表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺たちの創世物語-ジェネシス-  作者: 白米ナオ
第二章 NEW GENERATION!!
11/24

第二章 ⑤

 数分後、セインは目を覚ました。

 どうやら先程の戦いに相当の想像力を消費したらしく、精神の疲れが体に逆流して倒れてしまったらしい。

「あれ……ここは?」

「別に移動はしてないぞ。付け加えるなら、気を失ってから五分としていない」

「全く……お前たちは揃って無茶をし過ぎだ。素人のくせに膨大な想像力にかまけて、慣れない〝成長種族〟をいきなり使ったりするから倒れるんだ。今度からは注意してくれよ」

「お前たちって……まさかリュウも?」

「あぁ。セインが倒れてすぐに俺も倒れて、セインより早くに目覚めたって感じだ」

「もう! リュウはこういう時にすぐ突っ走るんだから!」

「それはセインも同じだろ? ……今回はお互い様だ」

「それもそうだね……そういえば誰か足りないような――」

『我 を 忘 れ て い た な !』あーあ……相当ご立腹だ。

「別に忘れていたわけじゃないんだよ? ただ戦っているときってなんていうかホラ周りが見えなくなっちゃうでしょ?」

『お主らが戦っている間も、我は寂しく見守ることしか出来なかったというのに……そもそもお主らは想像力の使い方が――』

「あーはいはいよく分かりましたすみませんでした、っと。じゃあ次の街に行こうか!」

『これ! 人の話を聞けぃ!』これだから年寄りは困る。

 そんな会話をしていると、シュンが首を傾げた。

「さっきから気にはなっていたのだが……その本は何だ? 意思を持つグリモアなんて見たことが無いぞ?」

 グリモア、すなわち魔道書の類の名称だ。まぁある意味間違ってはいないが。

『コホン、我の名はミカド。この世界における神のような存在である』

「おいおい……そんなこと軽々しく口にしていいのか?」

『もはや隠しておくのも面倒だろう。別にバレても構わないだろうし……な』

「お前たち……何の話をしている? 神とは何のことだ?」

「えっと……実は――」

 そこからはセインが上手いこと今までの経緯をまとめてくれた。途中俺が出来事を補足したり、ミカドが己の自慢話を加えたりしていたが、どうやらシュンも理解してくれたようだ。

「つまり……お前たちはこの世界の記憶を失ったわけではなく、この世界に来たばかりだから知識が何も無いというのか? それ以前に、お前たちがこの世界を生み出したのか……それなら先程の膨大な想像力も納得できる」

