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婚約破棄された悪役令嬢は、証拠だけを信じる ~感情ではなく記録で真実を覆す、静かな逆転劇~  作者: 竜太郎


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母の封蝋

公爵家の古文書庫から、亡き母が王家と交わした婚約付帯書が見つかる。正文の一部は封蝋ごと切り取られていた。 朝、レティシアは侍女長マルタから予定と来客名を聞く。衣装の色一つにも政治的な意味がつき、選ばないことさえ意思表示として数えられた。


噂には最初の語り手がいなかった。侍女は商人から、商人は役人から、役人は晩餐で聞いたと言い、辿るほど輪が閉じて元へ戻った。


オスカーは紙質、封蝋、配達時刻を一覧へ加えた。同じ紋章が押されていても、蝋の産地や書記の癖までは同じにならない。


王妃はどちらの令嬢にも露骨な肩入れを見せない。その公平さゆえに、周囲は王太子府の動きを王家全体の意思だと誤読した。


そのころ、王都の小さな菓子店で、宛名のない包みが一つ受け取られた。届けた者も受け取った者も、ノエラの名を口にしなかった。


廊下の向こうでノエラの扉が閉じた。朝になれば妹は何も知らない顔で現れ、姉もまた何も気づかないふりをするのだろう。


オスカーは確認できた時刻を欄外へ書いた。記憶は後から整えられるが、鐘の音と受領印は別々の場所に残る。二つが重なるまで事実とは呼ばない。


姉妹のあいだには、幼いころからの合図があった。言葉にすれば他人にも奪われるため、指先やカップの向きだけで、今は話さないという意思を確かめる。


王都の新聞はまだ王家の名を出さず、「ある高位令嬢」とだけ書いた。名を伏せても誰を指すかは明らかで、曖昧さだけが責任を負わずに残った。


レティシアは人の心を断定しなかった。利害で動く者にも恐れがあり、善意を語る者にも守りたい立場がある。単純な敵を作れば、見落とすものが増えるだけだった。


(本文実測:685字)

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