二人の席・証言
三日目、証言台に立つ者の名が一人増えた。婚約を壊したかった理由を問われ、彼女は王宮離れへの隔離案を知っていたからだと答える。情報源は伏せた。
名誉を守るために他人の弱みを使えば、別の誰かを同じ場所へ立たせる。レティシアは勝つための暴露を拒んだ。
青い印が善意の証明とは限らない。届けられた資料は送り主と切り離し、原本と一致するかだけを先に確かめた。
姉は妹の沈黙を信頼だけでは受け取らなくなった。問い詰めずに待つことと、何も見ないふりをすることを分けた。
王太子アドリアンは声を荒らげない。保護、名誉、信頼という穏やかな言葉で、レティシアが断れる道を狭めていく。
領地から届く便りには、麦価、種蒔き、橋の修繕が記されていた。婚約より遅く見える仕事が、多くの暮らしを支えている。
母の死は十六年前の山賊襲撃とされる。遺体、調査内容、付帯書との関係には空白が多く、まだ真相とは呼べなかった。
噂はレティシアの沈黙を冷淡と呼ぶ。彼女は笑みを崩さず、沈黙の理由だけを議事録へ残した。
姉妹は同じ食卓へ着いても、全てを話せない。それでも相手の椅子を空けないことだけは、どちらも譲らなかった。
一日の終わりに、確認できた事実と推測が別の頁へ分けられた。明朝、最初に読み直すのは空白のほうだった。
レティシアは記録帳の末尾へ「不明」と書いた。答えを急がないことが、用意された物語から外れる小さな抵抗だった。
オスカーは正文と写しを別々の箱へ戻し、閲覧者の名と時刻を記した。証拠は持ち主より、辿れる手順で守る。
窓の外で王都の鐘が鳴った。大広間の決定を知らない街でも、市場は閉まり、夜番の灯が順にともった。
(本文実測:683字)




