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俺たちの創世物語-ジェネシス-  作者: 白米ナオ
第四章 Be resolute……
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第四章 ③

 街を出るとあたしたちは歩き続けた。

 この世界の時刻はちょうど七時半くらい。あたしたちがこの世界に来てもう三時間も経っている。

 辺りは暗さを増して、木々の間から微かに射している月光のみを頼りに森の奥へと進む。

 道はうっそうと茂った草に覆われて、道ではなくなっていた。近くに獣道らしいものがあったから迷わずに進めたけど、それも長くは続かない。

「……完全に迷ったな」

 途中で道が途切れてからは、リュウの勘に頼って進んでいたので、戻る道さえも見失ってしまった。 この暗い中、どうしたら戻れるのかな……。

「そうだ! あたしがこの辺の草を焼けば、道が見えるかもしれないよ?」

「……たとえ道が分かっても、俺たちも焼け死ぬぞ?」

「それは勘弁だな。そもそも俺は炎が嫌いなんだが……出来ればもう少し安全な方法で道を見つけてくれ」

 確かにものすごく危険だし、理由もなく燃やされる草木が可哀想だ。

 あの火蜥蜴と同じような考えを持つなんて……あたしらしくないな。

 うーん……あたしに出来ることは、炎を使うこと。他に出来ることは何か無いかな?

「じゃあさ、空を飛んで上から見下ろすのはどうだ?」

 なるほど……それなら大丈夫かもしれない。そう思ったけど、シュンがその案を否定する。

「ダメだ。この森はさっきから歩いていて分かると思うが、巨木に覆われているから光が差さず薄暗いんだ。この状況で飛んだとしても、見えるのは生い茂った木々だけだと思うぞ」

「言われてみればそうだな。そもそも迷った原因はこの視界の悪さだからなぁ……」

「あぁ、こんなことならシェイディアで方位磁石かランタンでも買えばよかった。こんな中で虫や獣に襲われたら、かなり苦戦しそうだな……」

「そういうこと言わないでよ! 本当に襲われたら……きゃあ!」

「っ!」

 あたしの悲鳴に反応した二人は、身構えながら辺りを見回した。一通り警戒を終えたリュウがあたしに問いかける。

「セイン、急に悲鳴なんてあげてどうしたんだ?」

「い、今ね、リュウの後ろに人骨みたいなものが、歩いていた気がしたんだけど……」

 リュウはまさか、というような表情で後ろを振り返る。さっき見たような人骨は、リュウの視線の先にはいなかった。あたしの見間違いだったのかな……。

「……何もいないぞ。そもそもこの暗い中ではっきり見えるわけが……わっ!」

 リュウが驚きの声を上げたから、あたしとシュンも辺りを見回す。リュウの視線の先、つまりあたしの真後ろにソレはいた。少し黄ばんだ人骨が、薄く赤い燐光を纏っていて、手には金属製の槍を握っている。

「グルゥ……」

「い、いやあぁぁぁぁぁっ!」

 あたしは悲鳴を上げると、すぐさま後ろに跳んだ。件の人骨は、こちらを見ながら頭骸骨をカタカタと震わせている。シュンがあたしの前に立ちはだかって戦闘体勢に入り、リュウもそれにつられて身構える。

「なぁ、一つ疑問。こいつって死んでいるはずなのに、何で消えないんだ?

 この世界では存在が消えるときは確か……想創光になって創世塔に取り込まれるはずだろ?」

「その通りだが……いくつか例外がある。

 この人骨、まぁ俺たちは〝スケルトン〟と呼んでいるのだが、こいつは存在が消えたわけではない。おそらく死に際に強い未練を残して、己の体を〝成長種族〟でスケルトンに変化させたのだろう。

