エピローグ
爺ちゃん、俺は無事にこの世界へと帰って来たよ。
俺が幻界で一度死んだときはどうなるかと思ったけど、あの後いくつかの奇跡が起きて、結果的に幻界の崩壊は免れた。どれもこれも、爺ちゃんのおかげだと思う。
そうそう、あの後シェイディアに戻ったんだけど、俺のような無力な存在でも、あの村の平和は守れたみたいだ。詳しく話すと、まぁこんな感じかな……。
相変わらず暗い街に入ると、すぐに人が遠ざかっていく。おそらくシュンが普段どおりの姿で歩いているからだろう。カブトムシ襲来事件のほとぼりはまだ、冷めていないらしい。
「シュン、あんまり気にするなよ? いちいち意識してたらキリが無い」
「もちろんだ。用事を済ませたらすぐにでも立ち去ろう」
探し人は、思いのほか早く見つかった。街道を歩いていると、カブトムシが荒らした建物の残骸が残っており、その近くに女性と二人の娘はいた。
俺たちが声を掛けるより早く、二人の娘がこちらの存在に気がついて嬉しそうに叫ぶ。
「あっ、おにーちゃんがかえってきた!」
「ほんとだ~! おかーさん! おにーちゃんたちがかえってきたよ~!」
その声を聞きつけた女性はすぐさま振り返り、そして娘を連れて駆け寄ってくる。俺たちの目の前に来ると、娘たちはセインとシュンに抱きつき、女性は涙を流しながらお礼を言う。
「……よく帰ってきたね。あんたたちならなんとかしてくれると信じてたよ。世界が想創光に包まれたときはどうなるかと思ったけど、あんたたちは生きて帰ってきた。
……やるべきことは、しっかりやってきたんだね?」
「はい。これでもう、この街に虫が来ることは無いと思います」
俺の言葉を聞いた女性は、目の前で手を組み天に祈りを捧げた。
「……あんたを殺した虫たちは、もうこの街には来ない。もう二度と、あんたのように虫に殺される人間はいなくなるんだよ。……もう、心配しなくていいんだよ」
堪えきれなくなった女性は滂沱し、それを娘たちが慰めていた。
「おかーさん、なかないで?」
「おかーさんがわらってないと、わたしたちもかなしいよ~」
「あんたたち……ありがとうね」
女性は屈んで娘たちを抱きしめる。そんな母親を娘も強く抱きしめ返す。
その様子を見ていたセインはもらい泣きしている様子で、眼鏡を外して涙を拭っていた。シュンも同じような感じで、涙を流すまいと必死に堪えていた。
「人の心とは、こんなにも温かいものなのだな。もっと早く気付くべきだった」
そんなシュンの肩を俺は軽く叩き、小さく告げる。
「今からでも遅くないさ。いつかきっと、お前の存在を必要としてくれる人が、俺たち以外にも現れるはずだ。
差別だって、俺たちがこれからこの世界を変えて、無くしてみせる」
「……そうだな。俺の人生は、これから新しく始めればいい」
シュンは頷き、目から流れ落ちた涙をそっと拭い取った。
そんな空気が数分続くと、落ち着いた様子の女性は立ち上がり、改めて礼を言った。
「本当にありがとう。あんたたちの偉業は絶対に忘れない。街の人間にも広く伝えて、この街の英雄としてあんたたちの活躍を語り継いでいくよ。
こう見えても、あたしはこの街の被害者の会初代会長だからね、顔は広いほうなんだ」
すっかり元気を取り戻した女性の言葉に恐縮しながら、セインが答える。
「なんだか照れくさいね。でも、ありがとうございます。
あたしたちはもうすぐこの街を出ますけど、何かあったらいつでも駆けつけますから。……お子さんを大事にしてくださいね」
「もちろんさ……この子達は今後、平和になった森ですくすくと成長するよ。またいつか、この子達の成長した姿を見に来ておくれ。
……特にあんた、差別なんかに負けるんじゃないよ」
最後の一言は、シュンに向けられた言葉だった。シュンは真剣な表情で頷き、そして答える。
「お気遣い、ありがとうございます。俺にはこんなにも心強い仲間がいる。もう差別なんかには負けません……君たちも、強く育つんだよ?」
シュンは屈むと、娘たちの頭を撫でた。二人は上目遣いで見上げ、寂しそうに尋ねる。
