侍女姿の娘達
世界有数の電気街秋葉原。
この街は、近年電気街という面よりも電子ゲームやアニメ等のポップカルチャーの流行発信源としてマスメディアに取り上げられる、いわばオタク文化の聖地とも言える。その秋葉原にある、神田明神通りに面したビルの一階にあるメイド喫茶『カーディフ』。そこに根室とカナメの両名はコスチュームを求めてなぜか入店していた。
「お待たせしましたご主人様!ろりろりくり~むパフェ☆とほっとなホットコーヒーとなります!」
「コーヒーは私です、それとパフェは彼女で。」
「かしこまりました!」
「・・・どうも」
料理を届けにきた背の低い紫色の髪の毛のメイドがテーブルから立ち去ると、カナメは不機嫌そうにため息をつきながらパフェをつつき始める。
「とりあえず、言いたいことがが二つほどあるんだが聞いていいか?」
「ええどうぞ。」
ホットコーヒーを飲みながら優雅に味を堪能している根室に、若干の殺意を抱きながらカナメは乱雑に意見を述べた。
「まず、コスチュームを買いに来たのになんでメイド喫茶に入ったのか答えろ。次に、男性ばかりの店内で女性のジャージ姿はかなり恥ずかしいから理由がないならさっさと退出したい。以上だ、さあ答えてもらおうか。」
「そうですね~え。」
その妙に悩ましげな動作がカナメの神経を逆なでさせてくる。唯でさえ、イライラとしているのにその態度で返答によっては血管がぶちぎれそうになりそうだった。
(カナメさんもそう言いながらパフェを口に運んでるじゃないか。)
悠長にそんなことを考えていたが、目の前の人物からの殺意で命の危険を察したのか、根室はカップを置いて真面目に答える。一般人がゴリラ以上の身体能力を有する魔法少女からの攻撃を受けて、無事な訳がない。
「ええと、どこから説明しましょうか。まず、魔法少女のコスチュームと言う物はイベントなどでレイヤーがコスプレ用に使う素材は使いません。あんな薄っぺらい安価な石油製品の服なんて着たら、地面に転がされるだけで大出血です。なので、化学工業メーカーに頼んで作られた耐衝撃に特化する化学繊維を使用してコスチュームを製作するわけなのです。」
「だが、それはメイド喫茶ではなくメーカーに直接頼むのでは?」
最もな意見では有るが、根室は首を振って否定する。
「メーカー側は化学繊維は作ってもコスチュームは作らないのです。そもそも本業ではありませんしね。まあ、大金を積めばやってはくれるとは思いますが数百万は行きますよ。なにせ、企業というのはその手の組織ですから。なので、本業のプロフェッショナルにコスチュームの製作を依頼するのです。」
「と言う事はここにそのプロフェッショナルが?」
言われて周りを見渡すが、接客をするメイドとそれ目当てのオタクしかいない。根室は誰だか知っているのだろうか?そう考え、根室にカナメは聞いてみる。
「で、誰なんだ?」
「判りません。」
「はあ!?」
「ですから、とある事をしなければ本人が会ってくれないらしいのです。ちなみに、その方は元魔法少女で男性だったときは大手化学メーカーの三宮化学で勤務なされていたそうですよ。なので、本人の経験と素材知識から作られるコスチュームは高品質で、コスチューム業界では大御所的立場の人物とも言われています。」
「それはすごいな。それで、何をするだ?」
「もうやってますよ、二時間ほどここで飲食していれば向こうから案内されるようです。ただし、向こうもこちらをじっくりと観察しているようで、どんな大手事務所が依頼しても容姿が端麗であっても袖にされるようです。」
「・・・つまりあと百分ほどここに居なければならないと。」
「大丈夫ですよカナメさん、このあとイベントでジャンケン大会がありますから。」
「やらないぞ、そんなことより時間があるなら注文の追加をしても問題はないな。」
「どうぞ、多額な取引をするためにカードを用意していますので好きなだけ注文してください。」
注文をする為にカナメは、テーブルに備え付けてあるベルを鳴らす。すると、さきほどの小さなメイドが注文を取りに来た。
「お待たせしましたご主人様!ご注文はお決まりですしょうか?」
「うむ、この超絶☆デラックスパフェのパーティー用を頼む。あと、ガムシロップもだ。」
「ご主人様、それはお一人用には作られてはいませんが残さず食べれますか?」
「もちろんだ、これにガムシロップを器に入っている分全て上から掛けて食べたいのだ。出来るか?」
さも、これ位当然余裕じゃないかとと話すカナメにメイドは笑顔を強張らせた。
「・・・すまないがコーヒーのお代わりお願いするよ、とっても苦くしてくれ。」
今度は根室の心が折れたようで、テーブルに突っ伏していまった。その後、店内で働くメイドたちよりもかなり目立ちながら甘ったるい匂いを充満させてパフェを完食するカナメの姿は、いつしかメイド喫茶『カーディフ』のメイド達に長く語り継がれることになる。
「ふう、満腹だ。しかし、ちょうど二時間だというのに未だ姿を見せないとは縁がなかったかな?」
結局、目的の人物は現れることはなかった。今回出会えなかったということは、これ以上ここに通ったとしても会ってくれる事はないだろう。そう両者は考えながら帰りの会計を頼もうとすると、またしても紫色の髪の毛のメイドが二人に近づいてきた。ちなみに、注文表は別のメイドが持ってきており、彼女が二人に用事があるのだとすれば・・・。
「ご主人様方、オーナーが二階で会計をお願いしたいそうなのですがいかがでしょうか?」
「根室さんこれは。」
「我々は御眼鏡に適うと判断されたのだろう。ああ、私達は二階に向こうよ。」
「かしこましました!」
そう元気な声で、二人は店の奥のエレベーターに案内される。果たしてオーナーとはどのような人物なのだろうか?疑問に思いながらも、エレベーターは二階へと到着した。