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【常世の君の物語】No17:観浄 ~戦国時代の加賀国を舞台に繰り広げられる怪奇譚~  作者: 百字八重のブログ


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第三話:みかんと青年


長い冬を経験する加賀国では、春の市はひときわにぎわう。

観浄が先頭に立ち案内をし、その後を一人と一匹、いや、鳥絵とテンが歩いてゆく。

老若男女色とりどりの往来の人々に目をやりながら、二人と一匹はときに互いに目くばせし合い、高揚した気分を共有する。

「なんとも、皆、楽しそうじゃのぅ」

鳥絵が言うと、観浄は「春の市は儲かるからのぅ」と得意げに返した。

「どれ、ちょっと待っとれ」

そう言うと、観浄は、道端で果物を売っていた男と二、三、言葉を交わすと、みかんを山のように抱えて帰ってきた。

「おう、これはこれは」

鳥絵が顔をほころばせる。

「歩ていて疲れただろう?ちょっとその辺に座って食べよう」

観浄の提案で、二人と一匹は道端の乾いた草の上に腰を落ち着け、手に入ったばかりのみかんを頬張り始めた。

すると、一人の旅人が、よろよろと近づいてきた。

「おう、なんだなんだ」

観浄が警戒すると、旅人は、

「すまんがお嬢さん、そのみかんを私にも分けてくれぬか。喉が渇いて死にそうじゃ」

と言った。

観浄の目が、ぎらりと光った。

「みかん一個を、びた銭三枚と交換ならいいぞ」

と、観浄は旅人に告げた。

旅人は一瞬、驚いたような顔をしたが、その後すぐに顔をしかめて、諦めたような表情をした。

「仕方ない」

旅人は懐から銭の入った袋を取り出すと、「ほらよ」と言って、びた銭を3枚、観浄に手渡した。

「まいどあり」

観浄はみかん一個を旅人に手渡すと、「道祖神のご加護がありますように」と両手を叩いて見送った。


「観浄はしっかりしておるのぅ」

と、猫の姿でテンが言う。

「母親が仲介人をしておるのだよ」

と、鳥絵が説明をする。

しばらく、観浄と鳥絵とテンは、のどかな日和の中、みかんをつまみながら午後のひと時を楽しんでいた。

すると、観浄の手の内にあるみかんに視線を投げかける者がいた。

みると、見た目のみすぼらしい、十代後半の青年であった。

「なんじゃ、お前もみかんが欲しいのか。ただではやらんぞ。銭と交換だ」

と、観浄はぴしゃりと言った。

青年は、

「銭は、ない」

と、ぶっきらぼうに答えた。

すると、青年の後ろに立っていた中年のよく太った男が、ばしりと青年の頭をぶったかと思うと、

「許しもないのに口をきくな!」

と大声で怒鳴った。

それを見た観浄は、

「なにをする!そこまですることはなかろう!」

と叫んでいた。

そんな観浄を見て、男は「こいつは俺が買ったんだ。俺の好きにしてよいのだ!」と言ってがははと笑った。


「人の売り買いが、こうも大っぴらに行われておるとはな」

と、男に聞こえないように、鳥絵が小さな声でテンに言った。

「ここのところ、各地で大きな戦が増えておるからのぅ」

と、テンが淡々と答える。

青年はそんな二人のやりとりが聞こえたのか、ぐっと口を真一文字に結ぶと、視線を地面に落とした。


「おぬし、いくらでこの坊主を買った」

と、観浄は男に向かって尋ねた。

鳥絵もテンも、意図せぬ成り行きに目をまるくしている。

男は答えた。

「ざっと一両だったかな。他の奴隷も含めてな」

「一両も!」

あまりの額に驚いて、観浄は喉の奥から素っ頓狂な声を出してしまった。

「ほれ、観浄、行くぞ」

と、鳥絵が促す。

「まて、お前、今宵はいずこに泊る」

観浄はなおも男を呼び止め尋ねた。

「西のはずれの安宿だよ」

と、男はいやらしい笑みをたたえて観浄を見やった。

その視線をもろともせず、観浄は青年に向き直り、「お前、名前は?」と尋ねた。

「犬畜生だよ!」

と、男はそう言うと、がははと笑いながら青年の尻を蹴り上げた。

「やめないか!」

観浄が叫ぶも、男は「こいつが欲しけりゃ、一両、用意しな」と言い、がははと笑いながら青年の首につながる綱を引っ張り去って行った。

残された観浄は、その姿が見えなくなるまで、その場に立ち尽くしていた。


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