第五章 ③
「はははっ! 聞こえる、聞こえるぞっ!
恐怖に怯え絶望に包まれる、この世界の住民の叫び声がっ!
もっと、もっと叫べ! そして世界と共に滅べっ!」
俺が目を覚ましたとき、デーテは天に向かって叫んでいた。
恍惚の表情を浮かべ、腕を広げながら世界が崩れ去る様子を見届けている。
「……どうだい、ミカド。自分の力で創られた世界が、こんなに簡単に崩壊する様は。それを見ているだけで、何も行動できない己の無力さは。
君の心中を、聞かせてくれよ?」
問われたミカドは、遠目に見ても分かるくらい憤りに震えている。
『……貴様に話すことなど何もない』
「ふん、そうか。だったら、そのまま世界が滅びるまでじっとしているがいいさ」
そこまで言うと、デーテの下に先程シュンを襲ったであろう虫の一匹が戻ってきた。ムカデのようなその虫は、デーテに近づくと重みのある声で報告する。
「……獲物は無事に処分、死亡を確認しました」
デーテはさらに高笑いし、セインとミカドに向けて叫ぶ。
「聞いたか? お前らの大事な雑種の友達は死んだそうだ! 残念だったなぁ!」
それを聞いたミカドはその場に固まり、意識を取り戻したセインは震える足で立ち上がる。
「よ、くも……よくも、シュンを、っ……許、さない」
「まだ立ち上がるのか……止めを刺したほうがよさそうだな。さっさと死ね」
デーテはセインに銃口を向け、ピタリと狙いを付けた。
「もう、お前を守る人間は、誰一人としていない。じゃあな……dele――」
「それは、どうかな」
その場にいた全員が、声のした方向、つまり俺の方を向く。
俺が立ち上がると、世界は崩壊を一時的に止めた。周囲には幾多もの想創光が漂って、本来暗かったはずのこの森を明るく照らしている。
爺ちゃんの力を借りて、なんとかこの世界に帰っては来た。
しかし、残された想像力は風前の灯。デーテの攻撃を喰らえば、俺はすぐにでも消えるだろう。
これからは慎重に行動しないと、爺ちゃんがくれたこの力を無駄にすることになる。
「リュウ……なの? 本当に?」
『まさか……あの状態から生き返ったというのか?』
「リュ、ウ……何故だ! 何故生きているっ!」
「奇跡、ってやつだ」
そう、本当に奇跡だったのだ。爺ちゃんの魂が、俺に奇跡を起こしてくれた。
だから、絶対に負けられない。勝たなきゃいけないんだ。
「今度こそ、お前を、倒すッ!」
俺の威勢に初めて慄いたデーテは、しかし冷静を装って銃口をこちらに向ける。
「はっ、そんなふらついた体勢で言われても、説得力に欠けるね。ただでさえ私に指一本触れられない君が、どうやって私を倒そうというのかな?」
言われてみればその通りで、俺にはデーテを倒すための想像力があまりにも少なすぎる。想像力をあまり消費せずに、しかも強力な想創をしなければいけない。
そんなことを考えていると、俺の視界にあるものが目に入った。
――俺の尻尾の残骸。それは眩い想創光を放ち、今にも消えそうになっていた。
尻尾が最大の弱点だとしたら、そこには俺の想像力の断片も、かなり残留しているだろう。
「……俺の体の一部だろうが。勝手に消えるな」
訝しげな表情で俺を見るデーテを無視し、俺は左手を前にかざす。すると、飛び去ろうとしていた想創光はピタリと動きを止め、やがて俺の左手に集まってくる。
「……くだらない。delete」
しかしデーテは、俺の想創を待ってくれるほど人はよくない。トリガーに指をかけ、その指を引こうとする。
飛翔する弾丸に当たれば、俺はまたしても消えるだろう。
だけど、今回は大丈夫な気がしていた。俺には弾丸が当たらない。なぜなら――。
「想創。〝速度上昇〟」
聞こえる小さな声と、想創光に包まれるムカデ、そして大幅にずれるデーテの照準。
「っ!」
弾丸はデーテの見当違いの方向へと飛んで行き、巨木を大きく抉る。
