閉門の調査・夜の記録
その夜、レティシアは「閉門の調査」について確かめられた範囲を整理した。夜、レティシアは起きたことを日付順に書き留めた。感情と推測を別の頁に置き、確かめられた事実だけを細い筆で残す。
王太子アドリアンは乱暴な声を出さない。心配している、誤解を解きたい、と穏やかに告げながら、レティシアが断れる道だけを一つずつ閉じていく。
公開の場で反論すれば威圧、退けば罪の自認、沈黙すれば侮辱とされる。レティシアに残された選択肢は、どれも同じ記録へつながっていた。
レティシアは自分に有利な証言も、その場で採用しなかった。確かめられない味方の言葉へ寄りかかれば、後で崩れた時に真実まで巻き込まれる。
ノエラは晩餐で姉の話題が出ても視線を上げなかった。無関心に見えるほど静かで、その静けさを疑う者はまだいない。
廊下の向こうでノエラの扉が閉じた。朝になれば妹は何も知らない顔で現れ、姉もまた何も気づかないふりをするのだろう。
反論の機会は与えられているように見えた。ただし期限は短く、必要な資料は王宮が預かり、証人は面会を禁じられている。形式の公平と実際の公平は別だった。
レティシアは人の心を断定しなかった。利害で動く者にも恐れがあり、善意を語る者にも守りたい立場がある。単純な敵を作れば、見落とすものが増えるだけだった。
オスカーは確認できた時刻を欄外へ書いた。記憶は後から整えられるが、鐘の音と受領印は別々の場所に残る。二つが重なるまで事実とは呼ばない。
王都の新聞はまだ王家の名を出さず、「ある高位令嬢」とだけ書いた。名を伏せても誰を指すかは明らかで、曖昧さだけが責任を負わずに残った。
(本文実測:679字)




