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俺たちの創世物語-ジェネシス-  作者: 白米ナオ
第一章 そして出会った二人と本
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第一章 ⑤

 視界が戻ると、そこは最初にいた空間だった。

 しかし今までと違うのは、隣に天宮がいる。それと、目の前に例の本が浮かんでいる。

「やっと姿を表したか。でいうか本当に姿も本なんだな……」

『まあな。この世界では想像次第で姿も変えられるが、この形が一番落ち着くのだよ』

「この世界では何でも出来るんですね~」天宮は楽しそうだ。

「で、これからどうするんだ? 契約の儀式でも行うのか?」

『ほぅ、分かっているなら話は早い。その通りだよ』うわぁ……本当だった。

「どうやって契約するのっ? まさかキスとかっ?」

 天宮は相変わらず楽しそうだ。さっきまでの涙はどこへやら。

『そうだったらいいのだが、違うよ。いくつかの申請をしないといけないのだ』そうだったらいいのかよこの助平本が!

「申請? 契約書にサインでもするのか?」

『いや、いくつかの質問に答えるだけでいい。小難しいことは嫌いでね』

「そうか。じゃあさっさと始めようぜ」

『では、最初にこの世界でのペンネームを決めてもらいたい』

「……は?」

 意味がわからない? 大体ペンネームって何だよ。

「つまり、この世界だけに通じる名前を勝手に決めなさいという事だよね?」

『その通りだよ。流石だね、天宮君』なんだ、そういうことか。

「それは、現実の名前じゃダメなのか? 正直今すぐ決められる自信が無い」

『現実の名前でも構わないが……本名のまま表紙には反映されるぞ?』

 あぁ、そういうことか。俺がここに天宮がいると分かった理由は、表紙に浮かび上がった名前のおかげだ。

 あの時はまだ所有者ではなかったから本名で反映されていたのだろうが、所有者ではない俺が見ても名前は見ることが出来た。ということは……。

「現実で誰かがもしもこの本を閲覧したときに、現実の名前だと俺たちがこの本にいると外部からでも分かるってことか?」

『そういうことだ。この本は所有者じゃなくても閲覧できるし、想像力があればこの世界にゲストとして入ることも出来るからな。我にセキュリティなんて言葉は無いに等しい』

「ちょっと待て、想像力があれば誰でも入れるのか?」そんなの聞いてないぞ。

『我は世界を創りだす存在だぞ? 所有者が創った世界を所有者しか閲覧できないのでは、結局我の存在意義はあってないようなものだろう』

「そりゃそうだけど……じゃあ俺たちが作る世界は周りの人間に干渉されるのか?」

『それはお主らが創る世界によりけり、だな。面白そうな世界なら閲覧した人は入りたいと思うだろうし、そうでなければそれまでだ』

「そうなんだぁ……坂本君、なんだかわくわくしない? あたしたちの世界が現実になるなんて夢にも思ってなかったけど、今はすごく楽しみ」

「本当に楽しそうだよな……でもそれが他人に見られるのは正直恥ずかしくないか?」

「そんなことないよ! あたしとしては、むしろ他の人が楽しんでくれるような世界を作り出したいなんて思ってるんだぁ。どんな世界にしようかなぁ~」

 こういう時に天宮のプラス思考が羨ましい。俺もそれくらい積極的だったら、この状況を楽しめる余裕もありそうなもんだけど。

『とりあえず、世界を創るのはペンネームを決めてからだ』

「そうだったな……うーん、どうしたものか」

「あたしは……決めたっ! 〝聖子〟の〝聖〟を英語にして〝セイント〟、名前っぽくして〝セイン〟にする!」

 あっさり決まってしまった。そういう決め方もあるんだな……。

『了承した……登録者〝天宮聖子〟、ペンネームは〝セイン〟!』

 そう叫ぶと、天宮の周りが例の白い光に包まれる。

 何か起きるのかと見ていたが、光が消えても特に変わったところは無い。今の光で天宮の情報を読み取ったのだろうか。

『登録完了だ。さて、あとはお主だけだぞ、坂本龍馬』

 くそっ、またフルネームで呼びやがって……。

「ってちょっと待て! 俺はお前に名前を教えた覚えはないぞ?」

『そろそろ我のことを理解してくれると思っていたのだがな……我は閲覧者の情報はお見通しだ。

 最初に来たとき光に包まれただろう? あのときに個人情報は把握済みだ』

 恐ろしい。こいつを敵に回したらものすごく危ない目に遭いそうな気がする。

 あれだけで初対面の人間の情報を読み取るとか、心読むとか……反則だろ。

「悪かったよ。これからはもう少し考えてから発言するわ。それより、ペンネームをどうするかだよな……龍馬、りょうま、リョウマ、Ryoma……」

「だったらあたしが決めてあげる! 分かりやすいほうがいいよね~……〝龍馬〟の〝龍〟を音読みで〝リュウ〟、格好いいし呼びやすいからそれでいいよね?」

 なんというか……やけにあっさり決められてしまった。別に不満はないけどさ。

「天宮がそういうならそれにしようかな。確かに分かりやすいけど、現実の俺とは誰も思わないだろう。

 ……それでいいか? えーと……今更だけどお前の事なんて呼べばいいんだ?」

『本当に今更だな。普通は最初に名前くらい言い合うものだろう……我の名前は表紙に書いてある言葉そのままだ。

 だが、それに宿る我の意思は人間だった頃の名前をそのまま使っておる。我の元の名前は天王寺帝。〝ミカド〟と呼んでくれればよい』

「すげぇ名前だな。じゃあミカド、俺のペンネームは〝リュウ〟で頼む」

『了承した……登録者〝坂本龍馬〟、ペンネームは〝リュウ〟!』

 またしても俺を白い光が包み、特に何も変わらず光が消える。何度やっても慣れないな。

『登録完了だ。ではリュウ、そしてセイン。次はお主らで世界を創造してもらう』

 ついに来たか……興奮と緊張で手が震える。同じ事を思ったのか天宮も目を輝かせていた。

『どのような世界が生まれるかはお主らの想像力次第。まずは世界の基盤となる〝世界観〟をよく考えるのだ。これが無くては世界の流れは定まらないからな。いくつか前の所有者は戦時中を想像して、ものの数日で我の中で命を落としたよ』