「おにーちゃん、いっちゃうの?」
「まだいかないでよ~。もっとあそんでほしいな」
「俺は行かなきゃならないんだ。まだやるべきことがあるからね……でも、もし俺のやるべきことが終わったら、またこの村に遊びに来るから。それまで待っていてくれるかい?」
シュンが微笑みながら言うと、二人は寂しそうな表情で、しかし大きく頷いた。
それを見たシュンはすっくと立ち上がり、背中を向けて歩き始める。
「ほら、行くぞ。……元気でな」
歩きながらシュンは振り返らず、小さく手を振るに留めた。
俺も後に続き、セインは慌てて俺とシュンを追いかける。
「待ってよ~! ……じゃあ、あたしたちはこれで失礼しますっ」
振り向いてペコリとお辞儀をすると、セインは急いで駆け出した。
そんな俺たちの背中を、女性と娘たちはずっと見送っていた。
街を出ると、すぐに萌先輩とミカドに合流した。
「いやぁ~……深いねぇ。何を言いたいのかさっぱり分からへんわ」
理解しているのかしていないのか、よく分からない台詞を吐きつつ、萌先輩は大きく伸びた。
先輩もミカドの長話を聞き続けて結構疲れているのだろう。
『はぁ……ここまで話しても理解してもらえないのは、お主が初めてだ』
ミカドもまた、話し疲れている感じだった。言葉から察するに何度も同じ説明をしたのだろうが、結局理解してもらえなかったらしい。
そんな光景を眺めつつ、隣に立っているシュンに静かに問いかける。
「……これでよかったのか? 残ろうと思えば残っても構わないが」
「何を言っている。街を出る前に言っていたじゃないか、〝この街だけで終わらせる気は無いが、構わないか〟と。俺は最後まで付き合うつもりだぞ?」
「そんな泣きそうな目で言われても説得力に欠けるけどなぁ」
シュンは反応してすぐに目を擦るが、涙は一滴も見当たらない。
はっとしてニヤリと笑う俺の方を見ると、悔しそうに地団太を踏んだ。
「汚ぇぞ! くそっ、おちょくりやがって……」
「あはは、悪かったよ。
……今度この街に来る日がいつになるかは分からないけどさ、その時までに俺たちはこの世界をもっと幸せにするんだ。……長い道のりだぞ?」
「ふん、望むところだ。何処までもついて行ってやるよ」
改めて顔を合わせると、俺たちは楽しそうに笑った。
その笑顔に、初めて出会ったときの悲しげな面影は何処にも見当たらなかった。
それを見ていたセインもクスリと微笑む。きっと俺と同じことを考えていたのだろう。
常闇の街の外れに、小さいけれど明るく暖かい陽だまりが出来ている気がした。
シュンは随分と明るくなったし、俺も爺ちゃんと出会って成長できたと思う。
あの時、爺ちゃんは俺に力を与えて消えてしまったけど、なんてったって幻界は想像が全ての世界。あの世界でもっと強くなって、守りたいものを守れるようになれば、そのうち爺ちゃんとまた話せると俺は信じている。
今はこうして仏壇に話しかけているんだけど、今でも爺ちゃんは俺の心の何処かに住んでいて、いつでも見守っていてくれているのだと思う……思いたい。
そんな爺ちゃんに、一つだけ面白い話を。
俺がデーテを倒した後に、一回セインが消滅しそうになったんだけど、そこに偶然俺の先輩が幻界に入ってきたんだ。
奇跡的なタイミングで来てくれたから、こうしてセインが生き返って幻界も安泰なんだけど、その先輩が幻界に入ってくるまでの経緯ってのが傑作なんだ。それがさ……。
場が和んでいる中、萌先輩が思い出したようにあっと叫んだ。
「せや! ウチ今日は早ぅ帰らんといかんねん。ここから出るにはどうすればえぇの?」
きっと萌先輩は、外の世界と幻界の時間差を知らない。
そのことを指摘しようとしたが、流石に俺とセインも疲れきっている。外の世界に帰るにはいい機会だろう。
俺はこの中で唯一の幻界の住人、つまりシュンに別れを告げる。
「そういうことだから、俺たちはそろそろ行くよ。……とは言っても、シュンにとってはほんの数秒間の別れなんだろうけど」
「でも、あたしたちにしては一日以上の時間この世界を離れないといけないんだよ?
