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青い光

 藤崎大尉に案内された試験室は、真っ白な空間が果てしなく続くある種幻想的な空間であり、そこには射撃台が急ごしらえながら用意されていた。ちなみに、試験室には壁際にセンサーらしき計測器具が設置されている。これは、試験室の隣の部屋で分析を行う複数の測定員がカナメの魔法能力を見逃さないための物らしい。射撃台の前にカナメが立つと、藤崎大尉が今回の試験について語りだした。

 「今回の試験は、カナメ君が銃器強化能力者であるとの仮定に基づいて行われる。まず、ごく普通の弾丸を装填した9mm拳銃で試してみてくれ。銃器強化能力者ならば、特殊使用の拳銃関係なしに威力が激増するはずだ。」

 そう言われて今回は安全対策のために用意されたゴーグルとグローブ、そして耳当てが着けられないので代わりに耳栓を装着した。9mm拳銃を構えて奥の方に現れたターゲットの紙に発砲してみるが特に威力が上がっているようには見えない。

 「藤崎大尉、これは銃器強化能力者ではないと言う事ですか?」 

 「いいや違う、そもそもカナメ君から魔力が拳銃に行き届いていない。少しでも届いていれば、もう少し大穴が開く。さあ、意識を集中させて体内にある魔力を拳銃に流すようにイメージをするんだ。出来なければ少々酷な事をしなければならない。」

 「それはいったい?」

 「ああ、火事場の馬鹿力というやつで徹底的に痛めつけると体が防衛本能から魔力を体に張り巡らすのだ。嫌なら、全力で頑張りたまえ。」 

 (そういわれてもな・・・)

 熟練者ではなく、魔法少女になったばかりで魔力の使い方が判らないカナメには難しい注文だった。だが、やらなければ先には進めない。意識を体中に巡らし魔力を感じようとすると、胸の辺りから体全体へ流れる暖かい力を感じてくる。

 (これが魔力か!)

 この感覚を四散させない様に、力の流れを手先指先そして拳銃へと向わせる。すると、銃器全体が青い光を纏ったかのように見えた。

 「そうだ、それが魔力を扱うということだ。そのままの状態で、発砲してみてくれ。」

 カナメはターゲットに今まで以上に狙いを定め、引き金を引く。放たれた弾丸は青い光を瞬かせながら、ターゲットを抹消させた。

 「これが魔法ですか。」

 「うむ、やはり銃器強化能力者のようだな。では、銃を変更しよう。」

 初めて魔法を扱った感動に震えていると、藤崎大尉が新たな銃を持ってきた。のだが、その銃が問題であった。

 「藤崎大尉、その巨大な拳銃は人間用なんでしょうか?」

 「これか?これはオーストリアのパイファー・ツェリスカと呼ばれる、六十口径の強力な弾丸を放つ世界最強クラスのシングルアクション方式によるマグナム拳銃だ。あまりの威力に通常の射撃姿勢で撃つと体が壊れる代物だ。重量は六キロ程だが、カナメ君には問題ないだろう。なにせ、握力が二百キロ以上だと聞いたのでな。特別に専用の魔力を纏わり着きやすく弾丸を用意した、言わば片手で携帯可能な範囲での最大火力を測定するのにぴったりだ。まあ、ハンドメイドで二百万ほど掛かるので実戦には五十口径を使うと思うがね。さあ、構えてみたまえ。」

 カナメは自分が本格的に人間を卒業したのだと感じながら、両手で脇を締めて構える。

 (本当に発砲して大丈夫なのか!?)

 弾丸が大きいためか9mm拳銃より少し多く魔力を纏わりつかせ、新たなターゲットである中に鉄の塊を満載したコンテナに狙いを定めるが、内心は肩が千切れるかもしれないという不安でいっぱいであった。

 (一か八かだ!)