 それは確かによく考える必要がありそうだ。俺の中ではある世界が最初から定まっているのだが、天宮はどうなのだろうか……。

「大丈夫。坂本君の考えていることと多分一緒だよ」

「じゃあ、一緒に創ろう……初めて俺たちを巡り合わせたジャンルで構わないよな?」

「さっきから言ってるでしょ? 坂本君とあたしの考える世界は一緒だって」

 そういうと天宮は突然、俺の手を握ってきた。

 恥ずかしくて振り払うことも考えたが、〝一緒に創る〟と言うことに深い意味を感じて、こうしているのだろう。俺も握り返した。

 俺は目を閉じ、想像し始めた。おそらく天宮も想像し始めているだろう。

 不思議と、天宮の想像していることが俺にも伝わり、俺が考えていることも天宮に伝わる。

 同期した想像は二人の間を駆け巡り、一つの世界を紡ぎだす。

 白い光と共に小さな星が生まれ、星の中に海が生まれ、大地が生まれ、そこから草木が芽生える。さらに季節が生まれ、気候が生まれ、自然が形を成す。その自然に生物が生まれ、文明が各地で発展し、土地特有の共同体が生まれ、村となり、営みが生まれる。

『それが、お主らの望む世界か?』ミカドが頭に直接問いかける。

「「そうです」」

『了承した。では、その想像を形にするのだ。こればかりは我が手伝わねば厳しいだろう』

 俺たちは想像を具現化するために、ただひたすら信じた。俺たちの手で生み出したこの世界こそ、真の〝現実〟であるということを。

 俺たちを包んでいた白い光がいっそう強く光り、とくん、とくんと鼓動を打ち始めた。俺は、世界が生まれた瞬間なのだと悟った。

『我のサポートなしでここまでの世界を築き上げるとは……想像以上だ。これなら世界を完成させるに十分な想像力となるだろう』

 だが、もう少しで世界が完成するというところで、脳が焼き切れるような激しい頭痛が起こった。天宮も同じらしく、握る手の力を強めて、時折苦しそうな声を漏らす。

『流石にここまでが限界だな。あとは我に任せるがよい……想創(ジェネレート)! 〝二人の世界(ザ・ワールド)〟!』


 今までいた薄暗い空間にヒビが入り、割れた。すると、俺たちの立っていた場所は空に囲まれた。足場はあるのだが、真下にはさっき俺たちで想像した世界が広がっているのだ。

「すごい……本当に世界がある……完全に想像通りだ」

 俺たちが想像した世界は予想以上にリアルで、しかし神秘的だった。

 まずは地形、これは今まで読んできたファンタジー物にはあまり無かった〝天動説〟の地形、つまり〝地球が天体の中心にあり、周りの星が回っている〟という考えである。付け加えれば世界は平面で出来ており、世界の端は海が流れ落ちているという考え方だ。

 足元に広がる世界はまさにその通りで、北と南に大陸が一つずつあり、他にも小さな島がちらほらと見える。よく見ると、宙に浮いている島もある。

 そして世界の中心には大きな山がそびえ、山の中央の火口には先程から見ている白い光が、天に向かって塔のように渦巻いている。これは想像した覚えが無いが。

『それはな、この世界の源となる想像力なのだよ。我が作る世界はどんな世界であっても、あの光が無ければ維持することは出来ん』

「それにしても、綺麗な光だよね……あれの正体は一体何なの?」

 天宮は興味深そうにミカドに尋ねる。

『あれはこの世界において想像力を可視化した〝想創光(ジェネレート・レイ)〟というものだ。

 この世界のあらゆるものは、あれを人の意思によって呼び出し、具現化することで成り立っているのだよ』

 言われてみれば思い当たる節はいくつもある。俺が〝木刀〟を想像したときも左手があの光に包まれて、直後に本物の木刀を創り出した。

 天宮の〝炎〟だって(毒にまみれて記憶はおぼろげであるが)最初は指先から光を発し、それが増大することによって大きな火球を創り出した。

 つまり、この世界の万物はあの光無しでは創り出すことは出来ないのだろう。ここに来て実感させられるが、この世界では想像力が全てなのだ。

 想像力が無ければ何も創り出せず、この世界においての生きる意味を失ってしまう。

「なるほどねぇ……今のである程度この世界について理解できた気がする」

『では、次にこの世界に名前をつけてやってくれないか? 名前の無い世界なんて、とても悲しすぎるからな』

「そんなのとっくに決まってるぜ。多分天宮もな」

「もちろんだよ! あたしも世界が出来上がっていく中でもう決めてたもん」

そして、二人は手を握ったまま、大きく息を吸い、世界の名を叫んだ。

「「幻界(ファンタリオン)!」」

 叫んだ途端、足場が崩れ、空中に放り出された。

 ……死なないだろうな?


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