する。その瞬間カナメの右腕は衝撃に耐え切れず、右手が捻じ切れ大出血を引き起こす。あまりの激痛に声にならない叫び声を挙げるが、それでも意思は折れず残った左手で銃を構える。膨大なエネルギー弾の一撃を鬼島は避けれなかった・進行方向に勢いを付け過ぎ、なにより身体の反応が鈍くなっていた。弾丸は鬼島の上半身を丸ごとこの世から消滅させ、訓練所の壁に大穴を空けながら消滅する。残ったのは下半身だけだ。誰がどう見ても死んでいるはずだが、カナメは警戒しながら下半身を見つめていた。頭の中では理解していても、心の片隅でまだ生きているのではないかと思っている。死んでいるはずである、あの悪鬼を殺せた確証もある。カナメは三分後に貧血による失神を引き起こすまで、闘争状態のままであった。唯ひたすらに、殺意のみが体を満たしそれを四散させることは純粋な本能に支配された彼女には無理だったのだ。


こうして、カナメは一つ壁を乗り越えた。だが、未だ未熟である。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