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尊厳の否定

   「坂本さん、もうすこし時間を置いてから行ってもいいんですよ。震えているじゃないですか。」

手術当日、坂本は根室の車に乗せられて都内にある東日本大学付属病院に来ていた。しかし、いざ自分の体を文字通り弄繰り回されるのかと考えると、どうにも体が震えてきてしまう。

 (震えるな、落ち着くんだ。死にはしないんだ、大丈夫だ大丈夫なんだ。)

 頭の中で何度も念仏のように繰りかえし自分自身に言い聞かし、三十分かけて無理矢理おさめることに成功する。だが、それでも恐怖感というものまでは収める事は出来ず、顔は真っ青だ。手先の感覚も鈍くなっている。しかし、このまま車に乗って事態が解決するわけでもないことは本人が一番良く知っている。そして、坂本は根室の車から意を決して下車した。

 「根室さん、大丈夫です。なに、全然まったく問題ないですよ。さっさと終わらせてきちゃいますって。」

 強引に笑顔を作ってアピールする。強がらなければ進めないような気がしたからだ。

 「・・・私も着いて行きたいですが、禁止されているんです。言えた義理ではないですが、お気気をつけて。」

 「ええ、お気をつけて。」

 そうして、根室の車が病院から離れていく。その姿が完全に見えなくなったのを確認し、坂本は病院の中へと歩を進めた。病院のロータリーから目と鼻の先にある入り口までが、坂本にはとてつもなく長く感じらるのだった。


 病院内に入りすぐそばにある案内板を見るが、馬鹿正直に人体実験室なんて書いているわけも無かった。そもそも、柏木の書類には日時と場所しか書かれていなかったので、病院のどこが専用の受付なのか坂本は知らない。少し考えてから、まさかと思い一般の受診者受付で尋ねてみることにした。

 「すいません、この書類貰って来たので受付に来たのですが?」

 受付の眠たそうな男性事務員は、手渡された書類に軽く目を通すと非常階段を一番下まで下りて、その階のエレベーターの呼び出しボタンを押してくださいとあっけなく答えた。さすがに、こうも普通に答えられると張り詰めた緊張が四散してしまう。そのまま非常階段を地下三階まで降り、誰もエレベーターに乗っていないことを確認し、呼び出しボタンを押す。

 「はい、こちらオペレーションルームです。如何なされましたか?」

 「えっと、根室魔法芸能事務所の坂本ですが手術を受けに来ました。」

 「はい、ただいまエレベーターを操作いたします。少々お待ちください」

 (いくらなんでも、話が通じすぎるだろ・・・。)

  こうもトントン拍子で進むと、病院の前で震えていた自分が情けなくなってくる。

 (いやいや、本番はこれからだ。気を引き締めないと。)

 そうこう思案している間に、エレベーターは目的階へと到着した。その階は、一階のロビーと似たような構造をしていたが、案内板には『第一被験体保存室』や『特殊調整槽室』といった嫌な予感をヒシヒシと感じさせる物ばかりだ。坂本が、誰かいないかと人を探していると天井に貼り付けてある院内のスピーカーから音声が流れてきた。

「根室魔法芸能事務所の坂本雄二様、坂本雄二様。そのまま前の通路を進み1番診察室へと御進みくださいませ。」

 どうやら来院してから監視されていたようである。言われるがまま人気の無い通路を進み、1番診察室へと入室する。


 「失礼します。」

  一言そえて診察室に入ると、そこで待ち受けていたのは白衣を着た欧州風の顔立ちの老人である。その老人とは初対面だったはずだが、坂本は誰かに似ているなと思った。

  「もしかして、アンソ「ワシの名前は白沢だ、人肉愛好家でも大量殺人鬼でもない。ちなみに、露助とのハーフであって、イギリス人でもない。」すみません。」

  思わず失言してしまい、坂本は頭を下げる。それを見た白沢はフンッと鼻を鳴らして、不機嫌そうな顔で坂本を見返した。

  「そんなに気にするな、何度も言われてきたからな。ワシも三十年以上人体を生死問わず弄繰り回してきたんだ、死臭がお前の頭の中で無意識に空想の人物に結び付けてしまうのさ。さて、無駄なお喋りはコレで終わりだ。さっさと、説明に入るぞ。」

  「お願いします。」

  坂本の進退、いや身体の懸かった説明に改めて姿勢を正して白沢を見つめる。ふざけている場合ではない。

  「今からお前さんに施すのは、準備段階と呼ばれる状態に体を変態させる手術だ。最初に、一度体の不要な物全て取り除く。髪の毛だけではなく、爪や皮膚や生殖器や眼球等の外に接している部分を残らず引き剥がす。それと、肋骨、鎖骨、頭蓋骨などの上から下までの骨全てを取り除く。体を再構成するのに邪魔だからな、硬いものは極力排除する。その後、遺伝子調整した生体組織を残った人体組織と結合させ、特殊配合薬液の中で調整に入る。以上だ、何か質問は?」

  常識的に考えてネジが外れた会話を淡々と当たり前のようにこなす、この老人に坂本は現実感を感じられなかった。しかし、ただこのままイエスとは答えたくはない坂本は質問を白沢にぶつけてみる。

  「・・・ありきたりですが、痛みとかは。」

  「心配するな、途中までは痛くない。だが、調整後の体に最終段階観測用の機械を神経接続を確かめるために麻酔なしで下腹部に挿入させる。元々妊娠できない体になるんだ、気にすることは無い。」

  (はあ!?)

   前半の話もぶっ飛んだ内容だったが、後半は常軌を逸している。

  「いやいや、麻酔なしでそんなことされたらショック死しますよ。死人出てないんですか!?」

  「ああ、初期の初期の頃は結構な頻度であった。だが、技術の進んだ現代の科学なら問題は無い。」

 (問題は無いのか・・・。)

 強引に、自らを坂本は納得させる。心配など無いのだと、だから頭の中を空っぽにしろと。

  「それを聞いてあんし「一年に十数人ほどに押さえられたからな。」マジかよ・・・。」

  思わず、顔をそらして診察室の扉を確認したその動作は本能に近い動きだった。が、突如腹部に痛みが走る。堪えながら顔を前に向けると、白沢が麻酔銃らしき物を手にし、意識を失いかけている坂本をにんまりと嬉しそうな顔で見つめている。

  「それと、先ほどの君の質問だ二つだけ映画の役柄に似ている部分がある。」



  「ワシは医者で狂人だ。」

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