驚愕の表情を浮かべるデーテの視界に入ったのは、虫の手に掛かり死んだはずのシュンだった。
「……待たせたな」
「遅ぇよ。でも、助かった」
「シュンっ! 良かった、良かったよぉ……」
セインはその場に崩れて泣き出してしまった。しかし、慰めているような暇はこれっぽっちも無い。
俺とシュンは視線を短く交わすと、即座に気持ちを戦闘へと切り替える。
「オラアッ!」
シュンは爪でデーテに襲い掛かる。想創していない爪自体に威力はあまりないが、速度上昇で補正されているので、当たれば掠り傷ではすまないだろう。
「くっ」
ここに来て、初めてデーテに攻撃が当たった。苦悶と怒りを足して割ったような表情を浮かべると、すぐに銃口をシュンの顔面に付ける。
「delete!」
しかし、スピードのあるシュンは一瞬で銃口から離れ、紙一重で弾丸を避けた。そして体勢を崩しつつも、腕を振り上げて反撃する。デーテも持ち前のスピードで、シュンの攻撃を避ける。
今、シュンは時間を稼いでくれているんだ。今のうちに、想創しなければいけない。
俺は強い力を左手に感じつつ、頭の中で先程の出来事を反芻する。爺ちゃんと出会って、教わったこと一つ一つが左手へと流れていき、徐々に形を変えていった。
龍頭蛇尾、最後に蛇となるくらいなら、最後まで龍を貫いてやる。
俺は咄嗟に思いついた言葉を、静かに口にする。
「……想創。〝龍刀龍尾(りゅうとうりゅうび)〟」
俺の左手が、成長種族を想創したときと同じくらいに光を放ち、俺の緑色の鱗を照らす。その場にいた全員が耐え切れず、目を覆っていた。
光が粒子となって掻き消えると、そこには一振りの刀が握られていた。
見た目は先程消えかけていた尻尾とほとんど変わらないが、少し細くなっている。峰には龍独特の銀色の毛が生えていて、柄は肉である刀身から骨が剥き出した状態と言ったところか。
いつの間にか、腰にあった尻尾の感覚も無くなっている。
これが、爺ちゃんの思いを込めた、俺の最強の武器だ。
「……本当にリュウは面白いな。そんなもので私を倒そうと考えているとは、真性の馬鹿野郎なのかな? ……おっと」
動きを止めていたデーテに、シュンが猛スピードで襲い掛かる。
「リュウを侮辱することは俺が許さん!」
デーテもシュンのスピードに慣れてきたのか、それともシュンが疲弊しているのか、どちらにせよデーテにはほんの少し余裕が出来ている。このままでは、いずれシュンが負けるだろう。
「……行くぞ」
俺は刀を脇に構え、剣先をデーテに向けて半身の低姿勢をとる。
「……あたしも戦う。あなただけは絶対に許さない!」
セインもふらつく足で立ち上がり、目を閉じて想像を始めた。
「三対一、か。……全員まとめてぶっ殺してやる!」
デーテは言葉を吐き捨てると共に、銃口をセインへと向けるとすぐさまトリガーを引く。
「フンッ!」
シュンが少ない体力を振り絞ると、デーテを後ろから羽交い絞めにする。
おかげで銃弾はまたしても虚空へと飛翔し、森の奥へと消えていった。
「くそっ! さっきからしつこいんだ、よっ!」
デーテは苛立ちを隠さず、シュンの腹部へと肘撃ちをかます。強い衝撃に表情を歪めるが、それでもシュンは決してデーテを離さない。
「今の、ごふっ! ……内だ。げふっ!」
何度脛を蹴られても、肘撃ちを入れられても、シュンはひたすらに耐え続けた。
「すぐ終わらせるから、待ってろ……想創! 〝終尾(ついび)〟!」
俺は叫びながら、刀を正面に思い切り突き出す。想創光に包まれた刀は、突きとともにぐんぐんと伸長した。
光が消えたときには、デーテの腹部に龍刀龍尾の先端が深々と刺さっていた。
「ぐああああぁっ!」
甲高い悲鳴を上げるデーテ。その表情は、今までに無いくらい苦痛に歪み、己の攻撃がおそらく致命傷に至ることを悟った。
それに続いて、セインが高い声で叫ぶ。
「想創! 〝火葬〟!」
シュンはセインの発した言葉を聞くと、後方に跳躍してデーテと出来るだけ距離を置く。
