表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

添え物効果

掲載日:2026/03/08

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 食べ物に添えられるレモン。みんなは、どうして添えられるかの理由は知っているかな?

 うん、レモンの果汁が抗酸化に大きな効果を発揮するためだね。抗菌作用にもすぐれ食べ物を食べる前も、食べた後も身体に対して役に立つ。好き嫌いはあるだろうけど、効果そのものは理にかなっているわけだ。

 世の中、わけを知らないとどうしてそのようになっているのか、理解ができないことはいっぱいある。仕組みとか、現象だったらまだいいが、もともとそのように生まれついていたりした場合は、なかなか難しい。

 ただ存在するだけで意味がある、と深刻に悩まない方向で生きるというのもひとつの手だ。でも、偶然にそれを知ってしまうと忘れることは困難。どちらが幸せなのかは、結果論に過ぎないのかもしれない。

 先生も昔に少し、妙な環境に置かれることがあってね。そのときのこと、聞いてみないか?


 あれは3か月だけ在学した、とある小学校での話。

 今の姿からは想像しがたいかもだが、当時の先生はちょっとガリガリに痩せていてね。季節の変わり目にはよく体調を崩していたから、季節なぞなければいいのになと思っていた。

 引っ越したタイミングは新学期のはじまりに合わせた4月。そこで一緒になった面々をひと目見て、先生はちょっと顔をしかめた。

 男女を問わず、彼らはぷっくりと太っていたからだ。クラス総勢24名。いずれも先生の横幅の数倍はあろうかというぽっちゃり部隊。

 他のクラスの面々はそんなでもない。あきらかに先生へのあてつけか何かかと思わせる、意図的なものを感じさせたよ。

 体調を崩さない身体になりたいとは思っても、ふくよかになりたいとは望んでいない。もし先生に対する配慮とかなら、的外れもいいところだ。

 個人個人としては悪い子たちではなかったし、その点は救いだとは思ったけれど。


 クラス生活が始まって半月ほど過ぎ、先生は気づいた。

 クラスの男の子のひとり。ここではAくんとしておこうか。

 Aくんがクラスへ来た当初よりも、明らかにやせているんだ。シャツの下へおさまりきっていなかったお腹が、今はしゅっとしてズボンの中へおさまっている。

 半月の間、猛烈にダイエットをしてここへ至った……という可能性も、なくもないかもとは先生も思った。

 成長期で身体がぐんぐん大きくなるのであれば、代謝がすさまじく良くなって、脂肪を燃やすということもあり得るのでは……とね。

 Aくんひとりだけなら、たまたまそういうこともあるか……と考えたかもしれない。

 けれども日をおうごとに、ひとりまたひとりと痩せていく姿を見せていく。

 Aくんをはじめとした、痩せたメンツに何があったのかを尋ねても、しらをきられて分からなかったよ。けれども、クラスの半数以上が痩せっぽちになっていった2か月近くが経って、ようやく先生はそのきっかけらしきものを目にする。


 先生のいる生活班が給食当番になったときだ。

 当番というものがあまり好きではなかった先生だが、さぼったりする気はさらさらなく。前の学校にいたときのように白衣に着替えていったのだけど、他のみんなの着替えはすさまじく早かった。

 うちの学校だと廊下端の配膳室に、当番がみんなで取りに行くことになる。クラスごとに献立の入った容器の乗ったワゴンがクラスごとに用意されていて、それを順次運んでいくタイプさ。

 どんけつばかり取っていた先生は、いつも自分がたどり着いた時にはみんながそろっていてワゴンが発進する流れ。なんともバツが悪い気がしてさ。

 それで金曜日の当番最後の日。なんとしてもみんなより早くにワゴンへ飛びつこうと思ったんだ。


 まさか、こんもり厚着をした中に給食の白衣をあらかじめ着込んでおく、という技を使うとは思わなかった。

 衛生面とか、それでいいのかというのはこの際、置いておいてくれ。先生にとっては一世一代の勝負だったんだから。

 他のみんなも面食らったらしく、すでに班長が先んじて配膳室へ向かっていたが、そこへわずかに遅れるくらいでたどり着いたんだが……そこで見たんだよ。


 班長も、このときはクラスに残っていた「太っちょ」の面々。

 その彼が配膳室の先生たちのクラス前のワゴン。献立の豚汁のでっかい器のフタを開けているところ。そのうえに、自分の給食の白衣の袖をかざして、もう片方の腕でぎゅうっとしぼっていたところをね。

 袖からは、掃除のときの雑巾のごとくダバダバとたっぷり水がこぼれて、豚汁の中へ注がれていく。

 それにつれて、班長のふっくらとした身体もみるみるうちに痩せていってしまったのさ。

 先生の到着に気づいて、ぱっとフタを戻す数秒かそこらの間にね。


 子供のときの先生には、ひたすらその光景が衝撃でね。それ以降から引っ越しが済むまでのしばらくの間は、記憶がぼんやりしていて今でもはっきりとは思い出せない。

 だが、あの学校にいる間は、先生は普段から悩まされがちだった体調不良のきざしはなかったんだよ。引っ越し先では、またちょくちょくあったのにね。

 ひょっとしたら彼らは、先生の体質の改善をするべく集められた子たちだったのかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