なんだか不公平だよね~。出来事を忘れちゃったらどうしよう……」
『まぁ、そんなことを言っても、お主らがこの世界の出来事を忘れることはまず無いだろう。
この街での出来事も、辛い戦いも、改めて振り返ればいい思い出だったりする。もちろん悪い思い出もいくつかあるだろうが……たまにはそういう経験をすることも、成長するうえでは大切なことだ。
今回のデーテとの戦いで、我も省みる点はいくつかあった。今後はお主らの安全を考慮した上で、最善の手段を指示できるようにしていこうと思う』
長いこと語った後に、さらに付け加える。
『それに、我にはとっても便利な機能がついておる。あちらに帰ったら教えてあげよう』
意味深な言葉を発したミカドに首を傾げつつ、すぐにこの世界から出ることにした。
「じゃあ、また後でな。……そっちの世界でも元気で」
シュンの言葉に対して首肯で返事をすると、俺とセイン、そして萌先輩とで手を繋ぎ、全員で高らかに発声する。
「想創! 〝脱世界〟!」
俺たちは想創光に包まれ、体が軽くなる感覚と共に視界が白に染まった。
視界が戻り、目を開くとそこは俺の部屋。隣には天宮と萌先輩がいた。
全員無事に戻ってきたらしく、時刻は十二時四十七分。幻界に入ったのが十時過ぎなので、この世界の時間では二時間四十分くらい経過している。
幻界の時間にしておよそ半日、ずっとこの本の中で行動していたことになる。生活のリズムがガタ崩れしそうだ……。
時間の違和感に気がついた萌先輩は、あからさまに首を傾げている。
「……ウチ、小一時間はこの本の中におったと思うんやけど」
「まぁ……いろいろあるんですよ。いろいろ」
説明してもよかったけど、俺一人で説明する自信が無いし、天宮もかなり眠そうにしているから頼れない。このことについてはまたの機会でいいだろう。
改めてこの部屋を見渡す。久しぶりに見た俺の部屋だが、最初より少しだけ散らかっているのは気のせいだろうか?
そんな疑問を抱きつつも、最初から気になっていたことを萌先輩に尋ねる。
「あの……萌先輩」
「ん? 何か用かいな?」
「えっとですね……何故先輩は、俺の家にいらっしゃるのでしょうか?」
天宮にジト目で見られながらも、恐る恐る質問をする。何故そんな目で見られているのかは、さっぱり分からないのだが……。
「あぁ、そのことか!
ウチな、あの後警察に届け出たんやけど、あんまり事情聴取とかされへんかってん。せやから、今日の朝から生徒会室に行って、会長権限使ぅて龍馬の家の住所を調べたんや。
そしたら、なんや人気の和菓子屋さんらしいやん。ちゅーわけで、お礼も兼ねていっぺん龍馬の家に行くことにしたんや」
「……突っ込みたいことはいろいろありますが、あえて言いません。続けてください」
「そか。そんで龍馬の家に着いたはええんやけど、困ったことにお金を持ってくるのを忘れたんや。
ウチが店に入れんで困っとるとな、なんやえらく美人な女性が出てきたんで、咄嗟に〝ウチは龍馬の知り合いです〟ってゆーたんや。そしたら家の中に案内されて、ウチの大好きな苦ーい抹茶と茶菓子を出してもろたのね。
でも、さっきまでおった龍馬がおらんって言われてな、気になったウチは勝手に部屋に入りこんだっちゅーわけ」
「……それからどうなりました?」
「んー……部屋に入ったら、机の上にやけに古びた本があるやん。これは怪しいとウチのセンサーが反応して、気がつけば勝手に開いとったんや。
最初は何も書かれとらんまっさらなページやったんやけど、いっぺん閉じてもっかい見たら、ぎょうさん文字が書いてあるやん。字ぃ読むんはあんまり好きやないんやけど、怪しすぎるからいっぺん読んでみたんや。
したらな、急に文字が浮かんだり消えたりして、最終的には〝頼むから、助けてくれよ〟って出てくるし、もう訳分からんくなって一回本を閉じたん。ほんでも気になってもっかい開いたら、今度は意味深な文章が出てくるやん?