次の瞬間、想創光がデーテの周りを包み込み、その空間が一瞬にして火葬場へと変わった。
「ぎゃあああああああぁっ!」
長く尾を引く悲鳴を上げるデーテは、その場に崩れ落ちた。普段のあいつなら避けられたのだろうが、深手を負っていたために回避が出来なかったのだろう。
「……やっと、終わったんだな」
「そう……だね」
俺とセインは視線を交わしながら、か細い声で呟き合う。
そんな中、勢いよく燃え盛る炎の中から、デーテの言葉が熱風に乗って俺たちの耳に届いた。
「……こ、の程、度で、わた、しが、死ぬ、と、思う、な、よ」
そんな捨て台詞を残すと、デーテは想創光に包まれてひび割れ、そして消滅した。
……最期に一発の弾丸を撃って。
森には静寂が戻り、崩壊しかけた世界も落ち着きを取り戻しつつあった。
周囲に漂っていた想創光は帰るべきところへと帰り、先程までの明るさは何処にもない。
「……終わったな。一時はどうなるかと思った」
「同感だ。……救いの女神とは、彼女のことに違いない」
「……この人は誰なのか、後でしっかりじっくり説明してよね、リュウ」
そんなやり取りを見ていた少女は、俺たちに向けて笑顔で言い放つ。
「まぁ、細かいことは気にしたらアカンで。それよりはよ帰ろっ!」
この状況を説明するには、少し時間が掛かるかもしれない。
デーテの撃った弾丸は、寸分違わずセインの心臓を貫いた。それは出血の量からして明白だ。
何が起きたか分からないまま、セインは胸に手を当てると血が出ていることに気がつき、言葉を発する前に倒れこむ。
「セインっ!」
俺は急いで駆け寄って抱きとめるが、セインは目を閉じ、想創光に包まれた。
「……そんな、嘘だろ? 返事をしてくれよ、セイン!」
こんなことがあってたまるか。あいつを倒すために、セインを守るために復活したのに、そのセインが今まさに、消滅しようとしているなんて。
世界はまたしても崩壊を始める。大地はひび割れ、木々は傾き、ありとあらゆるものから想創光が溢れ出している。
それは、俺やシュンも例外ではない。
「ダメだ……力が、抜けていく」
この世界の住人であるシュンには特に影響が大きいらしく、全体から想創光を放出しながらその場に倒れこむ。
セインは俺の腕の中でだんだんと冷たくなり、本当に死んでしまうのでは、と錯覚させられる。
改めて、この世界のリアルさを実感させられた。
「セイン! 目を覚ませ! お前が死んだら、この世界が無くなるんだぞっ!
それでもいいのか! 頼むから返事をしてくれ!」
俺は必死に声を掛け続けたが、セインはピクリとも反応しない。
「ミカドっ! 何か、セインを助ける方法は無いのかよっ!」
俺は声を荒げてミカドに尋ねるが、ミカドから返ってきた答えは残酷なものだった。
『……我は、この世界においてどこまでも無力だ。
消滅反応を示してしまった場合、我にはどうすることも出来ないのだ。せめて傷が重症で済めば、我にも処置は出来たものを……』
「……畜生っ! 俺は死んでもお前を許さないぞっ、デーテぇ!」
俺は消えてしまわないように、必死にセインを抱きしめた。しかし、セインの体温はさらに低下し、体重も随分軽くなっている。
このままでは、本当にセインが消えてしまう。
「くそっ……俺は結局、何も守れなかったのか。守れないまま、消えるのかよ……」
俺は消え入りそうな声で呟く。いつの間にか、俺の目からはいくつもの涙がセインの顔に滴り落ちていた。
そうしているうちに、セインの体はどんどん軽くなる。
俺は残酷な運命に抗うべく、あらん限りの声で天に向かって叫んだ。
「おい幻界! 聞こえてんのか!
お前を生んだ親が死に掛けてんだぞ! そのせいで、お前も死ぬかも知れねぇんだぞ!
死にたくなかったら、運命くらい捻じ曲げて見せろよっ!」
『リュウ……』
「俺にだっで、奇跡は起ぎたじゃねぇがよ!
