世間とのギャップ
「これは凄いですね、大規模なアパレル量販店以上の品揃えだ。」
ビルの二階は、見渡す限りの一面が衣装を収納するだけのために作られたといっても過言ではないフロアだった。衣装棚やハンガーには和洋折衷多種多様なコスチュームが所狭しと陳列されているが、所々探したり取り出しやすいようにされていて膨大な量の衣服や装飾品がごちゃこちゃとした感じをまるで感じされないほどに見栄えよく整理されている。
(これはかなりの人物だな。)
少なくとも、これだげの量を管理できる人物は相当のモノであるとカナメは判断したが、その人物は姿形なくカナメ達以外に気配が感じられない。不自然であった。
「案内されては来たが、オーナーは何処にいるのだ?」
そう言って目の前にいる案内役のメイドに尋ねるが、返事は返ってこない。ただ、無言で目を閉じて佇んでいるだけである。
(どうする?)
(どうしましょう?)
両者そう考え目線を合わせたその時、メイドは小刻みに震えながら人を食ったかのように大きな笑い声を挙げ始める。そして、二人の方に振り向くと腰に手を当てて平べったい胸を張り、自信満々の表情を浮かべながら話しかけてきた。
「ふふふ、まだ判らないのかしら。あなた達が探しているオーナーは目の前にいるのよ?」
「なんですって?」
根室が予想だにしてなかった事態に思わず声を挙げた。さすがに、十代前半にしか見えない少女が業界でも一目置かれている人物だとは考えもつかないことである。カナメですら、元男性なのだからこんなメイド服姿で接客をしてるはずがないと思っていた。呆然としているなか、元魔法少女の少女は大きな声で名乗りを上げ始める。
「そうこのわたしこそが、このメイド喫茶のオーナー。可憐でかわいいみんなのアイドル!超すーぱーメイド魔法少女、星川キラリちゃんなのだー!」
・・・・。
・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・え?。
響き渡る幼い声、固まる空気。戸惑う二人。そして漂う微妙な雰囲気、この場は混沌が渦巻いている。もはや何がなんだか訳が分からない。
「・・・・坂本だ、そしてこちらが上司の根室。」
人は非現実染みた状況に陥ると、その精神を日常生活の環境下へと無理矢理変質される習性がある。これを俗に現実逃避と呼ぶ。
「どうも根室です、本日はよろし「ダメ!」はい?」
「ダメダメダメダメダメダメぜ~んぶダメ!あなた達ここがどこだかわからないの?夢を売っているんだよ!そんな淡白な対応だとキラリちゃん相手にしてあげないも~ん。」
(面倒くさいなコイツ。)
もしコレがファンタジーであるならばそう言うモノだと割り切り、取り立てて不機嫌には感じないだろう。だが目の前の少女は元男性である。そう元男性なのにキャピキャピとした態度を平然と行っているその神経が、仮にも同じ魔法少女のカナメにはまるで理解が及ばなかった。カナメは長年培ってきたスルースキルから半ば能動的に謝罪の言葉を述べ、相手の出方を伺おうとする。簡単に言ってしまえば、謝ってしまえばあとは相槌を打つ続けれるスタンスだ。
「それは失礼した、ではどうしたら良いのだ?」
「エレベーターからやり直し!今度はちゃんとしたリアクションをとってこれなきゃだめなんだからね!」
そう言い放つと、カナメと根室は服の袖を強引に掴まれエレベーターに押し込まれて一階に連れ戻される。
(なんでここまできて茶番劇を演じなきゃならないんだ。)
ちらりと根室の方に目線を向けると、露骨に顔を背けて関係ない振りをするその姿に根室に着いて来たのは間違いだったかなと考えていた。
TAKE2
「これは凄いですね、大規模なアパレル量販店以上の品揃えだ。」
目が死んだ様に見える根室が、前回このフロアに来たときと同じセリフを繰り返す。しかし、コスチュームが溢れんばかりにあるこのファンシーなフロアに似つかわしくない男であるとカナメは思った。
(泣きたくなってきた、本当に。)
録でもない体験を何度も味わってきたしてきたカナメだが、今回ばかりは違った感情が湧き上がってくる。怠惰であった。
「案内されては来たが、オーナーは何処にいるのだ?」
お決まりのセリフを目の前にいる大根役者に言い放つが、返事は返ってこない。ただ、無言で目を閉じて佇んでいるだけである。
(成功したか?)