 そもそもスケルトンというのは、妖精の中の〝霊魂(スピリット)〟に分類される。きっと元はこの森で死んだ、純粋な人間なのだろう」

「……理屈は分かった。じゃああいつは倒しても構わないわけだな?」

「あぁ。あのまま彷徨っていても、未練は消えないだろう」

「二人とも……お取り込み中悪いんだけど、人骨がすごく怒ってるよ?」

 スケルトンは燐光を強く輝かせ、本来目が入っているはずの穴にはいっそう濃い燐光を揺らめかせている。背筋を曲げながら槍を構え、いつ襲ってきてもおかしくない状態だ。

「……ね? 怒ってるでしょ?」

「それはわかったから、セインはとりあえず下がっていてくれ。

 でも、背後にも気を配るようにしておけよ? 俺の予想が正しければ……」

「……正しければ?」

「うん、きっと仲間を大勢連れて来ると思う」

 こういうときのリュウの予想は大体当たる。きっとファンタジー小説を読んでいだ賜物だと思うけど、あたしもそれは薄々思っていた。

 ならば急いで倒さないと大変なことに――。

「グオォォォォォン!」

 ……なってしまった。今の雄叫びはきっと、仲間を呼び寄せたに違いない。同じことを思ったのであろうリュウも舌打ちをする。

「チッ、急がないとヤバそうだ。シュン、さっさと片付けよう」

「分かった。手加減は……しなくてもいいよな?」

「当たり前だ! ……想創! 〝木刀〟!」

 リュウはスケルトンへと突撃をかけながら叫ぶ。左手の想創光はすぐに消え、見慣れた木刀が握られていた。

 中段からの突きをダッシュの勢いに乗せて、スケルトンの頭にぶつける。

「オラァッ!」

 カキンッ! と小気味良い音を立てて、木刀はスケルトンの槍に弾かれた。気のせいかもしれないけど、スケルトンがニヤリと笑ったように見えた。

「ウオォォ!」

 しかしその勢いを止めずに、そのまま膝蹴りで肋骨を狙う。

「グォフゥッ!」

 リュウの膝は肋骨の右側を見事に捕らえ、バキッ! という音とともにスケルトンの骨はいとも簡単に割れた。骨の破片は飛び散ると、想創光になって消える。スケルトンが思い切りよろめいたところを、さらにシュンが追い討ちをかける。

