姉妹の食卓・妹の沈黙
三日目、姉妹の朝はいつもどおり始まった。ノエラはいつもの柔らかな調子で姉の茶を替え、余計な質問をしない。だが卓上の招待状には、一度開封して戻したような浅い折り目があった。
王太子アドリアンは乱暴な声を出さない。心配している、誤解を解きたい、と穏やかに告げながら、レティシアが断れる道だけを一つずつ閉じていく。
公開の場で反論すれば威圧、退けば罪の自認、沈黙すれば侮辱とされる。レティシアに残された選択肢は、どれも同じ記録へつながっていた。
オスカーは紙質、封蝋、配達時刻を一覧へ加えた。同じ紋章が押されていても、蝋の産地や書記の癖までは同じにならない。
公爵邸の会計には、安価な青糸を買った記録が月に一度だけ残る。マルタは用途を知らず、レティシアも妹の刺繍だと思っていた。
机には母の肖像を写した小さな額がある。レティシアは答えを求めず、明日も公爵家の娘として立つことだけを静かに決めた。
オスカーは確認できた時刻を欄外へ書いた。記憶は後から整えられるが、鐘の音と受領印は別々の場所に残る。二つが重なるまで事実とは呼ばない。
姉妹のあいだには、幼いころからの合図があった。言葉にすれば他人にも奪われるため、指先やカップの向きだけで、今は話さないという意思を確かめる。
王都の新聞はまだ王家の名を出さず、「ある高位令嬢」とだけ書いた。名を伏せても誰を指すかは明らかで、曖昧さだけが責任を負わずに残った。
反論の機会は与えられているように見えた。ただし期限は短く、必要な資料は王宮が預かり、証人は面会を禁じられている。形式の公平と実際の公平は別だった。
レティシアは人の心を断定しなかった。利害で動く者にも恐れがあり、善意を語る者にも守りたい立場がある。単純な敵を作れば、見落とすものが増えるだけだった。
(本文実測:740字)