(いえ、肝心なのはこれからでしょう。)
両者そう考え目線を合わせたその時、メイドは小刻みに震えながら人を食ったかのように大きな笑い声を挙げ始める。そして、二人の方に振り向くと腰に手を当てて平べったい胸を張り、自信満々の表情を浮かべながら話しかけてきた。
「ふふふ、まだ判らないのかしら。あなた達が探しているオーナーは目の前にいるのよ?」
「なんですって?」
根室が予想していた事態にワザとらしく声を挙げた。さすがに、いい歳をした人物がこんな三文芝居に興じる趣味があるなんて一般人の倫理観しか持ち合わせていない二人に判る訳がないし、付きあわされると疲ればかりが堪って行く。カナメですら、もういっそうの事店を出てしまおうかと思っていた。内心呆れている中、元二十代以上だった男性の少女は大きな声で名乗りを上げ始める。
「そうこのわたしこそが、このメイド喫茶のオーナー。可憐でかわいいみんなのアイドル!超すーぱーメイド魔法少女、星川キラリちゃんなのだー!」
「「なっなんだってー!」」
(もう泣きたくなってきた・・・。)
カナメの率直な気持ちである。
「ふふ~ん。それでは、目の前のダークエルフのお姉ちゃんのコーディネートをしちゃうのだ!まず、お姉ちゃんの魔法は何かキラリちゃんに答えてもらいま~す!」
「銃火器の強化だ。」
色々と投げやりな気持ちで単刀直入に答える。でないとカナメの堪忍袋の緒が切れるだろう。
「ふむふむ、じゃあ体に直接触ってイメージを掴むから快感に悶えないで耐えるのだ。」
「おい、それはセクハラと何が違う。」
だが、キラリは問答無用でカナメの全身を弄っていく。敏感に感じる胸や太股を嬉しそうに入念に揉んでいくその行為と、それを真剣な表情で見ている根室に、カナメは歯を食いしばって耐える。
(平常心平常心平常心平常心だ、心頭滅却心をコントロールするんだ。)
血管が破裂しそうなほどの羞恥心を味わい続けること五分、ようやくキラリはカナメを開放した。
「ふふふ、もう終わったのだ。ほら、しっかりシャッキリ姿勢を正す!」
「そうかそうか。で、メジャーも無しに何を計ったと?返答次第ではただじゃすまさんぞ。」
「知りたい?ねえ、知りたい?じゃあ、教えてあげましょう!ここだけじゃなく、別の階のフロアにあるスカートとシャツ、ネクタイやメガネやソックスから靴まで全部の品物をキラリちゃんは頭の中にサイズまで網羅しているのだ。そして、その品物全てに魔法を使ってマーキングし、指定した対象に着せることが出来るのだ。なので、イメージさえ決まれば面倒なことをしなくてもすぐにでもコスチュームを身に纏う事が出来るのだ!それではイッツショウターイム!」
キラリが指を鳴らすと、カナメは光と煙に包まれれた。一分後、そこに立っていたのは軍帽を被り、黒い軍服姿に身を包んだカナメであった。ただし、下はミニスカートになっていて堅苦しい感じは薄くなっている。また、動きやすいように軍服に有りがちな無駄な装飾やポケットを最小限にしている点からキラリの魔法少女としての経験がフルに活用された一品だと言える。
「これは良い仕事をしますねキラリさん「キラリちゃん」・・キラリちゃん、特にアクセントとして着けている銀フレームのメガネが最高だ。モチーフは旧ドイツ軍の親衛隊で?」
「褐色のエルフでクールな感じにピッタリなのだ。それと、上着の内側に銃のホルスター代りの部分を用意してある物をチョイスしたのだ。それとミニスカートにした分、ロングブーツとオーバーニーソックスを組み合わせることで安全性も確保した懇親の出来なのだ!」
「やはり、頼んで正解でした。どうですかカナメさん,カナメさん?」
根室が声を掛けるまでカナメは固まっていた。衣服が似合っていたのもあるが、内心バイオレンスな日常を過ごしていた分、魔法少女らしい魔法に出会えた事で感激していたからである。
「ええ、とてもすばらしいコスチュームだ。しかし、このコスチュームは苦情が出ないか?特に、こう女将校みたいな感じだと軍靴がどうとか。」
「大丈夫ですよ、魔法少女に助けてもらっておいてどうのこうも言わないでしょう。それに、そのまんまって訳じゃないんですから。あ、キラリちゃん白の将校服もあったりしますか?式典用に用意したいのですが。」
「もちろんあるのだ!実際に旧ドイツでは白色の軍服が存在したのだ、けど靴やソックスは黒色と流用できないのだ。」
「では、黒色を五セットと白色を三セットをお願いします。あ、支払いはカードで。」
「在庫はあるけどかなり高くついちゃうよ?合計で五百六十万円も払えるの?」
「心配いりません、それにこのカードカナメさんを紹介して得た多額の奨励金から支払われていますから。」
「おい、初耳だぞ。」
最初に事務所に来たときの会話の中でそのような事を言っているのは覚えているが、いくら貰ったまでは聞いてはいない。
「言ってませんでしたか?上級魔力保有者を確保すると事務所側に一千万円ほど補助金がでるんですよ。」
「それを一言私に伝えろと。」
「本当は直ぐにでも渡したかったんですが、カナメさん名義の口座を作るのに手間取ってしまってたんですよ。事務所に戻ってから、通帳とカード番号渡しますよ。あと、無駄遣いしないでくださいね」
「まったく、勘弁してくれ。これでも社会経験は積んでるつもりだぞ。・・・ところでキラリちゃん、ちょっとメイド服を見てみたいのだが?」
「やったぁ!カナメお姉さんもメイド服の良さに気がついたんだね!実は奥の方に、とっておきのヤツがあるんだ、今回だけは特別に見せてあげる!」
「そうかそうか、じゃあ根室さんちょっと見てきます。」
「余計な物買わないでくださいね、買っちゃ駄目ですよ!」
そう忠告はしたが、カナメは奥へと進んでいってしまう。買ってしまっても、エルフ姿にメイド服をいつでも見られるから許そうと考えていた根室は、カナメが日常で使う下着のみを購入して帰ってきたのを見て、声には出さなかったが大いに落胆するのであった。




