第1話 父と対立(一)
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浅井賢政は六角家との関係を重要視する父久政と久政の弱腰を批判する家臣との間で板挟みにあっていた。
祖父亮政の時代に守護大名だった京極高次と対立した事が原因で六角定頼に攻められて従属する事を余儀なくされた。それ以降は六角家の意向が強く影響する事になり、久政に代替わりしても変わる事は無かった。
賢政が当主となって六角家と対決姿勢を打ち出すべきだと直談判して蜂起を促す者も居た。
「申し上げます。観音寺城から使者が参りました」
「分かった」
賢政は立ち上がると広間に向かった。広間に入ると家老の赤尾清綱を筆頭に多くの家臣が席に付いていた。
「御屋形様は別室で使者と話をしているようです」
「ここで用件を聞くと異論が出て使者の印象を悪くするからだろう」
少し前に別件で使者が訪れた際、使者の口上を聞いて異議を唱える家臣が続出して久政が恥を掻いた事があった。後日観音寺城へ出向いて六角義賢に謝罪して事は収まったが、久政の怒りは収まらず切っ掛けを作った赤尾清綱や雨森清貞を無能呼ばわりするなど家臣との間で亀裂を生む切っ掛けになった。
「将軍義輝様の要請を受けて六角義賢殿が近く京都に出陣する。手助けを頼まれたので引き受ける事になった」
「その規模は?」
「兵士の数は五千、兵糧は一万と聞いている」
兵士と兵糧共に準備可能な数字である。
「我々にとって有益なものになるのでしょうか?」
「賢政、どういう意味だ?」
「浅井が手を貸す事によって得るものが有るのかと申しているのです」
失った分を六角義賢が負担する事はなく完全な持ち出しになると分かっていて賢政は敢えて訊ねた。
「六角義賢殿に協力出来たという名誉を」
「そんなものを得て喜ぶのが父上だけでしょう」
「何だと?」
「戦死した兵士の代わりを誰が務めるのですか?兵士が担っていた父や子、兄や弟の代わりを父上が出来るとでも言うのですか?」
「そのような事をする必要など無い!残された者が考えれば良い事だ」
他人の事を考えない久政の利己的な発言に賢政は怒りを覚えた。
「何処へ行く?話は終わっておらん!」
「これ以上話をしても無駄なだけです」
賢政は立ち上がると広間から姿を消した。雨森清貞や遠藤直経も後を追い掛けるように広間から出て行った。賢政が反抗した事で久政は怒り心頭で暴言を吐いて赤尾清綱に窘められるなどちょっとした騒動になっていた。
*****
広間を出た賢政は雨森清貞に声を掛けられて屋敷に連れて来られた。城内にある自室に戻れば久政が訪ねてきてひと悶着起きる事は目に見えていたからである。
「あのような考えでは誰も付いて来ない」
「御屋形様があそこまで愚かとは思いもよりませんでした」
「某は御屋形様の本心が聞けて良かったと思っております」
久政の事を当主不適格だとして距離を置いている遠藤直経が予想外の事を言ったので賢政と雨森清貞は驚いた。
「喜右衛門(遠藤直経)は御屋形様の肩を持つのか?」
「そんな馬鹿な事をするわけありません」
「ならば…」
「某が言いたかったのは御屋形様が我々家臣の事を人ではなくモノとして見ているという事です」
久政は軍を率いても後方で見ているだけで指揮を執らない。自軍が不利な状況になれば真っ先に退却するなど家臣から見れば存在自体が迷惑である。自分が良ければ家臣の事はどうでもいいと考えているのは明らかである。
「清綱を呼べるか?」
「直ぐに来るのは難しいでしょうが」
「夜になってからで構わない」
「分かりました。直ぐに手配致します」




