セレクション
わたしは、コンビニでアルバイトをする25歳。
夜間のシフトを回しながら、しがない画家をしている。
美術大学を出てすぐは、生活できるくらいには絵も売れ、積極的に個展を開いたりもしていたのに、どこで道を踏み外してしまったのか……。
深夜のコンビニは退屈だ。
この店のスタッフも、皆、退屈だ。
40歳を過ぎた雇われオーナー。
見た目だけの夢無きフリーター。
なんとなくを過ごす大学生。
わたしに比べれば、皆、退屈だ。
それは、客だって同じ。
毎日決まった時間に来ては、発泡酒と弁当を買っていくサラリーマン。
メイク落としやお菓子なんかを、無計画にカゴに投げ入れる、まだ羽化する前の夜の女。
見るからにパソコンなど触れないであろう、黒いスーツの男たち。
繁華街に近いからか、この店に来る人たちは、
皆、弾かれた人間に見えた。
淡々と流れる工場のレーンから、
弾かれてしまった不良品に思えた。
今夜もわたしは、自分の足元のカゴに、
期限の過ぎてしまった商品たちを、乱雑に入れていくのだ。
わたしは、一緒ではない。
わたしは、弾かれた人間ではない。
わたしは、選別する側の人間だ。
その証拠に……あの女。
女も毎日、この店に来る。
草臥れたレディースのスーツを着たOL。
毎日レトルトカレーと、カップ麺。
あと、ほら……朝食用のサンドイッチを買う。
そして、レジ前に並ぶ人の列など無視して、わたしの目の前に来て言う。
「72番」
ラッキーストライクのレギュラーボックス。
この煙草の注文をもって、女の買い物は締め括られる。
この女は、わたしにしか見えない。
手に取るカゴも、商品も……勿論、タバコも渡さない。
それでも、女は文句ひとつ言わずに、店を後にする。
怨念なのか、未練なのかは知らないが、
死してなお、こんなにも退屈な日常を繰り返すなど、不良品にもほどがある。
そんな女も、わたしは毎日、自分の足元のカゴに入れて、選別するのだ。
わたしはもうすぐ、この店を去る。
こんな破棄商品の溜まり場。
おまけに、得体の知れない幻影まで来店する陰気な空間。
おかげでわたしの作品も、日を追うごとに、暗くなる。
わたしの絵は、人を明るくするものなのに、鬱屈したから売れもしない。
次は、派遣社員ではあるけれど、立派な出版社での仕事。
そこでわたしは、より良い商品を選別する。
きっと、絵も明るさを取り戻す。
わたしは、ピカピカのレーンを、流れ続ける。
正社員になって、肩書を手に入れて、わたしだけのアトリエを作る。
その日のために、わたしは今日も、足元のカゴに投げ入れる。
わたしがコンビニを辞める最後の日も、当然のように女は来た。
でも、いつもと違った。
輪郭は濃く、影も濃く……
いつにも増して、苦いほどに虚ろ。
買い物もしない……
入り口からまっすぐに、
チルドコーナーで賞味期限の確認をしているわたしの目の前にやって来た。
選別する手を止める。
女と向き合う。
怖かった。
恐ろしかった。
目を背けたかった。
心のどこかで否定したかった。
女が顔をあげ、言葉を溢す。
哀しげに、でも潔く。
ひと思いに、わたしを貫く。
「弾かれちゃった」
そうか、分かったよ……
きっとそれが、1年後のわたし。