えーと……何やったっけ?」
「〝我らの世界を、その身を以って確かめたいか?〟ですよ」
天宮が冷静に答えるが、なんだかさっきから空気が冷たいような。
「それそれ! それにウチが反応して返事したら、いつの間にかあの世界におったっちゅーわけや。
……ふぅ、えらく長く話すと疲れるなぁ。これで分かったかいな?」
「……えぇ、なんとか状況は理解しましたよ」
結局、あの出来事は奇跡以外の何物でもなかったのだ。萌先輩が気まぐれで俺の家に来て、母さんが偶然家に上げて、そして丁度いい時間に萌先輩が偶然入り込んだ、ただそれだけ。
「理由はともあれ、天宮を助けてくれて本当にありがとうございました」
その言葉を聞いた萌先輩は、胸をどんと叩きながら誇らしげに答える。
「ま、生徒が困っとるところを助けたるんが、会長ってもんや。それに、ウチには龍馬に借りを作っとるからなぁ……これでチャラにしてくれるとホンマ助かるわ」
「とんでもないです! むしろこっちが大きな借りを作った感じですし……」
俺の言葉に萌先輩はキョトンとし、そして獰猛そうな表情を浮かべる。
「むふふ……ほんなら、生徒会の雑務でもタダで手伝ってもらおうかな~。
ついでに私事でもいろいろ呼び出して――」
「先輩! 龍馬は先輩の召使じゃないんですよ!」天宮、今さり気に呼び捨てしたな。
「冗談や冗談。結局ウチは今後この本の世界にお世話になるんやから、それでおあいこや」
流石にその言葉には納得したようで、天宮も引き下がった。
「そういえば……ミカドが言ってた〝便利な機能〟って何なんだ?」
さっきから聞こう聞こうと思ってはいたが、萌先輩にペースを持っていかれたので、聞く機会を完全に失っていた。ミカドは表紙を開くと、いつものように文字を浮かび上がらせる。
『よくぞ聞いてくれた! 我のページを捲るがよい』
偉そうな口調を頭の中で声に変換して苦笑しつつ、言われたとおりにページを捲る。最初のページを捲って、俺と天宮はあっと声を出して驚いた。
何も書かれていなかったページに、文章が書かれている。
驚きつつもその内容を読んでみると、今までの出来事が事細かに綴られている。
初めて幻界に降り立った事、シュンとの出会い、火蜥蜴との交戦、シェイディアでの襲撃事件、そしてデーテとの死闘と奇跡の復活。
「……これって誰でも読めるのか?」
恐る恐るミカドに尋ねてみると、ある意味予想通りの返答をする。
『もちろんだ。お主らを主人公とした物語を紡ぐのも、我の役目の一つなのだ』
俺はがっくりと肩を落として項垂れる。主人公になるのは構わないけど、俺たちの行動一つ一つを文章にされるのは勘弁してほしいもんだ。
一方で、天宮は嬉しそうに目を輝かせた。そんなに嬉しい事なのかね……嬉しいんだろうな。
「そう落ち込むなや。この機能のおかげで、ウチはじぶんらの状況が把握できた訳やし」
それもそうか……萌先輩が来てくれなかったら、文章に著すどころか、この世界の存在が消えていたのだ。感謝しなければいけないな……。
『ま、そういうことだ。お主らはこれから〝創世物語〟において主人公となるのだから、読者の心を揺さぶるような活躍を期待しているぞ?』
「うん! ……あたしも、リュウの足を引っ張らないように頑張らなきゃ」
神妙な面持ちで呟く天宮だが、俺は足を引っ張られているなどこれっぽっちも思っていないのだ。
むしろ、いつだって支えられているのはこちらの方だ。
だからこそ、俺は天宮を守りたいと思えるのだ。
そのことを恥ずかしながら口にしようとしたとき、萌先輩がすたっと立ち上がった。
「ほな、ウチは今から学校で生徒会の仕事片付けんとあかんねん。お先に失礼するで~」
置いてあった鞄を持ち、俺の部屋を出ようとする。
見送ろうと俺も立ち上がったとき、すれ違いざまに萌先輩が俺に小さな声で耳打ちする。
「……あの子の気持ちにも、気付いてあげぇや? 龍馬ってニブそうやからな~」
あの子、というのは間違いなく天宮のことなのだろうが、気持ちとは何のことだろう?
