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【常世の君の物語】No17:観浄 ~戦国時代の加賀国を舞台に繰り広げられる怪奇譚~  作者: 百字八重のブログ


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第五話:後日談


翌日、よく晴れた空の下で、鳥絵と観浄、それにテンと元奴隷の青年が、神社の境内で並んで日向ぼっこをしていた。


他の三名とは、少し距離を置いて、青年が座っている。

その姿を見て、鳥絵は、

「見違えたな」

と言った。

それもそのはず、元奴隷の青年は、昨夜のうちに、母に身ぎれいにしてもらって、おまけに男ものの着物まで用意してもらったのだ。

今はどこからどう見ても、少々影のある美青年といった風貌である。

鳥絵は、

「いやいや、人生の最後に、ずいぶんといい光景を見せてもらったよ」

と、目を細めてつぶやいた。

「『人生の最後』だって!?」

観浄が驚いたように聞き返す。

「その通りだ。そうだろう、テン」

名前を呼ばれたテンは、猫の姿のまま、しばらく沈黙した後で、

「気づいておったのか」

と言った。

「幻海が死んだことと、関係があるのだろう」

と鳥絵が問う。

「幻海がな、ひとりさびしく死んでいくのは悔しいから、死んだ後におぬしを冥途に送って欲しいと言い残したのよ」

テンは淡々とした口調で言い放った。

「それは身勝手な!そんな女子のいう事など聞かんでよいわ!」

二人のやりとりを傍から聞いていた観浄が半ば叫ぶように吐き捨てる。

「テンはその頼みを断れなかったんじゃろう?」

と鳥絵がゆっくりと地面から顔を上げてテンに視線をやる。

「ああ、下僕との約束は違えてはならぬ」

テンは、鳥絵の視線を片頬で受け止めて、地面を見つめた。

「悔しいのぅ。これから観浄がいよいよ活躍していくというのに、世の中ますます面白くなってゆくというのに、それを見ることができないのは悔しい……」

さきほどから大量の桜の花が、ちらちらと三人と一匹の上に舞い降りている。

「死に際には、皆、大体同じことを思うものよ」

と、慰めにもつかない言葉をテンが投げかける。

「はは、そうか、じゃあみんなと一緒か。じゃあ寂しくないのぅ」

そう言って、鳥絵は、遠くを見やった。

視線の先にある神社の社には、多くの町人がひっきりなしに拝みに来ている。

広い境内を囲む石段の上には、間隔を置いて、鳥絵たちのように座り込んで談笑している者たちもいた。

「命が惜しいのぅ」

今一度、鳥絵がつぶやく。

「苦しくはないからの」

と言うと、テンが鳥絵の膝の上に移動してきた。

「では」

テンがそう言って鳥絵の目を真正面から捉える。

「テン!」

観浄が叫んだが、もう遅い。

ひとりと一匹の視線がかち合ったかと思うと、小さく火花が散った。

気づけば、鳥絵はその場に崩れ落ちて、その息の根を止めていた。


「どうにも、できなかったんか」

観浄が、すがるようにテンにたずねる。

「こればっかりはね。おぬしも、命のあるうちに出来ることは納得いくまでしておくことだね」

テンはそう言うと、ぺろりと前足を舐めた。

「言われなくとも」

目に涙を浮かべた観浄が、きりりと濃い眉を寄せている。

それを見て、テンはふっと笑う。

倒れた鳥絵の様子に気が付いて、人が集まってくる前に、この場を去らなければ。

そう思った観浄は、離れて座っていた青年を呼び、鳥絵の体を抱き起させた。

「この爺様がいなければ、おぬしの今の自由はなかった。このこと、胸に刻んでくれ」

観浄はそう言うと、青年はこくりとうなずいた。

「手厚く葬ろう」

観浄がそう言うと、テンがにゃあと一声鳴いた。

桜の花びらで出来た桃色の敷物が、地面いっぱいに広がっていた。


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