 放たれたと同時に周囲に衝撃波と爆音が響き渡り、ターゲットのコンテナを青く巨大な光の帯が九割以上消滅させて、そのまま部屋の遠くへと過ぎ去っていった。残った部分もドロドロに溶けており、一人の人間ではなく未来から来た機械がプラズマ砲を撃ったと言われたほうがまだ現実味のある光景である。だがそれ以上に信じられなかったのが、それだけの砲撃をしたカナメ自身は何も問題なかった点だ。

 「藤崎大尉、これ残っている四発連射しても大丈夫ですがどうしますか?」

 「ちょっと待て、体に問題はないのか?」

さすがの藤崎大尉も、不安になったのかカナメに聞いてきた。

 「ええ、衝撃も少しでした。手の震えも微塵もないので、二挺で連射しても正確な狙撃が出来ると思います。」

 「いや、これ以上はやらん。しかし、これでは散弾銃は扱わないほうが良いな。二次被害が酷くなりそうだ。ああ、小回りの聞かない小銃もだ。拳銃でこれだけの威力が有るなら要らないだろう。それよりも、次の銃を用意しよう。次も強力な銃だぞアメリカ製なのが気に入らんがな。」

 平然と答える藤崎大尉に対して、カナメは魔法少女の社会ではアレも想定の範囲内の威力なのかと驚愕した。

 (いったいどんな化け物の巣窟なのだ!?)

 想像するだけで気が滅入りそうになるカナメに対し、藤崎大尉が次に用意したのは大型の狙撃銃であった。

 「これは、XM109ペイロードと呼ばれるアメリカ製の対物狙撃銃だ。俗に言う、アンチマテリアルライフルだ。本来ならば、二脚を立てて伏射するのだが必要ないだろう。立ったまま腰だめの姿勢で、5キロ先の故障して破棄された90式戦車に狙撃してくれ。」

 「了解しました。」

 (それよりも、ここそんなに広かったのか。)

 場違いなことを考えながら魔力を流すが、その流れ行く量が前回の比ではない。そこから考えられる衝撃に、思わずカナメは顔を顰めた。

 「藤崎大尉、かなり下がった方が良いです。かなり危険ですよ、魔力の消費量が相当あります。」

 だが、藤崎大尉はその場に留まりカナメを見つめている。

 「心配するな、かまわず放て。」

 「はい!」

 その言葉を聞いて、魔力の光で青く染まる対物狙撃銃の引き金をカナメは引く。その威力は先ほどが光の帯だとすると、こちらは光の柱だ。地面までも削り取り、戦車までもこの世から完全に消滅させるほどの戦略兵器級の狙撃であった。それでありながら、カナメは軽い痺れを手に感じるだけで平然としていた。狙撃の影響でぐちゃぐちゃになった試験室で、カナメは藤崎大尉に話しかけようとしていた。

 「藤崎大尉、如何でしたでしょ・・・。」

 その言葉は途中で途切れた。藤崎大尉は、無言でカナメのことを唯ひたすらに見つめていた。その表情は完全に削ぎ落とされ、まるで能面のようである。目だけがただただ黒く燃えているように感じられ、カナメの背に冷や汗がどっと噴き出してくる。手術のときとはまるで種類の違う狂気が、カナメの体に黒く纏わりついているかのようであった。

 「藤崎大尉!!」

 恐怖を振り払うように大声で名前を呼ぶと、ようやく重く冷たい空気が四散した。

 「カナメ君すまないが、今日の試験はここまでだ。後日改めて連絡を入れるからその間にコスチュームでも決めておくがいい。おい!誰かカナメ君を根室殿も所に案内してやってくれ。」

 この言葉を聴いて、隣室から案内役の女性がやってきた。

 「カナメ君、急な話しをしてしまって悪いな。」

 「いえ、こちらこそ貴重な時間を頂き感謝します。」

 そう言い交わし、二人は別れる。カナメは藤崎大尉の二面性を目の当たりにして、これから掛かって来るであろう連絡に唯ならぬ不安を感じながら根室の元へと帰るしかなかった。言葉で言い表せない何かが、自分の人生を強引に狂わせているのかもしれないと考えながら・・・。




 「カナメ君はどうだったかね?」

 「ええ、素晴らしい戦闘能力ですね。これで経験さえ積めば日本でも最高峰の魔法少女になれるでしょう。」

 「そうか、ではそれなりの手配を上の方に伝えておこう。それと、例の大遠征の大幅な変更提案と一緒にな。しかし、カナメ君も不運な物だ。よりにもよって交渉勢力と同じ姿に変身するとはな。」

 「しかし、我々にとっては最高の幸運です。彼女にとっても、日本の礎となれる名誉となるでしょう。」

 「ああ、だから私は彼女を出来る限り出助けするのだよ。その感情が哀れみから来るモノかどうかは知らんがね。」

 「ただ単にエルフ萌えじゃなかったんですか!?」

 「・・・この、馬鹿者!!」

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