セシルの訂正・証言
三日目、証言台に立つ者の名が一人増えた。侍女が袖へ触れても、セシルは同じ言葉を繰り返さない。大広間に長い沈黙が落ちた。
反論できる形式があっても、資料と証人を相手が握れば公平とは言えない。彼女は期限より先に、閲覧と記録の権利を求めた。
オスカーは紙質、封蝋、配達時刻を一覧へ加えた。同じ紋章でも、蝋の産地や書記の癖、受領印の順までは同じにならない。
ノエラは病弱でおとなしい令嬢として振る舞い、人前では姉の半歩後ろに立つ。目立たないことが彼女の守りになっていた。
父ギヨームは家名と娘を同時に守ろうとし、明瞭な言葉を避けていた。何を恐れているのか、娘にもまだ話していない。
王都の新聞は訂正より疑いを大きく載せる。曖昧な「高位令嬢」という呼び方でも、誰を指すかは全員が知っていた。
ノエラの沈黙に秘密があっても、それだけで事件への関与とは言えない。姉は疑問と断定を分けた。
オスカーは正文と写しを別々の箱へ戻し、閲覧者の名と時刻を記した。証拠は持ち主より、辿れる手順で守る。
窓の外で王都の鐘が鳴った。大広間の決定を知らない街でも、市場は閉まり、夜番の灯が順にともった。
噂はレティシアの沈黙を冷淡と呼ぶ。彼女は笑みを崩さず、沈黙の理由だけを議事録へ残した。
姉妹は同じ食卓へ着いても、全てを話せない。それでも相手の椅子を空けないことだけは、どちらも譲らなかった。
一日の終わりに、確認できた事実と推測が別の頁へ分けられた。明朝、最初に読み直すのは空白のほうだった。
レティシアは記録帳の末尾へ「不明」と書いた。答えを急がないことが、用意された物語から外れる小さな抵抗だった。
(本文実測:676字)




