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銃と犬

訓練場に到着すると、そこにはかなりの広さを持つグランドで百人ほどが重装備で走りこんでいるのが見えた。迷彩柄の戦闘服を着込み、小銃を手で構えて大きな背のうを背負っている姿はまさに行軍訓練である。

 「藤崎大尉、あの方達はどの位走りこんでいるのですか?」

 「なに、たった五時間ほどだ。ただし、全速力でだがな。坂本君はまだ判らんだろうが、一般的に魔法少女となった場合体力面が人間離れした物となる。だから、百三十キロの完全武装で走りこんでもある程度は大丈夫だ。」

 (それでも、五時間全速力は死ぬんじゃないのか?)

 坂本はまだ魔法少女ではないので、体力がどうとかは判らないのでただ漠然とそう感じる。そう感じた矢先、藤崎大尉が面白そうに声を掛けてきた。

 「おい坂本君、一つ言い忘れたがいくら人間離れしていてもさすがに休憩なしで五時間は無理が出てくる。つまりだな、そろそろ脱落者が出てくる頃合だ。そら、出てきたぞ。」

 藤崎大尉がそう言ったと同時に行軍者の中から着いていけなくなり、倒れこむ者が出てきた。苦しそうに、せきを何度も繰り返していてつらそうだ。そこへ、離れてみていたらしい教官が近づいてきて、罵声を浴びせ始める。

 「海野訓練生またお前か!これで今月に入ってから三度目だぞ、理解しているのかは知らんが私には貴様に対してもはや修正すら不要だと思っている。」

 そう言いながら、教官は腰のホルスターから拳銃を取り出し海野訓練生に突きつける。教官が引き金を引くのかと思われた矢先、行軍していた集団から二人ほど飛びだして教官の前で平伏してきた。

 「教官、お願いします!それだけはご勘弁を!」

 「海野は無理矢理にでも立たせて、走らせますから!」

 両者とも必死の形相で除名を懇願する。ソレを見ていた教官は、腕を組みながら二人に対して指示を下した。

 「では、宮城訓練生、細枝訓練生。海野訓練生に手を貸して集団に戻れ。だが手を貸す以上、決して脱落するな。以上だ!」

 「「了解しました!!」」

 二人は海野訓練生に腕を貸し、集団へと戻っていった。

 「藤崎大尉、これを見せたかったのですか?」

 坂本は藤崎大尉へと問いかける。

 「うむ、ただしこれで終わりではないぞ。あと、二十分ほど待て。」

 「はあ、了解しました。」

 疑問に思いながらも二十分ほど待つ、すると別の訓練生が脱落した。

 「今度は、鳩ヶ谷訓練生か。まったくもって不愉快だ!おい、誰か庇ってやるヤツはいないのか!」

 再び、教官が拳銃を取り出して鳩ヶ谷訓練生に突きつける。だが、誰も助けになど来ない。それを確認すると教官は冷徹な判断を行った。

 ターーン

「ぎゃあああああああああ・・・。」

 教官は、鳩ヶ谷訓練生の右脇腹に対してに発砲して追い討ちをかけるかのように、その部分をつま先で踏みつける。訓練場に響き渡る絶叫、だが誰も見向きはしない。唯ひたすらに苦痛に悶える彼は、集団からも教官からも見捨てられたのだ。

 「訓練生共!あと三十分ほどで行軍を終わらせる。その際、このゴミを医務室に連れてってやれ!」

 坂本は呆然としていた。彼も中々の壮絶な体験をしてきたが、他人が銃撃される瞬間を直接見るのはさすがに衝撃的であったのだ。

 「坂本君、この一連の光景が我々という組織を体現しているのだよ。我々は底辺から一斉にスタートするが、それでも集団に馴染めない者が出てくる。自衛隊のほうでも、様々ないじめや過激な訓練で脱落者が出るがここでは除隊はできない。だから、能力を伸ばすか庇いあう親友を作るしかないのだよ。それでも、落ちこぼれるようなら死ぬしかないのだ。悲しいことだがな。」

 「・・・ここは外とは別世界なのですね。」

 「ああ、そうだ。まあ、そう落ち込むな。こんな光景は探そうと思えばいくらでも見つけられるんだ。ただ、それが当事者であるかそうでないかの違いでしかない。所詮、知らなければ他人事だ。さて、次は射撃場に向かうぞ!坂本君着いてきたまえ!!」

 「ちょ、ちょっと待ってください!」

 しんみりした空気をへに感じない藤崎大尉に坂本は着いていく。もしかしたら、自分もあの教官のように割り切れる人間になってしまうのだろうかと思いながら。


 案内された屋外射撃場は映画などでよくある、奥が長く仕切りで横が区切られたフィクションの世界通りの場所だった。藤崎大尉は、下仕官に銃器を持ってこさせそれを坂本に解説するようだ。

 「あまり特殊な銃や威力の高い銃は外部に見せられんが、今回は一番オーソドックスな魔導式四十口径拳銃を用意させた。特殊合金製のフレームと魔力を弾頭に纏わせる発射機構が特徴的だが重くてな、9mm拳銃よりも四キロほど重い。試しに構えてみたまえ。」

 坂本は、握り方から構え方を藤崎大尉にレクチャーを受けながら、なんとか重い拳銃を構えてみた。構えるだけ一苦労なのだから、実践では魔法少女以外はまともに扱えそうにはない代物である。試しに撃ってみるように言われ、標的であるドラム缶に銃撃をする。

 ターン

 発砲音と共に、坂本の腕に衝撃が走る。が、それに反してドラム缶は小さな穴が開いただけで魔導式の要素が見えない。

 「藤崎大尉、そんなに威力があるとは思えないのですが。」

 「それは当たり前だ、なにせ魔力が通っていないからな。軍では魔力の少ないものは発射機構専用のチューブを血管に刺して無理矢理魔力を纏わせるのだ。君ではまだ無理だ。どれ、私がやって見せよう。」

 そう言って、藤崎大尉は坂本から拳銃を取るとドラム缶めがけて発砲した。

 ダーン!!

 坂本の時とは音が違い、ドラム缶も半分以上が消滅している。明らかに人間に向けるとしたら、オーバースペックだ。一瞬にしてミンチにの出来上がりだ。

 「どうだ、これが本来のスペックというヤツだ。本気を出せば迫撃砲並みの威力を拳銃で出せるんだ、かっこいいいだろう!」

 「ええ、もちろん。」

 目をキラキラさせて話し掛けてくる藤崎大尉は、本当に人の世話を焼くのが好きなんだと坂本は思った。

 「そうかそうか、そう言ってくれるととっても嬉しい。さて、あと十時間かけて駐屯地を巡ろうでないか坂本君!解説したいことは山ほどあるんだ、さあ行くぞ!」

 「え、十時間もですか!?」

 「そうだ、少なくて残念だろうが心配するな!誠心誠意この私がこの駐屯地と軍の素晴らしさを教えてあげようではないか!」

 藤崎大尉は坂本の腕を強引に掴むと、強制的に引きずり回していった。結局坂本が解放されたのは午後十時になり、帰宅しても藤崎大尉の声が耳から離れず一睡も出来なかったのである。

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