第三画 暗
今年最後の更新になります。それでは、どうぞ!
「一君と真琴先輩ってどういう関係?」
龍翔学院の食堂にて楓が昼食をとりながら、向かいの席に座っている一にそう問う。
「あ? 別にお前には関係ないだろ」
「そ、それはそうだけど……気になっちゃって」
「……色々事情あるんだよ」
「色々?」
「そう、色々」
一は鯖の味噌煮を口にし「うまい」と一言。そして楓も同じく鯖の味噌煮を口へ運ぶ。
「お前も好きなのか?味噌煮」
「え? うん、昔お婆ちゃんが何時も作ってくれてね、何時も食べてくうちに好きになったんだ。一君も好きなの?」
「ああ、俺も昔よく食わせてもらってな。たまに食いたくなるんだよ」
「ふふ、私達似たもの同士だね――って何でそんな嫌そうな表情するの!?」
あからさま不快な表情で楓を見ている一。直ぐに表情を戻し
「いや…何か嫌だな~と思ってな」
「ヒドイよ~……それでね、ちょっと話し逸らしちゃうけど」
「逸らすのかよ」
「うん」と笑顔で頷く楓。そのまま話を続ける。
「私に幼馴染が居てね、その子も鯖の味噌煮好きだったんだよ」
「へぇ~幼馴染ね……」
「子供の頃、私身体弱くて家を出られなかったの。けどその子が何時も塀を乗り越えて遊びに来てくれて、お婆ちゃんがその子に鯖の味噌煮作ってくれて、それからその子も好きになったんだ」
「その子、その子って……名前知らねぇのかよ」
「え?」
楓は表情を暗くし俯きながら
「その子の名前も苗字も……知らないんだ。お婆ちゃんは知ってたらしいんだけど全く教えてくれなくて、その子は突然来なくなって、今どこで何をしてるかも私、分からないんだ」
下を向いたままでも分かるその暗い面つき。一はさてどうするかと、数秒悩んだ後
「……そいつ、今元気でやってるかもな」
「?」
顔を上げて、楓は一の事を見る。一は頬杖をつきながら
「お前みたいな奴と遊んでたんだ、そいつもきっとお前みたいで元気すぎる奴なんだろうよ。だから今も元気でやってんだろうさ。だからよ、そんな表情すんな。そいつだって、お前には笑っていて欲しいんじゃねぇのか?少なくても、俺はそう思うぞ」
「……」
その言葉に、楓は優しく笑み
「うん……ありがと、一君。私勘違いしてた、一君って言うことちょっと乱暴だけど、本当は優しい人なんだね」
「あ? はぁ……どうしたらそういう結論に行き着くことやら……」
「照れない、照れない♪」
「うるせぇ」
すると、一人の男子生徒が二人に近づき
「おい、ここは弐年生の食う場所だ。壱年はあっちに行け」
一は鬱陶しいと言わんばかりの表情をしながらそちらを見る。そこには、茶髪に、弐年生の証である、緑の帯を腰に巻いた男子生徒が居る。周りはざわつく。一方の一は「ふん」と鼻で笑い、楓は焦って一の方を何度も見る。
「おい! 聞いてるのか! ここは弐年の場所だ。さっさと――」
「――あのさ~」
「?」
一は椅子から腰を離し、弐年生の前に立つ。
「は、一君! だ、ダメだって……」
「お前は黙ってろ。先輩さんよ」
「川村だ!」
「じゃあ、川村先輩。食堂の学年別で食う制度、今年から無くなった筈なんだけど?」
「なっ!?」
川村は鳩が豆鉄砲を喰らったような表情をする。一はニヤリの笑い
「あれ、知らなかったんですか?確か今日の朝のHRで担任が全校生徒に伝えて筈ですが……ってことは、HRちゃんと出てなかったんですね?いけませんね、そうやって下の学年を脅かそうとするなんて。程度が知れますよ?」
一のその言葉に、周りがクスクスと笑う。楓は一の耳元で
「何でそんな事知ってるの?一君こそ朝のHR出てないのに…」
「俺の情報網舐めんなよ」
「は、はぁ……」
楓は苦笑いする。川村は身体を震わせ、一達に背を向ける。
「ちっ、この壱年小僧が……午後覚えてろよ」
「午後?…ああ、あれか」
「お前を壱年と弐年の晒し者にしてやる。覚悟しろ」
そう言い捨て、一達の目の前から川村は姿を消した。
「ねえ、一君。あれって?」
「おいおい、午後あんだろ。壱年と弐年の合同授業“術書闘儀”がよ」
次回戦闘します。来年の更新になりますが……川村、噛ませ臭が……。
それでは、良いお年を!!