だっだら、ゼインにも一度ぐらい奇跡を起ごじでぐれだっで、いいじゃねぇがよぉ!
……頼むがら、だずげでぐれよぉ!」
後半はまるで子供のような涙声で、幻界に向けて訴えかけた。
しかし世界は崩壊を止めず、セインもまた消えるのを止めようとはしない。
『我は、こんなに偉大な力を授かりながら、所有者一人救えないのかっ!』
ミカドもまた、己の無力さに怒りを感じ、自分に向けて叫ぶ。
結果的に、デーテの思い通りになってしまった。
俺の心に残されているのは、この世界を失う恐怖と、セインを救えない絶望だけだ。きっとミカドも同じだろう……。
セインがさらに軽くなり体も透き通り始めたとき、ミカドが急に叫んだ。
『これは……まさかっ。リュウ! 一時読者(テンポラリー・リーダー)が来るぞっ!』
ミカドが言葉を言い終えると共に、俺の隣にいきなり想創光が発生する。その光が掻き消えると、そこには見覚えのある人物が立っていた。
俺よりかなり低い身長に、肩までの長さの茶髪とヘアバンド、そしてそばかすの目立つ元気そうな顔立ちの少女。
「……萌、先輩」
夢見ヶ丘高校生徒会長は、確かにそこに立っていた。
「じぶんがリュウやな? ……今の状況はだいたい分かっとる。
どうしたら彼女を、セインを救えるんや? ウチに出来ることがあったら、遠慮なく言ってや!」
「……助けて、ください。俺の力じゃ、彼女は救えないんです。だから、助けてください!」
この際誰だって構わない。セインが復活してくれれば、誰が助けてくれたって構わない。
『……失礼だが、お主の名はなんという?』
「ウチの名前は萌、佐藤萌や。それより、彼女を救う手は何かないの?」
『先に想像力の適正を測る。我に触れてみてくれい』
「……こうすればええのん?」
萌先輩はミカドの表紙部分に手をかざし、そして触れる。彼女の周りを想創光が駆け巡り、ミカドの内部へと流れ込んでいった。
『……奇跡だ。奇跡が、起きたのだ』
ミカドは驚愕を隠せない声で小さく漏らす。そして泣きそうな声で俺に告げる。
『リュウよ……彼女もまた、所有者に負けず劣らずの想像力を持ち合わせておる!
もしかしたら、セインを生き返らせることが出来るやも知れぬぞ!』
「ちょいと! 早ぅやることやらな、セインが消えてまうで!」
ミカドの言葉を遮るように、萌先輩が慌てて急かす。セインの体はもはや実体が無く、輪郭がうっすらとしか見えない。
『萌よ、セインが回復する事実を想像し、それを信じるのだ』
「想像して、信じるんやね。お安い御用や」
萌先輩は目を閉じると、想像を始めた。時々難しそうな顔をするが、それでも十秒と掛からずにミカドへと話しかける。
「だいたいOKや。次はどうすればええの?」
『それが出来たら、想像して信じたことを具現化するために、言葉を発するのだ』
「なんやよぅ分からへんけど、何か言えばええんやな。多分大丈夫や」
目を閉じたまま少し考え、そして透き通った声で叫ぶ。
「想創! 〝黄泉帰り(よみがえり)〟!」
すると、セインの体に異変が起きた。
まるでビデオを巻き戻したかのように、想創光がセインの体へと戻り、徐々に体を形成していく。重量もだいぶ戻り、体温も上がってくる。
たっぷりと時間を掛けた後に、セインはデーテに撃たれる前の状態に戻っていた。
目を覚ましたセインは、最初に撃たれた箇所を見て、俺の顔を見て――俺の首に抱きついた。
「うわあぁぁぁぁん! 本当に死んじゃうかと思ったよぉ~っ!」
泣きじゃくるセインを優しく撫でながら、改めて世界を見渡す。崩壊が進んで真っ白になっていた世界は風景を取り戻し、ゆっくりと想創光が元の場所へと帰っていった。
セインが帰ってきた。ただそれだけが嬉しかった。
守れなかった悔しさも大きいけど、彼女が近くで笑っていてくれることの方が、もっと嬉しい。
「あ~、ごほんっ! そこのお二人さん、喜ぶのはええけどいろいろと忘れとらへんか?」
しばらくすると、萌先輩がわざとらしい咳払いをしながらこちらをジト目で見ていた。それがきっかけで俺が今まで何をしていたのかを悟り、慌ててセインから離れる。
とりあえず、お礼を言って正体はバラしておかないといけないな。
「……萌先輩、本当にありがとうございました。
先輩がいなかったら、今頃この世界もセインもきっと消えていました。何度お礼を言っても言い足りません」
「や、別にそない大層なことはしとらんつもりやけど……ちゅーか、何で物語の主人公が、ウチの名前を知っとるん? それに先輩って」
「想創。〝生誕種族〟」
俺が小さく呟くと、想創光に包まれた後に一瞬で元の姿に戻る。俺の姿を見た萌先輩は口を大きく開き、思い切り指を差しながら叫んだ。
「あ~っ! じぶん、龍馬やったんか!