「そういうこと。だからこの本は、いわばこの世界そのものなのよ」

「信じるも信じないもお前の勝手だけどな」

「にわかには信じがたいが……説得力はある。そういうことなら先程の恩もあるし、ぜひこの世界を案内させてくれないか?」

「ホントっ? じゃあお願いしようよ~。リュウもミカドも文句無いよね?」

「もちろんだ。シュン、これからの道中よろしく頼むぜ」

『無論、依存は無い。我のことは敬意を持って〝ミカド様〟と呼ぶがいい』

「調子に乗るな!」

 ミカドを一発ぶっ叩いた。なかなかいい手ごたえだ。

『何をする! 全く……冗談に決まっているだろうが』

「ミカド様、大丈夫ですか?」

 シュンは案外素直な性格らしい。なんだか本気で心配している……様付けで呼ばれたミカドは結構嬉しそう。

「本気にしなくていいからな? ていうか、やっぱりお前は優しいやつだな」

「そうだよね~……戦っている時以外はなんか言葉遣いが良くなるし、思いやりもあるし」

「……そんなことを言われたのは生まれてこの方初めてだ。そうだとしたら、お前たちに出逢えたからかもしれないな」

 人は守るべきものが出来たとき、強く優しくなれると聞いたことがある。きっと、さっきの戦いを通じて少し心を開いてくれたのだろう……少し嬉しくなる。

「まぁ交流も深まったところで、本題に入るよ……あたしたちはこれからどこに向かえばいいのかな?」

「ここから最寄りの街は〝常闇の街シェイディア〟だな。とりあえずその服装をどうにかしたほうがいいだろう。ついでに情報も手に入る」

「常闇? なんかジメジメしてそう……」

「そうだ。あそこは日の光の届かない、深い森の中の街だからな……虫やネズミが沢山出てくることで有名な街だ」

「……やっぱりやめにしない? 他にも街はあるでしょ?」

「この岸辺の花畑に通じる道は、この森を通る一本道しかないんだ。その分迷う心配が無いから、ここは結構花見とかで来るやつが多いけどな」

「まぁ、桜の木は燃え落ちたけど……」

 あの火蜥蜴野郎め、綺麗な桜だったのに……。

「何を言っている。まだ死んだわけではないぞ」

 それを聞いたセインは目を輝かせる。

「ホントに? またあの桜の木を復活させられるの?」

「まぁそのためには準備が必要だけどな……この世界において、形を残してその場に在り続けるものは全部〝生きて〟いるんだ。ただ生命の源である〝想像力〟が足りないだけ。

 つまり想像力を注入してやれば元に戻ることは可能なんだ」

「だったら、あたしたちの想像力があれば何とか――」

「ダメだ。植物に干渉できるのは同じ植物だけ……この世界では妖精の〝花妖精(フラワー・フェアリー)〟か、雑種の〝花人(ブルメリアン)〟くらいだと思う。だから、この桜を復活させるなら、どこかでそのどちらかに頼むか、金で雇うしかないだろう」

「そうなんだ……じゃああたしたちが戻るまで待っててね」

 セインは桜の木に語りかけた。気のせいかもしれないが、返事をされた気がする。この世界では植物も意思を持つのだろうか……。

「じゃあ早速行くぞ。先に言っておくが、さっきの成長種族は人前であまり使うなよ? 多分大騒ぎで街中がパニックになると思う」

「わ、分かった。気をつける」

 こうして、俺たちの旅は始まった。


 数分後、俺たちは森に入った。確かに湿り気が多く、所々に霧がかかっている。足元もなんだか心許なく、時々セインが転びかけてヒヤヒヤする。

 しばらく歩いていると、ぬかるみの多い道に出た。

「きゃあ!」

 泥に足元をすくわれたセインは思い切り体を仰け反らせる。しかし、間一髪の所でシュンが後ろから抱きとめたおかげで、なんとか衣服とかは汚れずにすんだみたいだ。

「危なかった……ありがとね」

「礼には及ばない。とりあえずその滑りやすい靴をどうにかしないといけないな……」

 確かに、今のセインは天宮だったときと同じ、夢見ヶ丘高校指定の制服とローファーという格好なので、ぬかるみを歩くには少し装備が厳しい。革靴はよく滑るのだ。

「じゃあ脱げばいいんじゃないか?」

「冗談じゃないよ! 素足で泥道なんて歩ける訳無いでしょ?」それはごもっとも。

「大丈夫、目的地はもうすぐだ」

 シュンがそう言うと、遠くに家のようなものが見えてきた。レンガ造りの丈夫な家から、大雑把に切りだした丸太を積み上げたような家、はたまた泥を固めたような家もある。

 現実味の無い風景はこの世界で何度も見たけど、生き物が活動しているところを見るのは初めてだ。これから出会う人たちを想像すると胸が躍る。

「この街にはどんな種族がいるんだ?」

「うーん……たしか人口の半分が〝純粋な人間〟で、三割が〝獣〟、残りが〝妖精〟だ。代表的な獣は〝虫〟で、結構うじゃうじゃいるぞ」

「……やっぱり帰ろうよ~。もしくは素通りしよう?」

「おいおい。せっかく初めてこの世界の街に着くのに、素通りはないだろ?」

「でも~……虫だらけなんでしょ?」

 セインの虫嫌いは半端ではない。何とか大丈夫なのは蝶くらいで、それ以外の虫は全般ダメらしい。

 以前、帰り道でミミズの死骸|(潰れて干からびてアリが集っているやつ)を見ただけで俺に泣きついて来た事もある。それ以外にもセインの虫に関する逸話は多々あるのだが、語り出すとキリが無いからまたの機会に。

