病院に生息するエルフ
「・・・おい、しっかりしろ」
「はっ!」
坂本はいつのまにか青色の入院着で、診察室らしき部屋に白沢と佐々木と一緒に立っていることに気がついた。佐々木に拉致されてからここまでの記録がなく、白昼夢を見ているかのようだ。慌てて自分の耳を触ってみるときちんとエルフ耳であり、あの凶行が現実であったということになる。
(ああ、思い出したくないのにありありと昨日のことが浮かび上がってくる。)
『ふふ、お風呂場ではかわいいかったわね。ほら、ちゃんと用意した下着にお着替えできましたか?』
『アイ』
『はい、上手くできました。ブラジャーの正しい着け方は一般女性の九割が知らず、無意識のうちに大変窮屈な思いをしています。なのでちゃんとした着用方は忘れないようにしましょうね。』
『アイ』
『さて、次は外見のイメージに合わせて口調も変えちゃいましょう。丁寧すぎると逆に違和感を感じます。なので、他人を少々突き放すぐらいの冷たい印象に変えますよ?』
『アイ』
・・・。
・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・。
(アアアアアアアアアアアア!!!)
額に手を当てて悶えていると、佐々木がソレを見て声を掛けてきた。
「ほら、坂本さん身体測定しますから測定器に乗ってください。まったく、昨日はあんなに従順だったのに。」
「貴様が言うな、貴様が。」
「あらあら、きちんと成果が口から出てますね。それと、私のことは恵さんと呼びなさいって言ったでしょう?それとも、これ以上調教が必要かしら?」
「・・・失礼しました、恵さん。」
「どうでも良いから、早く乗ってくれんかね。」
「ア、ハイ。」
痺れを切らした白沢が、坂本を急かして来る。色々言いたいことはあるが、口にはなぜか出せなかった。その理由は思い当たるのだが、気にしたら負けであると坂本は思っている。
(無心だ、無心。)
測定器に無言で背中を合わせ、姿勢を正す。それを、佐々木が読み取っていく。
「まず、身長は174cmです。次に、スリーサイズを測りますので両手をバンザイの姿勢にしてください。
「こうか?」
「ええ、そのままの姿勢を維持してください。まず、バスト92cmウエスト59cmヒップ88cmのFカップです。やっぱりFでしたね。それと、体重ですが89kgとなります。」
「は、87kg!?」
その数字は幾ら程好く筋肉質だからといって、ここまで異常な数値は出ないはずだ。だが、白沢も佐々木も取り立てて驚いている様子はない。すると、白沢が坂本の疑問に答えるように喋り始めた。
「お前さん、魔法少女が普通の人間と同じ肉体構造ではないことは知っているな。見た目どおりの体重だったら、異形共とまともに戦えるわけないだろう。ほれ、ここに空のスチール缶があるから握りつぶしてみろ。ちなみに、通常だと握力100kgは必要になる。」
そう言いながら、白沢はスチール缶を手渡してくる。アルミ缶ならまだしも、スチール缶を握るつぶせるのはゴリラ並みの人外である証拠だ。
「じゃあ、いくぞ。ふんっ!」
ベコッ
全力の半分程の握力を加えた所で、スチール缶がぐちゃぐちゃに変形した。
「ふん、身体能力は優秀っと。喜べ、魔法少女としてすぐにでも活躍できるぞ。」
「おめでとうございます坂本さん。」
「ドウモ・・・。」
自ら人外認定した直後にそのような事を言われても、坂本はまるで嬉しくはなかった。
「じゃあ、次の魔法能力試験だ。お前さん、自分の魔法とは何かと思い浮かべてすぐに思い浮かんだ物を言え。それが、お前さんの魔法だ。」
「そう言われても、ぱっと思い浮かぶわけないだろ。ちょっと目をつぶって考えてみても?」
「ああ、かまわん。」
坂本は目をつぶり、坂本は自分の世界に没入した。そして、自分の魔法像をイメージする。音もなく真っ暗な世界の中に浮かんできた物、それは銃を持つ自分の姿であった。
「今銃を持つ自分の姿が浮かんできたぞ。」
「銃か、魔力を使った道具想像系か強化系だな。どちらにしてもこの病院の設備じゃこれ以上無理だ。連絡入れておくから、午後に以前言った軍の施設に行って来い。」
そう言って白沢は、さっさと一人で診察室から出て行ってしまった。
「軍か、また藤崎大尉か。」
別に嫌いというわけではないが、一緒に居ると疲れるタイプの人間である。なので、想像するだけで気が重くなるのだった。
「それでは、坂本さん。一度入院着を脱いでもらって、こちらの黒色のジャージに着替えてください。」
一人残った佐々木は、ジャージを手渡してきた。
(しかし、なぜ毎回ジャージなのだろう。安価で、ある程度体型関係なく着れるからだろうか?)
そう思いながらも、入院着を脱いでいく。自らの黒色のレースと下着姿の姿に、思わず赤面してしまいながらもなんとかジャージ姿になった。
「それでは、今から廊下に根室様をお呼びしておりますので呼んできますね。」
着替え終わったのを確認し、廊下に居るらしい根室が佐々木に案内されながらも入室してきた。
「おお、素晴らしいじゃないか坂本さん!まさに、理想的ななダークエルフ像そのものだ。」
喜びながら、根室は坂本の手を握って振ってくる。よほど、嬉しかったのだろうか。
「根室さん、気持ちはわかるが手を離してくれ。」
「おっと、すまない。つい気持ちが高ぶってしまってね、そうそう坂本くんが魔法少女になったから名前を決めなくてはね!」
「名前ですか?」
確かに坂本雄二で、魔法少女はありえないだろう。なので、これからイメージに合わせて名前を決めるのだろうが・・・。
「うーん、折角の褐色のダークエルフなのだから洋風で行きたかったが、それだと在り来たりだからね。日本人でよくある和風な名前にして欲しい。」
なるほど、和風の名前なら馴染み易いだろう。下手にカタカナで命名しても、違和感が纏わり着く。数十分ほど、根室と議論を重ねながら悩みながらもある名前に坂本は決めた。
「じゃあ、カナメという言うのはどうだ?事務所にとっても、これからの発展の要になるという意味で。」
「ふむ、カナメくんか。なるほど、確かに良い名前で我々の将来にも重要な意味を持っている。それでは、坂本雄二改め坂本カナメくん!!
この届けに新しい名前とサインと書いてくれるかな?」
「・・・後でもできるだろうに。」
そう文句を言いながらもそれに従ってしまうあたり、外見的な性格や口調を変えたところで坂本自身の本質はそのままなのであった。