急に言われても心当たりが無いのだが……よく分からん。
「じゃああたしもそろそろ失礼するね……今日は疲れちゃった」
天宮も眠そうな目で告げた。ミカドとケーキ作りの用具を手早くまとめると、萌先輩と一緒に階段を下りた。そのまま裏口へと行き、玄関の外へ出る。
……太陽、久しぶりに見た気がするなぁ。眩しいなぁ。
「ほんじゃ、また今度な~」
萌先輩が先に手を振りながら歩き始めた。俺も手を振り返し、天宮も控えめに手を振る。
そして萌先輩の姿が見えなくなると、天宮は俺の眼前へと迫り笑顔で質問してくる。
「……で、あの先輩とはどういう関係なの?」
なんとも凄みのある笑顔が天宮らしくなくて怖かったが、正直に答えてもやましいことはないので、素直に答えることにした。
「それはまぁ、カクカクシカジカで……」
前日の夜の出来事を簡潔に説明すると、どこか安心したように胸を撫で下ろした。
「なぁんだ。そんなことなら、今後の生活にも影響はなさそうだね。よかったぁ~……」
何が良かったのかは分からないが、追求すると面倒くさそうなことになりかねないので止めておいた。俺だってもう疲れているし……。
「じゃあ……龍馬君、また明日ねっ!」
花が咲いたような笑顔で別れを告げると、軽くスキップしながら帰っていった。
「……何だったんだ、今の?」
「龍馬にはまだ、女心ってのが分かっていないみたいね」
「おわっ!」
気がつくと、後ろには母さんが立っていた。箒を持ちながら遠くを眺めるような目をしていて、楽しそうに俺を茶化す。
「龍馬にも女の子の友達が二人も出来たなんてねぇ……あの子もいつか紹介しなさいよ?」
「べ、別にそんなんじゃねぇって!」
自分で言って何が〝そんなん〟なのかは分からなかったけど、雰囲気的に俺の苦手な分野に入りそうだったので反論しておいた。母さんは苦笑し、そしてポツリと呟く。
「あの子達も、今後苦労しそうねぇ……」
「ん、何か言ったか?」
「何も。さて、そろそろお昼ご飯だから準備手伝ってくれる?」
「はいはい」
そんな感じで、とてつもなく長かった一日の午前中が終わった。
……すごいだろ? あの先輩が気まぐれで家に来ていなかったら、今頃幻界は消滅していたんだから。本当に何度感謝しても足りないよ。
結局、天宮を助けたのは萌先輩だったけど、今度いつまた奇跡が起きるかは分からない。奇跡が起きなかったときのためにも、自分の力だけで俺は天宮を守りたいと思うんだ。
爺ちゃんのように強くなれるか分からないけど、俺は俺の持っている強さで守るべき人を守りたい。それが、俺の目標である爺ちゃんの願いなのだから。
今日の出来事で、爺ちゃんには本当にお世話になった。あの世界だからこそ爺ちゃんと会えたのだけど、今度はいつ会えるか分からない。もしかしたら、二度と会えないのかも知れない。
でも、この後の長い旅路で、いつか爺ちゃんとまた話せるようになったら、その時は剣道の試合をしたいし、生前話せなかった分も話したい。
今度会うときは、もっと強くなって誰でも守れるような、そんな人間でいたいと思う。幻界でも、こちらの世界でも強くなって、いつか爺ちゃんを超えるんだ。
俺たちの創世物語は始まったばかりだけど、これからも道中何処からか見守って欲しい。
おっと、長々と話していたらもうこんな時間だ。そろそろ疲れたし、寝ることにするよ。
それじゃ、お休みなさい。
……というわけで、完結ですっ!
とはいえ、この作品をここで終わらせてしまうのは実に惜しい。なので、まだまだ続きは書いていこうと思っています。基本的には続編なのですが、たまに短編とかスピンオフとかは書いていこうと思うので、執筆スピードは以前より格段に落ちるかと思われます……。その点ご了承いただけると幸いです<(_ _)>
もっと細かく書きたいところですが、それは活動報告に取っておこうとおもいますので、少し短いですがこれで締めさせていただきます。
最後に、ここまで読んでくださった読者様方、今までお付き合いくださり本当にありがとうございましたっ!!