それならいろいろと納得いくわ……け無いやろ! 何でウチは本の中に入りこんどるんや!」無自覚だったのかよ!
久しぶりに心中で突っ込みを入れたところで、俺は現状を説明することにした。
「これはいろいろとありまして……」
そこからは、シュンのときと同じように説明。やはりセインが主体になって説明し、それに俺とミカドが口を挟むという形になった。
かれこれ三十分ほど説明してようやく理解してもらえたようで、萌先輩は大きな溜め息をついた。
「はぁ……そないな展開になっとるとは思いもせぇへんで。ま、ウチはそういうのキライやないけどな!
……それよか、あそこに転がっとる猫は大丈夫なん?」
萌先輩の言葉に、今更ながら倒れていたシュンへと駆け寄る。気を失ってはいるが、こちらもどうやら事なきを得たらしい。
しばらくすると、シュンも目を覚ました。
「……リュウ、なのか。それにセインも……助かったのか?」
「あぁ、この人が助けてくれたんだ。俺一人じゃ、何も出来なかった」
シュンは萌先輩を一瞥すると、体を起こした後に頭を垂れて、深々と礼をした。
「……俺の友達を助けてくれて、ありがとうございます。しかし、貴女はいったい……」
「ウチか? ウチの名前は――」
『待つのだ』
名乗ろうとした萌先輩を、ミカドが制止する。萌先輩は訝しげな表情でミカドに尋ねた。
「どうしたん? 何か不味いことでもあるんかいな?」
『お主はまだ一時読者だから、今すぐ名乗ると正規読者(レギュラー・リーダー)になったときに、名前が変わってややこしくなる。外の世界で我と閲覧契約をしっかり交わしてからの方が、良いと思うのだ』
最後にミカドは短く言葉を付け足す。
『……まぁ、お主がこの世界の一員になりたければ、の話ではあるが』
その言葉を聞いた萌先輩は少し考え、そしてニッと微笑みながら答えを返す。
「ウチはこの世界、えぇと思うよ! ……みんな、ウチも仲間に入れてくれへん?」
その言葉に俺はしっかり頷き、シュンも微笑みながら頷いた。セインはというと、あまり気乗りしない感じだったが、それでも小さく頷いて肯定の意を示した。
「ホンマありがとぉ! そんじゃ、これからよろしく頼むで、みんな!」
……そして今に至るというわけだ。
俺たちはしばらく森の中を歩き続け、やっとのことでシェイディアの入り口に辿り着いた。
時刻は日が昇り始めているので、だいたい午前四時くらいだろうか。俺たちがこの世界に来てほぼ半日、ずっと行動していたこともあって、俺たちを疲れと眠気が襲ってくる。
「……疲れた。腹も減ったし、かなり眠い」
「ふわぁ……そうだね。街に報告したら、すぐにでも外の世界に帰ろう」
「じぶんらもとんだ災難やったなぁ……ウチはここで待っとるから、早ぅ行ってきぃや」
『我も今後のために、この世界について少しでもお主に説明しておこうと思う。リュウたちはさっさと行ってくるがよい』
「ミカド様がそういうのなら、俺たちはさっさと用を済ませよう」
思い思いに口にすると、俺とセイン、そしてシュンはシェイディアの街に入った。