「別に街中に虫がはびこっている訳ではない。ただ他の街より出現頻度が高いだけだ」

「それがイヤなのっ! 虫なんてちょうちょ以外いなくなればいいのに……」

 ぶつぶつと悪態をついていると、いつの間にか街の前に着いていた。

 入り口には一応門番らしい武装した人がいるけど、これはどの街にもいるのだろうか? 鎧と槍が結構格好いい。

「じゃあ、早速街に入ろうぜ!」

「ちょっと待って……まだ心の準備が」

 セインはなんだか顔が青ざめている。そこまで入りたくないのか?

 そんなセインを、シュンが気遣ってやる。

「まぁ無理はするな。でも、よほどの事が無ければ虫は出ないから大丈夫だ」

「……ホント?」

 シュンの言葉に少し安心したのか、セインは少しだけ落ち着いたようだ。深呼吸をして、心の準備が出来るのを見計らって俺たちは門に近づく。しかし、シュンは少しだけ立ち止まった。

「この姿で入っては少々面倒なことになりそうだ……想創。〝変身(メタモルフォーゼ)〟」

 小さく呟くと、シュンの体が想創光に包まれる。それが消えると、最初に出会ったタレ目の男に姿が変わっていた。

 これが最初に言っていた〝固有能力〟というやつか……。

「これでよし。じゃあ行くぞ」

 俺たちは街の入口にある門へと向かう。

 門番は俺たちの種族と目的を聞くと、あっさりと門を通してくれた。シュンも雑種だとバレなかったみたいだ。

 街の中は全体的に薄暗く、〝常闇の街〟と言われる理由も頷ける。しかしそこに生きている住民は別で、入口近くの商店街は活気にあふれていた。ざっと見た感じ、ここはそんなに悪い街ではなさそうに思える。

 最初に向かったのは、門から歩いてすぐの衣服屋だった。先程シュンが言っていたとおり、俺たちの服装は戦いには向いていない。

 今日も俺と天宮は制服なので、正直なところこの世界では浮いてしまう。

 そんなことを考えていると、いかにも妖精めいたキーキー声が聞こえた。

「いらっしゃいまし~。おっ? シュンの旦那、今日は連れもいらっしゃるようで……」

 出てきたのは背の低い男で、とがった耳に長い鼻。こいつは……ゴブリンだろうか?

「よぉ。悪いが、こいつらの衣服を見繕ってくれないか? 代金は以前の貸しで」

「以前の貸し? ……あぁ! 分かりましたすぐに見繕いますよ」あ、急に敬語になった。

 慌てた様子の店主は店の奥に引っ込んだ。来るまでの間にシュンに色々聞くことにした。

「なぁ……今の店主って、種族は何だ?」

「アイツは生粋の〝妖精〟で、分類はゴブリンだ」あぁ、やっぱりそうですか。

「そうか、じゃあ以前の貸しってのはなんだ?」

「話す必要があるのか? ……まぁいい。貸しといっても、アイツが街の外で巨大なゴキブリに追い掛け回されているところを助けただけだ。アイツも結構虫嫌いだからな」

「巨大って、どれくらいの大きさだ?」

「そうだな……だいたい俺の身長と同じくらいだ」

「うぇ、めちゃくちゃ大きいな……お前がそいつを倒したのか?」

「まぁな。俺も半分は猫だから、その手の昆虫を狩るのはなんてことないさ」

「ふーん、すごい話聞いたな。セインもそう思うだろ――あれ?」

 セインはうずくまって震えていた。さっきまでの話を聞けば一般人でもゾッとするかもしれないが、セインは流石に大袈裟すぎる。話だけでそこまで怖がるなよ……。

「二人とも! 今後あたしの前でそういう話は禁止! 分かった?」

「「はーい」」

 二人して気の抜けた返事をする。そうしている間に店主が戻ってきた。

 手には服ではなく、いくつかの巻物のようなものを持っている。

「お待たせしました。ではこの中からお選びくださいな」

「えっと……選ぶってどういうことだ?」まったくもって意味が分からない。

 するとシュンが俺たちを引っ張って、店主に背を向けて小声で話しかける。

「あれは〝巻子本(スクロール)〟といって、あの中に衣服が形の無い状態で記入されているんだ。巻子本に触れるだけでイメージが頭に流れ込んでくるから、手に取ればどんなものか分かるはずだ」