「セイッ!」

 いつの間にか想創を終えていたシュンの巨大な爪が、加速された体を生かして、猛スピードでスケルトンに襲い掛かる。

「グルルルルゥ……」

 スケルトンも必死の抵抗を試みるが、シュンの爪は一度防がれたくらいでは止まらない。左右の爪で猛攻を続け、ついにスケルトンの持っていた槍をへし折った。

 唖然とした表情(?)のスケルトンは、しかし諦め悪くシュンに素手で襲い掛かる。半ば呆れた表情のシュンが一瞬で前進し、音もなくスケルトンに止めを刺した。

「グルアァァァァァァァ……」

 短い悲鳴を残しつつ、スケルトンは想創光に包まれて割れ、そして虚空へと消えた。

「……ふぅ、まぁこんなもんか。手応えのない奴らだ」

「いや、まだだ。遠くから足音が近づいてくる……しかもかなり多いぞ」

 静かな森では小さな音もよく聞こえる。耳を澄ましてみると、リュウの言うとおり遠くから引きずっているような足音が聞こえてきた。

 時間が経つにつれ音がどんどん大きくなり、否応なく恐怖心を駆り立てられる。

「……リュウ、大変だよ。いつの間にかあたしたちが囲まれてる」

 辺りを見回すと、全方位に先程の薄赤い燐光がちらほらと見える。少なくとも二十体、いや三十体はいると思う。

 リュウもシュンも、今立たされている状況を把握したのか、苦々しい表情を浮かべながら毒づく。

「くそ……コレはかなり厄介だな。シュン、あれだけの数と戦える自信あるか?」

「正直に言えば、かなり絶望的だ。一人十体を相手にしても、まだ仲間がいそうな気がしてならない。

 ……もしかしたら、俺たちは罠にかけられたのかもしれないな」

「罠? ……つまりどういうことだよ?」

「いいか? 俺たちがこの森に入った目的は、言うまでもなく虫たちの異常の調査だ。

 お前はさっき〝何者かに操られている〟と推測したはずだろ? だとしたら、俺たちの存在に気づいたその何者かが、妨害工作を仕掛けるのは当然のことだろう」

「なるほど……じゃあ、あのスケルトンは何者かが意図的にけしかけたってことなのか?」

「信じたくはないが、そうなるだろうな」

「ねぇ! またお取り込み中悪いんだけど、すぐ近くまで来てる!」

 この状況で冷静に話し込むことが出来るのだから、男って不思議だと思う。あたしだったらすぐにでも、逃げるか戦うのに……。

「まぁ別になんとかなるだろ。そう焦るなよ……」

「リュウの言うとおりだ。焦れば何かしらのミスを犯す……だから、冷静になれ」

「あぁもうっ! 二人とも落ち着きすぎなのよ! こうなったらあたしがなんとかするしかないみたい……想創! 〝成長種族:熾天使|(グロウ・トライブ:セラフィム)〟!」

 あたしの叫びは静かな夜の森に響き渡った。そして体が想創光に包まれ、眩い光は森の闇を一瞬にして飲み込む。

 数秒続いた発光が消えると、今度は煌々と燃え上がる炎が木々を明るく照らした。近づきつつあったスケルトンは、その場に立ち尽くして固まる。

「うん、やっぱり格好いいな……」

 改めて己の姿を顧みると、服装はやはり成長種族になることで、更に神秘的な雰囲気を放っている。そして今更気付いたのだけど、眼鏡を掛けているのに視界がぼやけている。

 きっと、成長種族の効果で視力が補正されているのだろう……ありがたいことだ。

 あたしは眼鏡を外してローブの内ポケットに入れると、スケルトンを睨みながら呟く。

「それじゃ、サクッと片付けよっか」

 その言葉を聞いたリュウとシュンは体を一瞬震わせ、しかしすぐにスケルトンに向き直る。

「お、おう。サクッと片付けよう」

「リュウ、顔が引きつっているぞ?」

 スケルトンは一瞬怯んだ様子だったけど、おそらくリーダー格であろう巨大な斧を持った一際大きいスケルトンが前進し始めると、他のスケルトンもこちらに向かって歩き始めた。

「……てかさぁ、この世界で銃器を持った敵が現れるのはどうなんだ?」

 リュウの呟きに、あたしは無言で同意する。前方のスケルトンは剣や斧、槍などの健全な白兵戦用武器なのに対し、後方にいるスケルトンはライフルやサブマシンガン、さらにはバイクにまたがっているやつもいる。

 もはや、あたしの想像したファンタジーの域を超えている。

「ちょっと不公平じゃないかな? ていうかあたし的には、この世界に銃器とかが存在していること自体が許せないんだけど……」

「銃器相手に、生身は流石に危ないな……想創! 〝成長種族:龍人|(グロウ・トライブ:ドラゴノイド)〟!」

 リュウがあたしよりも大きな声で叫ぶと、またしても眩い光が森全体を覆い尽くす。

 数秒の後に光が消えると、そこには久しぶりに見るリュウの成長種族の姿があった。以前は制服だったから少し見劣りしたけど、今の服装は成長種族のリュウにとても似合っている。

「……やっぱり尻尾が邪魔くさいなぁ」

 リュウの尻尾は、体とほぼ同じくらいの長さがある。その大きな尻尾は、リュウの穿いているパンツの上部から思い切りはみ出していた。まぁ、パンツに穴が開かなかっただけマシだけど……。

「おっし、じゃあノルマは一人十体。……行くぞ!」

 リュウの掛け声とともに、あたしたちは散らばってスケルトンに襲い掛かる。

「グルォウ、グラッ。……グルァァア!」

 先程のリーダー格のスケルトンの掛け声とともに、スケルトンもあたしたちに襲い掛かる。

 こうして、この世界に来て初めての激戦が始まった。


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