VS空間の支配者
完全に自己満なので、内容に想像がつく方はブラウザバックでお願いします。
炎の支配者。
水の支配者。
地の支配者。
3人の支配者をその剣技で屈服せしめた彼女だけど、その物語は今正に終わろうとしているのかも知れない。
だって、今回ばかりは分が悪いとか、力の差があるとか、それ以前の問題だもん……今までの3人は、少なくとも魔術としてだって存在している属性だけど、空間なんて言う、伝説でしか聞いたことの無い属性を支配する奴なんかに、結局人間である彼女が勝てる訳が無い。
「どうも調子に乗っている様だな、小娘。人間如き矮小な生物が、我等を屈服させよう等と――愚か過ぎて笑うことすら出来んわ!」
突然空間を裂いて現れた銀髪の男。
空間の支配者クロノスは、明らかな憤怒を込めて彼女、ななしを睨み付けた。
それだけでわたしは気を失いそうになるけど、隣に立つ白髪の彼女は相変わらず無表情でそこに居る。
「剣を抜け。これ以上図に乗らぬ内に、このクロノスが貴様を葬ってくれる」
「…………」
わたしを見ることなく前に進み出たななしは、静かに剣を抜いた。
と、その瞬間振り返り、わたしの方へ猛然と斬りかかって来た。
「え、ななし!? キャア!」
「――――な!?」
「ぇ?」
でも、わたしが斬られていることはなくて、聞こえたのは金属同士がぶつかる高い音と、何故か目の前にいる筈のクロノスから発せられた驚愕の声だった。
「チィ……ッ!」
振り返っても、そこにクロノスは居ない。
どういうことか分からずに前へ視線を戻すと、ななしも居なくっていた。
さっきまで目の前に居たクロノスも。
「……どういうこと?」
彼女を殺そうとしたクロノスの攻撃を防ぐと、彼は私共々どこかに空間移動した。
着いたのは、何処ともしれない岩場で、今の技術じゃ人が辿り着けない場所であることは分かる。
――ここで1つの疑問が浮上する。
私を殺すなら、外に出さず空間の狭間に閉じ込めておけば良かったのに、どうしてかれはそうしなかったのか?
まさか正々堂々戦わないと気がすまないとか、そんな格好いい理由じゃないだろう。
戦闘開始早々、彼女を排除しようとした腐れ外道なんだから。
では何故か?
考えられる可能性は2つ。
1つ、狭間に異物を放置してはいけないから。
1つ、彼自身に大きな負担が掛かってしまうから。
前者の方がまだ可能性はある。
後者なら、暫く放置しているだけで、私は死ぬ。
唯の人間が空間の狭間に放り込まれたら、それこそ1秒と保たないだろう。
――――ギャリィン!
眼下から迫ってきた大剣に刃を滑らせ、裂け目の中へ刺突を繰り出す。
グシュリと、刃先が肉を斬る感触が返って来た。
直ぐに引き抜き、後ろへ偏った重心を利用して回し蹴りを繰り出せば、狙い通り大剣にヒット。
弾き飛ばすことが出来た。
暫くその場で待機していると、やがて前方5m程の所の空間が裂け、右肩から血を流しているクロノスが姿を現した。
「小娘ェ……!」
怒っているのはこっちだ。
この戦いに関して何の関係も無い彼女に手を出したんだから。
イフリートもウンディーネもノームも……3人は手を出そうとすらしなかったのに。
カチャリと音がして、柄を握っている手に知らず力を入れていることが分かった。
気を鎮め、柄を握りなおす。
「生まれたことを後悔させてやる!」
叫んだクロノスは空間から長剣を引き抜き、力任せに斬りかかってきた。
剣で受け止める必要も無い程乱暴な太刀筋だけれど、その目は確実にチャンスを狙っている。
確かに怒ってはいるけど、半分以上が演技による物。
腐っても支配者ってことなんだろう。
少しずつ太刀筋が綺麗になってきている。
でも今度は、綺麗過ぎて読みやすい。
「ちょこまかと動きおって!」
来た!
振り上げられた長剣が降りてくる瞬間バックステップ。
視界の左から現れた長剣が直前まで私のいた場所を斬り、その後を追う形で正面へ突っ込む。
そこに立っているのは演技でも何でもない、本当に驚いた表情を浮かべているクロノス。
「貴様は――――」
言葉は最後まで聞かず、握った剣を心臓へ突き立てた。
ななしとクロノスが姿を消してから数分。
どうしようか考えあぐねているわたしの耳に、
――キン
と言う、高く澄んだ音が響いた。
次いで聞こえたのは、土を踏む音。
地面しか映していない視界には、見慣れたななしの靴。
……って、え!?
「ななし!?」
弾かれた様にとはこのことか。
顔を上げるとそこには変わらない姿でななしが居た。
今回も傷1つ負わなかったみたいで、身に纏っている服はどこも斬れたりしていない。
いや、そうじゃなくて。
「勝ったの!? クロノスに! 空間の支配者に!?」
「…………」
無言で頷いたななしは、早く行くぞと言う様に歩き出した。
「あ、待ってよ! どうやって勝ったの! ねえ! ななしってば!」
その後を、わたしは慌てて追い掛ける。
結局いつもと同じで、ななしは何も言わずに先を歩くだけだった。
でも、最近はそれで良いと思っているから、我ながら不思議だ。
とにもかくにも、ななしはまた無敗記録を更新したんだね。
うん、良かった良かった。
次は時間の支配者との戦いです。いつ書くかは未定。