 シュンに言われるがまま、俺は巻子本を手に取る。

 すると、シュンの言ったとおり手に触れた巻子本からイメージが流れ込んでくる。フルプレートアーマーだろうか……俺はこの手の動きにくそうな装備は好きじゃない。

 どうせなら〝龍人〟になったときでも格好いい感じの服があればいいと思う。

 俺が色々と触って確かめているうちに、セインはもう決まったようだ。

「あたし、この色合いと雰囲気が気に入った! これにするっ!」

「ほうほう、そうですか。お気に召されたなら何よりです」

「ではセイン、その巻子本を思い切り破ってみろ。思い切り、だぞ?」

「えっ、いいの?」

 戸惑いながらもセインは巻子本を破る……もちろん思い切り。

「えいっ!」

 すると、巻子本の破れ目から想創光が溢れ出し、セインの体を覆った。〝成長種族〟のときほどではないが、眩い光に包まれる。それが消えると、セインは今までの姿から一変した。

 体を覆うのはゆったりとしたベージュ色のローブ。天使よろしく、肩からオレンジ色の布がたすき掛けになっている。靴も革靴からブーツになって、手には薄い布で出来た手袋、全体的な見た目を一言で言えば、〝神秘的〟な姿だった。

 おそらくセインも成長種族を使ったときのことを考えて選んだのだろうか、天使のような格好だ。

「すご~い! リュウ、あたしの服装どう思う?」

「あぁ、すごく似合ってる。本当に天使が舞い降りたみたいだ」

 これはセインよりもいい服装を見つけなければ……なんだか対抗心が沸いてきた。

 俺は再び巻子本をいろいろと手に取る。おっ、これはなかなかいいかもしれない。

「おっちゃん、俺はこれにするよ」

「おっちゃんとは何だ! オレはこれでも二十八歳だぞ!」いや、十分お年だし。

 そんな店主を見かねたシュンが俺に囁く。

「一応言っておくが、ゴブリンの寿命は純粋な人間の役五倍だぞ。こいつなんてゴブリンの中でもまだまだ若いほうなんだ」

「ということは……純粋な人間でいえばまだ五歳くらいなのか? それは悪かったよ」

「分かればいい。じゃあお前さんはこれだな……ほらよ」

 なんかセインと態度がずいぶん違うような気もするが……まぁいいか。

 俺は巻子本を受け取ると、セインと同様に思い切り破った。

 すると俺の体が想創光に包まれ、そして消える。服装は先程とだいぶ変わっていた。

 俺が選んだのは、青を基調とした中華風のロングジャケットと、同系色で黄色く炎が描かれた長めのパンツ、そして足には草履。

 龍人になるならば身軽で動きやすいほうがいいと思い、このような衣服を選んだ。尻尾をどうやって外に出すかが気掛かりだが……。

 俺の姿を見たセインは言葉を失って固まっている。シュンも同じような感じだ。

「……変、かな?」

 心配そうに尋ねると、俺の問いにセインは首をぶんぶん横に振って答えた。

「そんなことない! すごく格好いいと思うよ!」

「あぁ、同感だ。なんというか……お前らしい感じがするよ」

 シュンの反応も悪くない。これならこの世界でも浮かなくて済むな……。

 こうしてひとしきり衣服選びを終えると、店主に別れを告げて街の奥へと歩き出す。

「いやぁ~、いい買い物をしたよ。これは大事に使わないといけないな」

「先に言っておくが、たとえ衣服が破損しても元の姿を想像すれば、何度だって切ることは出来る。覚えておかないと何度も買う羽目になるからな……」

「そうなの? よかったぁ~……あたしこれ気に入ったから、もしも戦っているときに炎で溶けたらどうしようかずっと考えてたんだ~。それ聞いてすごく安心したよ……リュウ、今更だけど時間大丈夫かな?」

