第六画 不
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清暦2001年 4月3日5時02分
「ふぅ……」
早朝、居間にやって来たシャワー上がりの昴。艶やかな煌きをした朱色の髪は、タオルで昴にクシャクシャに拭かれる。因みに、昴の今の格好は、スポーツパンツとシャツ一枚だけだ。
「十文字……か」
自分を圧倒し、先輩達と何の隔たりなく会話していた彼の事を思い出す。
「オレは……負けた…んだよな、んくっんくっ」
ペットボトルに入った水を一気に飲み干しぷは、と一息。
「けど、あいつはあの時、まだ全力を出していなかった……納得いかない……納得出来ない!!」
「昴」
「!…お婆ちゃん」
昴は後ろを向く。そこには昴の祖母が居た。
「どうしたの?そんな怖い顔をして……」
「……術書闘儀で、あるヤツに負けたんだけど……どうしてもそいつを認めたくない。あいつ、絶対オレの事を……!」
昴の祖母は、彼女の震えている拳をそっと包み
「お婆ちゃん?」
「納得行かないなら、もう一度戦えばいいじゃない。そうすれば、きっとその子の事を認めることが出来る。それに、戦うこと意外でも、その子を認めることが出来るかもしれない。だから、その子ともう一度面と向かってみなさい」
「……うん」
/※/
清暦2001年 4月3日10時29分
壱年壱組では授業が行われており、クラスの皆は真面目に受けている。楓は、隣の席を見る。隣には一が居るのだが、当の本人は爆睡である。一時間目からこの調子なのだ。
キーンコーンコ-ンコーン
「む、チャイムがなったか。今日の授業はこれで終了だ、皆各自休み時間をとれ」
「「「ありがとうございました!」」」
「一く~ん」
「……ぐー」
寝ている、涎を垂らしながら。
「涎出しながら寝てるなんて…ベタすぎだよ……一君起きて、授業終わったよ」
「んあ……おー」
「それと、昨日迅先輩の言ってた事気になるんだけど――」
「十文字はいるか?」
「「?」」
突然響く声。壱年壱組の教室の出口に、昴が立っていた。一はダルげに手をひらひら挙げ、ここに居るぞとアピールする。昴は一の席にやって来て
「ここに居たか。ちょっと話がある、ついてこい」
「は?おいおい、勘弁してくれ。俺はねむ――」
「いいから来い!」
昴は一の手を強く引っ張り、無理やり立たせる。
「ちょ、まてって!」
「一く~ん!」
そのまま何処かへ連れて行かれた一であった。
/※/
屋上へ連れて来られた一。まだ眠気が覚めていないのか、若干足がもつれている。
「何の用だよ。俺は…あ~ぁ…眠いんだが?」
「十文字、オレと術書闘儀でもう一度勝負しろ!」
「……はぁ?」
「オレはあんな負け方納得してねぇ!オレはお前の事を認めて居ねぇ!だから、オレともう一度戦え!」
ビシッと一に指を指しながら言う昴。一は頭を軽くかき
「断る」
「な…なに!?」
「あの勝負、俺がしっかり周りを見ていなかった、完全に俺のミスだ。まあ、どんな結果にせよ俺の負けだ。それなのにまた勝負だなんて、勝ったんだから良いじゃねぇか」
「ッ!……お前も」
「?」
昴は怒りの表情を浮かべ
「お前もオレの事をバカにしてやがんのか!オレが女だからかよ!オレが未熟だからかよ!」
よく見ると、昴は瞳に涙を溜め、潤んでいた。
「え、ちょ、待てよ。俺はそこまで……」
「うるせえ!!」
「ぐお!!」
昴の見事な右ストレートが一の左頬に決まり、その場に崩れる一。昴は踵を直ぐに返し、屋上を出て行った。
「ッ痛~~!!あんのヤロ……普通に殴りやがった……イテテ…眠気も覚めちまった…湿布貰いに行こう」
/※/
「あいつも……あいつもなのかよ……!」
昴は瞳から涙を流しながら廊下をはや歩きで歩く。
「昴ちゃん、どうしたの?」
「い、いや、なんでもねえよ!」
たまたま通り掛ったクラスメイトに声をかけられ、涙を荒く拭く。
「そう、ならいいんだけど…あれ?昴ちゃん、何時もつけてる髪飾りは?」
「え?」
昴は髪を触る。いつもつけている、羽の形の髪飾りがついていなかった。昴は青ざめ
「ッ!!」
「昴ちゃん!?」
方向を急に変え、昴は全速力で何処かへ走って行った。
/※/
「あれー?何で一君ここにいてるんや?」
「それはこっちの台詞だ!」
一が保健室に来ると、そこには先生はおらず変わりに居たのは薄笑いを浮かべた迅だった。
「何でも良いや……なあ、氷か湿布ねぇか?」
「勝手に保健室のもの使こうたら、僕が保健室のセンセーにどやされるやないか。僕嫌やで」
「ぐっ……じゃあ、何か冷やせるもんねぇか?」
「ちょい待っててな~。ところで、そん左っぺらんほっぺたどないんしたんや?」
「朱憐 昴に殴られたんだよ」
「なんで?なっと言わはったんか?」
「あ?えっと……」
先程の事を、迅に事細かく伝える一。すると迅は「あー」と声をあげ
「そらあかんやな~一君。朱憐家は代々おとこしが継いでいかはったモン、ちゅう事は知ってるよな?」
「ああ、それは知ってる。だから、朱憐の後継者が女って気づいた時は、結構驚いた」
「あの娘はばんばん優秀で、そん代ん子に昴ちゃんを越えるモンは居おへんどしたんや。ほんで、今までおとこしが継いでおいやした朱雀を、昴ちゃんが例外として引き継いだ」
迅は冷たいタオルを一に渡す。一は「サンキュ」と礼を言い頬に当てる。
「やけど、例外も例外。こん学園入ってさかい、昴ちゃん事をどなたはんも認めようとせいかった。ほして昴ちゃんは朱憐家んモンとして相応しいモンになるため、おなごさかいにって舐められへんように必死に努力どした。努力も実ったんか、二年生ん殆どはかな娘ん事を認めた」
「努力家……か」
「一君のさいぜんの発言、昴ちゃんの神経さかしま撫どするモンや。一君、あんたにしては失言やったな」
「……まあ、そうかも…な」
「そない言うたら、さいぜん昴ちゃんがモン凄い剣幕で走っとったな。なん時もつけとった髪飾りおへんどしたし、どこぞに探しにいったんかいな?」
一は思い出す。昴は右側の前髪に、羽の形をした木彫りの髪飾りをつけていたことを。
「かな髪飾りは昴ちゃんの亡くならはったおじーさんのモンで、むちゃ大事にしたはるモンやったな。多分あの娘にとって命ん次に大事なモンやろうなぁ~」
「命の次…ね」
机の上に一はタオルを置き、保健室の出口へ向かう。
「一君どないんしたん?」
「ちょっと…な」
「ほうか。あ、一つ忠告しておく。昴ちゃんを認めてる弐年は殆どや。殆どってしゃべる事は、少なさかいず認めてへんやつがいてるってことや、気いつけや」
「……」
一は無言で保健室を後にした。
「ククッ、やっぱり一君は優しいなぁ…。さて、後始末をしはる準備をしよけか……」
京都弁なんか好きです。何故かですが……何ででしょうかねぇ?