「そういえば、すっかり忘れていた……ミカド、ここに入って何時間くらい経った?」

『我は時計扱いか……まぁ良い。この世界に入ってから三時間四十三分経過している』

「うーん……今から街を歩き回ってもゆっくり見て回れないな。また今度の機会にするか」

「そうだね! また今度にしよう!」(ふぅ……虫に遭遇しなくてすんだよぉ)

「何か言ったか?」

「別にぃ~」

 なんかぼそっと呟いた気がするが……まぁ気にしないでおこう。

「という訳だ。今日はありがとな、シュン」

「道中楽しかったよ! また今度もよろしくね」

「あぁ。こちらこそいい経験が出来た……礼を言う」

 ひとしきり別れを告げると、俺たちは外の世界を想像する。しかし、想創光は発生しない。

「もしかして、出るのにも言葉が必要なのか?」

『もちろんだ。この世界において言葉というものは〝想像〟を〝現実〟に変える重要な役目を持つのだよ』

 そうだったのか……以後は何でも言葉にすることが大切なんだな。覚えておこう。

 再び外の世界を想像して、俺たちは同時に叫ぶ。

「「想創! 〝脱世界(アウト・オブ・ザ・ワールド)〟!」」

 俺たちの体が想創光に包まれ、浮かび上がり、そして消えた。


 視界が晴れると、そこは見慣れた和室だった。

 さっきまでの世界の空気は無く、畳のイグサの香りがする。

「……ふぅ。今日は楽しかったね!」

「楽しかったって……今日だけで二回は殺されそうになったけどな」

「そうだけど……やっとあっちの世界の友達も出来たし、あたしは天使になれたし、結構気持ちよかったよ?」お気楽なことだ……天宮らしいな。

「まぁな。俺もまさか龍になるとは思わなかったけど」

 あの想像は、名前から咄嗟に思いついたものだ。具体的なイメージとしては西洋のドラゴンも捨てがたかったが、俺の名前は〝龍〟という字なので、なんとなく中華風の龍にしたのだ。

 西洋のドラゴンって漢字にすると〝竜〟って書くことが多いし。

「そうだね~……あの姿も格好良かったよ?」

「そ、そうか」

 格好いいなんて言われ慣れないから、結構嬉しいし照れる。

「もっと長く話していたいなぁ……でもそろそろ時間だから帰るね。今日は〝幻界〟で色々助けてくれてありがと。あと揚げ饅頭ご馳走様でした!」

「いえいえ。なんなら駅まで送っていこうか?」

「うーん……気持ちは嬉しいけど、きっと急がないといけないから坂本君が大変だもん。明日ゆっくりお話しようね!」

「そうか。じゃあまだ明るいけど気をつけて帰れよ? じゃまた明日」

「ありがと。じゃあまた明日ね~」

 玄関まで行くと、そう言って天宮は帰った。今日は有意義な一日だったと思う。

 今日は〝幻界〟で色々と危ない目に遭った。しかしそれ以上に、得るものも多かった。

 初めての友達であるシュン、俺の成長種族〝龍人〟、幻界で得たものは全てが新鮮で、とても美しかった。これからの放課後が毎日楽しみだ。

 その後はいつも通り夕食。今日のメニューはトンカツだった。

 いつもなら半分の大きさの豚カツとご飯、少々の野菜で事足りるはずだったけど、今日はやけに腹が減っている。

「母さん……おかわり」

 母と祖母はその言葉を聞くと、それはもうものすごい勢いで驚いた。

「まぁ! あの少食の龍馬が〝おかわり〟だなんて……私嬉しくて涙が出そう!」

「おやおや。今日の龍馬はどういう風の吹き回しだい?」

 結局、カツを一枚分とご飯がお碗に山盛り一杯分を食べた。人並みとはいえ、今日は間違いなく今までで一番食べ物を口にした日であるはずだ。

 自分でも、何故こんなに食べられるのか分からない。もしかしたら、幻界で体を動かしたからかもしれないな。

 想像力も飯を食えば回復するのだろうか……まさかな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